咲く君のそばで、もう一度

詩門

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第二章

46.君の存在は

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 隊員達と別れ、まだ賑やかな街中を歩く。
 俺は一人。すれ違う人は誰かと笑っている。それにもう寂しさを感じない。
 家に帰り、部屋を見渡す。変わらずに薄暗い部屋。だが、街の明かりのせいかいつもよりも明るく思えた。この部屋で彼女が夢を語ってくれた事を思い出すと、自然と口角が上がる。
 ささっと寝る支度を済ませ、ベッドの上で仰向けになり、明日の事を考える。
 
 明日は何時に正門へ行こう。
 そもそも、誘ってもよかったのか?
 
 今更の事を天井を眺めながら考える。
 
 どう思っただろう?
 変に思ってないといいけど。

 小さくため息をついて、瞼を閉じる。

 そう言えば彼女のあのおかしな態度は、なんだったんだ?
 俺のせいみたいに言ってきたけど、もう良くなったのか?

 眉間に皺が寄る。
 こんな事を考えていたら一向に寝むれない。
 もう寝よう。でも騒がしい胸のせいで、寝付けない。寝返りを打つ。なんか、違うな。もう一度打つ。じっとした後、起き上がる。

 寝れない。

 今日見た星空にまだ、胸が落ち着かないのか?
 まぁ、いいや。久しぶりに本でも読もうと立ち上がり、自分の背よりも高い壁際の本棚に手を伸ばす。何を読もうかと綺麗に並んだ本を眺めていると、一際古めかしい背表紙に目が止まる。それを手に取る。

 キルとカイトはよく読んでいた。

 幼き頃、この本を楽しそうに読んでいた二人が思い浮かぶ。戻れないあの頃を思うと、切なさが込み上げる。
 もっと早く読めばよかったかな。劣化が見られる表紙に書かれた、恋物語らしいタイトルを親指でなぞる。
 勧められていたがこの手の話は興味がないし、二人はこの本の主人公が自分に似てるとも言っていたので、読みたくなかった。
 暇潰し。そんな軽い気持ちでページをめくった。

 ふーん。
 
 幼い頃の二人が読んでいただけあって、分かりやすい。
 愛を知らない一人の男が運命の女と出会い恋に落ちる、なんの捻りもない話。響かないが、そのままページをめくっていく。
 すらすらと流し読みする様に読む。だが、徐々に食い入るように読みだす。同時に鼓動が音を立てて鳴る。そして、俺は遂にバタンと両手でページを閉じた。

 なんなんだっ!!

 もう耐えられないっ、と途中まで読んだ本を枕元へほかり、寝転がる。
 体が熱い。自分でも赤面しているのが分かる。
 ね? 似てるでしょっ、と頭の中でカイトが笑ってくる。
 素直じゃない主人公。それは似ているかもしれない。自覚はしてる。問題は、何に対して素直じゃないかって事。
 
 俺は、彼女をそんな風に思ってない!

 でも、びっくりするくらい同じだった。
 事あるごとに目で追ってしまう。
 彼女の行動に一喜一憂してしまう。
 避けられるとモヤモヤして、笑ってくれると胸が弾む。目が合うと見られなくなって、それでも俺を見て欲しくなる。
 ここ最近の自分のおかしな行動や感情がこの主人公に当てはまったのに、恐ろしさすら感じてしまう。
 自分の気持ちに気づかないふりを続ける主人公。
 
 そうなのか!?
 俺は彼女の事をそんな風に思っていたのか!?
 
 ちょっと読んでみよう。
 そんな軽い気持ちだったのにこんな事になるなんて。突然突き付けられた難題に、頭の中はぐちゃぐちゃだ。

 ありえない!
 
 認めちまえよ、っとキルが頭の中でニヤリと笑って言ってくる。
 認めたくない、っと言うよりも理解できない。
 まだ会って数日の彼女の事をそんな風に思うのだろうか?
 しかも、今まで興味すら湧かなかったのに。
 なら、この彼女にだけ起こる感情はなんだろう?
 他にも特別な事があるのか?
 やっぱり読むのを止めればよかった。
 彼女に会うのも明日が最後なのに、この本のせいで会いずらい。でも、なら会わないなんて選択肢はやっぱりなくて。
 いろんな言葉が頭を駆け巡る。勢いよく布団を頭から被る。

 面倒くさいからやめよう。

 それももう、何度も思ってきた。
 でも、また考えてしまう。その堂々巡り。

 どうにも落ち着かない胸に頭を抱えながら、ふと窓の外を見る。街中の光が入り込む。その光はとても眩しい。
 
 仮にそうだとしても。

 俺と彼女は住む世界が違いすぎる。悪魔の血が流れる俺と神の力を持つ彼女。本来ならそばにいる事すら許されないのだから、こんなこと考えたって無駄。だから、答えを出しても出さなくても関係ない。
 ほら、やっぱり似てる。そう言ってキルとカイトが頭の中で笑う。
 
 一人で馬鹿騒ぎをしていた胸に、静けさが訪れる。
 ようやく落ち着いた。眠れそうだ。
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