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神様と行く、うどんの旅とその切っ掛け

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「転んだ時に助けてくれたのと、あと寒そうだからと上着を貸してくれたのが嬉しかったそうだ」
「う……あー……どういたしまして……」

 なんと返すべきか分からない。モゴモゴと返す雪乃だが、茶色の小さいそれらはなんだか楽しそうにしている。

「さて、なにはともあれ久方ぶりのお客人だ! 暇つ……盛大にもてなしてやろう!」
「暇つぶし!?」
「気のせいだ!」
「絶対嘘ー!!」
「さあこっちだ! 遠慮なく来るといい!!」
「結構です! お気遣いなく!」
「人の好意をそう簡単に断るもんじゃないぜお嬢さん」
「アンタ人じゃないじゃない」
「そうさ! なにしろおれは神だからな!」
「ねえあなた達ここからどうやったら元の神社に帰れるか知ってる? わたしそろそろ次の所に行きたいんだけど」
「おれの話をガン無視するとは良い度胸してるなあ君。ますます気に入った!」
「え、なにそういう趣味なの?」

 雪乃の態度は相手が誰であれ褒められたものでは無い。ましてや気に入られる要素など微塵もないはずだ。なのに青年はニコニコとしている。いや、これはまた悪い方の笑みだ。どうにも雪乃をからかって遊びたいと、彼の表情が物語っている。

「お願いだから帰り方を知ってたら教えて欲しいんだけど!」
「その小さい奴らにそんな力はない。おれが外に出してやったんだ」
「妖怪の親玉……?」
「神、な。神! そいつらも妖怪なんかじゃあない。それよりももっと弱くて、儚くて……可愛い奴らだよ」

 なるほどアンタとは真逆の存在、と喉元まで出かかったが雪乃はそれを呑み込んだ。今のところ彼が雪乃の発言に気分を害した素振りは無いが、いつ不機嫌になるかも分からない。それに、真逆の反応でさらに気に入られるかもしれないのだから、迂闊な事は言わないに限る。

「必死の努力のところ悪いが、君はかなり素直な様だからなー……考えている事はわりと筒抜けだぞ」
「そこはスルーするのが大人のマナーじゃない!?」
「まあまあまあ、なあに心配するな、ちゃんと君がこっちに来た時間に合わせて戻してやるから」
「なにひとつ安心できないんだけど! っていうか帰る……帰るから! 帰してよ!!」
「あ、いいなその必死な叫び……久しく無くしていたおれの神としての属性がゾクゾクする」
「なにそれ……っていい! 言わなくていい! 聞きたくない!」
「神隠しの醍醐味って感じだな!」
「最低! やっぱアンタ妖怪とかそっち系じゃない!!」

 雪乃は立ち上がろうとするが足が竦んで力が入らない。そこに追い撃ちを掛けるように視界がまたしてもグルグルと回り、あっと言う間に闇に呑まれた。


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