異世界サバイバルゲーム 〜召喚主を救えなかった男〜

九尾の猫

文字の大きさ
12 / 76
探索

11.洞窟にて(5月3日〜4日)

少女の命は俺の腕から溢れ落ちたまま、戻る事はなかった。
ゴブリンとオーガの流す血の海の只中で、少女の亡骸を抱きしめたまま俺は声を上げて泣いた。
まるでこの数日間のストレスがドッと押し寄せてきたかのように、涙と嗚咽が俺の奥底から沸き上がってくる。

どれほど時間が経ったのだろう。
壁の松明の一つが落下した音で我に返る。
天井から差し込んでいた光は消え、壁の松明が燃え尽きるのも時間の問題だろう。

少女達をこのままにはしておけない。
ゴブリンは洞窟の魔柱とやらから力を得て生まれてくるらしい。少女の亡骸を喰らってオーガが生まれてくるかもしれない。亡骸が喰い荒らされる前に魔柱なる物を破壊しなければ、この少女も浮かばれないだろう。
少女を抱き上げ、血の海から離れた場所に横たえる。
赤毛の長い髪に白い肌。苦悶に歪めていたその顔は、今では安らぎを取り戻しているようにも見える。

ゆっくりと壁側に移動し、壁に下げられた遺体を回収する。まだ新しい2体も少女のものだ。
褐色の肌に銀色の長い髪、ツンと尖った耳を持つ少女と、黒髪のショートカットの少女。この3人が先行したという子供達か。
他にも3人の男の子がいたはずだ。

だがここにある遺体は全て女性のものだった。
どうやら遺体は左から右に行くにつれて新しくなっている。
一番左端の遺体は白骨化しているが、右端の方の遺体は幾分腐敗しているがまだ新しいようだ。
遺体の装束は様々で、手足に鎧を付けている者や、編み上げのサンダルのようなものを履いた者もいる。ただ一様に下半身は露出させられており、腹が裂けたような遺体もある。やはりオーガかそれに類するモンスターの苗床にさせられたのだろう。
とすれば男の子は既に喰われたのか。

いや、洞窟は更に奥へと続いている。奥に閉じ込められているかもしれない。要救助者を求めて、洞窟の奥へと進む。
幅1mほどの細い通路を抜けると、両側に部屋が並んだ幅2mほどの通路に出た。
部屋といっても各部屋の横幅は2m弱。通路に面した側には荒い鉄格子が嵌っている。
これは部屋というより独房だ。
通路の出口には大きな鍵束が掛かっていた。鍵の数は10個。一個が手の平サイズで、直径1センチほどの鉄の棒の先端に突起がある古典的な鍵だ。
房内を一つづつ確認するが、何もない。

独房エリアの突き当たりに、また幅1mほどの通路があった。
水糸の長さは残り100mほど。この長さが行動限界だ。真っ暗な通路をヘッドライトとフラッシュライトを頼りに進む。
3mほどで通路が終わり、また部屋に出た。
高さ2mほど、一辺の長さが5mほどのほぼ正方形の部屋の中心部に、武器やら防具やらが無造作に積まれている。
とりあえず壁に沿ってぐるっと一周するが、どうやらここが行き止まりのようだ。

あとは中心部に積まれた武器などの調査だが……恐らく価値のある武器や防具もあるのだろうが、俺にはさっぱりわからない。それになにせ暗い。

全部収納するか。

背負っていたミリタリーリュックを下ろし、リュックの口を開けて次々と放り込んでいく。
途中から手に触れるだけで収納されていくことに気づき、思いのほか捗る。

ものの数分で雑多な山の収納を終え、改めて室内をチェックする。だが入ってきた通路以外のルートは見つからない。
やはり男の子達は全滅したか、この場所ではない所にいるのだろう。

よし、戻ろう。

◇◇◇

最初の部屋に戻った俺の胸の内に、ふつふつと怒りが込み上げてくる。
モンスターに対して?いや、それ以上に自分自身に対してだ。
なぜ洞窟の探索を後回しにした?この洞窟の存在を知ったのは、自宅防衛戦の翌日だった。その次の日には近くまで来ておきながら引き返したのだ。あの時突入していれば、子供達のうち何人かの命は救えたかもしれない。まだ子供達が洞窟にたどり着いていなかったのなら、もしかしたら全員の命が助かったかもしれないのだ。
やり切れない思いが押し寄せてくる。

村にいたアニタは「俺がこの子達に呼ばれた」と言った。それが本当なら、その召喚主を失った今、俺がこの世界に居る意味は一体何だ。
何をして失われた命の償いをすればいい。

土の壁に拳を叩き付ける。
肩に伝わる衝撃と痛みが、俺がまだ生きている事を実感させる。
そうだ。俺はまだ生きている。
請け負った仕事を全うしよう。回収できた遺体を供養し、遺品があれば遺族に届けてもいい。少なくとも赤髪の少女の最期を看取ったのは俺なのだ。肉親に詰られようと、それは甘んじて受けなければいけないだろう。

視界の片隅に何かの構造物が入る。
土の壁から垂直に突き出された角柱状の岩。突き出た長さは30cmほどだが、どれだけ深く埋まっているかはわからない。
黒水晶か?
いや、水晶の透明感はない。まるで深夜の暗闇のような、全てを吸い込みそうな、それでいて確かに禍々しい雰囲気を放っている。
これが魔柱か。
少女はこれを破壊しろと言ったのか。しかしどうやって?

ミリタリーリュックから折り畳みスコップを取り出して、魔核を叩いてみる。
キンッと澄んだ音が響くが、割れたり砕けたりする感じではない。物理的に破壊するか、何か特殊な魔法でも使うのだろうか。
いや、これが魔柱だとすれば、迂闊に魔法を使うのは危険だ。魔力を吸い取って跳ね返すぐらいのことは起きるかもしれない。
村にいたデボラなら破壊方法を知っているか。
この世界で魔物を専門に狩る職業に就いていたようだし、いろいろ訳知りのようだった。掘り出して持ち帰ってみるか。

折り畳みスコップで魔柱の周りの土と岩を崩す。砂岩のようにさほど固くない岩に嵌まり込んでいたそれは、わりと簡単に掘り出すことができた。掘り出した真っ黒な石は全長1mほど、一編が10cmほどの歪な六角柱だった。
パラコードで縛り上げ、そのままミリタリーリュックに収納する。これはいきなり村の中に持ち込むべきではないだろう。まずはデボラに相談してみよう。

◇◇◇

作業を終えてミリタリーウォッチを確認する。
深夜2時を回っていた。この洞窟に突入したのは午後3時頃だった。かれこれ11時間以上、洞窟内部の調査を行なっていた事になる。
もっとも少女の亡骸を抱いて泣いていた時間も長かったのだが。

犠牲者達をこのまま放置もできない。だがミリタリーリュックにそのまま収納するのも気が引ける。何か麻袋のような物があればいいのだが。

そういえばさっき収納した雑多な物の中に、ずだ袋のような物があった。ショルダーバックのようなお洒落なバックではない。口を紐で縛れるようにできている単なる大きな布袋だ。あれの中身を出してしまえば、遺体を納められそうだ。

必要に迫られて中身を出すとはいえ、これも誰かの遺品なのだ。布袋の中身を一つづつ地面に並べる。
羊皮紙の手帳、皮の手袋、分厚い毛織物のマント。数着の服は男物のようだ。二回りほど小さな空の布袋と中身の入った布袋。中身は火打ち石と小さなナイフ、折り畳まれた布切れ。着火用の火口に使うのだろうか。
それ以外にも何かの干し肉とドライフルーツが入った袋がそれぞれ1つずつ。
この荷物の持ち主がどういった立場の人間で、どのような旅路を歩んでいたかはわからない。魔物を狩る狩人だったかもしれないし、単なる行商人だったかもしれない。
いずれにせよ言える事は、たったこれだけの荷物で旅に出る勇気は俺には無いという事だ。
空の布袋に男の持ち物を詰め直し、空いた大きな布袋に遺体を収納する。
少女達の亡骸を含めて、合計8体となった。
それぞれの身元が分かればそれに越したことはないが、わからなければ村の墓地に埋葬させてもらうのもいい。

陰鬱な気持ちを押し込めて立ち上がる。
時計の針は午前4時を示している。もうじき夜明けだ。夜明けまで待って洞窟を出よう。
一旦自宅まで戻り、風呂にでも入って昼まで寝れば、この気持ちも少しは晴れるかもしれない。
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

神様の手違いで異世界転生した俺の魅了チートが、勇者のハーレムを根こそぎ奪って溺愛ハーレム作りました!

まさき
恋愛
ブラック企業で働き続けた俺、佐藤誠が過労で倒れ、気づけば異界の地。 「手違いで死なせちゃってごめん!」という神様から、お詫びに貰ったのは規格外の【魅了】スキル——。 だが、元社畜の俺にはその自覚が微塵もない! ​ただ誠実に、普通に生きようとしているだけなのに、エルフの賢者、獣人の少女、最強の聖女、さらには魔王の娘までもが、俺の「社畜仕込みの優しさ」に絆されて居座り始める。 ​一方で、10年かけて仲間を集めたはずの「勇者・勝利」は、自身の傲慢さゆえに、誠へとなびく仲間たちを一人、また一人と失っていく。 「俺は勇者だぞ! なぜ手違い転生者に負けるんだあああ!?」 ​人界から天界、そして宇宙の創造へ——。 無自覚な誠実さで世界を塗り替えてしまう、元社畜の究極溺愛ハーレムファンタジー、ここに開幕!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。