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墜ちた大精霊編
大精霊
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その体は漆黒の炎でできていた。揺らめく黒炎が人の形を象り、その中央には紅い炎が僅かに残っていた。そして、その黒炎の腕を軽く振った瞬間----
黒炎が大広間を埋め尽くすように、爆発的に広がった。
『死神の慟哭!』
ルシウスの上に次元の裂け目が発生し、そこから漆黒のフードを被った髑髏が顔を出した。
そして耳を劈くような絶叫が、死神の口から溢れ出す。
その音の衝撃が前方へ広がるように放出され、死を運ぶ黒炎と拮抗する。
「きゃあー!?」
背後には衝撃がほとんどないとはいえ、その音は届く。死神の大絶叫に全員が耳を塞ぐ。
二つの力の拮抗は、数秒でその力を失って静寂が戻る。そして絶望がその口を開く。
「初めてここを訪れた者がどれだけのものかと思ったが、貴様はなんだ?」
(なんだ? なんだってなんだよ……名前聞いてるわけじゃないよな)
「えっと……魔導師?」
それを聞いた黒炎、アグニの口が笑みを象った。
「ほう……魔導師を名乗るか。懐かしいな」
「懐かしい?」
「古の時代にいた者達もそう名乗っていた」
(古……精霊が言うくらいだから相当昔なんだろうが……っていうかこいつが墜ちた火の大精霊ってやつか……)
「我が名はアグニ=ヴェーダ。人間、お前の名は?」
「……ルシウスだ」
ひとまず会話はできそうだ、と魔力は緩めずにルシウスが答える。
「それで、ここへ何しに来た?」
「いや、本当はあんたのいる階層に来る気は無かったんだ。ここまでは10層おきに階層主がいたから101層じゃ出ないと思ってたんだが……」
「嘘ではないようだ」
「あぁ、だからこのまま帰してくれると助かるんだが……」
アグニの瞳がルシウスを見つめ、そして魔力が爆発的に膨れ上がる。
「少し退屈していたところだ。戦え」
(勘弁しろよ……あいつなんて目じゃないぞこの精霊……)
「どうした。貴様がやらないなら後ろの者達からやるか?」
「待て! ……みんな、下がっててくれ」
「ルウ君……!」
アリスが瞳に涙を浮かべている。正確に把握はできずとも、アグニの力が尋常ではないことは感じ取っているのだろう。
ルシウスは笑みを浮かべると「大丈夫。下がっていてくれるか?」と優しい声音で話しかける。
アリスは口をぎゅっと紡いで涙を止めると、大きく頷いて元来た通路へと走っていった。
六人ともが通路に戻り、防御障壁を張ってルシウスを見守っている。
「待ってくれるんだな」
「不意をつく必要があるのか?」
「いや……ないな」
大精霊という存在は、たたでさえ埒外の化け物と言って差し支えない。だが、アグニは精霊界を墜とされ、人間世界に常時顕現している。それが理由かは分からないが、既に大精霊の領域すら逸脱しようとしている。
ルシウスは魔力を高めて練り込む。そして--
『魔力炉=臨界起動!』
限界を越えて魔力炉を臨界起動させた。変換効率は1:3で、ヴァレリアの時と同じだ。ただ一つ違うのは、この短期間でルシウスの魔力が大きく上昇していることだ。
ただ魔力を使い切るだけでも、勿論魔力は上昇するのだが、実戦の中での上昇率は更に上だった。
三倍となった魔力量はすでに600万程で、既に深淵といえど油断できる領域ではない。
しかしそれでも、アグニの余裕は揺らがない。
『覚醒強化-雷火』
魔法属性=雷火
形状=纏
特殊=麻痺 火傷
魔力減衰=2
持続魔力=880
強化=18000×2
魔力=3872000
速度=4000×2
約40分程継戦できる魔力を残して最大の強化を施したルシウスが白雷を纏う。
「我の炎に稲妻を混ぜるか」
「雷と相性いいんだけどな……いくぞ!」
ルシウスが光の筋を引いてアグニへと迫る。アグニはそれを微動だにせずに観察している。
(なぜ避けない……?)
疑問を浮かべながらも、チャンスを捨てるわけにはいかないと、白雷の砲身で加速した拳を振り抜いた--
(手応えが……ない?)
打ち抜かれたアグニの肩口の黒炎が散る。しかし次の瞬間には空洞となった肩口へ集まり、何もなかったかのように揺らめくアグニの姿があった。
「……実体がないってことか」
「そうだ。大層な魔力を使っているようだが、我に効果はないな。いや、実体以外の部分では僅かにダメージがあるようだ」
拳を握り、開いて状態を確認しているのだろうか。アグニは僅かに残るダメージを懐かしく感じて、笑みを浮かべる。
「ほとんど効いてないじゃないか……」
「さて、次はどうする?」
これまでの深淵との戦いが参考にならなくなっていた。強くなればなるほど、通常の遠距離魔法を使うことがなくなっていたのだが、どうやらこの大精霊には通用しないらしい。
「こうするさ」
急激に魔力を練り上げ、魔法名を紡ぐ。
『雷神の断罪!』
「ほう?」
「喰らえ!」
アグニの前後左右に展開された雷球から、轟雷が迸る。大広間が迸る稲妻の轟音で埋め尽くされる。反響した爆裂するような音に通路に退避していた六人は耳を塞ぎ、強烈な光で目を瞑っていた。
「ちょっとルウー!? み、みんな! もっと下がって! 巻き込まれるわよ!」
「ルウやばー! なにこの魔法ー!」
「なんだってー!? 聞こえねーよ!」
聞こえず、見えないが全員が危険を感じ、通路の奥へと下がっていく。
光が段々と収まっていく。そして轟雷の消えた後には、変わらない姿で佇むアグニの姿があった。
「勘弁してくれよ……」
ガリっと魔力の丸薬を噛み砕く。しかしここはダンジョン内で空は見えていない。今が夜かどうかも定かではないが、航海を導く星の乖離を使うには星の力が足りなかった。
「ふむ、なかなか悪くない魔法だった。次は我の番だな」
アグニが纏う黒炎が吹き荒れる。そしてアグニが手を振り上げて、そのままルシウスへ向かって振り下ろす----
----その瞬間、大広間内を埋め尽くすように吹き荒れていた黒炎が、全方位からルシウスへと襲いかかった。
(魔法名すらなしかよ! このチート野郎が!)
『夢心地の氷地獄!』
すぐに対属性となる氷の魔法名を紡ぐ。瞬間的に発現した氷の地獄が大広間に顕現した。それは黒炎に焼き尽くされながらも、無限に溢れるかのように大広間へ広がっていった。
「今のを防ぐか。これを防がれたのはこの世界では初めてだぞ」
「そりゃどーも……」
ガリっと二つ目の丸薬を噛み砕く。
(やっぱり魔力が回復する余裕がない……丸薬を使ってもなんとか維持できる程度か)
「やってみるしかないか……」
「まだ何かあるようだな? 見せてみろ」
「後悔するなよ」
ルシウスは笑みを浮かべて自然体で立つ。魔力が暴発するかのように周囲を吹き荒れる。
そしてアグニに対抗するための魔法名が紡がれた。
黒炎が大広間を埋め尽くすように、爆発的に広がった。
『死神の慟哭!』
ルシウスの上に次元の裂け目が発生し、そこから漆黒のフードを被った髑髏が顔を出した。
そして耳を劈くような絶叫が、死神の口から溢れ出す。
その音の衝撃が前方へ広がるように放出され、死を運ぶ黒炎と拮抗する。
「きゃあー!?」
背後には衝撃がほとんどないとはいえ、その音は届く。死神の大絶叫に全員が耳を塞ぐ。
二つの力の拮抗は、数秒でその力を失って静寂が戻る。そして絶望がその口を開く。
「初めてここを訪れた者がどれだけのものかと思ったが、貴様はなんだ?」
(なんだ? なんだってなんだよ……名前聞いてるわけじゃないよな)
「えっと……魔導師?」
それを聞いた黒炎、アグニの口が笑みを象った。
「ほう……魔導師を名乗るか。懐かしいな」
「懐かしい?」
「古の時代にいた者達もそう名乗っていた」
(古……精霊が言うくらいだから相当昔なんだろうが……っていうかこいつが墜ちた火の大精霊ってやつか……)
「我が名はアグニ=ヴェーダ。人間、お前の名は?」
「……ルシウスだ」
ひとまず会話はできそうだ、と魔力は緩めずにルシウスが答える。
「それで、ここへ何しに来た?」
「いや、本当はあんたのいる階層に来る気は無かったんだ。ここまでは10層おきに階層主がいたから101層じゃ出ないと思ってたんだが……」
「嘘ではないようだ」
「あぁ、だからこのまま帰してくれると助かるんだが……」
アグニの瞳がルシウスを見つめ、そして魔力が爆発的に膨れ上がる。
「少し退屈していたところだ。戦え」
(勘弁しろよ……あいつなんて目じゃないぞこの精霊……)
「どうした。貴様がやらないなら後ろの者達からやるか?」
「待て! ……みんな、下がっててくれ」
「ルウ君……!」
アリスが瞳に涙を浮かべている。正確に把握はできずとも、アグニの力が尋常ではないことは感じ取っているのだろう。
ルシウスは笑みを浮かべると「大丈夫。下がっていてくれるか?」と優しい声音で話しかける。
アリスは口をぎゅっと紡いで涙を止めると、大きく頷いて元来た通路へと走っていった。
六人ともが通路に戻り、防御障壁を張ってルシウスを見守っている。
「待ってくれるんだな」
「不意をつく必要があるのか?」
「いや……ないな」
大精霊という存在は、たたでさえ埒外の化け物と言って差し支えない。だが、アグニは精霊界を墜とされ、人間世界に常時顕現している。それが理由かは分からないが、既に大精霊の領域すら逸脱しようとしている。
ルシウスは魔力を高めて練り込む。そして--
『魔力炉=臨界起動!』
限界を越えて魔力炉を臨界起動させた。変換効率は1:3で、ヴァレリアの時と同じだ。ただ一つ違うのは、この短期間でルシウスの魔力が大きく上昇していることだ。
ただ魔力を使い切るだけでも、勿論魔力は上昇するのだが、実戦の中での上昇率は更に上だった。
三倍となった魔力量はすでに600万程で、既に深淵といえど油断できる領域ではない。
しかしそれでも、アグニの余裕は揺らがない。
『覚醒強化-雷火』
魔法属性=雷火
形状=纏
特殊=麻痺 火傷
魔力減衰=2
持続魔力=880
強化=18000×2
魔力=3872000
速度=4000×2
約40分程継戦できる魔力を残して最大の強化を施したルシウスが白雷を纏う。
「我の炎に稲妻を混ぜるか」
「雷と相性いいんだけどな……いくぞ!」
ルシウスが光の筋を引いてアグニへと迫る。アグニはそれを微動だにせずに観察している。
(なぜ避けない……?)
疑問を浮かべながらも、チャンスを捨てるわけにはいかないと、白雷の砲身で加速した拳を振り抜いた--
(手応えが……ない?)
打ち抜かれたアグニの肩口の黒炎が散る。しかし次の瞬間には空洞となった肩口へ集まり、何もなかったかのように揺らめくアグニの姿があった。
「……実体がないってことか」
「そうだ。大層な魔力を使っているようだが、我に効果はないな。いや、実体以外の部分では僅かにダメージがあるようだ」
拳を握り、開いて状態を確認しているのだろうか。アグニは僅かに残るダメージを懐かしく感じて、笑みを浮かべる。
「ほとんど効いてないじゃないか……」
「さて、次はどうする?」
これまでの深淵との戦いが参考にならなくなっていた。強くなればなるほど、通常の遠距離魔法を使うことがなくなっていたのだが、どうやらこの大精霊には通用しないらしい。
「こうするさ」
急激に魔力を練り上げ、魔法名を紡ぐ。
『雷神の断罪!』
「ほう?」
「喰らえ!」
アグニの前後左右に展開された雷球から、轟雷が迸る。大広間が迸る稲妻の轟音で埋め尽くされる。反響した爆裂するような音に通路に退避していた六人は耳を塞ぎ、強烈な光で目を瞑っていた。
「ちょっとルウー!? み、みんな! もっと下がって! 巻き込まれるわよ!」
「ルウやばー! なにこの魔法ー!」
「なんだってー!? 聞こえねーよ!」
聞こえず、見えないが全員が危険を感じ、通路の奥へと下がっていく。
光が段々と収まっていく。そして轟雷の消えた後には、変わらない姿で佇むアグニの姿があった。
「勘弁してくれよ……」
ガリっと魔力の丸薬を噛み砕く。しかしここはダンジョン内で空は見えていない。今が夜かどうかも定かではないが、航海を導く星の乖離を使うには星の力が足りなかった。
「ふむ、なかなか悪くない魔法だった。次は我の番だな」
アグニが纏う黒炎が吹き荒れる。そしてアグニが手を振り上げて、そのままルシウスへ向かって振り下ろす----
----その瞬間、大広間内を埋め尽くすように吹き荒れていた黒炎が、全方位からルシウスへと襲いかかった。
(魔法名すらなしかよ! このチート野郎が!)
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「今のを防ぐか。これを防がれたのはこの世界では初めてだぞ」
「そりゃどーも……」
ガリっと二つ目の丸薬を噛み砕く。
(やっぱり魔力が回復する余裕がない……丸薬を使ってもなんとか維持できる程度か)
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著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
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