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婚約者編
ⅩLⅡ
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ジルベルトが倒れた後の報告会から三ヶ月経ち、ライラの死亡が認められた。
ヴァレンティーナだけは認められた後でも執拗に探していたが、ジルベルトが優しく諭すと渋々諦めた。
不思議な事に城が半壊したにも関わらず、死者や怪我人さえ出なかったらしい。
ただ各国の王族などが結婚式に出席する為に集まっていたので、新聞に毎日のように城の警備の問題が取り沙汰されていた。
これは隣国ティーア王国の王太子パトリックの身勝手な行動が追究され、問題解決の為、パトリックが各国間を飛び回る羽目になった。
仕事で忙殺されている筈なのに何処か恍惚とした表情であったのは恐い。
ヴァレンティーナが面倒臭いと王太女にも関わらず、結婚式は身内だけのこじまりしたものを挙げると表明された。
しかし国内の貴族達からの猛反発を受けた。説得する為、ヴァレンティーナが直々に貴族達の元へ赴いた。
後日、反発していた貴族に会うことができたジルベルトは顔がボコボコになっているのを訝しんでいた。
二人の結婚式に出席したのは、結局二人の両親だけだった。これは国内の貴族達が挙って出席する旨を告げたが、ヴァレンティーナが他の者が信用できないと強く抗議し、これを認めるしかなかった。
「…………君達さぁ」
呆れた顔のグレンが礼服姿で腕を組んで、今日結婚した二人を見遣る。
「若いって素晴らしいですわね」
こちらも結婚式用に着飾った王妃がおっとりと微笑んでいる。栗色の髪は複雑に結われ、ティアラが乗っている。
娘と同じ藍色の瞳は若い二人を優しく見詰めている。
「ふふふ。私は嬉しいのだけどね」
真っ白なウェディングドレスに身を包んだヴァレンティーナが幸せそうに微笑んでジルベルトに抱き付いている。
「子供が出来たらどうするんだ!?」
また部屋に籠って出てこない二人に流石の侍女達もグレンに泣き付き、グレン自らが天岩戸を御開帳する羽目になった。
「良いじゃありませんか。孫が生まれるんですよ。私は楽しみですわ」
連日連夜、夫婦になっていない二人だったが、寝室を共にするようになり、王宮の侍女達は仲睦まじい様子に浮かれていた。すわ世継ぎが早くも誕生か!などという噂まであり、その噂はグレンやナルサスにまで届いていた。
勿論、王妃であるソフィアの耳にも届いており、これから生まれてくる孫をどうやって甘やかそうかと考えつつ楽しそうに笑う。
「いや、だけどね…」
「なんですか?何か問題でもありますの?陛下だって婚約前に私に手を出したじゃありませんか」
ソフィアは元々、この国の侯爵家令嬢だったが、グレンが一目惚れして強引に迫り、婚約前に肉体関係を持ってしまった過去がある。
「若気の至りだったと反省してるよ」
「そうですわよね」
何故、そこまで焦ったかと言うとソフィアには他に縁談が山のように舞い込んでいたからだ。このままでは、他の誰かに盗られてしまうと考え、短慮軽率を起こした。
その後、直ぐに婚約したが、婚約期間は異例の一ヶ月という早さで終り、二人は結婚した。
グレンの溺愛振りは国民に広く知られるようになり、今でも語り種となっている。
「でも、今は幸せなので良かったと思っておりますのよ」
過去を振り返っていたソフィアが朗らかに笑う。
いつもグレンは全身で愛を示し、記念日には贈り物をかかさない。ソフィアの僅かな変化も直ぐに気付く程にグレンはよくソフィアの事を見ている。とてもマメな男なのだ。
「ソフィア…」
頬をほんのり染めたグレンが潤んだ瞳でソフィアを見詰める。
二人だけの空間は甘い雰囲気が漂い始める。そんな空気を
「………両陛下、そろそろ宜しいですか?」
ナルサスが無表情でぶった切った。グレンが不機嫌そうに顔だけを動かす。
「ナルサス…君って野暮だって言われないか?」
「言われないですね」
「では私が言ってあげるよ」
「え?逝ってくれるんですか?」
「なんか、言葉が違うように聞こえた気がするんだけど?」
完全に体もナルサスに向き直ったグレン。そんなグレン達を横目にソフィアがヴァレンティーナとジルベルトに話し掛ける。
「あの二人は置いておきましょう。ヴァレンティーナ、ジルベルト」
「はい、なんでしょう」
ジルベルトが緊張したように姿勢を正す。白いタキシードがよく似合っている。胸元のコサージュはヴァレンティーナが手作りで贈ったものだ。それも華美ではなく、ジルベルトの柔らかい容姿に華を添える。
「行って良いですわよ。此処は私達がいますから」
朗らかに笑ったソフィアが立ち去るように促す。その後ろで苦笑気味にジルベルトの母ヴィヴィアンは頷いている。
「はい、ありがとうございます」
「じゃあね」
緊張気味のジルベルトにいつも通りのヴァレンティーナは立ち去って行った。
「ヴィヴィアン」
「はい、何でございましょうか?」
「孫はどっちかしらね?男の子?女の子?貴女はどっちが良い?」
「生まれてくる子が元気ならば、どちらでも宜しいかと存じます」
「そう?……そうね」
未だに宿ってもいない子供の話で盛り上がる両親達だった。
ヴァレンティーナだけは認められた後でも執拗に探していたが、ジルベルトが優しく諭すと渋々諦めた。
不思議な事に城が半壊したにも関わらず、死者や怪我人さえ出なかったらしい。
ただ各国の王族などが結婚式に出席する為に集まっていたので、新聞に毎日のように城の警備の問題が取り沙汰されていた。
これは隣国ティーア王国の王太子パトリックの身勝手な行動が追究され、問題解決の為、パトリックが各国間を飛び回る羽目になった。
仕事で忙殺されている筈なのに何処か恍惚とした表情であったのは恐い。
ヴァレンティーナが面倒臭いと王太女にも関わらず、結婚式は身内だけのこじまりしたものを挙げると表明された。
しかし国内の貴族達からの猛反発を受けた。説得する為、ヴァレンティーナが直々に貴族達の元へ赴いた。
後日、反発していた貴族に会うことができたジルベルトは顔がボコボコになっているのを訝しんでいた。
二人の結婚式に出席したのは、結局二人の両親だけだった。これは国内の貴族達が挙って出席する旨を告げたが、ヴァレンティーナが他の者が信用できないと強く抗議し、これを認めるしかなかった。
「…………君達さぁ」
呆れた顔のグレンが礼服姿で腕を組んで、今日結婚した二人を見遣る。
「若いって素晴らしいですわね」
こちらも結婚式用に着飾った王妃がおっとりと微笑んでいる。栗色の髪は複雑に結われ、ティアラが乗っている。
娘と同じ藍色の瞳は若い二人を優しく見詰めている。
「ふふふ。私は嬉しいのだけどね」
真っ白なウェディングドレスに身を包んだヴァレンティーナが幸せそうに微笑んでジルベルトに抱き付いている。
「子供が出来たらどうするんだ!?」
また部屋に籠って出てこない二人に流石の侍女達もグレンに泣き付き、グレン自らが天岩戸を御開帳する羽目になった。
「良いじゃありませんか。孫が生まれるんですよ。私は楽しみですわ」
連日連夜、夫婦になっていない二人だったが、寝室を共にするようになり、王宮の侍女達は仲睦まじい様子に浮かれていた。すわ世継ぎが早くも誕生か!などという噂まであり、その噂はグレンやナルサスにまで届いていた。
勿論、王妃であるソフィアの耳にも届いており、これから生まれてくる孫をどうやって甘やかそうかと考えつつ楽しそうに笑う。
「いや、だけどね…」
「なんですか?何か問題でもありますの?陛下だって婚約前に私に手を出したじゃありませんか」
ソフィアは元々、この国の侯爵家令嬢だったが、グレンが一目惚れして強引に迫り、婚約前に肉体関係を持ってしまった過去がある。
「若気の至りだったと反省してるよ」
「そうですわよね」
何故、そこまで焦ったかと言うとソフィアには他に縁談が山のように舞い込んでいたからだ。このままでは、他の誰かに盗られてしまうと考え、短慮軽率を起こした。
その後、直ぐに婚約したが、婚約期間は異例の一ヶ月という早さで終り、二人は結婚した。
グレンの溺愛振りは国民に広く知られるようになり、今でも語り種となっている。
「でも、今は幸せなので良かったと思っておりますのよ」
過去を振り返っていたソフィアが朗らかに笑う。
いつもグレンは全身で愛を示し、記念日には贈り物をかかさない。ソフィアの僅かな変化も直ぐに気付く程にグレンはよくソフィアの事を見ている。とてもマメな男なのだ。
「ソフィア…」
頬をほんのり染めたグレンが潤んだ瞳でソフィアを見詰める。
二人だけの空間は甘い雰囲気が漂い始める。そんな空気を
「………両陛下、そろそろ宜しいですか?」
ナルサスが無表情でぶった切った。グレンが不機嫌そうに顔だけを動かす。
「ナルサス…君って野暮だって言われないか?」
「言われないですね」
「では私が言ってあげるよ」
「え?逝ってくれるんですか?」
「なんか、言葉が違うように聞こえた気がするんだけど?」
完全に体もナルサスに向き直ったグレン。そんなグレン達を横目にソフィアがヴァレンティーナとジルベルトに話し掛ける。
「あの二人は置いておきましょう。ヴァレンティーナ、ジルベルト」
「はい、なんでしょう」
ジルベルトが緊張したように姿勢を正す。白いタキシードがよく似合っている。胸元のコサージュはヴァレンティーナが手作りで贈ったものだ。それも華美ではなく、ジルベルトの柔らかい容姿に華を添える。
「行って良いですわよ。此処は私達がいますから」
朗らかに笑ったソフィアが立ち去るように促す。その後ろで苦笑気味にジルベルトの母ヴィヴィアンは頷いている。
「はい、ありがとうございます」
「じゃあね」
緊張気味のジルベルトにいつも通りのヴァレンティーナは立ち去って行った。
「ヴィヴィアン」
「はい、何でございましょうか?」
「孫はどっちかしらね?男の子?女の子?貴女はどっちが良い?」
「生まれてくる子が元気ならば、どちらでも宜しいかと存じます」
「そう?……そうね」
未だに宿ってもいない子供の話で盛り上がる両親達だった。
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