異世界サバイバルゲーム 〜召喚主を救えなかった男〜

九尾の猫

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イリョラ村

60.イリョラ村②(6月26日)

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イリョラ村の中心部に荷馬車ごと短距離転移ジャンプした俺とカミラは、見える物全てに絶望したかのようにしばらく立ち尽くした。
そこかしこにある赤黒い痕跡は血溜まりだろうか。建物という建物は大半が無惨にも焼け焦げ崩れ落ちている。どうやら基礎は石造りだが建物そのものは木造だったようだ。唯一残っているのは敷地の外れにある倉庫のような建物だけだ。

「生存者は……探すだけ無駄か……とりあえず馬を繋いで荷台を離してやりたいが……」

カミラが辺りを見渡し愛馬を誘う。その先にあるのは周囲のものより少し大きな建物の残骸だ。5段の石の基礎の上に木と石板を組み合わせた壁。その上に載っていたのは三角屋根だろうか。壁には幾つもの大穴が空いているが、窓の多い明るい作りだったようだ。

「教会だったようだな」

「教会?神殿ではなく?」

「ああ、教会だ。この村は我が国では珍しく一神教の信奉者によって作られた村だ。その神の名をジルバという。全知全能の神らしいが、こうなっては形無しだな」

全能神ねぇ。まあどんな神様を信仰しようが構わないが、アルカンダラや近隣のリナレスの衛兵隊や駐屯軍の腰が重かったのは、もしかして信ずる神が違うからなのではないか。

「一神教があるのか。この世界は多神教が優勢なのかと思っていたが」

「そりゃあ考え方はそれぞれさ。ここタルテトス王国とオスタン公国、ノルトハウゼン大公国は多神教だ。西方諸王国もそうだ。だがもっと西のテリュバン王国ではジルバ教一色だそうだ。なんでも国を挙げて布教活動に勤しんでいるらしい。奇跡の水、“聖水”を掲げてな」

聖水。元いた世界の特定の層には妙に響くかもしれない単語だが、俺の心にはさほど響かなかった。どうせ出処はむさ苦しいおっさんだと相場が決まっているからな。

「その聖水とやらはどんな効能があるんだ?」

そう尋ねたのは単なる好奇心、ないしは場を繋ぐための潤滑剤のようなものだ。
だがカミラのお気には召さなかったらしい。彼女は吐き捨てるように続けた。

「“何でも”だ。ぶっかければ魔物が倒れ、大地に撒けば作物が育ち、怪我人に掛ければ怪我が治るんだと」

「ほう。魔法みたいだな」

「魔法だよ。奴等は“奇跡”なんて言ってるらしいが、それはただの魔法だ。神々から与えられし加護という恩恵を国政に利用しようなど言語道断だ」

なるほどねえ。魔法と奇跡は同一。というよりも魔法を行使して“これは奇跡だ!神を信ぜよ!”とでも言えば奇跡になるのか。
いや、ちょっと待て。魔法がありふれたこの世界で、なんでそんなことが通じる。誰もがちょっとした魔法を、それこそ生活魔法なんて呼ばれる魔法を使えるこの国では通じないはずだ。まさか西の国では魔法は珍しいのか。

「おい、何をボーッとしている。生存者は居なくてもやることはあるだろう」

カミラの声で思考が引き戻される。
そうだ。ここイリョラ村に来た目的は調査だ。厳密には様子を見てこいと言われただけだが、まさか“全滅、生存者無し”とだけ伝えるわけにはいかない。教会の壁に空いた穴の大きさは直径1m近い。さっき倒したムカデ型のグサーノだけでは説明が付かないから、他の魔物も同時に襲ったのかもしれない。

「調査を開始する。ここが教会だというなら避難所も兼ねていたかもしれない。死体でもあれば弔ってやりたい」

「ふん。殊勝な心掛けだな。ハーイデース様もさぞお喜びだろう」

冥界の王に喜ばれてもな。
嫌味な口振りとは裏腹に、カミラはずんずんと教会に入って行った。

◇◇◇

教会内部はズタズタだった。そう言葉にすれば簡単だが、それは酷い有り様だ。
入り口から奥に向かって下り勾配がついた室内には木製のベンチと長机が並べられていたようだ。さながら大学の講義室のようだったのだろうが、そのほとんどが破壊されている。乾いた赤黒い痕跡がそこら中にあり、内部で起きたであろう殺戮の凄まじさを示している。
悪臭はそれほどでもないのが救いか。防毒マスクなど持ち合わせてはいないが、一応シュマグで口と鼻を覆っておく。カミラも似た様なことをしているから、そういう習慣はあるのだろう。

床の血痕に引き摺られた跡がある。その先には祭壇があり祭壇に向かって左側の壁にも穴が空いている。

「おい。この穴見てみろ。内側から突き破られているぞ」

カミラが言うとおり、その穴の周囲の木材は穴の外に散らばっていた。そして穴の向こうは小部屋で、更に外へと穴が続いている。

「小部屋には何も無いか……なあカミラ、こういう建物って、だいたい左右対称に作らないか?あとは隠し部屋とか地下室とか」

「そうだな。向こう側を探してみる。お前は隠し部屋を探せ」

そういってカミラは右側の壁を叩きはじめた。
さて、教会の隠し部屋といえば祭壇の下だと相場は決まっている。というか他に隠せるような場所はないのだ。
祭壇といってもどこぞの大聖堂のように煌びやかなものではない。ただの大きな木の箱だが、ボロボロの室内で何故か形を留めている。これが神の加護と言うのなら、ジルバ神とやらも酷な仕打ちをするものだ。
祭壇は力を入れると普通に動いた。そしてその下の床には1m四方の切れ目がある。

「カミラ!地下室の入り口らしきものを見つけた。手伝ってくれ」

「やっぱりあったか。こっちはダメだ」

やって来たカミラは床の切れ目を丹念に調べる。
シェルター、資材庫、金庫、まあどれでもいいのだが、古今東西のあらゆる宗教においては信仰の中心であり人々の拠り所でもある教会や神殿には信徒と共に金品が集まってくるものだ。いかに清廉潔白であろうとも、集まってきた金品はどこかに集積せざるを得ない。それがここなのだろう。

「開けるか。何が出てくるか知れないが」

「扉の前で立ち止まっていても仕方ないからな。お前、探知魔法は得意だろう。少しだけ持ち上げるから準備しろ」

そう言ってカミラは腰のナイフを抜いて落し蓋状の扉に突き刺した。そのままゆっくりと持ち上げる。
僅かな隙間から異臭が吹き出してくる。
思わず顔を背けながら、山刀マチェットを隙間に差し込み扉を固定してから、指だけを突っ込み探知魔法スキャンを放つ。

「どうだ?反応は?」

むせかえるような臭気に顔を歪めながらカミラが急かす。

「魔物の反応は無い。生きている人間もだ。魔石の反応が幾つかあるな。何かの魔道具があるのかもしれない」

「魔道具か。奇跡とやらの種明かしかもしれんな。それで、死体はあるんだな」

この臭気だ。当然発生源がある。密閉された空間で一ヶ月以上。おそらく死蠟化しているはずだ。

「たぶんな。まだ子供だと思う。それも複数、重なっていて……4、5人ぐらいだ」

「回収するのか?」

「いいや、やめておこう。ここがこの子達の墓だ。扉を閉じよう」

そう言って山刀マチェットを引き抜く。
カミラがゆっくりと扉を下ろした。

ここで息を引き取ったのならば、このままにしておくほうがいいだろう。帰りを待つ者がいるのならいざ知らず、この村で生まれ育ったのであろう子供達の遺体を動かす気にはなれなかった。
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