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3話

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幸いにもその発生源はバレずに済んだ。
ただし、

「あのね、ジンさん。あれは
ダメですよ」

先生を除いて。

「貴方の事情は、貴方の師匠から
伺っているけど、ここはあくまで
学園なのよ? いきなり上級魔法を
使ってどうするの」

ジンは反抗したかった。
あれは隣にいたピンク髪のせいだと。

だが、師から先生には歯向かうなと
言われている。

「......はい。以後......気を付けます」







教室に戻るとクラスの皆は散乱した
窓ガラスの破片を掃除していた。

こんなもの魔法を使えば一瞬で、

いや、ダメだ。

ジンはため息をついて
自分の席へとついた。
ここ以外に居場所がない。
だからといって、わざわざほうきで
掃くなど不効率な行動は取りたくない。

掃除が終わると4限は中止となり、
昼休みが始まった。
皆が自分の机に弁当箱を
置く。

見れば、皆が隣の生徒と話をしていた。
今日は学園が始まって二日目、
昨日は入学式であり、本格的に
友人を作るのは今日からだろう。
自由な昼休みはその時間に最適と
見て取れる。

ジンも昼食を取ることにした。
リュックから戦場でも愛用している
携帯食と水筒で腹を満たす。

「あ、あのジン君」

その時、隣に座っていたピンク髪の
女子生徒が話しかけてきた。

ジンは目も向けない。

「ジン君?」

それでもピンク髪は話しかけるのを
止めなかった。

無視を続ける。

すると、ピンク髪はゆっくりと体を
近づけてきた。

「さっきはありがと」

「何がだよ」

不覚だった。

その言葉に驚いて反応してしまった。

反応を示したことが嬉かったのか、
ピンク髪は目を見開く。

「え、えっと......さっき私がさ、
杖逆に持ってて、それを止めようと
してくれたじゃん。助けて
くれたんでしょ?」

「違うな。俺は自分にも危害が
加わることを危惧しただけだ。
お前を助けたつもりはない」

ジンはいつもこうだった。
他人に心を開かない。
冷たい態度を取って、
いつも誰も近寄らせないのだ。

これでこの女も俺を避けるだろうと、
視線を窓側に向けた。

「でも、結果的に私は助かったよ。
だから、ありがと」

それでも、この女は話しかけてきた。
一体何が狙いだ。
初対面であんなことをされて、
加えて冷たい態度も取ったのに。
何故話しかけてくる。

他にも話しかける相手なら
いくらでもいるだろう。
何故よりにもよって俺を選ぶ。

「ねぇ、ジン君はどこ出身?」

無視しても無駄か。
いつの間にか名前も呼ぶように
なってる。一体どこで知ったんだ。

ジンはその理由を知らなかった。
彼はもう既にこの学園で
有名人となっていた。
あのレベッカ様の挨拶中に
問題を起こしたとして。

「パルチナ」

ジンは生まれ育った地名を口にした。
それにピンク髪は首を傾ける。

無理もない。戦地の名だ。
知ってる方がおかしい。

「私はね、ネビンから来たんだ。
知らないよね、アルファ大陸の
端っこにある田舎だもん」

パルチナから出たことのないジンが
知ってるはずがない。

「そういえば、私まだ
自己紹介してなかった。
私はエバ・アルナ。アルナって呼んで」

そう頼まれても、ジンは
呼ぶつもりはない。

不意にジンは立ち上がった。

「友人が欲しいなら、他をあたれ」

このアルナという女は友達欲しさに、
とりあえず隣にいた自分に
話しかけただけだろう。

それに付き合う必要はない。

ジンは校舎を出た。

校舎の外はまさに街だった。
おしゃれなカフェや飲食店、
洋服屋などの施設が立ち並んでいる。
ここは本当に学園なのかと目を疑った。
大陸中の学生がこの学園に憧れるのも
頷ける。

「......あれ」

ジンは動きを止めた。

妙にいい匂いが鼻をくすぐる。

先ほど携帯食を腹に入れたのに、
腹が鳴った。

その匂いに導かれるように
店内へと入る。

その直後、ジンは胸を押された。

「ここはFランクの学生が入っていい
場所ではない。そこの看板に
書いてあるだろ。このレストランに
入れるのは、Dランク以上の学生だ。
悔しかったら、せいぜい
精進するんだな」

そう店員に追い返されてしまった。

ジンはようやく気がついた。
入学当時に渡された
このバッチの意味を。

そのバッチには「F」と刻まれていた。

首を巡らせれば、学生の全てが
ランクの刻まれたバッチを制服の
胸に貼っている。

どうやらこの学園は完全なる
序列社会のようだった。

だから、自分のクラスの連中は
教室から出なかったのだろう。
出ても、行く場所が限られている。
この学園生活を謳歌したければ、
頑張って努力しろと、
そういうことだろう。





寮での生活も完全な序列社会だった。
昨日はそんなに気にならなかったが、
明らかに自分の部屋は狭いし、汚い。
対してランクの高い学生の寮は
外見から豪華だった。

だが、別に気にすることもない。
雨風しのげる場所があれば、
それで十分ではないか。


しかし、次第にその序列社会は
ゆっくりとジンに牙を剥き始めた。

「えーそれでは、学級委員長は
ジンさんに、副委員長はアルナさんに
決定しました」

ジンは呆気に取られていた。

なんと誰も立候補しなかった
委員長とかいう雑用に、クラスで
成績最下位だったジンとアルナが
任命されたのだ。

それだけではない。
学祭を担当する文化委員。週一教室を
掃除する清掃委員。その他もろもろを
ジンとアルナは押し付けられた。

同じFランクであるはずの40人という
少数集団にも序列社会ができていた。

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