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第一章

第1話 パーティ追放

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side アナト(主人公)
 
「ふん、悪いけどお前は追放だ、アナト」
 俺が所属するパーティーのリーダーである、戦士のおっさん・ガーロンが俺に右手の人差し指と怒りの表情を向けながら言い放った。

 今日はこのエフリードの街の近くにある廃墟ダンジョンで、領主主催のイベントの日だった。
 このイベントはダンジョン探索を行う冒険者パーティーの増加と、翌週に行われる領主の息子の誕生日パーティーの景品を集めるために行われるものだが、領主からも冒険者ギルドからも相応の報酬がでることから人気のあるイベントだった。
 毎年観覧者も多いし、周辺の貴族もやってきたりする。
 
 このイベントに挑んだランクBの冒険者パーティーである俺達4人……ほかに根暗系わがままボーイの黒魔導士トージと、基本的に寡黙で表情が読めない白魔導士リーゼルがいる……だったが、いつもは戦況を見ながら支援役、回復役、盾役、そして場合によっては攻撃役など、縦横無尽に活躍する俺の調子が悪く、ランクBの冒険者パーティーとして設定された攻略目標をクリアできなかった。

「しかし、ガーロン……」
 イベント期間は明後日まであるから、今日は調子が悪いから延期させてくれと言ったのに、聞く耳持たずに連れていかれた俺に言い訳位させてほしい……。

「揉めておるようじゃが、失敗したのだから大人しく従え」
 そして、見るからに肥え太ったお体、低い身長に短いお足……豚と呼びたいくらいのぽっちゃり系クソ親父がそうのたまった。
 これで貴族なんだと。
 今回のイベントを見に来た招待客らしいが……。

「煽られて、受けて立ったのはお前だ、アナト。そう言うことだから、悪いがさようならだ」
 ガーロンは諦めろと言わんばかりの顔つきをしている。

 受けたのはてめぇだろうがよ!!!!
 
 
 あぁ、不調かつ酷い状況なせいで自己紹介すらまだだった。
 
 俺はアナト、22歳だ。Bランク冒険者の魔法剣士で、エフリードの街を拠点に活動しているこのパーティの司令塔だ。いや……だった。
 
 俺は生まれつき少し変わった体質で、スキルをどんどん覚えていくのに、なぜかその多くが使えない。
 普通の人はスキルを覚えるのは多い時でも年にいくつかだし、合計しても10個から20個の範囲が大半なのに、俺には1,000を超えるスキルがある。
 
 なんで"ある"ってわかるのかって?
 スキルボードを見ればわかるからだ。
 目を閉じて念じれば見えるだろ?
 
 子供のころはどんどん増えるスキルが面白かったが、そのほとんどが使えなかった。
 そりゃあ、何もしてないのに増えたスキルなんて使えなくて当然なのかもしれないが。
 エターナルブレイクとかかっこいいだろ?
 叫びながら剣を振っても何も出なかったし、何度やってもダメだったが……。

 当時みてもらった神官によると、俺の称号にはなにやら読めない文字が入っているらしい。
 これのせいじゃないかということだったが、それ以上の手掛かりはない。
 
 俺はスキルのことは諦めて頑張った。
 父さんが冒険者だったんだ。貴族の護衛中に死んでしまったけど、その装備を形見として譲り受けて冒険者になって、ごくごく一部の使用可能なスキルを活用して支援型の司令塔としての戦い方を見出した。
 なのに……。

「いつまでそこにおるんじゃ!男なら約束したことくらい守れ!」
「ぐぉ……」
 豚貴族が俺に向かって喚くと、こいつの護衛が俺を取り押さえ、地面に押し付けやがった。
 
「もう一度言うぞ。お前は追放だ!くっくっく」
 俺の頭を踏みつけながら言うな。股間が近くて臭ぇんだよ!

 ガーロンはにやにや笑ってる……こいつ……。
 そもそも昨日飲み屋で酔っぱらって豚貴族に失礼しやがって、『今日のイベントで失敗したら解散させる!それで許してやろう』とかいう条件を突き付けられた上に、『失敗したら司令塔を追放するから解散と同じ』とか言って受けたのはてめぇだろ!
 納得してない俺に、攻略目標なんていつも鼻歌うたいながら到達する場所だから『仮にオレ一人でも余裕だ』とか言ってたのは誰だよ。
 なんでてめぇの失態を俺になすりつけてんだよ!
 
 俺は藁にもすがる思いでトージとリーゼルを見たが、2人とも無表情だ。
 終わった……。
 
 

 俺は物理的にギルドから追い出され、パーティーを追い出された……。
 ご丁寧にパーティー欄が空欄になった冒険者カードを投げつけられた。
 豚貴族め……。

 俺は途方にくれながら、歩く……。
 体が重いんだ。
 
 くそぅ。3年も一緒にやってきて、あと一歩で上位と言われるAランクだったのに、あっさり斬り捨てるなんて。
 もしかして嫌われてたのか?
 増えても増えてもほとんどが使えないスキルの中で、戦況を読む思考力を鍛え、わずかに使える防御や戦闘支援の魔法、回復魔法を駆使してパーティーを支えてきたんだぞ?
 何回注意しても前に出て自分が敵を豪快に切り倒そうとするガーロンの支援をするためにスキルに頼らない剣技も身につけたのに。
 
 最悪だ……。
 そもそも何なんだ。
 急にこんなに体が重くなるとか、豚貴族に呪われたとかじゃないだろうな?
 
 昨晩、夢の中でなにかわからないが大きいものが落ちてきてつぶされた。
 なんとなく柔らかい感触の何か。
 それで目覚めたんだが、それから体が重い。


 
 俺は重い体を引きずってあてもなく歩く……。
 もう家に帰るか……。

「いてっ」
「あっ、ごめんなさい」
 オレンジ色の何かが俺にぶつかる。どうやら女の子のようだ。

「こっちこそすまん。体の調子が悪くて避けれなかった」
「ううん。ボクもよそ見してた……から……。って、あはっ、あははははははははははは」
 
 俺の方を振り返ると突然大笑いを始めた少女。
 鮮やかなオレンジ色の髪は自由奔放に波打ち、古めかしい丸い大きなメガネをかけ、薄いクリーム色のローブを羽織っている女の子。
 よく見ると可愛らしい整った顔立ちに見えるが、なんだこいつ?

 ちょっと可愛いかもとか思った俺がアホみたいだ。
 周囲の目も気にせず転がりながら大笑いしているので、全てが台無しだった。
 なんで気付かなかったんだろうと思うくらい気配が強いのが不思議だが……。
 

 さらに体の締め付けが強くなってきた気がする……。
 こんなやつに構ってる余裕はない。

 笑い転げる女の子を無視して先を急ぐ。
 


 
 ようやく神殿についた。
 受付で話をしたところ、すぐに俺の状態を見てもらえることになった。
 

 案内された部屋に入って少し待っていると、仰々しい装飾を身につけたお爺さんがやってきた。

 そして俺を見るなり……。

 
「まっ、まさかこんなことが……ぷぷぅ……いやしかし……ぶふぉ」
 と、呟きながら笑いをかみ殺せないお爺さん。

 さっきの女の子といい、このお爺さんといい、なんなんだよ!

 威厳も何もかも放り出してただ笑っているお爺さん……。
 こんな人が神官なのかよ!

「ぷっ……いや、すまん、お前は……ぷー……大いなる神のな……ぷぅ、くっくっくっはっはっははははは」
 なんだよ、早く言えよ!
 
「こんなに苦しいのにそんなに笑うなんて……」
「すっ、すまん。いや、しかし、ひーーーー」
 睨む俺を見て謝りながらも笑いが止まらない神官……。
 

「すまんすまん。お前はな……ぷっ……少しずれた次元でな……大いなる神のな……ぷぷぅ……」
 なんだよ。笑わずに喋れよ!神官なんだろ!?
 


 
「"おしり"に挟まっておる、ぷはーーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは」
「はっ?」





side ガーロン
 
「上手くいったようだな」
 豚貴族が悪い笑顔を浮かべている。

「あぁ、見たか?追放されて連行されていくときのアナトの顔」
 吹き出さないようにするのに必死だったぜ。

「そんなことはどうでもいい。あいつが追放されることが重要だったのだ。ちゃんとタイミングも合った……」
「アナトの野郎、なにやったんだ?貴族にそんなに恨まれるなんて」
 ギルドに設置されたカウンターの椅子に腰を掛けてなにやらよくわからないことをぶつぶつ言っている豚貴族にオレは尋ねる。
 足が短すぎて立ってるのと変わらない……。

「そんなことは気にせずともよい。ではな」
 そう言って歩いていく豚貴族。
 ドコドコドコドコ、ブヒーっていう擬音が似合いそうだ……。

 まぁいい。
 アナトの支援スキルを利用してオレが華々しく活躍してやろうと思ったのに、どうも地味だし、口うるさく前に出すぎるなとか、無理に倒そうとせずにダメージを与えて行けとか指図しだしたあの野郎はずっと邪魔だった。
 このパーティーのリーダーはオレだぞ?オレに指示すんなよ、ふざけんな!
 
 一応攻略は安定して、それまで行けなかった階層に行けるようになったから置いてやっていたが、俺の気に障ることばっかりしやがって。
 豚貴族が紹介してくれた騎士オーダルが加入すればもうアナトなんか不要だ。
 紹介してもらう代わりにアナトの野郎を追放するために一芝居うったことに気付かれたら面倒だが、トージもリーゼルもバカだから気付かんだろう。


 ようやく再びオレ様の大活躍が見せられるぜ!
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