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しおりを挟む「レノーイは知らぬ存ぜぬで通すでしょうけどね、せいぜい高値で売りつけるんじゃないですか? 生死については、向こうがどう判断するかによるかと思いますが」
シークの仕事は要人の護衛であるからして、その先は範疇外だ。
「あの男がどれだけシラを切ろうとも、こっちには証拠も証人もいますからね」
その言葉にセレスは顔だけを上げる。証人とは? と不思議そうにしているのが露骨に伝わったのだろう、シークはなんとも底意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「我が国に侵入してきた襲撃者は五名。その内の一人があのクズで、残り四人はレノーイの暗殺部隊の連中なんですが」
王太子自ら、部隊を率いて襲撃である。そんな馬鹿な事ってあるのか、と突っ込みをいれそうになるが実際あったのだから笑い話にもならない。
「作戦を立てても聞きやしない、好き勝手に動こうとする、命がけの任務なのにそれを王太子が尽く邪魔をしてくる、って事で、見事にあの王子様裏切られましてね」
元から忠誠心を根刮ぎ奪う様な人物であった。そこにトドメの今回の任務。暗殺部隊に所属していながら、彼らは全員王太子を裏切り、襲撃の情報をシーク達に流してきたのだ。
「当然情報の正確性やらは念入りに調べましたよ。その上で、これは本物だって事で後は上の方で話が進んで、その結果が今です」
はああああああ、と最早息なのか魂なのか分からない何かがセレスの口からひたすら漏れる。
「あの国の王族自体が元からクズみたいですが、それでも王太子が抜きん出ているみたいですね」
「その……裏切ったって人達はどうなるんですか?」
「身の安全の保証を前提に、で今回の裏切りなので殺したりはしませんよ。もちろんレノーイに強制送還、ってのもありません。向こうに戻れば間違いなく殺されるでしょうしね」
心配げなセレスにシークは少しだけ表情を和らげる。
「そいつらの処遇も含めて、我が国が誇る性格捻くれ宰相様がどうにかしますよ。あの人そういうの本当に得意なんで」
「君も得意そうだが?」
「国同士のやり取りなんて俺なんかにできるわけないでしょ。その辺は宰相様の独断場です、俺の出る幕は無い」
カイの軽口をシークはさらに軽口で返す。そんな二人のやり取りに気が緩んだのか、セレスもポツリと呟いた。
「……あなたより捻くれた人がいる王宮こわい」
「聖女サマ余裕じゃないですか」
「これは少しでも正気を保つために必要な悪口です」
「俺への悪口で聖女サマの心の慰めになるなら本望です」
「今日ずっと言い方が気持ち悪くないです?」
「聖女サマこそほんとずっとキレッキレですね俺への悪口」
セレスはアンネにしがみついたままなので、この時のシークの表情も、そんな二人を見守るアンネとカイの様子も、何一つ知る事は無かった。
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