ヤモリ

サトー

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どうしたの

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◇◆◇

 ホテルは晴れていれば窓からS島が見えるから、という理由だけで決めた。N市にあるため、海岸沿いを開発したO村よりリゾート感は薄れるが港には近い。早起きが好きじゃない二人にはピッタリだった。

 飛行機や車での長時間の移動と観光、それから夕食時には泡盛を飲んだのに不思議と旺介は眠れずにいる。変に目が冴えているな、と暗闇の中で視線をさ迷わせる。

 明日は船に乗る。昼過ぎの便。いつの間にか、S島で行われる祭の準備を見に行くという目的が、今は「とりあえず船に乗れればいい」に変わっている。本当は行くのが怖いんだろうなと旺介はどこか他人のことのように考える。行ってよくなることなんか一つもなくて、どんどん悪くなって、気持ちが暗く落ち込むだけかもしれない。そしたら俺は……。

「眠れない?」

 しんとした部屋の中で突然聞こえたのは寝ていると思っていたハノイの声だったた。

「とっくに寝てるかと思った」
「んー……寝たふりしてた。俺がそうしてれば旺介も眠たくなって寝るかなと思って」

 んひひ、と笑うハノイはまだ元気が余っているように見える。居酒屋ではビールを何杯も飲んでいて最後に練乳入りの泡盛を「おいしー」と飲んでいた時にはベロベロに酔っぱらっていてきっとすぐに寝るだろうと思っていたのに。

「……する? 俺は勃たないかもなんだけど、でも、したい」

 いたずらをけしかける子供のような口調なのに、旺介にはそれがとても艶かしい誘いに聞こえる。

「疲れるだろうから一泊くらい我慢して労ろうと思ったけど無理だなあ」
「なんで? 我慢なんかされたら寂しいじゃん」

 暗闇の中で旺介はハノイの胸に手を伸ばす。着ている寝間着はひんやりとしていたけど、その下に微かな温もりが感じられる。

「いいよ。いっぱいしよう」

 全身を包み込まれるようにしてハノイに抱き寄せられる。旺介は何もかもを打ち明けたくあった。俺、怖いんだ。明日、船に乗るのが怖い、と。

 怖い、という気持ちに蓋をしようと旺介はいつもよりも夢中になってハノイの身体を求めた。大人になってから「怖い」という気持ちを誰かと共有することを忘れてしまっていたのに旺介は初めて気がついた。

 口調はいつもと変わらなくても、ハノイはやはり酔っぱらっている。服を脱がせる時の身体は鉛のように重く、脇腹や太ももに触られるとむにゃむにゃと笑う。アルコールのせいでいくら手を施しても完全には勃たないハノイの性器を可愛いなと旺介はからかった。

「笑うなよー。今日は飲みすぎたんだからしょうがないだろー……」
「あっ、こら」
「だって笑うじゃん」

 本当に可愛いと思っていたのに、隠すようにしてハノイはうつ伏せになってしまう。すかさず旺介が覆い被さって、もっと舐めたいと伝えるとハノイが甘えたような声で笑う。
 硬いうなじに音をたてて口づけるとハノイの身体がもぞもぞと動く。入れてもいいよ、と言う時、ハノイの掠れた声はいつだって別人のようにしおらしくなる。だから旺介は許可がおりてからもすぐには挿入しないで、手だけでなくて舌や唇でハノイの身体に触れる。そうされると、すごくいいのだと、ハノイは言っていた。触られるのも入れるのも、力一杯がつがつされるのは苦手。だから、旺介とするのは、すごく好きだと。

「んっ、んぅっ、ううっ……」

 うつ伏せで寝ている状態で後ろから挿入すると、ハノイのさらっとした背中が深い呼吸に合わせて上下した。小さな頭をぐりぐりと枕に押しつけて、時々小さな声を漏らす。
 この瞬間旺介はいつも不思議な気分になる。まるで自分のことを俯瞰しているような気持ちになって、ハノイが俺のことを全身で受け入れようとしている、と事実を確認した後に遅れて興奮がやってくる。

「あっ、あっ……、ん、ふ、う……」

 枕の端を掴むハノイの手。泣いているような声をあげているのに、指先の動きだけは授業中に退屈している子供のようにただ手の中の何かを弄んでいる。深く感じている時程、ハノイは手が遊びがちだ。表情や声の感じで、シーツや枕を掴んで快感を逃がそうとしているのはわかるし、気持ちいいにこしたことはない。でもそれが、旺介は時々面白くない。

「ん、やっ……だめ、離して、なあ、旺介ってば……」

 ぎゅーっと無理やり両手を絡めるようにして繋がれて、ハノイは泣いていた。痛いからでも、怖いからでもなく、ゆったりした動きと何もかも旺介でいっぱいになっていく感じがよすぎて、それで泣いたのだと。


「……どうしたの、今日」

 終わった後、薄暗い部屋の中でぱちっとした目が旺介のことを不思議そうに見ていた。セックスがいつもよりしつこくて、なんだか様子が変だったよ、ということを言いたいんだろう。丸くて黒い目は、どこかトカゲを思わせる。
 怖いんだ。ぽつりと溢した言葉にハノイは「知ってたよ」と小さく頷いてから、旺介の頭をすっぽりと両腕で包み込んだ。
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