異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

文字の大きさ
30 / 251

29.改めて旅を続ける(5月7日)

しおりを挟む
翌日から、アリシアの背中にはMP5Kが背負われ、腰回りのポーチには予備を含めて2つのマガジンが収められるようになった。

朝食も終え、昨夜のうちに洗濯して干しておいたBDUに着替えた一同は、昨日マンティコレを発見した丘の上まで転移魔法で戻った。

ここから仕切り直して再出発する。

一旦丘を下って元のコースに復帰するかと思っていたが、このまま丘の中央部を通ってこの先の山の尾根を登り、本来の峠道を探すことにしたらしい。

まあコースの選択は専門の教育を受けたのであろう3人に任せ、俺は魔物の探索にのみ神経を集中させる。

「カズヤさん!どうですか?魔物の気配は??」

「いや、数キロメートル先までは特に反応はないな。ただ高低差があるから、水平位置より下はきちんと探れてはいない。半径300メートルは上空から地表まで探っているから、いきなり襲われることはないと思うが?」

「え~それは残念……」

アリシアは少し唇を尖らせて、キョロキョロと周囲を見渡している。

「なんだ?アリシアがやけに好戦的じゃないか?」

アイダがイザベルと話している。

「アレよ。アリシアちゃんが背負ってるあの黒いの。アレがお兄ちゃんに借りた魔道具なんだって。あれで魔物を狩るって張り切ってるの」

「そうか。まあ、アリシアは今までロクに魔物を狩れなかったからな。強力な武器を手に入れて、はしゃぐ気持ちもわかるが……」

なんか引っかかる言い方だな。思わず口を挟む。

「アイダ。アリシアは魔物狩りが下手なのか?槍や弓はあまり上手くないと聞いているが、魔法の腕はそこそこだろう?」

「カズヤ殿にも知っておいていただいたほうが良いかもしれません。アリシアは勉強はできますし努力家ですが、どうにも複数の魔法を同時に発現させる事が苦手なようなのです。例えば結界を張るとか、治癒魔法を掛けるといった1つの魔法を行使するには問題ありません。それは私達も頼りにしています。ただ……」

「ただ??」

アイダが言い澱むが先を促す。

「えっとね。土の礫を飛ばす時って、まず土の礫を作るでしょ。それから狙う相手を決めて、その距離と動きを読みながら、自分の飛ばす礫の速度も計算に入れて少し先に打ち込む。んで打ち込んだ礫に何をさせるか。ぶつけるだけでいいのか、貫通させるのか、相手を燃え上がらせるのか、凍らせてしまうのか。それだけでも何工程もあるよね。それを全部魔法だけで発現しなくちゃいけない。アリシアちゃんはたぶん、最大で3つぐらいしか同時発現ができないんだと思う」

「じゃあ、例えばだ。鏃にアリシアが魔法を行使して、その矢をイザベルが放つとどうなる?」

「それは一度やってみた!例えば貫通魔法を掛けた矢は、普通に狙った獲物を貫通したよ?でもそれじゃ私が普通に矢に貫通魔法を掛けるのと一緒じゃん?わざわざアリシアちゃんが魔法を掛ける意味はないよね?」

ふむ……つまり攻撃魔法の行使には圧倒的に向かないということか。
しかしエアガンはイザベルの放つ矢の代わりになる。

予め魔法を掛けたBB弾を使えば、BB弾を射出する部分は単純な作業だ。あとは放ったBB弾を目標まで誘導し、発現させるだけ。

なるほど……アリシアにはおあつらえ向きの武器だったということか。

まあ、覚えておくべきは、アリシアにマルチタスクは向いていないかもしれないという事だ。
だが今からの鍛え方で、もしかしたら別の能力や才能が開花するかも知れない。現にエアガンは使いこなせそうな気配は出ている。

エアガンが苦手とする超接近戦、いわゆるCQBをアイダに任せ、イザベルとアリシア、俺で遠距離攻撃を仕掛けることができれば、それはそれで一つの戦術の形にはなる。

「欲を言えば、接近戦で戦える仲間がもう一人か二人は欲しいですね。カズヤ殿とアリシア、それにできればイザベルにも護衛役というか相方は必要です」

今後の戦術について歩きながらアイダと話し合っていると、アイダからそんな要望が出た。

「私は一応接近戦も得意だよ?だから自分の身を守りながらでも、お兄ちゃんぐらいは守ってあげられるかも。アイダちゃんがアリシアちゃんと組むほうがいいんじゃない?」

「そんな事言って、イザベルはカズヤ殿と組みたいだけじゃないだろうな?」

「え?何の事かなあ??」

「……イザベルの提案に従うのも癪ですが、当面はそれがいいと思います。イザベルとアリシアでは、どうしてもいざという時に不安が残るので」

「まあそこはお互いを知っている3人に任すよ。でも俺も自分の身ぐらい自分で守れるようにならなきゃな」

サバイバルゲームでは格闘戦のようなものは通常禁止されている。もちろんマーシャルアーツなんかに興味が無かったわけでもないし、剣道や合気道は子供の頃にちょっと囓ってはいる。
だがそんなものは命懸けの世界では通用しないだろう。

「そういえば剣の手解きをする約束でしたね。早速休憩の時にでも始めましょう。というか始めますので、よろしくお願いしますね」

何やら一方的な宣言をされたような気がするが、どういう意味だろう。

いや、意味はわかっている。俺から頼んだ話だ。
まああれか。休憩時間になったら、ちゃんと話して……

そうか。そろそろ歩き出して2時間近く経っている。山道だし、みんな多少疲れているだろう。というか俺が疲れた。

「よし、そろそろしっかり休憩を取ろう。軽い食事の準備でも……うわっ!!」

突然アイダが剣を抜き、斬りかかってきた。
かわし損ねた前髪が宙を舞うのがゆっくり見える。

「あ~あ。鬼教官仕込みのtodas partesトダスパルテスが始まった……お兄ちゃん頑張って❤︎」

っておい!さっきの宣言はこういうことか!

「まずは剣から目を逸らさぬこと!武器を持って応戦するのはその後!」

アイダがブンブンと剣を振り下ろしてくる。

「大振りで避けると隙を生む!敵が一人だと思うな!」

ひええええ……鬼教官だ。鬼教官がいる……!


「お兄ちゃん~!アイダも、ご飯できたよ~」

結局アイダ鬼教官のしごき、ではない手解きは30分ほども続いた。

「よし!今回はここまで!なかなか筋がいいぞカズヤ殿!」

そりゃありがとう。
ただちょっと立ち上がれないぞ。

「カズヤさん!治癒魔法掛けますね!」

駆け寄ってきたアリシアが、俺の横に膝をつき、手を差し伸べる。

おお……そういえば治癒魔法を掛けられるのは初めてだ。全身を優しい光が包み、ふんわりと温かくなる。

「どうですか?」

「ああ。身体がすごく軽くなった。ありがとうアリシア」

そう言いながら頭を撫でる。

「えへへ。お役に立てて光栄です」

アリシアも尻尾があったらブンブンと振るのだろうな。
そういえば魔物がいるのなら獣人もいるのだろうか。

「お二人さ~ん?私達で全部食べちゃうぞ~」

イザベルの声に我に返る。
そうだった。昼食が待っていた。


昼食はアリシアとイザベルが準備してくれた。
ということは、いつぞの昼食と同じマッツァーがメインと、昨日のイザベルが狩ったウサギ肉を焼いたものだ。

「なあイザベル。さっきトダ_スパルテス?みたいなこと言ってなかったか?あれどういう意味だ?」

イザベルが呟いた言葉が気になり、尋ねてみる。

「ん?ああ、あれね。学校の軍人上がりの剣術教官に、すっごい厳しい人がいるの。口癖が“戦士たる者、何時何処でも戦えるように常に緊張感を持っておれ!”なんだよ。んで、その訓練方法がtodas_partesね。“どこでも”って意味かな」

「しかも実際に廊下や休み時間でも斬りかかってくるんですよ!私も何回も背後から一本取られたことか……」

「アリシアはちゃんと寸止めしてもらってたろ!?私は剣の腹で思いっきり殴られたぞ……」

「まあ悪い教官じゃないんだけどね……鍛え甲斐があると見込まれたら、とことんヤられるからね」

イザベルとアイダの笑い声が乾いている。

“常在戦場”
日本でも藩訓にしていた藩もあったらしいが、つまりはそういうことだろう。

「まあ、方法の是非はともかく、カズヤ殿には午後からは私の予備の剣を持ってもらう。あ、履くのではない。出来れば右手に持っていてくれ。次からは受けと流しの練習だから、重さに慣れて貰わなくては」

アイダから剣を受け取る。アイダが装備しているのと同じ、刃渡り70センチほどの諸刃の直剣だ。
見た目ほど重くはない。1キログラムないぐらいだ。
とはいえ、これを30分全力で振り回すのは相当な腕力と握力だ。

「アイダちゃん!寝込みも襲うの?」

イザベルが何やら要らんことを言い始める。

「そうだな。本来はそうしたい所だが、それで眠れなくなったら困るからな。今は休憩時間だけにしよう。カズヤ殿もそれでいいだろうか?」

いいというか、是非そうしてください!

「な~んだ。またアイダちゃんがお兄ちゃんに夜這いかけるのかと思った」

「よ……夜這い!しかもまたって何だ!わ、私がいつ夜這いなど!!」

「え?この前野営した明け方に、お兄ちゃんの天幕に潜り込んでいったじゃん?アリシアちゃんと2人でドキドキしながら覗いてたのに、結局隣で寝てただけだったけど?」

「覗いてたって…あ…あれはだな!カズヤ殿の指を吸うと魔力が回復するとアリシアが言うから……イザベルだってこの前の宿屋でカズヤ殿に跨がって……その……腰を……」

「ああ、あれ?あれねえ……硬いのが当たって気持ちよかったなあ」

「かっ、硬いの……?」

「気持ちいいいいい……???」

アイダとアリシアが顔を真っ赤にする。

「ねえお兄ちゃん、また一緒に寝るとき、ヤってね??」

この娘は……計算尽くならよっぽどの悪女の才能がありそうだ。

「バカなことを言ってないで、食べ終わったなら片付けて出発するぞ!」

『は~い』

ようやくアイダとアリシアの意識も何処かから戻ってきた。
しおりを挟む
感想 232

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫
ファンタジー
亡くなった祖父の後を継いで、半農半猟の生活を送る主人公。 ある日の事故がきっかけで、違う世界に転生する。 そこは中世日本の面影が色濃い和風世界。 しかも精霊の力に満たされた異世界。 さて…主人公の人生はどうなることやら。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

処理中です...