兄がΩ 〜うっかり兄弟で番いましたが、今日も楽しく暮らしています。〜

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●心配で寂しくて、でもちょっとだけ楽しみ。

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「お兄さん」
「なに?」
 朝、僕は服を着替えながら、さりげなさを装い、兄に聞いた。
「最近はお薬はいいんですか?」
「ああ、あれはもう要らない」
 兄はそう言うけれど、母は毎朝変わらず部屋に来て、兄に「薬は飲んだ?」と確認する。その度、兄は「飲んだ」と嘘を吐く。
 兄は作業着に着替えると、さっさと部屋を出ていった。階段を駆け下りる軽快な足取りが、遠ざかっていく。一時期、兄は体調を崩していたけれど、最近はいいようだ。
 僕はこっそりベッドのヘッドボードの引き出しを開けた。そこにはアクセサリー類と共に、兄の常用していた薬が入っている。錠剤は半数くらい消費されていた。シートに製品名が書かれている。覚えておいて、後でネットで調べてみようか? やめておこう。それは兄のプライバシーに立ち入り過ぎというもの。親しき中にも礼儀ありだ。
 第一、調べなくとも、これは喘息の薬に決まっているじゃないか。でも、それなら何故、服用を止めてしまったのだろう。兄は今でも、寝入り端と早朝によく咳をしているのに。
 大学へ行こうと玄関を出た時、丁度兄の運転する四トンミキサー車が配達に出るところだった。僕が手を振ると、兄はこちらを見てニッと笑った。煙草を吸っていないこと以外は、いつも通りだ。いや、兄の禁煙はもう一月以上続いているから、もはや煙草を吸わないのが兄の「いつも通り」のはずだ。

「最近、知白おにいさんは元気?」
 茜ちゃんから不意に訊ねられて、僕は一瞬答えに詰まった。
「えぇ、元気ですよ」
 そう答えたものの、茜ちゃんは僕の作り笑いを見透かしたように眉をひそめて言った。
「ここのところ、全然『ゆりあ』に来ないから、どうかしたのかなぁと思って。ね、小説のネタのことで、知白ともあきさんにちょっと質問したいことがあるから、事務所にお邪魔してもいいかな?」
「大丈夫だと思いますよ。兄に伝えておきますね」

 帰宅して二階に上がり、炬燵に当たっていると、兄が茶の間に入って来た。
「よぅ、おかえり」
「ただいまです。あ、それ」
 兄が手に提げている白い箱には、見覚えがある。
「うん、ケーキ。食べるだろ?」
「はい、いただきます」
 昔、兄の通院帰りに病院近くのケーキ屋さんで母がよく買って来てくれた。子供の頃は、兄と母だけで出掛けてしまい、僕は母方の祖母の処で留守番というのが、寂しかった。だが、これがあるので、僕は兄の通院日がちょっと楽しみでもあった。
「どれがいい?」
 箱の中には昔と同じに六種のケーキが詰まっていた。
「僕、これがいいです」
「お前はいっつもそれな」
 兄はチョコケーキを皿に置き、僕の前に差し出した。
「ふふっ、形も匂いも昔と同じですね。美味しそうです」
「この店もう潰れたんかと思ったら、移転してたんだ。今朝、配達の途中でみっけて、さっきひとっ走り行って買ってきた」
 兄も昔と変わらず、チーズケーキを選んだ。
「いただきます」
「おう、食え食え」
 僕はチョコケーキを一口食べてみた。懐かしい味! 記憶に違わぬ美味しさだ。
「やっぱ美味えな」
 と言った兄は、僕が半分食べる間に早くも二個目を食べ終えて、日向の猫のように目を細めた。
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