異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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96.和解(5月26日)

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アイダが声を掛けに行くと、ビビアナはあっさりと部屋から出てきた。
ノエさんに引っぱたかれた頬も腫れているわけでもない。自分で治癒魔法を掛けたか、或いは音ほど痛くはなかったのか。ノエさんも甘いからな。
しかし、どうやってビビアナを部屋から誘い出すかをノエさんも含めて4人で頭をひねっていたのがバカみたいだ。もう少しすったもんだしてもよかったように思うが、まあ天岩戸を開くがごとく部屋の前で漫才などしなくて良かったのは喜ぶべきか。

食事の美味い店を紹介して欲しいというアイダのリクエストに応えるためか、養成所の制服を着たビビアナはアイダと一緒に意気揚々と先頭を歩いている。
アリシアとイザベル、アイダはそれぞれ濃紺の活動服、タイフォン迷彩、デザート迷彩のBDUを仕立て直した服を着ている。
俺はと言えば風呂上りにしばらく悩んだ末、娘達のアドバイスもあってアルペンカモのパンツにスウェット生地のフーディーを着ただけだ。大きなフードのついた服はこの世界にもよく見られる服装だし、生地をじっくり見られたりしなければ、さほど目立たないらしい。
ノエさんは相変わらず大人になったピーターパンと言うかロビンフッドのような出で立ちだが、これも軽装の狩人には多い服装だ。

ちなみに街中ではあるが全員が剣や短剣などの最低限の武器は見える形で携行している。
俺と3人娘もUSPハンドガンや銀ダンを腰のホルスターに装着しているし、身に着けたポーチの中にはG36CやMP5K、イザベルとアイダはM870やヘカートⅡを収納している。
最悪このまま市街戦に突入しても対応できるだろう。
いやもちろんそんな事は望んではいないが、昔から言うではないか。備えあれば患いなしと。

◇◇◇

「やあビビアナさん!戻って来てたんだ。また一緒に狩りに行こうよ!」

「あらビビアナちゃん!今度うちの息子に会ってくれないかしら」

道すがら街の人々が代わるがわるビビアナに声を掛けていく。

「へえ……ビビアナさんって本当に皆に愛されてるんですね」

アリシアが感心したようにビビアナに並んで話しかけた。
3人が並んで歩いていても支障がない程度には道幅は広い。2頭立ての馬車がすれ違ってもまだ余裕がある。

「愛されて……そうですね。ありがたい事です。でも……」

ビビアナが何かを言い掛けて黙ってしまう。

「でも?」

「アリシアさん。ちょっと聞きたいことがあるのですが」

「何でしょう?私で答えられる事ならいいのですが」

気を利かせたのか、アイダがそっと2人から離れて俺達の方に来る。

「これは悪意があっての事ではないのですが、学校でのアリシアさんの評判は決して獅子狩人になれるようなものではありませんでした。アイダ様やイザベルさんの仲間だから、ようやく狩りに同行できる。そんな“生活魔法が得意なだけの魔法師”だったように思います」

いくら前置きがあったとはいえ、その評価は酷くないか。
確かにアリシアの仇名は“お母さん”だったらしいし、アイダやイザベルも似たような事を言ってはいた。だがそれは仲間内の戯言のようなものだ。赤の他人に言われる筋合いはないだろう。

「あははは……厳しいですね……」

アリシアの声が上擦っている。ここからは表情までは見えないが、たぶん顔も引き攣っている事だろう。

「ごめんなさい。別にアリシアさんを悪く言いたいわけではないの。ただどうして、そんなアリシアさんが森の中に飛び込むような勇気を持っているのかを知りたいんです。アリシアさんは魔物が怖くないのですか?」

「怖いですよ?私だけじゃなくイザベルちゃんやアイダちゃんも、もしかしたら偉そうにしているカサドールの先輩達だって、魔物は怖いと思います」

「そうよ。って私の名前が聞こえたから混じらせてもらうけどね。魔物が怖くない人間なんていないわよ。だって魔物だもん。人外の存在を恐れない人間なんて、そんなの人間じゃないわよ」

イザベルが2人の会話に割り込む。
ほんの数時間前には丁々発止もあわやというやり取りを繰り広げた3人だが、今のところ大丈夫なようだ。

「イザベル……さんも魔物が怖いのですか?」

「怖いわよ。ほら、お兄ちゃんに助けられてアルカンダラに戻る途中の最初の日の事、ビビアナに聞かせてあげようよ。アイダもいいよね?」

「ええええ……あの話?恥ずかしいよう」

「スー村の南の森で大鬼と小鬼に出くわした話か。カズヤ殿が私達に狩人としての自信と誇りを取り戻させてくれた時の話だな」

「あの時さあ。ちょっと冗談っぽく話してはいたけど、ホントは震えが止まんなくてさ」

「私なんか手汗がべっとりで、槍を持つのも精一杯でした」

「そうだな。仲間の半分を失い、生き残った私達も奴らの苗床になるところだった。奴らの姿を見ただけで、正直飛んで逃げ出したかった」

「そんな状態で狩りをしたのですか?」

「まあ私達がっていうより、お兄ちゃんがね。大鬼も小鬼も纏めてさっさと打ち倒して、私達に止めを刺させてくれたの」

「止めを?」

「そう。奴らを剣で何度も突き刺すうちに、ああ、こいつらも私達と同じように生きているんだ、必死に生きているだけなんだ、だから過剰に怯える必要はないんだって思えてきてね。洞窟から助け出されてもなお暗闇で蹲っていた心に、一筋の光が射したような、そんな気がしたんだ」

「そうそう。あの後も一角オオカミに襲われたりしましたけど、何とか皆で切り抜けられたんですよね」

「ハビエルさんだっけ。押し寄せる一角オオカミをバッサバッサと斬り伏せていくの、凄かったよね」

「ああ。あの剣捌きは私も見習うべきところが多かった。できればまた一緒に旅をしたいものだな」

「そんなことがあったのですね……」

ビビアナは両手を胸の前できつく組み合わせ、何かを考える様に顔を伏せる。
と、決意した表情で立ち止まり、こちらを振り返った。

「イザベルさん。アイダさん。アリシアさん。そしてイトー殿。先ほどは失礼な物言いをしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。私はたぶん……皆さんに嫉妬していたのです。養成所での評価は私よりも下だったはずの皆さんが大きな成果を上げることに。そして皆さんの傍らにイトー殿がおられることに。皆さんがどれほど恐ろしい体験をしたかも知らずに、ただ教官の陰に隠れて成果を掠め取っているのではないかと勘繰っていました。本当に申し訳ありません」

嫉妬か。そりゃあ嫉妬もやっかみもするだろう。
カサドールという職業は成功を収めれば名声も上がるし、何よりも実入りがいい。この1か月で俺達4人はサラリーマンの平均年収以上は稼いでいることだろう。
もちろん魔物を狩る以上は常に命の危険は付きまとうし、危険手当を差っ引けば地道にコツコツと稼いだ方がいいのかもしれない。ただ今の俺にはその選択肢はない。なにせこの世界では手に職がないのだ。

「それってさあ。要はカサドールとして成果を上げたいってことでしょ?だったら修行して魔物を狩るしかないじゃん?カサドールの評価なんて、所詮はどれだけの数の魔物を狩って、どれだけの人達の生活と安全を守ったかだけでしょ?」

「そうよね。カズヤさんの指導を受ければ、ビビアナさんだってすぐに成果を出せるはずですよ!」

おいおい。なにやら変な方向に話が進んでないか。

「イトー殿の指導を受ければ……イトー殿。先ほど暴言を吐いた私ですが、ご指導していただけますか?」

ほら、こうなる。
しかし前提条件が間違っている気がする。別に俺は3人娘を指導している覚えはない。アイダから剣の指導は受けているがな。
だが今の俺の立場は養成所の教官で、ビビアナは学生だ。請われれば無下に断るわけにもいかない。ノエさんとの約束もあることだし、何よりもビビアナが持っているであろう知識は俺達にも役立つだろう。

「わかった。ただ俺の指導は厳しいぞ」

「はい!覚悟の上です!あ……でも同じ部屋で寝泊まりするというのはちょっと……」

ビビアナの言葉を聞いて、イザベル達が吹き出した。

「ちょっとアリシアさんや。今の聞きました?」

「ほんとですわねイザベルさん。年頃の娘が、いやあねえ」

突然どこぞのご婦人方の井戸端会議のネタのように茶化された箱入り娘のお嬢様は、何を言われているのかわからないといった様子できょとんとしている。

まあこんな感じで俺達は和解したのだ。
ちなみにノエさんはといえば俺達のやり取りを一歩引いてニコニコとしながら眺めていた。ズルいぞ……
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