ニンゲンミナライは成長中

サトー

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アオイの狸寝入り

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昼にヒナタと一生懸命勉強をして、夕飯の時には三人でいるのが楽しくてはしゃぎ過ぎてしまったからなのか、いつもよりもずっと早い時間に眠くなってしまった。
ホタルは「眠いなら布団で寝てろ」と怒ったけど、まだ眠くない、と嘘をついて俺はなんとか粘ろうとしていた。
せっかくヒナタが来ているのに一人で寝るなんて、すごくもったいなく感じられたからだ。


「眠くない、まだ、起きてる……」
「おお、かわいそうに……。アイツの言うことなんか気にしないでいい。俺の側にいていいからな」

ヒナタが俺のことを呼んでくれて、「使っていいぞ」と言ってくれたから、あぐらをかいたヒナタの膝の上を借りて枕にすることにして、床にゴロリと寝転んだ。
ホタルはまだ何か怒っていたうえに、「ヒナタなら、俺がここにいても怒らないから」と甘えるのはすごくズルくて子供っぽいことだってわかってはいた。
だけど、「ホタルとヒナタと一緒に夜も起きている」ということが嬉しい。
それで、今日だけだから、って自分を甘やかしてしまった。




「……可愛いなあ」

目を閉じてウトウトしながら横になっていると、ヒナタがそう呟いているのが聞こえた。
もしかしたら、俺が寝てしまったと思っているのかもしれない。
目を開けて確認したわけではないけど、ずっと顔を見られているような気がする。

「……なあ、少しだけアオイに触ってみてもいいか?」
「あ……?」
「いや!ちょっとだけ!本当に少しだけだから!変な意味じゃなく!」

目を閉じていてもヒナタがオタオタしながら焦って弁解しているのがわかる。
ホタルは何も言わなかった。てっきり俺は、ホタルは聞こえないフリをしてヒナタのことを無視しているんだと思っていた。

だから、何分も経ってから、ふて腐れた声でホタルが「……絶対に起こすなよ」と言った時には、それがヒナタからの問いに対する答えだとは、気が付かなかった。

「い、いいのか……?じゃあ、ちょっとだけ……」

ヒナタの指の先が俺の頬をつつく。ぐう、とヒナタが呻いたのを聞き逃さなかったのか、「おい!アオイに触りながら気色悪い声を出すのはやめろよ!」とホタルが鋭い声で言った。

「わ、悪かったよ……。お前こそ、アオイが起きるだろ……。
それにしたって、うぅ……可愛い……。すごく柔らかくてプリプリした肌だ……」

……いつもそう言われるけど、自分で何度触ってみても、ヒナタがどうしてそんなことを言うのか、俺にはよくわからない。
赤ちゃんのほっぺみたいに、もちもちしていて弾力があるわけでもないのに不思議だった。……それとも200年近く生きているホタルやヒナタにとって15年しか生きていない人間の子供なんて赤ん坊みたいなものなんだろうか。

ヒナタは俺の頬にペタペタと触れた後、「よっぽど疲れているんだな。よく寝てるよ」と額をそっと撫でてくれた。

「……最近、身体の具合が悪かったんだろ?
やっぱりまだ本調子じゃないんだろうか……。夕飯はよく食べていたが……」
「……べつに病気じゃない、大きくなるのに必要なことだって、キキョウは言ってた」
「そうか……」

……寝ている時に、俺のことを話されると、なんだかむず痒い。
というか、これは寝たふりをして盗み聞きをしているわけだから、俺は今、すごく悪いことをしているということになる。

たった今、目を覚ましたということにして、部屋に戻って寝ていようか迷っていたら、「アオイのことだけどな」とヒナタが話し始めてしまったから、ますます起きられなくなってしまった。

「……今日、いろいろ話したよ。アオイは素直だから正直な気持ちをたくさん教えてくれた」
「……そうか」

「絶対言わないで」と約束したわけじゃないから、べつに昼の会話の内容をホタルに教えたとしても、ヒナタはちっとも悪くない。
だけど、「俺、変なことをヒナタに言ったかもしれない」「ホタルを怒らせるようなこと、言わなかったかな……?」となんだかすごくドキドキしてしまう。

思い出したところでどうにもならないけど、何を言ったっけ、と昼間ヒナタと話したことの内容を必死で思い出した。

確か……狐の里を出て行こうと思っている、というヒナタに「ヒナタって、すごいな」と言った後、俺ってやっぱりこのままだとダメなのかな、って不安に思っていることを、つい話してしまった。
ヒナタは優しくて、俺が何を言っても「そうかあ」と真剣に話を聞いてくれた。
「人間の世界で働くのは怖い」「頭も悪いし、一人で何も出来ない俺でも、ホタルやヒナタみたいに仕事に就ける?」ということを口にしていると、本当に俺は駄目な人間なんだって、どんどん自信を無くしてしまいそうだった。

だけど、ヒナタが「わかるよ。俺だってまだ大人になっているわけじゃないし……。アオイと俺はゆっくり成長してる最中だから、大丈夫だ!」と励ましてくれたから、一人で悩んでいた時よりもずいぶん心が軽くなった。


「……自分が成長して、いつかは大人になることをアオイは真剣に考えてるよ」
「……うん」
「俺達、ニンゲンギツネからすれば、10年くらい遊んで暮らしたってどうってこと無いけど……アオイにとっては貴重な10年だ。
なるべく、いろいろなことをさせてやって、アオイの望み通りの生き方が出来ればいいよな」
「アオイにとっての10年か……」

しばらくの間、二人とも黙ったままだった。10年も経てば俺は25歳になっているけれど、どんなふうに暮らしているのか自分でも想像がつかなかった。
やっぱり大きな子供みたいに、ホタルにずっとくっついているんだろうか。


「……アオイが自分のことをさ、頭が悪い何も出来ない、人間の失敗作だって言うんだ。
俺が、そんなことない、一人前の人間になるために一生懸命勉強してるだろう、まだ見習い中ってだけだ、って言ったら「パン屋みたいだね」ってようやく笑ったよ」
「ふっふっ……。アオイらしいな……」

ホタルもヒナタも、寝ている俺を起こしてはいけないと思っているのか、あまり声を出さないようクスクス笑っていた。
……すごく子供っぽい発想だと思われてるんだろうけど、一生懸命修行を詰んでいつか一人前の職人になれる「見習い」と「失敗作」では全然違う。


「ゆっくりでいい……、べつに、働きながら勉強を続けている人間だって大勢いるんだ、って伝えておいた。
体調のこともあるだろうし、あの年齢だと気持ちにムラが出て悩むこともあるだろうけどさ……「自分の力で生きてみたい」っていうのが、アオイの願いなんじゃないか……」

いつも悩んでばかりで、自分の将来への願いがなんなのかなんて、ちゃんと考えた事がなかった。
ホタルとずっと一緒に暮らしたい、俺も何か仕事をしてホタルの役に立ってみたい、他の人みたいに一人で電車やバスに乗ってみたい、怖がらないでいろいろな人と話してみたい……。

確かに、「こうなれたらいいな」と思っていること全部をまとめたとしたら、「自分の力で生きてみたい」になるのかもしれない。
俺にはちょっとかっこよすぎて、贅沢すぎるようにも感じられたけど、ヒナタがせっかく見つけてくれた俺の願い事なのだと思うと、すごく大事なものに感じられた。

やっぱりヒナタはすごいな、大好きな友達なのに、本当に狐の里を出て行ってしまうんだろうか、と思うと寂しくて、ヒナタの膝に頬を擦り寄せるのがやめられなかった。
ヒナタは「アオイが寝ぼけているぞ」と笑っている。
寝ているふりをしている間だけは、「行かないで、寂しい」という気持ちを隠すことが出来なかった。



「……俺には言いにくいことがあるだろうからな。ヒナタ、お前がいてよかったよ」
「……俺には言えないけど、ホタルにしか言えないことだって、きっとあるだろ」

なあ、と返事を促すみたいに、ヒナタが俺の肩をポンポンと軽く叩く。
うん、って頷きたくなったけど、俺は寝ていることになっているから、我慢した。

昼間に「絶対絶対ホタルには言わないでくれ」と言われたことを思い出す。
……ヒナタにとって大きな決断だから、きっと誰にも言えずに一人で抱えているのは苦しい。
だけど、一番大事な友達に言ってしまうと、寂しくなってしまって、心が揺らぐから、ホタルには言えなかったんだろうか、ってそんな気がした。



「……な、なあ、お前、アオイとどうやって接触した?」
「…………接触って?」
「普通に……何て言って声をかけた?」
「そっちの接触かよ……」

べつに普通に声をかけただけだよ、とホタルが素っ気なく答えた。

「そうか……。べつに、そういう相手がいるわけじゃないけど、不便な身体だよな。……成熟するまで、す、好きな相手と思いきり触れ合えないなんて……」

俺の額に触れているヒナタの指先が微かに震えているような気がする。

本屋でのことだ、ってすぐにわかった。
もしかしたら、「こんにちは」って声をかけられた時、ヒナタは本当は、狐の姿に戻ってしまいそうなくらいドキドキしていたのかもしれない。
ヒナタの膝に頭を乗せているだけなのに、「どうしたらいいのかわからない」と動揺しているのが伝わってくる。

ホタルはヒナタのことを笑ったり、「バカ」と乱暴なことを言ったりはしなかった。
たぶん、勘のいいホタルはヒナタが誰かと仲良くなって、もっと近付いてみたい、と思っていることに気が付いているんだろうけど、「相手は誰だ?」と追究することもしなかった。



「……いいことを教えてやろうか」
「い、いいこと……?」
「俺が散々泥と葉っぱまみれになりながら、辿り着いた答えだ。感謝しろよ」
「……お前、アオイとの暮らしでそんなことになってたのか?ただの淫乱だと思ってたら、とんだムッツリスケベだったんだな……」
「……悪いけど、とっくに成熟した俺に、そんな煽りは効かないね」

……本人にとっては大変な出来事だったんだろうけど、頭に葉っぱを乗せて「ただいま」とトボトボと戻ってくるのが可愛くて、俺はホタルのそんな姿が大好きだった。
思い出しただけで、にや、と口元が緩んでしまいそうになるから、「寝ている時の顔」を保つためにずいぶん集中していないといけなかった。


「ニンゲンギツネはセックスすることで成熟するんじゃなくて……。
自分はどうなっても構わない、絶対に相手を手離したくないと強く思った時に、俺達は大人になって……それで最後までセックスが出来るようになる気がするんだよな……」
「ほ、本当かよ……?」

ホタルが真っ青な顔でボロボロになりながら戻ってきた日。俺とホタルは結ばれた。

「……一回きりの出来事だから、俺にはもう確かめようがない。
そういう相手が出来たらお前が確かめてみたらいいさ。……あと、200年くらいかかれば、お前にも誰かいるだろ」
「はあっ……!?バカにすんなよ!どうして俺が200年先まで、ど、童貞でいないといけないんだ……!」
「……清い身体で生き続けることは何も悪いことじゃないさ」
「バカにすんなっ!」

ホタルがケタケタ笑って、それにヒナタが「バカッ!アオイが起きるだろ!」と大きな声を出したから、ビックリしてつい、目を開けてしまった。

「……ほら、アオイが起きただろ」

かわいそうに、と俺の頬を撫で回すヒナタの手は、さっきみたいに緊張していなくて、「エライぞ」と頭を撫でてくれるいつもの手と同じだった。
直接言葉を交わしたわけではないのに、身体に触れていると、俺がヒナタにしか言えないことがあるように、ヒナタもホタルには言えないけど俺には言えることがあるのかもしれないって、ヒナタの些細な変化で気が付いてしまった。

ヒナタのこと友達だって思ってもいいのかな、ってソワソワしながら身体を起こすと「布団でゆっくり休めよ!」とヒナタが俺の肩を叩いた。

「うん。おやすみなさい」

そう言えば、いつの間にか「ヒナタお兄ちゃん」と呼んで欲しいと言われなくなった。
もしかしたら、ホタルとヒナタで「アオイとの接し方」について二人きりで話をしたのかもしれないけど、それは確かめようのないことだった。
隠し事ではないけれど……言えない本当の気持ちを別の誰かに託したり反対に預かったりしながら、相手を思いやったり、誰かを助けたり……。そんなことを繰り返してちょっとずつ、ホタルとヒナタの側で大きくなりたかった。




そう思っていたのに、ホタルにもヒナタにも言えない秘密を抱えていたバチがあたったのか、俺の身体は「胸が痛い」というのを我慢するだけではすまないような、すごくすごく困ったことになってしまった。
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