王宮の犬~王太子の愛人の話を蹴って働く私には報復なのか無茶な指令ばかり……超強い協力者といつかきっと一族の安住の地をみつけてやるわ!~

蒼井星空

文字の大きさ
1 / 28

第1話 王宮からの指令書

しおりを挟む
「エリーゼ様、王宮からの指令書が届きました」
はぁ……また指令書が来たわ。どうせ面倒な内容なのでしょうね……。

私はため息をつきながら届いた封筒の封を手でこじ開けて中身を見る。

「お嬢様……少々お行儀が……」

あのアホ王太子……愛人の話を断ったからと言って、面倒な指令ばっかり出してきて、なんなのよ。
この前は王都とレンリルという街の間に蔓延る大規模な盗賊団を捕まえろという内容で、結局アッシュが暴走して全滅させたせいで未達成にされた。

あぁ~思い出したら腹が立ってきたわ。報酬なしだったし……。

今に見てなさいよ!?
いつかけぼっこぼこにしてやるわ!

……アッシュが……。


残念ながら私の直接的な戦闘能力はそこまで高くはない……いえ、あのアホ王太子よりは高いかもしれないわね。
ちょっと殴りつけてみようかしら。

封筒を見る前から口汚く罵ってしまいましたが、私はエリーゼ。
エリーゼ・ルイン……このレフィスオール王国のルイン伯爵家の当主よ。

伯爵としては王宮の指令を無視できないので、仕方なく封筒の中身を取り出した。

「お嬢様、こちらを」
「ありがとう」
タイミングよく、執事のセバスチャンがてきぱきとした所作で香りのよい紅茶を淹れてくれたわ。
あぁ、おいしい。

私は落ち着いた後、あらためて指令を確認した。その内容は驚くほど面倒臭さしか感じないようなもので、もう一度だけお茶に口をつける。
 
「どのような内容でしたか?」
「キーザの街に蔓延る怪しい宗教団体を調査し、問題があれば首謀者を捕らえるか、無理なら処分するようにというものよ。なぜこれを私たちにやらせるのでしょうか……嫌がらせですね。間違いないです」

王族から見たら怪しい宗教なのかもしれない。
でも、指令の詳細を見る限りキーザの街で広がっている宗教と、私たち魔族が侵攻する宗教は同じ神を崇めるものなのよ?
なにをもって怪しいと考えているかとかちゃんと調査して整理してから指令を出しなさいよ!

きっと全部わかってやっているから、嫌がらせ確定ね。まったく。

ぐしゃ……。

いけない……封筒を握りつぶしてしまったわ。
 
「アッシュ様へは……」
「今はやめておきましょう。また壊滅させられたらちょっと困るもの。それに……いや、なんでもないわ。今回は私たちだけでまずは調査から始めるわ」
 
私は少しだけアッシュのことを思い出す。
考えないようにしても、難しいわね。

もし私が10代の恋する乙女だったらきっと舞い上がってしまうかもしれないわ。
何せ、短く乱れた灰色の髪と鋭い蒼い目、少し色白だけど筋肉質で、何回見てもカッコいい。
そして戦ったら、想像を絶するほど強い人……。

そんなひとから全く隠すことのない好意を告げられて嬉しくないはずはない。
年下だけどね。

生い立ちのせいか寡黙で面白みには欠ける。
ちょっと思い込みが激しくて、怒ったら話を聞いてくれなくて、どんな相手でも簡単に殲滅してしまうのもマイナスポイントかな。

一方、今回の相手は私たちと同じ神を崇める宗教団体。
私たち魔族のことはこの国では有名だし、私たちが古代神グラシウス様を崇めていることは一切隠していない。
私は敬虔な教徒じゃないから詳しくないけど、そもそもこの国では信仰は自由だし、この世界には様々な神様がいるのよ。

まぁ指令だから仕事はする。教義とかが近かったら対話に利用するくらいで、怪しい団体として調査しましょう。

「まずは温厚なメンバーで現地入りして話を付けられないか探ることにしようと思うわ」
私は考えを呟く。セバスチャンは黙ったまま考えている私を見つめているわ。

えっ?魔族なのに温厚とは?ですって?

私たちは魔力が強いだけで、見境なく人間を殺しまわるようなことはしないわよ?

物語に登場する悪魔とは違うので角や翼があったりもしないわ。外見は人間と同じなのよ。


「話が通じる相手だと良いわね」
「宗教関係は複雑ですが、同じグラシウス神を崇める者同士ですから話はできるでしょう。その辺りも考慮に入れて行動計画を作ります」
私の呟きに対して、セバスチャンが完璧な反応を示します。

そのためには、やっぱりアッシュはいない方が良さそうなのよね。
彼はちょっとね……ちょっと恥ずかしいことに私のことが好きすぎて暴走するから……。

この前なんか、私の肩のあたりに盗賊団の団長が放ってきた攻撃が掠ったんだけど、それに怒っちゃってね。

止める間もなく、盗賊団が全滅してたの。
やりすぎよって怒ったのに、何度ダメだって言っても抱きしめようとしてくるし。
恥ずかしいじゃない……。

うん、今は忘れよう。

「同行はライラとカリナ、それからグレゴールにしようと思うけど」
「良いと思います。いきなり戦闘を行うのは避け、まずは調査と接触を試みる方が良いでしょう。決裂した場合や、狂信者だった場合に備えてダリウスとエレノアは街の外で待機させるようにします」
 
今はこの指令をこなさすことに集中しなくては。
いくら酷い指令でも、私たちの立場では正式に発行されたものを無視するわけにはいかない。
 
そう思いながら、セバスチャンと算段を確認して指示を出した。

セバスチャンはこのルイン伯爵家の執事で、私が率いる部隊の調整も担ってくれている有能なお爺さんよ。

「まずはエリーゼ様とライラが接触を、カリナとグレゴールが調査を行うように役目を分けましょう」
「そうね。温和に行くにはそれが良いと思うわ。あとは、可能ならキーザの街にいる者たちの背景を調べられないかしら?」
「わかりました。もともといたのか、それともどこかから移ってきたのかを調べます。可能なら目的なども」
「お願いするわ。ちょっと怪しいのは確かなのよね。もし想定している通りなら引っ張り込めるかもしれないけど」

私たちはソファーに座って地図や資料を広げながら作戦を考えた。
練るというほど手の込んだものではないわね。
 

説明してなかったと思うけど、我が伯爵家の別名は"王国の犬"……。
王家や高位貴族から受けた指令を武力で解決する自由軍ですわ。

私たちは魔族と呼ばれる一族であり、みなが普通の人族と比べて高い魔力を誇っているの。
だからこういう仕事では重宝されるんだけどね。

一般的には怖がられているせいか、迫害されたり奴隷の首輪をつけられて使役されたりしてきたの。
今でも虎視眈々と我が一族を狙うものもいる。

そんな悪意から私は一族の長として皆を守る。

私には一族のものと比べてなお高い魔力と鍛錬してきた魔法の数々、そして周囲の魔力の動きが読めるという特殊能力がある。

幼い頃から一緒に鍛錬してきた心強い仲間たちもいる。

さぁ行きましょう。
いつか魔族が安住の地を手に入れるまで、私は負けるわけにはいかないのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...