【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

文字の大きさ
161 / 416
【11】歳月不待~ぼくら運命の出会い

男子校のイケメンと女子校のイケメン

しおりを挟む
 演劇部の控えの部屋へ案内されると、以前と同じく大庭が待っていた。
「いっくん!いらっしゃい!御堀君も」
 相変わらずイケメンでイケボだなあ、と幾久は思いつつ頭を下げる。
「茄々先輩、この前はありがとうございました」
 逃がしてくれたことにお礼を言うと、大庭は首を横に振った。
「とんでもない!うちのセキュリティが甘くてああなったのに!二人は悪くないよ」
「そーそー。あれからこの建物の文化部が一気に結託してさ、もう絶対に誰も入れないってなったから安心していいよ」
 ウィステリアの文化部は、この建物に思い入れがあるらしく、勝手に入られたことを皆相当怒っているとの事だ。
 ドアがノックされ、女子が入ってきた。
 以前、紅茶を持ってきてくれたメガネをかけた人だった。
「あ、そうそう、それと今日は紹介しとこうと思って。これまっつん。松浦っていうの」
 髪を結んでメガネをかけている女子はぺこりと頭を下げる。
「あ、ドモ、乃木です」
「御堀です」
 頭を下げる二人に松浦は頷く。
「知ってる。あなたたちの体のことは全部、なにもかも知ってる」
 メガネをきらっと輝かせる雰囲気に幾久は驚くが、杷子と大庭が笑って告げた。
「なに脅してんのよ。あのね二人とも、まっつんはこう見えて裁縫すごいの。おじいちゃんが報国院の制服作っててさ。今回の二人の衣装も、この子が作るのよ」
 えっと驚く幾久に、松浦はメガネをなおしつつ頷いた。
「二人を見たとき、絶対に、絶対に私の作った衣装着せるぞコノヤローって思ったから交渉した」
「交渉って、どことっすか?」
 幾久が不思議に思って尋ねると、松浦は再びメガネをくいっと戻して言った。
「たまきん」
 女子高生がたまきんとか言わないで欲しいと思いつつ、そこは突っ込まずに幾久は聞く。
「玉木先生と?」
「そう。玉木先生、うちの教師も兼任してるの。めっちゃ人気あるよ」
 そういえばそんな話を聞いたことがあった。
「どうしてもやりたいって言ったら、いいわよって言ってくれたから。まあたまきんは断らないと思ったけどね!」
 だからたまきんはやめろたまきんは、と思いつつ幾久は紅茶を啜る。
「まあ、まっつんの腕とセンスは信用していいよ。すごい気合入ってるから。本人こんなだけど、ほんと服のセンスは最高だから」
「まっつん様の妙技に酔いしれるがいい」
 自分でそう言って松浦はメガネをくいっと戻す。
「実は前回お茶を運んだのもね、まっつんが二人見たいって言うからさ」
 ナルホド、それでか、と幾久は納得した。
「おじいちゃんにお願いしてサイズは完璧におさえてあるし、サポートもお願いしてるから、最高の衣装用意できるから」
「ありがとうございます。楽しみにしています」
 御堀が言うと、松浦が頷いた。
「イケメンに楽しみにされると捗る」
 なんだか隠さない人なんだな、と幾久は感心した。


 御堀が持ってきたチケットを出すと、幾久は驚いた。
 確かに凄い枚数で、これ全部売れたのかと思うと計算するのが怖くなるくらいだ。
「すごい、っすね」
 幾久に大庭が笑う。
「なに言ってんの。ここまで売れたのは、二人がバルコニーで演技したからだよ」
「そうそう。あれすっごい評判になってさ、絶対に見にいくって、話聞いただけでも食いつきすごかったし」
「ポスターもすっごい売れてる。私も買った」
 松浦の言葉に幾久が驚く。
「え?ポスター売ってるんすか?」
 幾久に御堀が答えた。
「そうだよ。問い合わせがあったから、販売するほうに切り替えたんだって」
 さすが商売人の梅屋、売れると判れば即行動だ。
「ここまで話題だと、頑張らないとね。みんな期待してるよ」
 そういう杷子に幾久は頷く。
「頑張るッス。ここまで来たら、なんとか成功させたいっスし」
 最初は照れていたり恥ずかしかったり、御堀に戸惑ったりもしたけれど、今ではみんなが必死になって舞台を作ろうとしている。
 その中で花形になるのだから、もうできないとか、無理なんて言ってられない。
「よーし頑張れ。おねーさん達も応援にいくからね!」
「そうそう、全部見に行くから。全部」
「え?三回とも、全部っすか?」
 驚く幾久に杷子も大庭も頷いた。
「もっちろーん!絶対に見たいから、先にチケット全部買ったもん!」
 舞台は二日間あり、しかも三回公演がある。
 かなりハードだが、その全部のチケットを買ってくれたとは、ありがたい。
「マジ感謝っす。がんばります」
 それに、と幾久は言う。
「本当に、このバルコニーで演技してからなんか世界が変わったんす。あれがなかったら、絶対にもっと変な感じだったと思っす」
 あの時、御堀と一緒にバルコニーでロミオとジュリエットをやって、度胸もついたし、逃げ回ったのも面白かった。
「いい経験になったのなら良かったよ。あたしらもやっぱ、いい舞台見たいもん」
 ねーっと顔を見合わせて、全員がにこにこと笑っている時に、事件は起こった。
「杷子!バナナ!まっつん!ちょっとやばい!」
 ばたーんと扉を開けて入ってきた女子に、全員が驚く。
「ちょっとなに?折角イケメンとティータイムだったのに」
「そんなん参加させろや!じゃなくて、ばれた!」
「ばれたって何が」
 大庭の問いに、入ってきた女子が告げる。
「決まってんでしょ。報国院のロミジュリがいま演劇部に居るってばれて、いまもう囲まれてる」
「えっ」
 驚く杷子は、こっそりとバルコニーに近い窓を覗き込む。
「うわあ。静かだから気づかなかった」
 確かに、バルコニーの下は女子で埋もれていて、ざわざわした空気だけがある。
「この前文化部がめっちゃ怒ったでしょ、だから入ってはこないんだけど、どの出入口もっていうか、全部全滅。囲まれて動けない」
 少しずつ集まってきてたから気づかなかった、と女子は言う。
「騒いだらまた逃げられるから、おとなしく囲んどけば出てきてくれるかもっていま待ってるみたい。今は大人しいけど……」
 どうする、と女子が尋ね、大庭と杷子は顔を見合わせた。
「さすがに今回はどうするったって」
「前と同じ逃げ方って、できないんすか?」
 幾久が尋ねるが、杷子は首を横に振った。
「囲まれてるなら、出口も多分見つかる可能性があるし、あの出口はちょっと他には見つかりたくないのよね」
 前回はバルコニー側と校門前に人が集まっていたから、見つからずにすんだのだという。
 だが、今回は全部ぐるっと囲まれて、逃げようがないのだという。
「万事休す」
 杷子がソファーにどっかり座って腰を下ろす。
「どーする?なんか考える?」
 大庭も頭を抱えている。
「ロミジュリに演技してもらうとか?」
 松浦が言うが、女子が首を横に振った。
「無理無理。そんなんしたら逆に身動き取れなくなるよ。人気はぐいぐい上がるだろうけど」
 はーっと全員がため息をつきながら、それでもちゃっかりお茶を飲んでいるのは大物なのか、落ち着こうとしているのか。
「大丈夫ですよ」
 そう静かに告げたのは、御堀だった。
 全員が驚いて御堀を見た。
 大丈夫、とはいったい何がどう、なのだろうか。
 御堀は不思議そうな幾久に微笑んでもう一度言った。
「大丈夫だよ。ちゃんと逃げられるから安心して。こうなるかなって思って、先に手は打ってある」
 それより、と御堀は続けた。
「大庭先輩と杷子先輩は、演技がとてもお上手だって聞いたので、僕達、指導してほしい場所があって」
「ほ、誉、メッチャ余裕かましてるけど、そんなんで大丈夫なの?」
 心配する幾久に、御堀は「大丈夫だって」と笑う。
「それより肝心なシーンがまだ完成度低いのが気になっててさ。ウィステリアにこんなにもチケット売れたことだし、杷子先輩なら真面目に完成度上げてくれるって梅屋先輩も言ってたから、お願いしようかと」
 杷子は言う。
「そんなん全然かまわないけどさ、本当に外、ほっといて大丈夫なの?」
「ええ。僕を信じて下さい」
 にっこり王子様スマイルで微笑む御堀に、杷子も、そこまで言うなら大丈夫か、と御堀を信じることにした。
「よっし。じゃあ、みほりんを信じよう。私等のわからんことをなんか考えてるんなら、もう丸投げよ、丸投げ。切り替えて、ちゃっちゃと指導に入ろう!」
 ぱんぱんと手を叩き、立ち上がった。
「お願いします。どうしてもそこは気になっていたので、ご指導いただけると」
「よっし!じゃあ部活モードに入るか!」
 大庭も立ち上がり、伸びをした。
「じゃあ、あたしらはお暇するね。本当に大丈夫?」
 心配げに松浦ともう一人の女子が聞くが、御堀はやはり、王子様スマイルで「お任せください」と答えた。
「イケメンの説得力ェ」
 松浦が言うと女子も頷く。
「んだんだ、ここはイケメン様のお言葉に従うんじゃ。皆、帰るぞ」
 そんな風に小芝居をしながら、松浦と女子は部室を出て行ったのだった。


 御堀が気になっていたというシーンは確かにまだ完成度が低い、しかし重要なシーンではあったが、練習でも照れてしまって中々入れ込めなかったところだった。
 杷子と大庭は、それはそれは熱心に指導してくれた。
「そーじゃないよいっくん!杷子の手の位置、よく見て!」
「はいっ!」
 御堀役の大庭、そして幾久役の杷子は御堀の話を聞いてがぜんやる気になった。
 熱血指導がすぐに開始され、その入れ込みようは多分、報国院の先輩の誰よりも熱い。
「みほりんはもっと、いっくんの腰をこう!」
「こうですか?」
「もっと、露骨なくらいでいいから!ぐーっと引き寄せて、体大げさなくらいにねじって!舞台じゃちょっとした動きなんか見えないから!」
「こうですか?」
「もっと!もっとよ、限界まで!」
「このくらい?」
「ああーいい感じ!もうちょいいける?」
「いけます」
「おおおおお、オレが限界に近いです!」
 幾久が訴えるも、大庭も杷子も怒鳴った。
「限界を突破しろ!」
「ここを超えたらまた新しい世界が開くぞ!」
「はいいっ!」
 必死に二人の指導について行ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...