先輩とわたしの一週間

新高

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土曜日の出来事

8※

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「やっぱお前感じやすいみたいだな」

 荒い息を整える暇も無い。口で嬲られた方の胸は唾液塗れで夜の冷気を感じ取り固さを保ったままで、もう片方の胸は今も指で弄られている。絶え間なく与えられる快感の中に、今度は空いた方の掌で鳩尾をゆるく撫で回され、晴香は呼吸もままならない。

「は……ッ、あ」
「息苦しいか?」

 うっすらと涙の浮かんだ目でコクコクと頷けばようやく甘い責め苦から解放された。ど、とした疲れが晴香の全身を襲う。ふうふうと呼吸を繰り返す晴香の頭を、葛城は労るように撫でてやる。

「胸だけであそこまで感じられたのは偉かったよ」

 額に口付けを一つ。そして寄せた耳元でそう囁いて晴香の脳内をグズグズに溶かしていく。

「せんぱい……」
「ん?」
「……かおが……いやらしすぎるんです、が……」
「そりゃいやらしいことしてるから当然だろ」

 睦み合う行為の直後にこんな事を言ってしまう自分はどうなのだろうかと思う晴香であったが、即座にそれに乗ってくる葛城であるからして問題は無い、のかもしれない。むしろこうやって乗ってきた時の葛城の方が発言は酷い。

「このヘンもくすぐったいのか?」
「ひゃっ!? やめ、先輩、まって! くすぐった、い、んです、って!」

 せっかく落ち着きはじめた呼吸がまた乱れる。鳩尾から肋骨の辺りを撫でられ、そこから胸の縁に沿うように脇の方へと指が動く。身を捩って逃げようとするが、今もまだ葛城の体で押さえられているので無理な話だ。

「ここは?」
「そこもです!!」

 ふうん、と葛城は一通り満足したのか晴香の両脇に腕を付く。真っ直ぐに見つめられるとこれまでとは違った羞恥が晴香を襲う。

「なんだよ」
「なんでもないです……」
「えろいキスした上に胸しゃぶったりなんだりしてんのに、今更顔見ただけで照れるなよ」
「だからーっ!! 先輩そういうとここそお気遣いポイントでスルーでは!!」
「なあ日吉」
「なんですか!」
「嫌いなヤツが相手だと、触られた時は気持ち悪いとか嫌だと思うんだと」
「まあ……そうでしょう、ね?」
「だからお前に触ってもくすぐったいってしか思われなくて嬉しいなと」
「そっ……れ、は……ヨカッタ、デス」

 何と返したらいいのか分からず、そんな言葉しか出てこない。この先輩は唐突にデレてくるから心臓に悪い。

「それにあれだ、くすぐったいって感じる所はそのまま感じるポイントにもなるから、これからの楽しみが半端ないのもある」
「楽しみ……?」
「開発とそこからの調教のしがいがあるよなって」
「先輩もわたしと同じくらいテンパってる時の発言がアウトでは!?」
「お前と一緒にするな俺は別にテンパってねえ。あえて言うなら盛ってるだけだ」
「アウト感がさらに増しですよ!!」
「開発に調教、と拘束、ってきたらもう監禁までのAVフルコースもいけそうだけどどうする?」
「いけませんよ!? 先輩それはブタ箱直送コースです!」

 無駄に美形の笑顔を振りまきながらの発言の残念さと言ったら他に類を見ない。

「まあ監禁は止めとくか。逃げ出したお前を捕まえるのが絶対面倒くさい」
「なんでそこでそんな心底イヤそうな顔なんですか」
「監禁は駄目だろ。なにがなんでもお前逃げるし、逃げたらとことん隠れまくるだろうし、そうなると探して連れ戻す労力が半端ねえ!」
「だから一度もそんな状況に陥ったことないのに、さも見てきたかのように言うのはですよ、いかがなものかとですよ」
「これまでのお前の傾向による冷静な判断」
「ぐうの音も出ません」
「無理を強いて反抗されるより、自ら進んで俺の側から離れられないようにすればいいだけだからな」
「なんでしょうかね、猛烈に不安が煽られるんですけど」

 言葉に含まれる何か、を感じ取り晴香の脳が警鐘を鳴らす。葛城はその不安を吹き飛ばすかの様に優しく微笑んだ。続く言葉は真逆でしかないが。

「快楽堕ちさせてやるよ」
「いやーっ!! 先輩がAVのジャケットでしか見ないような単語を口にしてるー!!」
「それだけ大声出せりゃ充分休憩になっただろ。さーて続きだ続き」

 さらに悲鳴を上げようとしたが簡単に口で塞がれる。本当にキスで黙らされてる! と妙な感動をする余裕があったのもそこまでで、完全に把握された口の中の感じる場所を刺激されると途端に思考が奪われる。全身でやんわりと押さえ込まれ、葛城の固い胸板で晴香の胸も押し潰されるが、伝わる熱と、微かな動きで擦れ合う肌が新たな刺激となって晴香の体内に燻り始めた。またさっきみたいにこの熱が弾けたらと思うと、さらに敏感に刺激を拾ってしまう。

「日吉……ちゃんと目を開けてろよ」

 唇が触れ合う様な距離で再度念押しされる。ヒクリと晴香の咽が揺れると葛城はそこに口付け舌を這わせた。

「は……ッ……あ」

 熱い吐息に合わせて緩やかに揺れる胸を両の掌で包み込み、先程覚えさせたばかりの快感を呼び起こしながら徐々に下がっていく。鳩尾から臍の辺りを啄めば、くすぐったさに晴香は何度も体を震わせた。息が途切れ途切れになりすぎて、制止の声すら出せない。
 胸の先を弄っていた指がゆるゆると脇腹を辿り腰へと触れる。そのまま腕を回し晴香が逃げられないようにした所で葛城は肌にきつく吸い付いた。

「くッ……!」

 チクリとした痛みは本来耐えられない程ではないのだろう。けれども敏感に感じる場所で、そして初めての感覚に晴香は混乱する。吸い付かれる度に呼吸が一瞬止まり、そして熱も上がっていく。ほんのりとした寒さを感じていたはずの肌にじわりと汗が浮き上がってくる。その汗ごと葛城に舐められているのだと気付けば、泣きたくなる程の羞恥が晴香に襲いかかってきた。

 しかし、それも次の瞬間上書きされる。

 ぐ、と下半身が浮き上がったかと思えば、両脚が大きく広げられた。それぞれの脚は葛城の肩に引っかけられ、閉じることはできない。

「あ、やぁッ!! や、やだ、せんぱいッ!!」
「さっきも言っただろ。お前が本当に止めて欲しいなら、手で止めろ」
「せんぱい……」
「俺も本気でお前が欲しいんだ。恥ずかしいってだけで言ってんなら、少しの間だけ我慢しろ……すぐにそんなのわからなくしてやるから」

 欲を孕んだ瞳に射貫かれ、晴香はそれだけで体の奥から震えが来るのを感じた。それが求められる事への喜びだとはまだ分からないけれども。
 葛城の目の前に晒されたそこは確かに反応していた。それでも到底受け入れられる程ではない。葛城は躊躇なく晴香の秘所へ口付ける。受け入れさせる準備のためでは無い。どうしたってこれからの行為は女性側への負担が大きい。それが初めてともなればより一層だ。痛みを全くのゼロにしてやれる程の自信は情けないけれども持ち合わせておらず、ならばせめてその瞬間までは快楽を与えてやりたい。痛みへの恐怖よりも、気持ち良さを求めて欲しい。 
 快楽堕ちさせてやる、とはある意味冗談ではなかった。

「んんッ!! はッ、あ、あああッッ!」

 指で触れられた時にも脳天を突き抜ける様な快感で、こんなにも強烈な感覚は他に無いのだろうと思っていた晴香であったが、それはあっさりと更新された。

 昨日だって恥ずかしすぎて死にそうで、そして気持ち良すぎた場所を今度は唇で触られている。キスする時と同じ様に葛城の舌が遠慮無く動き、晴香の快楽のスイッチを次々と押していく。じわじわと溢れてくる蜜は吸い付かれ、しかしまだ足りないとでも言うように舌でその場所を舐めて刺激を与えられる。そうすれば蜜が浮かび上がり、またそれが吸われるという繰り返しだ。
 晴香はひたすら啼き続け、いやいやと頭を横に振るが拘束された両手だけは動かそうとしなかった。だから葛城の行為も止まらずに、ひたすら晴香に快楽を刻みつけていく。

「ぁアアッ!?」

 体の中に熱くて滑りを伴った何かが入り込んできた感触に、晴香の腰が一際跳ね上がった。反射的に逃げようと体がずり上がるが、腰に回った葛城の腕がそれを阻止し、それどころかさらに密着しようと自分の方へと引き寄せた。
 ぐん、と体に圧がかかる。その衝撃に晴香は自分が目を閉じていた事に気が付いた。葛城の命令を思い出しなんとか瞳を開けると、真っ直ぐに視線が交わる。

 見ていた。先輩は、ずっとわたしのことを見ていたんだ――

 恥ずかしい所を暴かれ、口付けされ、舐められて、なのに気持ちよすぎてひたすら喘ぎ声を出していた姿を見られていた。

 視線を合わせたまま葛城がゆっくりと顔を動かすと、体の中にあった違和感が消えた。一瞬羞恥も忘れてその光景を眺めていた晴香であるが、濡れそぼった唇を葛城の舌が舐め取るのを見てようやく理解した。あの違和感がなんであったのか。あれは、葛城の舌が自分の中に入っていたからなのだと。
 いっそ悲鳴をあげそうだった。しかしその前に葛城がまたしても晴香の秘所に顔を寄せ、あまつさえその箇所を指で大きく広げた。

「や、だ……!」

 声を上げすぎて咽が張り付く。掠れるような制止の声はそれでも聞き逃す距離では無い。なのに葛城はやはり止まらずに新たな刺激を晴香に与え始める。秘所全体をねっとりと舐めあげると、広がった密壺の中に舌をグリグリと押し込む。岸に打ち上げられた魚の様に跳ねる晴香を押さえつけ、舌を押し込んだままそこをジュルジュルと音を立てて吸い上げた。

「やあああッ!!」

 涙声に近い嬌声が上がる。それでも葛城は口での行為を止めずに、それどころかもう一押しと言わんばかりにずっと触れずにいた場所へ舌を伸ばした。
 昨日晴香が意識を飛ばす原因となった快楽の塊。たっぷりと蜜を含ませた舌で花芯に絡みつけば、晴香が今日一番の高い声で啼く。

「あッ、あッ、ああァッ!!」

 ガクガクと全身が震え、頭上に纏め上げられた両腕も大きく揺れている。その振動で軽く結っていたシャツと下着が解けてくるが、両手の指をしっかりと握り合わせて晴香は自らを縛ったままだ。それを目にした葛城は花芯をきつく吸い上げ、唇越しにそっと歯を立てた。

「ぃ、ぁッ……あああああああッッ!」

 体の奥に燻っていた熱が快楽となって一気に爆ぜる。あっという間に絶頂に押しやられ、晴香の背中が弓なりに反る。爪先も丸まってしばし硬直したかの様に全身が突っ張るが、次の瞬間には糸が切れたかのようにふにゃりとシーツに沈み込んだ。全身が弛緩し、指一つ動かせそうに無い。
 体のどこにも力が入らないので、晴香は昂ぶった感情により涙が零れるのも止められなかった。

「――日吉!?」

 それに焦ったのは葛城だ。まさか行為の最中に泣かれるとは思わなかった。無理矢理言いくるめて事に及んでいる自覚はあるが、それでも晴香が本当に嫌がる様な真似はしない、してない、つもりでいたのだが。

「悪い泣くな! 大丈夫か!?」
「……せんぱい」
「もう止めるから、大丈夫だから安心しろ」
「ちが……せんぱ、い」
「この状況で安心しろもなにもないけどとにかくもうしないから! だから泣くな……悪かった」
「せんぱい、あの」
「体ベトベトで気持ち悪いだろ? シャワー……は、無理か。ちょっと待ってろタオルで拭いてやるから」

 そう言って葛城はベッドから降りようとする。急激に失われる体温に、晴香は本気の泣き声で葛城を呼び止めた。

「せんぱいちがうんですいっちゃやです」

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