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「それは無理矢理そう思い込まされているだけでは!?」
「むしろあなたに無理矢理そう思い込まされそうになってますけど」

 司祭はたしかに厳しい時もあるが、それはセレス達を思っての言葉であるし、シスター達も時に厳しく時に優しく、まさに本当の親の様に愛情深く接してくれている。教会、そして聖女としての立場により、確かに市井に生きる人々よりも制限されている事はあるけれどそれも常識の範囲だ。それでもあえて現状に不満を述べると言うのであればただ一つ、自分についた不名誉な枕詞くらい。

「そりゃ孤児じゃなかったらそもそも教会に属することもないし、聖女だなんて呼ばれることもありませんけど。それは教会やわたしが悪いわけじゃないですし。捨てた親にしたって、もっとひどい所に捨てることだってできたのに、わざわざ教会の門の内側に置き去りにした辺り、まだ良心的だったんだと思いますよ」

 教会に保護された時の事をセレスは覚えていない。しかし、幼子の手では動かせない重さの門を開け、敷地の中にいたそうなのでセレスを捨てた親があえてそうしたのだろうと推察される。

「別に教会の中でいじめられたりしたことはありませんし。教会に来る人達もみんな優しいので意地悪なことを言われたりもしません。最近は寄付も多くて、壊れそうになってた雨どいも綺麗になりましたし、食事の質もすごく良くなりました。初対面の方に憐れまれることは全く、これっぽっちも、ないんですけど!」

 ここまで言えば流石にセレスが何に怒りを覚えているのか伝わったらしい。青年はまたしても狼狽える。

 どうにも事前に忠告を受けていた話と違う。彼は「そう」ではないのかもしれない。ならばこれ以上は時間の無駄だと、セレスは「迎えが来ますのでこれで」と話を終わらせる。クルリと背を向け、元来た道を戻ろうとすればセレスの腕を青年が掴んで引き止め様とする。その寸前、セレスは音を立てて飛び退った。しまった、と気まずい空気が互いの間に流れる。

「……いきなり触れ様とした非礼は後でいくらでも詫びます」
「今すぐ詫びていただけると嬉しいのですが」
「まだ話があるのです! 聞いてくださいセレス」
「わたしは特にお話しすることありませんし、あとしれっと呼び捨てするの馴れ馴れしいですね? とっても不快です!」
「あなたが先程の会場でずっと視線を送っていた相手――彼の正体を、知りたくはないですか?」

 おそらくはそれが青年にとっての切り札でもあったのだろう。セレスに対してゆるりと口角を上げている。

「私は彼がどういった人間であるのか良く知っています。それを是非、貴女にお伝えしたい」


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