筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫

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立国編

81.筑豊国を興す

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会談は終わった。
長居してもトラブルを招くだけだ。長い廊下の曲がり角に開いた門を使ってさっさと引き上げる。

ついでに宗像むなかたの佐伯の所に立ち寄ろうかとも考えたが、まだ喪も明けぬうちから家族の命を奪った者が訪ねてきても対応に困るだろう。しばらく様子を見よう。

会談の様子は里でもリアルタイムで確認していたはずだが、まずは平和裏に会談が終わったことを皆に報告したい。寄り道せず、里に直行する。

里に帰ると、待ち構えた皆の歓迎を受けた。

「タケルさんお帰りなさい!難しいことはよくわからなかったですけど、これでもう襲われることはないですよね!」

「旦那様。御無事で何よりです」

「皆ありがとう。今回の件で皆にも苦労を掛けたし、多分これからも大変なことがあるだろう。これから里に受け入れる人数も増えるし、皆の役割もどんどん変わっていく。だがここにいる20人が、この筑豊国ちくほうのくにの始まりの20人だ。皆協力してこの国を豊かにしていって欲しい」

普段は真面目な話をしてもどこか戯けている杉や松も、神妙な面持ちで聞いている。

「明日からは忙しくなる。今回の顛末の説明と挨拶回りに、近隣の集落を回らなくてはいけない。顔見知りの小野谷おのだに大隈おおくま以外は、佐伯かその配下を連れて行ったほうがいいと思う。この地域出身の桜と梅にも同行してもらいたい。桜と梅が抜ける分、子供達の世話は白に皺寄せが来ると思う。白の負担が増えないよう、皆協力してやってくれ。俺の不在時は里の運営を青に一任する。とはいえ極力夜間は戻ってくるつもりだ。やっぱり自分の部屋で寝たいからな」

神妙な面持ちの皆の顔に笑顔がこぼれる。

「承知いたしました旦那様。早速ですが、国造りとしてまずは何から始められますか?」

この里では今のところ衣食住の問題はない。
早期に住居を構え、農作物の安定生産を始めたことが大きかった。
小野谷出身の桜や梅達が里での生活にあっさりと馴染んだのも、生活基盤が安定しており怪我や病気の心配がなかったことが大きいだろう。あとは若さゆえの順応性か。
周辺の集落を取り込んでいくには、病気の治療や身寄りや住処のない者の世話に加え、農業改革が優先か。

病人の治療や生活基盤の整備は、実際にニーズを聴取してからでないと開始できない。
とすれば今やれることは農業改革の準備だ。乙金や大隈、小野谷といった集落を見た感じでは、水利が良い所にだけ田畑を開墾している実情が分かっている。基本的には川沿いの低地で、水害にはめっぽう弱いだろう。

それならば、今まで開墾されなかった土地に田畑を拡げていく方策を考えるべきだ。
人手さえあれば、作付面積と収量は単純に比例するはずだ。

「そうだな。まずは農作物の安定生産だ。去年はこの地方を水害が襲ったらしいが、一度や二度の水害でも耐えられるぐらい安定した収量を確保しなければいけない。黒は揚水水車を開発して欲しい。揚水することができれば水利の良くない土地も田畑にできる。水利の良くない土地はだいたいが水害には強い。椿や杉、松も協力してくれ」

『了解!』

「小夜は大隈との交易に備えて綿花と生糸の増産ができるか検討してくれ。もしかしたら藍の生産も始めるかもしれない。桃、楓、棗は小夜を手伝ってくれ」

『了解です!』

「紅は捕獲した馬の世話を頼む。もし可能ならイノシシを家畜化できないか試して欲しい」

「狩りのついでにウリ坊を何匹か連れてくればいいか?」

「まずはそれで構わない。何世代か掛けて品種改良できればいいが、まだ先の話だ」

「わかった。馬も増やすつもりか?」

「増やせるなら増やしたいが、馬の繁殖には専門家が必要な気がする。できてしまったら仕方ないが、無理のない範囲でと思っている」

「わかった。しかしタケルも色々考えてるんだなあ」

「まあこれでも一応な。でも俺が色々考えても俺一人の力ではどうにもならないことばかりだ。チビ達を含めたここにいる全員の協力が必要だ。よろしく頼む」

「まあ任せとけ!俺達はこの筑豊国の最初の国人だからな。みんなしっかりやるさ!」

紅の言葉に子供達を含めた全員が頷いてくれた。



翌日からは昨日話した分担で開発や検討を開始した。もちろん毎朝の日課である勉強と鍛錬は欠かさない。
午後からは小野谷に出掛ける。
小野谷行きを桜と梅が激しく拒んだため、今回は紅だけを連れていく。手土産は精米した米10㎏だ。集落全体でも一回分の炊き出しぐらいはできるだろう。

「やっぱり元の集落に顔を出すのは気まずいんだろうなあ。タケルの言うことを聞かないなんて、よっぽどだぞ」

道中で紅がボヤいている。

「まあ今更どんな顔をして会えばいいか分からないだろうしな。大隈には抵抗ないみたいだし、そっとしといてやれ」

「別に責めたりするつもりはないけどよ。やっぱり根が深いなあと思ってよ」

根は深いだろうな。一旦は自分達を締め出した集落だ。俺なら許せない気持ちと不甲斐ない気持ちがごちゃ混ぜになるだろう。気持ちの整理が着くまでには相当の時間がかかりそうだ。

そんな話をしているうちに、小野谷の集落が見えてきた。集落近くの田では稲が緑の葉を風に揺らしている。復興は順調そうだ。
相変わらず集落の入り口近くの畑で草むしりをしている男に声を掛け、村長を呼び出す。

「タケル様!お久しぶりでございます!まだ約束までには期日がございますが、今日はいかがなされましたか?」

「ああ。一件報告と、聞きたいことがあってな。これは土産だ」

そう言って村長に麻袋を手渡す。袋の口を開いた村長が驚きの声を上げる。

「これは米ですか!しかしなんとも粒の大きい……さぞ美味しい米でしょうな!」

「うちの里で一回目に収穫したものだ。皆で食べられるよう炊き出しでもしてくれ」

「それはありがたい。一回目の収穫といいますと、もしや何回も米が採れるのですか?」

「ああ。今は2回目の栽培をしている。それはそうと内密の話があるのだが、村長の家にお邪魔できるか?」

「もちろんでございます。こちらへお越しください」

村長の案内で自宅へ移動する。

戸板が閉まり、周囲に人の気配がないことを確認して、話を切り出す。

「村長はこの地域の地頭だった佐伯という男を知っているか?」

「もちろんでございます。年貢を納める時に何度かお会いしております」

「そうか。実は少し前に佐伯軍を破ってな。変わって俺が地頭になった」

村長は言葉の意味が俄にわかには理解できなかったらしく、首を傾げている。

「破った……とは、佐伯様と戦ってタケル様が勝たれた……ということですか?しかし何故……」

「この里への救援がどうやらバレたようでな。支援した雑穀をどこかの集落から強奪したと思われたらしい。それで、俺がこの集落を支援していることが、何故にバレたのだ?」

村長が文字通り飛び上がって弁明する。

「私どもは報告などしておりませんし、近隣の集落にも話してはおりません!ただ、誰かが口を滑らせたことはあるかもしれません……」

「まあいい。別に責めるために来たわけじゃない」

「それを聞いて安心しました。ではどういったご用件で?」
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