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しおりを挟む本日はお日柄も良く、などというお見合いの場において典型的とも言える台詞を耳にして、戌井楓は本当に言う物なのだなあと場違いながらに感心してしまった。
違う、これは結婚式での常套句? と思考が迷走する。まあどちらでもいいけど、と外に目をやれば言葉通り本日は冬の晴れ間の晴天だ。気温は流石に低いけれども、陽が射せば暖かくもあるのでこうして窓際の椅子に座っているとなんだか眠気すら感じてしまう。
目の前に座っているのはお見合いの相手である霜月大河――御年二十八歳の若手実業家である。楓より九歳年上とは思えない程に若々しい。黒髪を軽く撫で付け、見るからに質の良さそうなスーツを着こなす姿はまるでモデルのようだ。涼しげな目元でありながら、威圧感や冷たさを感じさせない穏やかな空気を纏い、年下である楓相手にも気遣いをみせてくれている。
そんな彼に対し自分と言ったら「平凡」の二文字に尽きる。容姿も性格もついでに頭脳もどれをとっても中の中。下でもなければ上でもない。突き抜けたところが一つもないので悪印象を与える事もなければ好印象を抱かれる事もない。記憶に残る程の存在感が何もない。
ああ、一応境遇だけは他人よりは違う点が多いかもしれない。だからこそ今この場にいるのだ。
お互いに今日の見合いの席は半ば無理矢理である、というのは二人っきりになった時点で確認済みだ。まず最初に「こんなおじさんでごめんね」と苦笑と共に謝罪が入った。その後「困ったものだよね」とふわりと笑いかけられて、ああこの人は善良な人なんだなあと楓は思った。
その後も当たり障りのない話をしつつ、それとなく自分の方から断るようにするねとか、それとも君の方からが都合がいいかな、と常に楓の意思を尊重してくれる。
「霜月さんは本当に良い人ですね」
よくある見合いの席の様に和室ではなくホテルの一室を設けてくれたのも霜月サイドだ。おかげで着るのが大変な振り袖を免れて、それなりに上品に見えるワンピースで済ませる事ができた。
「堅苦しいのが苦手なだけだよ。でもそれで良い人だと言って貰えたならよかった」
会話の流れを無視しての楓の言葉にも律儀に返してくれる。本当に、真に、善人なのだろう。初めての見合いの席で、こんなにも良い人と巡り会えたのはきっと奇跡だ。その事に心の底から感謝をしつつ、楓はゆっくりと口を開いた。
「私、かなりの不良債権なのでぜひ霜月さんからお断りしてください」
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