『午後五時半のコンビニ前』

森田陽吉

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『誰そ彼時の制服たち』

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 黄昏、通り過ぐ人々の面様は見えず、ただ制服と喧騒だけが浮かんでいる。
 二十四時間営業を掲げる店内では女が一人、レジスターの前にぼんやりと佇んでいたのだが、外の喧騒に気がついたか、ガラス張りの壁に目をやった。
 ──セーラー服を身につけた高校生がガラスの壁に背を預けていた。
 その表情は恐怖、肩を震わせ、殴られたに違いない真っ赤な左頬を手で押さえ、血が滲むほど強く下唇を噛み、双眸は大きく見開かれていた。
 セーラー服の前に立つは数名の男女。彼らもまた同じくして、高校生の見目をしていた。
 しかし、女子生徒らのつま先はセーラー服にではなく、男子生徒らに向けられており、睨みつける瞳の鋭さやコンクリートに投げ伏せられたリュックやら学生鞄やらが口論の激しさを物語っていた。
 一触即発。その均衡が破られたのは、男子生徒のうち一人がセーラー服を指差し、何事かを罵ったその時だった。
 誰かが止める間もなく、一閃、プリーツスカートが舞い、拳が、鼻っ柱を。
 鮮血がたらりと鼻孔から落ち、詰襟を汚しながら、ぼたぼたと零れては鼠色を赤く汚した。
 ガラスの壁を背にしたセーラー服は震える身体を抑え込むように、顔を逸らしていた。
 ──さて、レジスターの前でぼんやりと暇を持て余していた女だが、彼女は拳を見届けてからその重い腰を持ち上げた。手にはスマートフォンである。
 女は大儀そうに、頭を掻きながら、自動ドアの前に立つ。
 扉が開き、女は外気に曝されてぶるりと身を震わせた。
 十四の瞳が一斉に女のほうへ向けられた。
「警察呼ぶ──よ」
 女は狼狽した。
 それは、壁に背を預けていた、あのセーラー服の顔が、体格が、男のそれだったためである。
 髪は肩につくほど長く、色づいたリップを唇に乗せているのだが、彼女は女ではなかった。
 女は幾秒かの沈黙のあと、動揺を悟られぬよう高校生たちへ向いた。
「近所迷惑、今すぐ帰らないと警察呼ぶから」
 高校生らは各々煮え切らぬ面持ちのまま、地面に散らばった荷物たちを抱え、女子生徒らは未だ震えているセーラー服にハンカチを差し出してその手を引き、男子生徒らは小石を蹴飛ばしながら、女に背を向けた。
 女は狐につままれたような顔で首を傾げ、遠ざかる高校生たちの背が見えなくなるまでただただ見つめていたのだった。
 日はとうに落ちていた。
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