筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫

文字の大きさ
144 / 179
御牧郡攻防戦

142.襲撃者を取り調べる

しおりを挟む
青の戦舞に見とれているうちに、戦況は動き出していた。

「タケル!戦場を離脱する一団がある」

黒の報告で我に返る。

「黒!頼む!大将首は殺すな。ひっ捕らえてこい!」

「了解!」

俺は3Dスキャンを周囲3kmに放って、残存兵の位置を特定する。
北の森と南側の山に数十名が逃げ込んでいる。

「白!敵が逃走に移った。周囲3kmに網を展開できるか?」

「大丈夫!人が通れなければいいよね!?」

「ああ。任せる」

白が両手で頭上に大きな円を水平に描く仕草をして、パンっと両手を合わせる。
顔の横を風が駆け抜けていく。

「タケル兄さん!完成!」

「ああ。ありがとう。各員!掃討戦を始める。梅、佐助、清彦!北の森はお前達3人に任せる。白は弓隊の指揮を取り青の援護。南には俺と椿で向かう。一兵も逃がすな。ただし無理はするな!」

『了解!』


梅達が北の森へ向かったのを確認して、椿を伴って南の山へ駆ける。

しかし我ながら恐ろしい指示を出してしまった。
一兵も逃すな……か。それはつまり殲滅しろということだ。そしてあの三人。梅と佐助、清彦なら、土塁を突き破って侵入してくる敵を斬り伏せ続けたあの三人なら、きっと問題なく成し遂げてしまうだろう。
彼らはまだ数え年で15歳。元の世界なら中学生だ。
そんな彼らに殺戮を指示し、そしてやってのけてしまう力を与えてしまった。
しかも今は平太達10代前半の子供達も弓隊に加わらせている。
いくら里を護るためとは言え、これはやりすぎではないだろうか……

「タケル!敵!!」

椿の声に我に返る。
いかん……反応が遅れた。

右前方から飛来した矢を、椿が張った結界が阻止する。

「椿!助かった!俺が前衛、椿が後衛!行くぞ!」

俺は長巻を構えて矢が飛んできた方向へ突進する。

一瞬遅れて付いてくる椿が、俺の前方に盾状に結界を展開する。

目の前の藪を斬り上げると、藪の中から弓を握ったままの手が飛び出してきた。

悲鳴を聞き流し、血飛沫を避けながら次の敵を探す。

椿が敵の落とした弓と矢筒を拾った。
弓の弦を引き、感触を確かめている。

「椿。敵の位置をマップに示せば狙撃できるか?」

「もちろん!黒姉と白姉とはいつも練習してる」

「よし、じゃあ行くぞ!」

3Dスキャンの精度を上げて、半径数百mをスキャンし黒の窓に投影する。

そのマーキングを読み取り、椿が弓を引き絞る。

放たれた矢は木の梢よりも高く飛翔し、放物線を描いて敵にトップアタックを仕掛けた。

兜などとうに脱ぎ捨てていたところに真上から矢が降り注いだのでは、敵になす術もない。

矢に射すくめられた敵に襲いかかり、次々と斬りはらう。

ものの数分で南の山の掃討を終えた。

「梅です。北の森の殲滅が終わりました。16名を無力化、3名はもう助からないかと」

「了解した。南の山も掃討完了だ。炭焼き窯や化学実験室に被害なし。青はどうだ?」

「旦那様、敵本体の抵抗は無くなりました。投降した者達が30名ほどおります」

「こちら黒。脱出を図った一団を捕捉、これを撃滅。頭領と思しき一名を拘束してる」

「各員、了解した。白、梅、佐助、清彦、それに小夜と椿は青のところに集合。敵の武装解除ののちに、動ける者を使って負傷者と死傷者を一箇所に集めさせる。黒は拘束した奴を土塁の内側に連れてきてくれ」

『了解!』



「さて、貴様いったい何者だ?」

黒が縛り上げて膝まづかせた男の顎に、長巻の刃先を当てて尋ねる。
男は40歳過ぎだろうか。もう初老といったほうがよさそうだ。ボロボロになった髷には白いものが混じり、憔悴した頬は血と汗でぎらついている。

「殺せ……一思いに殺せ!!」

「なんだ。自殺志望者だったか。まさか自分の家の者を引き連れて自殺しにきたわけでもあるまい」

「当たり前だ!!」

「では何をしに来た?ただの挨拶ではないな。何故俺の里を襲った?」

「それは……約定により言えぬ!」

「約定か……わかった。約定に義理堅いお前に免じて、お前は生かしておいてやる。もちろん死にたくても死ねない呪い付きでな。それ以外は皆殺しだ。青、生き残りの選別は進んでいるか?」

「はい。もうじき完了いたします」

「では、生き残りも死者も合わせて焼き尽くしてやろう。もちろん、こいつの目の前で、こいつへの褒美を唱えながらな」

「なぜ……なぜそのような非道を……」

男は噛み破らんばかりの勢いで唇を噛みながらこちらを睨みつける。

「非道だと?女子供しかおらぬ里を、何百もの手勢で攻め立てるのは非道ではないのか。まさか一人も害さずに、ただ物見遊山をするつもりだったなどとは言うまい?」

「それは……」

「はあ……面倒ですね。旦那様。この者が口を割るまで、生き残りを処刑したします。よろしいですか?」

とうとう青が痺れを切らした。いつもなら青が起こる前に紅が動くから目立たないが、意外なほど青の堪忍袋の緒は短い。

「ああ」

俺の返事を聞いて、土塁の外に向かおうとする青の背中に、悲痛な声が反射した。

「わかった!話す!何でも話すから、助かる命は助けてやって欲しい!」

「青、話す気になったらしい。小夜と椿は生き残りの治療を。梅と佐助、清彦は小夜と椿の護衛を任せる。青と白、黒は一緒に話を聞こう」


結局、一度話すと決めた男はべらべらと話し始めた。

男の名前は名越元章なごえもとあき筑後国ちくごのくに守護の本家筋だという。
しかし昨年の秋に、実の弟との権力闘争に敗れ、隠遁生活に入ったらしい。
元章を慕う家族同然の部下達を見捨てるわけにもいかず、どうしようもなくなった元章に、再起を促す奴が現れた。そいつがこの里を教え、この里を乗っ取れば部下を喰わせるのも容易だとか、筑豊全体を支配できるなどと甘く囁いたらしい。

「その話は少々変です。いかにこの里、そして首尾よく筑豊全体を乗っ取れたとしても、筑前国ちくぜんのくにの少弐家が黙ってはいないでしょう。ここ筑豊は制度上は筑前国の一部なのですから」

青が疑問を提示する。

その疑問を聞いた元章が、ニヤリと唇を歪めて笑った。

「その少弐経資殿からの密書を受け取ったのだ。この里さえ滅ぼせば、筑豊一帯を譲るとな!」



ああ。やっぱり?あまり驚かないぞ。

驚くというよりため息が出る。そんなに目の仇にするのなら、国など与えなければよかったのだ。
そもそも俺は初めから国作りがしたかったわけではない。小夜や式神達に囲まれて、のんびり暮らせればそれでよかったはずなのだ。

それにしてもだ。何かしっくりこない。“里を滅ぼせば筑豊を与える”現状、この筑豊国での最大戦力は確かにこの里にいる者達だ。それは図らずも今回の襲撃で証明されてしまった。
だが、この里を滅ぼすだけで、筑豊の支配権を確立できるものか?

「やはりその話は変ですね。よしんばこの里を滅ぼせたとしても、直轄は穂波郡まで。鞍手郡と宗像郡はそれぞれ佐伯家と宗像家が押さえています。この両家を経資はどうするつもりだったのでしょう」

あ……繋がった。
突然起きた豊前国宇都宮家の侵攻、それに続く筑豊国の動員、筑前国の出兵。そして図ったかのような里への名越家の襲来。
これが全て一本の線で繋がっているのだ……

とすれば、今最も危険なのは宇都宮家に勝利した宗像家と佐伯家だ。
何せ少弐景資の本隊と後詰合わせて一千が宗像郡直近にいる。
この一千が一斉に宗像郡に襲い掛かれば、たかが数百の宗像家と佐伯家はひとたまりもない。

「紅!桜!!無事か!?」

慌てて勾玉を使って紅と桜に呼びかける。

「おう!タケル!そっちはどうだ?こっちはぼちぼち遠賀川を渡るところだぞ。景資達は宇都宮の残党を追って豊前国に向かったから、川を渡るのは俺達だけだ」

「紅、そこに氏盛殿はいるか?」

「ああ。隣に桜と一緒にいるぜ?」

「よし。桜、氏盛殿に伝わるように復唱してくれ。いいか?」

「はい。どうぞ」

「敵は名越元章。だが黒幕は少弐家だ。川を渡り切った直後の挟撃に備えよ」

「復唱します。敵は名越元章。黒幕は少弐家。川を渡り切った直後の挟撃に備えよ。氏盛様!聞こえましたか?」

「おう!しかと理解した!しかしあのガキども、姑息な真似を考えおるわ!斎藤殿!奴らは襲ってくると思うか?」

氏盛の大声はよく聞こえる。顔を真っ赤にして起こっているのだろう。まさに怒髪天を突くというやつだ。

「いや、その可能性は低いと思う。理由は二つ。一つ目は宗像勢がほぼ無傷なこと。恐らく奴らの狙いは宗像勢と宇都宮勢との共倒れだったはずだ。ほぼ無傷の宗像勢を襲えば奴ら自身も傷つく。あいつらもバカじゃない。もう一つは、宇都宮家に大勝してしまったこと。これで奴らは本気で豊前国を攻めなければならなくなった。単に追い払っただけでは出兵した意味がないし、部下への恩賞も必要だろう」

「なるほど。出兵したからには恩賞を与えなければならない。その恩賞を筑豊国を切り取ることで充てるつもりだったのが、筑豊国が健在である今、もっとも弱体化している豊前国を攻めるしかなくなったわけか」

「ああ。そのとおりだ」

「しかし、斎藤殿の言葉を伝えているだけだとは思うが、いざ桜殿の口から聞くと、桜殿の言葉に聞こえるのう……さすが女神様じゃと言いたくなるわ」

「ん?じいさん、桜だったらたぶんタケルと同じことは考えつくと思うぜ?何せ桜・梅・椿はタケルが自分の後継者として指導してるからな」

「なんと……後継者を育てねばならんような歳でもあるまい。そもそも、斎藤殿とほとんど歳の差がないではないか!」

「まあその辺りはタケルに考えがあるんだろ。タケル!そろそろ川を渡り切るぜ!」

「わかった。こちらでも白と黒が警戒しているが、景資が引き返してくる気配はない。後詰は宗像を迂回して小隈に向かっている。渡河で使った筏はそのまま使わせてやれ」

「おう!儂らはこのまま宗像の守りを固める。斎藤殿!差し支えなければ、桜殿に赤間庄か大社に留まっていただきたいのじゃが、どうだろう?」

「それは連絡要員ということか?千鶴を返してもいいが」

「いや、千鶴では自分の身も他人の身も守れんじゃろう。桜殿なら適任と思うのだが……」

まあ氏盛が今更人質を欲しがるとも思えない。純粋に連絡要員が欲しいのだろう。とすれば確かに機転が利く桜は適任だ。

「桜。嫌なら拒否してもいいが、どうする?」

「承知いたしました。ただ、柚子の顔を見たいので、毎晩里へ帰らせていただきます」

「だそうだ。その条件でなら認めよう」

こうして、桜は連絡要員として宗像に残り、紅だけが里に帰還することになった。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。

越路遼介
ファンタジー
篠永俊樹、五十四歳は三十年以上務めた消防士を早期退職し、日本一周の旅に出た。失敗の人生を振り返っていた彼は東尋坊で不思議な老爺と出会い、歳の離れた友人となる。老爺はその後に他界するも、俊樹に手紙を残してあった。老爺は言った。『儂はセイラシアという世界で魔王で、勇者に討たれたあと魔王の記憶を持ったまま日本に転生した』と。信じがたい思いを秘めつつ俊樹は手紙にあった通り、老爺の自宅物置の扉に合言葉と同時に開けると、そこには見たこともない大草原が広がっていた。

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...