【全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【長編】

川端続子

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【7】貴耳賎目~なんだかちょっと引っかかる

知ってる先輩、知らない先輩

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 夏休みに入ってすぐ、最初の土日はやってきた。
 普段着で来ていいとの事だったので、その通り、Tシャツに薄い日よけ用のパーカー、高杉からのお下がりの半パンにスニーカーに愛用のメッセンジャーバッグという格好で幾久は境内へ入って行った。
「おー、幾久!こっち!」
 すでに来ていた伊藤と児玉が手を振る。伊藤と児玉は二人とも、上半身裸の格好で腹にさらしを巻いてはっぴを羽織り、下はジーンズパンツにスニーカーと言う格好だった。
「それ、さらし?」
「そそ。祭りの雰囲気出るだろ?」
「でもすっげ暑いんだよコレ」
 この暑い中、薄い布一枚のTシャツですら暑いのだから、布をぐるぐるに巻けばそりゃあ暑いだろう。
 と、二人の後ろからかなり長身の男が現れた。
「そりゃそうだ。お前達、ちゃんと脇まできちんと巻いてないからな」
(うわ、でか)
 思わず見上げてしまったが、身長は多分久坂と同じか数センチ低いくらいだろう。
 見るからにスポーツをやっています、といった雰囲気で、児玉と伊藤と同じように、上半身にさらしを巻いてはっぴを羽織っている。
 下はサッカーパンツにスニーカーだ。
 日に焼けた肌に、がっしりとした体つきで、雰囲気はOBの宇佐美のように爽やかさが全身からあふれている。
 髪をヘアバンドで止めているあたりが、いかにもサッカーしていますといった感じだった。
「あの……?」
「手伝いに来てくれたんだろ?一年の、乃木君。御門寮の」
「あ、ハイ、そっす!」
 伊藤や児玉の雰囲気から察するに、多分先輩らしい。
 手を差し伸べられたので、反射で出すとぎゅっと握られた。
「俺は三年鷹の赤根。よろしく」
「よろしくっす!お世話になります!」
 挨拶した幾久に、赤根はからからと笑った。
「お世話になるのはこっちだろ。手伝って貰うんだから」
 ばんっと体を叩かれて、あ、はい、と返す。
 豪快で笑顔が爽やかで明るくて。
(同じ三年でも大違いだな)
 根暗で細かくて爽やかさの対極に存在する山縣の事を思い出した。
「おい直太朗、こいつ今日手伝ってくれる一年生」
 赤根が、近くに居た同じく三年らしい人を呼んだのだが、幾久は一瞬どきっとした。
(げっ、時山先輩じゃんっ!)
 学校では『内緒』という事になっていたので存在自体をすっかり忘れていたが、目の前にいるのはまさしく幾久もよく知っている『トッキー』こと時山直太朗先輩その人だ。
 確かに時山も祭示部に所属しているとは聞いたけど、こういった場合どうすればいいのだろうか。
(さすがに目の前で紹介されて知らんふりは、おかしいよな)
 どうしようと考えていると、時山のほうから手を伸ばしてきた。
「三年鳩の時山です。『はじめまして』」
(あ、そーいう事ね……)
 あくまで今までの事は内緒で、今日幾久と『初めて会った』ということにするらしい。
 わかった、と言う風に幾久も手を伸ばし、時山とかたく握手を交わす。
「一年鳩の、乃木幾久です。『はじめまして』、ヨロシクお願いシャス!」
 時山と同じトーンで挨拶をすると、誰も二人の事を疑うことなんか当然ない。
「じゃあ、俺は乃木君に手伝いの概要を教えとくよ。赤根は練習するだろ?」
 時山が言うと赤根もそうだな、と頷く。
「じゃあ直太朗に任せる。乃木君、いいかな?」
「あ、ハイ、大丈夫ッス!」
 よく知らない赤根よりは、迷惑をこうむった事があってもよく知っている時山のほうがやりやすい。
「じゃ、頼むな、直太朗、と、乃木君」
「おー」
 時山らしからぬ低めのテンションで赤根に返す。赤根と伊藤、児玉は境内の奥の、祭りで使う竹が転がして並べてある場所へと向かって行った。
 幾久と時山の二人は境内をぐるりと囲むように作られた枠から離れ、学校の正面玄関がわりの鳥居へ移動する。
 外部から入ると鳥居があり、それから境内に向かって広い幅の石造りの階段があるのだが、そこは丁度良いベンチがわりになるのだ。
 鳥居のすぐ傍は木陰になっていて、そこなら暑さから逃れられる。
 ちらほらと同じ学校の生徒らしき人が鳥居から入ってくるが、幾久たちを気に留める人は居ない。
 時々、時山に「お疲れっす」と頭を下げていく人が居て、時山の後輩らしい事がわかった。
 誰も二人を気に賭けるひともないその場所でふたりになり、ぽつりと幾久は時山に尋ねた。

「―――――で、ここに居る時山先輩は、オレの知ってる時山先輩、っすよね?」
 時山が双子とは聞いた事がないし本名も全く同じだ。
 紛れもなく時山本人には違いないのだが、『おいら』じゃなくて『俺』だとか、『いっくーん』じゃなくて『乃木君』だとか、『はじめまして』だとか聞かされると少々心配になってそう尋ねたのだが。
 時山はさっきとはうってかわったひとなつっこい笑顔を浮かべて言ったのだった。
「そうそう、みんなのアイドル、トッキーさんだゾ」
 あ、やっぱり、このノリ時山先輩だ、と幾久は納得したのだった。


 打ち合わせはすぐに終わった。
 時山は幾久に祭りの概要と子供達の教え方や誘導などをさっと伝え、あとは児玉や伊藤に聞けばいいし、今日はべったり時山が一緒に居てくれるらしかった。
「でもなんで時山先輩、うちの寮と学校でキャラ違うんすか?」
「べつに寮と学校でキャラ分けてるわけじゃないし。人で分けてるだけだし」
「いや、それってなんかひどくないっすか」
「だってぇ、面倒嫌いなんだもん。いっくんだってそうでしょ?」
「そりゃオレだって面倒は嫌いっすけど。でも分けるほうが面倒っぽくないっすか?」
 同級生の児玉も、理想の姿に近づこうとした挙句、二面性があるみたいに悪口を言われていたというからあまりいいことはない気がするのだけど。
「分けないほうが面倒だから分けてるんだよね。きょーちんとだってさ、学校じゃお互い丸無視よ?」
 きょーちん、とは山縣のあだ名だ。
 本名が山縣矜次なので、寮母の麗子さんや時山は名前のほうで呼んでいる。
 そう、一応聞いてはいたから知っていたけれど、山縣と時山は学校では一切と言うほど接点がないらしい。
 クラスも違うし、キャラも違う。
 そもそも山縣にはこれといった友人も存在しない。
 だけど、御門寮であれだけ親しげな二人を見ている幾久は、学校で山縣と時山が互いに無視というより認識すらしていないといったふうにしていたのを見て、少なからずショックを受けた。
 聞いていてこれだけショックなのだから、聞いていなかったらきっともっと驚いただろう。
「それは判ってますけど。でもなんか」
「まあまあいいじゃん。そのあたりはおいおい話すからさあ。とりま、今日はお互いに知り合ったばっかの先輩後輩でいこうね『乃木君』」
 含みを持たせて時山がいうので、幾久も同じように返してみせた。
「……わかりましたよ、『時山先輩』」
 時山は満足そうに幾久に向かい親指を立てる。
「そうそう、グッジョブだぞ乃木君。上手にやって頂戴ね!」
「ハイハイ」
 面倒なので幾久も、ここは時山にあわせて適当に流しておくことにした。


 境内に戻ると集まり始めた子供達を伊藤や児玉が面倒を見ている最中だった。
 幾久が頼まれたのは、怪我をしたり、泣いているような子供が居たらそれを神社の社務所につれていったり、雑用をしたりといった本当に簡単なことばかりだった。
 親子連れも多く居たので、幾久の仕事はそこまで大変ということもなかったが、全く仕事がないわけでもなく、あれ持ってきて、これそっちに、といった雑用はいくらでもあって、幾久は忙しく走り回っていた。
 ちょっと仕事が途切れたので、スポーツドリンクを貰って木陰で休みつつ飲むことにした。
 木陰に腰を下ろしてスポーツドリンクを飲んでいると、向かいから二人先輩がやってきた。
 時山と赤根だ。
「おっす、乃木君。休憩中?」
 時山が声をかけてきたので「お疲れっす」と頭を軽く下げて「ハイ」と答えた。
「暑いから熱中症にならないよう気をつけろよ」
 そう言ったのは赤根だ。見上げるとますます大きいなと感じる。
「ありがとうございます」
「ところで隣いい?」
「あ、どぞ」
 パーカーを地べたに敷いて、その上に腰を下ろしているので隣も何もないのだが、幾久は気持ちわずかにずれた。幾久の隣に時山が座り、その隣に赤根が腰を下ろした。
「乃木君は、鳩だっけ?」
 赤根が尋ねてきたので、幾久は頷く。
 来期は正直、この学校に居るのかどうかも判らないし、来期は居てもその次に居るのかも判らないけど、一応「はい」と答えておく。
「来期は鳩?」
「いえ、一応、鷹に」
「そっか。じゃ、俺の後輩だな」
 赤根が言うので、そういえばこの人さっき鷹って言ってたなと思い出す。
(鷹といえば、そういやガタ先輩も鷹だったっけ)
 御門寮の唯一の三年生、山縣は今期鷹クラスだったはず。
「寮は御門だったよな」
「ハイ」
「一年生は」
「オレ一人っす。先輩があと四人」
「俺も昔、御門に居たよ」
 赤根の言葉に幾久は驚いた。
「ええっ!本当っすか?」
 御門と聞くと途端、親近感が湧く。
「そうだよ。コイツも一時は御門」
 時山を指差し言うのでそれにも驚いた。
「えっ?」
 そんなこと一度も聞いた事がない、と時山に尋ねかけて、言わなかった自分を幾久は褒めた。
「そう、俺もちょっとだけ。すぐに出ちゃったけど」
「そうなんすか」
 赤根はともかく、時山のことは心底驚いた。あんなに頻繁に御門寮に出入りしているのも元御門の寮生というその気安さのせいなのか。
「御門って、正直居づらいだろ?」
 赤根の問いに、幾久は「え?」と首をかしげた。
 確かに御門寮は個性的すぎるし、放任すぎる寮ではあるけれど、居づらいと感じたことは一度もない。
(そんな風に思ったこと、あったっけなあ)
 よく判らず、幾久はうーん、と暫く考えてみたが、やっぱり『居づらい』という理由は見当たらなかった。
「や、別に居づらくはないです」
「ははっ、無理すんなよ。俺の前では正直に言っても大丈夫だぞ。立場も三年だしな」
「?別に本当に、そんなことないですけど」
「なんだ、そんなにあいつらが怖いのか?仕方のない奴等だな。恐怖政治は報国院にはそぐわないってあれだけ言ったのに」
 幾久は赤根の言っている意味がわからなかった。
 確かに寮では二年生の久坂、高杉、吉田のコンビが圧倒的に力を持っているので山縣にとっては恐怖政治といえばそうかもしれない。
 だけど、山縣は高杉を心酔しているので、なんだかんだで従っている。
 幾久に対しては、二年生の先輩達はけっこう気を使ってくれているのを知っているので恐怖政治ということはない。
「えーと、あの、全然そんなことないっすよ?先輩等、けっこう気を使ってくれてるし」
「その先輩の気遣いを後輩に気付かせるってのもさ、後輩に対して恩着せがましいって思うんだよな」
 は?と思わず声が出そうになったが、一瞬時山が「しっ」という風に口に人差し指を立てていた。
 ああ、ここはスルーしろってことか、と瞬時に幾久は理解した。
「はぁ」
「言っても御門っていま二年ばっかりだろ?なにかと困ると思うけど、困ったことがあったら気軽にさ、俺に相談しろよ?同じ鷹のよしみだしな」
 一応三年も一人いるんだけどな、と思ったけれど面倒なのであえて訂正しないでおいた。
「……アリガトウゴザイマス」
「二年生にできないことも、三年なら出来るってこともあるし、無茶だって言ってもらえたらできるかもしれないからな。なんでも相談、相談。な?」
「はぁ」
 言うと赤根は幾久の肩をとんっと軽く叩いた。
「じゃ、鷹の先輩を忘れるなよ。言いづらかったらコイツでもいいんだしさ」
 時山を指差すが、幾久はなにを答えていいのか判らない。赤根はじゃあそろそろ戻るか、と時山に言い、時山も立ち上がる。
「ゆっくり休んどけよ。熱中症こわいからな」
「あざっす」
 じゃ、と去っていく赤根に、幾久は妙に引っかかっていた。


 その後は祭りの手伝いはたいしてすることもなくなった。
 子供の数も少なく、土曜日なので参加する人も少ないという。
 翌日も手伝いを頼まれていて、それは別に構わないのだけれど。
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