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僕は
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僕は気づいたときから、檻の中だった。
最初からそうだったのもあってか、不思議と其処からでようとか、そういう抵抗するという気持ちはあまり湧かなかった。
いつどこで生まれたか、それすらも判明していない。だから、もしかしたら僕は、生まれたときからずっと檻の中だったのかもしれない。という考えになってしまう。
食べ物は、気が付くと置いてある。とても美味しいが、何処か寂しく嫌な味ではあった。
そして何よりも心の癒しであったのは檻の外にみえる景色だ。それはとても美しく、空想的であった。桃色の花が舞っているのをみたり、空が茜色に染まった時をぼんやりと見ていたり、ミンミンと唄う虫の声を聞きながら少し遠くにみえる灯火たちを見ていたり、リンリンと唄う虫の声を聞きながら丸い月を見ていたり、白い雪が降る日には翠色やら緋色やら梔子色の光が闇夜をポツポツと照らしているのを眺めていたり、そんな日々がとても幸せであった。
ね?美しくて、幻想的な光景だろう?
僕的には、この角度、位置、場所、高さで見れるのは、自分だけ、という優越感に浸り楽しむのもとても好きなんだ。
そして、毎日、そんな暑くも寒くもない環境で生きている。まさに理想。幸せの頂点…とまでは流石に言わないか。
うん、言わないな。
本音を言えば、僕の一番の幸せは、そんな眺めているだけの、果てしなく広い空を、両腕をめいっぱい広げ自由に飛躍すること。
重力に逆らわずに自由自在に飛躍するカラスや雀、鳩、燕とかそういう鳥になりたい。羨ましい限りだ。
僕は飛ぶための羽はあっても、それを使う機会がないから本当に飛べるかどうかもわからない、本物に鳥かどうかも怪しい。
いつか、鳥籠の外に出られたら……。
一瞬そんな気持ちが過る。
だけど、それは絶対にできないと、気持ちを打ち消した。僕は一生この鳥籠の中でいきることはわかっていた。
はっきりとした根拠とか、ちゃんとした理由そういうものはないのだけれど、ただ何となく、それは理解していたんだ。
ある日、僕は偶然にも見てしまった。
いや、偶然、見つけてしまった。
脈が速く打つのを身体で感じた。
だが、同時に身体が重苦しくなった。
わずかばかりの希望を見つけてしまったことに対しての喜びからくるものと、それを嘲笑うかのような酷く残酷な現実が、ガラスに反射していた。
ガラスに反射していたのは僕らしき姿と、鳥籠の上の方に空いている穴。
鳥籠の穴はそこそこ大きくて、僕もなんとか出られそうな大きさなのだ。けれど、僕は出ようとはしなかった。出ることは……最初から不可能だった。
僕らしき姿の鳥は酷く見た目が醜くて、羽がついている腕はひょろひょろで、ちっとも飛べる見込みもない。しかも、鳥籠は非常に高いところにあり、飛べなかった場合、落ちて強く身体を打ってそのまま動けなくなることだろう。
そんな鳥がどう飛ぼうと思える?
無理だ。どうあがいても変わらないのだ。
長年、鳥籠の中で充分に羽ばたけるスペースもなく、飛ぶことができずにいて力を失ってしまった。抜け落ちていた羽が沢山積もる床にもさっき気がついた。
多分、そこまでして出たいものでもなかったのだろう。恐怖感とかを感じていたか、と問われたら違うと答えるよ。
恐いとかそういうものとは違った。残念だ、という気持ちが強かった。その気持ちが、別段、変な行動を起こすものではない。
じゃあ、もう、一生をここですごそう。幸せな景色をいつも通りに見て、時の流れを感じて、ただただ平凡に檻の中で暮らす。それで良い、そのままで。
ゆっくりと目を閉じて力を抜いた。そして、抜け落ちた羽の絨毯に落ちていく。その間の、ほんのわずかな、とても短い時間、青空を飛んでいる光景が、感覚が、僕を包んだ。一瞬の出来事であったが、とても嬉しく感じた。夢が、ほんの一瞬の事だけど、叶った。
最後のとき、身体の重さを感じ、抜け落ちた羽の絨毯の冷たさを感じ、そして、美しく澄んだ青空を一瞬だけ、本当に一瞬だけ見れたこと、そこで飛べたような感覚があったこと、沢山の景色を見たことを思いだしながら、僕は長い、長い眠りについた……
最初からそうだったのもあってか、不思議と其処からでようとか、そういう抵抗するという気持ちはあまり湧かなかった。
いつどこで生まれたか、それすらも判明していない。だから、もしかしたら僕は、生まれたときからずっと檻の中だったのかもしれない。という考えになってしまう。
食べ物は、気が付くと置いてある。とても美味しいが、何処か寂しく嫌な味ではあった。
そして何よりも心の癒しであったのは檻の外にみえる景色だ。それはとても美しく、空想的であった。桃色の花が舞っているのをみたり、空が茜色に染まった時をぼんやりと見ていたり、ミンミンと唄う虫の声を聞きながら少し遠くにみえる灯火たちを見ていたり、リンリンと唄う虫の声を聞きながら丸い月を見ていたり、白い雪が降る日には翠色やら緋色やら梔子色の光が闇夜をポツポツと照らしているのを眺めていたり、そんな日々がとても幸せであった。
ね?美しくて、幻想的な光景だろう?
僕的には、この角度、位置、場所、高さで見れるのは、自分だけ、という優越感に浸り楽しむのもとても好きなんだ。
そして、毎日、そんな暑くも寒くもない環境で生きている。まさに理想。幸せの頂点…とまでは流石に言わないか。
うん、言わないな。
本音を言えば、僕の一番の幸せは、そんな眺めているだけの、果てしなく広い空を、両腕をめいっぱい広げ自由に飛躍すること。
重力に逆らわずに自由自在に飛躍するカラスや雀、鳩、燕とかそういう鳥になりたい。羨ましい限りだ。
僕は飛ぶための羽はあっても、それを使う機会がないから本当に飛べるかどうかもわからない、本物に鳥かどうかも怪しい。
いつか、鳥籠の外に出られたら……。
一瞬そんな気持ちが過る。
だけど、それは絶対にできないと、気持ちを打ち消した。僕は一生この鳥籠の中でいきることはわかっていた。
はっきりとした根拠とか、ちゃんとした理由そういうものはないのだけれど、ただ何となく、それは理解していたんだ。
ある日、僕は偶然にも見てしまった。
いや、偶然、見つけてしまった。
脈が速く打つのを身体で感じた。
だが、同時に身体が重苦しくなった。
わずかばかりの希望を見つけてしまったことに対しての喜びからくるものと、それを嘲笑うかのような酷く残酷な現実が、ガラスに反射していた。
ガラスに反射していたのは僕らしき姿と、鳥籠の上の方に空いている穴。
鳥籠の穴はそこそこ大きくて、僕もなんとか出られそうな大きさなのだ。けれど、僕は出ようとはしなかった。出ることは……最初から不可能だった。
僕らしき姿の鳥は酷く見た目が醜くて、羽がついている腕はひょろひょろで、ちっとも飛べる見込みもない。しかも、鳥籠は非常に高いところにあり、飛べなかった場合、落ちて強く身体を打ってそのまま動けなくなることだろう。
そんな鳥がどう飛ぼうと思える?
無理だ。どうあがいても変わらないのだ。
長年、鳥籠の中で充分に羽ばたけるスペースもなく、飛ぶことができずにいて力を失ってしまった。抜け落ちていた羽が沢山積もる床にもさっき気がついた。
多分、そこまでして出たいものでもなかったのだろう。恐怖感とかを感じていたか、と問われたら違うと答えるよ。
恐いとかそういうものとは違った。残念だ、という気持ちが強かった。その気持ちが、別段、変な行動を起こすものではない。
じゃあ、もう、一生をここですごそう。幸せな景色をいつも通りに見て、時の流れを感じて、ただただ平凡に檻の中で暮らす。それで良い、そのままで。
ゆっくりと目を閉じて力を抜いた。そして、抜け落ちた羽の絨毯に落ちていく。その間の、ほんのわずかな、とても短い時間、青空を飛んでいる光景が、感覚が、僕を包んだ。一瞬の出来事であったが、とても嬉しく感じた。夢が、ほんの一瞬の事だけど、叶った。
最後のとき、身体の重さを感じ、抜け落ちた羽の絨毯の冷たさを感じ、そして、美しく澄んだ青空を一瞬だけ、本当に一瞬だけ見れたこと、そこで飛べたような感覚があったこと、沢山の景色を見たことを思いだしながら、僕は長い、長い眠りについた……
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