182 / 416
【13】随処為主~王子様の作り方
主人公だから輝かないとw
しおりを挟む
御堀が桜柳会に参加することになり、その分、高杉と久坂に余裕ができた。
練習できるのは本番まであと数回しかなく、毎日の練習は通しでやる。
御堀が抜けている間、代役で誰かがやってくれていたので幾久は練習に不自由を感じることは無かった。
通しの舞台がはじまってから、音響も入るようになり、一層世界観が深くなる。
「効果音入ると、一気に舞台って気がしますね」
幕間の休憩時間で幾久が言うと、三吉が頷いた。
「これまではなんか妄想で補間してた部分を一気に現実にされるみたい」
音響を担当してくれているのは軽音部の先輩だ。
「でも軽音の先輩、ずっとこうして地球部にべったりで大丈夫なのかな」
三吉が心配そうに言った。
舞台の効果音は舞台の動きに合わせる必要があるので、当然舞台を見ながらになるし、その間つきっきりになる。
「タマに聞いたけど、音響やってんのキーボードの担当の人なんだって。本番のは打ち込み?ってもうプログラムされてるから、そこまで焦ることないんだって」
「へー、そうなんだ」
「今回の効果音も、かなり作ってくれたらしいよ」
「軽音、グラスエッジするんだろ?楽しみだよな」
そう言ったのは服部だ。
「恭王寮にもグラスエッジのすっげーファンの奴いるから、桜柳祭楽しみっつってた」
児玉が恭王寮を出てから、服部が代わりに呼ばれ恭王寮に移ったのだがうまくやっているのがその言葉でみてとれた。
「ああ、タマとよく喋ってるよね」
寮に居る時はそこまで互いにコンタクトを取っていなかったのだが、寮を出る際に互いがグラスエッジのファンと判った途端、意気投合したらしい。
新譜がどうの、とかライヴ行こうぜ、という話をよくしている。
「グラスエッジ、桜柳祭に来ねーかなあ」
「御空がそんなこと言うなんて珍しいね」
特撮大好きで、バンドに興味を持たなさそうなのに。
すると山田が答えた。
「今度のライダー映画の主題歌、グラスエッジがやるんだよ」
「あ、そういう……」
やっぱりライダー関係でしかなかった、と幾久は苦笑した。
(やっぱ人気あるんだなあ)
幾久は名前しかしらなかった若者に大人気だというバンド、グラスエッジはメンバーのほとんどが御門寮出身者で、五月にフェスがあった際も御門寮に泊まりに来ていた。
大人げない大人の団体で、あまりに個性的すぎる面々に幾久も振り回されっぱなしだった。
知られたら面倒も増えるから、よそには言うなよと高杉に口止めされているので幾久も自分から言うことは無い。
「確かに、音楽はカッコいいよね」
そこはまぎれもなく事実なので幾久が言うと、皆頷く。
「どうせなら桜柳祭のゲスト、グラスエッジがいいよなあ」
山田が言うと瀧川が無理無理、と笑って言った。
「今、グラスエッジはレコーディング中らしいよ。冬に新譜を出すそうだね」
「なんでタッキーが知ってんの?」
三吉が尋ねると瀧川がスマホを出して答えた。
「皆の知りたい情報は、常にフォローして調べているのさ。ビジネスには情報と時間は必須だからね」
「あーハイハイ」
「でもよく知ってるね」
幾久が感心すると服部が答えた。
「そいつ、確かに情報だけはスゲー持ってんだよ」
「ファンを増やすためには必要なことさ!僕のファンとグラスエッジのファンが重なってたら、やっぱり知らないとね」
瀧川がウィンクする。
「そういうトコ、タッキーって地球部向いてるよね」
幾久のコメントに瀧川が微笑んだ。
「僕もそう思うよ」
休憩おわったぞーという先輩の声に、一年生がぞろぞろ立ち上がった。
「さーて、やりますかあ」
「よっし!本番まであとちょっとだもんな!」
いこうぜ、と山田が幾久に声をかけ、幾久も立ち上がった。
瀧川が幾久に言った。
「幾久君。君、急に輝き始めたね。なにか心境の変化でも?」
瀧川の変わったコメントに面喰いつつも、幾久はうん、と頷いた。
「決めたんだ。自分の中で、だけど。いろいろ」
瀧川はそんなあいまいな幾久の言葉に、頷き言った。
「決意は人を輝かせるね。僕も負けていられないな」
そう言ってしゃんと背を伸ばし、舞台へ向かって歩いていく。
そんな一年生を見て、幾久も、そうだな、とほほ笑んだ。
(みんな、すっごくうまくなったもんな)
最初の頃から比べると、皆、役になりきって一生懸命するようになり、ぐんぐんと腕を上げてきた。
(オレも頑張ってやらないと!)
御堀が不在の間、地球部の事をしっかり見て覚えて、来年もきちんと不安なくできるように。
(やるぞ!)
御堀はやりたくない桜柳会に行っている。
それでも仕事はちゃんとやるのだ。
幾久も御堀の助けになりたかった。
(みてろよ、誉!)
絶対にこの数回の練習で、フォローできるくらいになってやる!
幾久はそう決心したのだった。
舞台が終わると同時に部活は終了となる。
「みんな、電源落とすわよ」
顧問の玉木の言葉に、皆慌てて講堂から出て行く。
講堂は古いつくりで、電源を落とすと本当にただ真っ暗になってしまう。
「わー、たまきん待って待って!まだ靴はいてない!」
「やっべースマホ舞台に忘れた!」
「ばっか取りに行ってこい!三秒!」
「むりだー!」
言いながらダッシュでスマホを取りに行くのは入江だ。
「万寿、また忘れ物かよ」
「いつものこと」
マグは絶対に忘れないくせにな、と皆笑う。
入江はコーヒーが好きで、学食のコーヒーを自分のマグに入れて常に持ち歩いている。
そのマグは忘れないのに、スマホをよく忘れている。
「もう落としちゃうわよー」
玉木がさーん、にーい、いーち、と言って電源を落とす。
「セーフ!」
そう言って入江が皆の所に到着した途端、講堂はまっくらな世界に包まれた。
皆でしゃべりながら歩いていると、児玉が走ってきた。
「幾久!」
「タマ、そっちも終わり?」
「そう。間に合ってよかった」
そう言って一緒に歩き出す。
大抵終わる時間は同じなので、一緒に帰ることが多い。
「御堀は?」
「まだだよ。きっと忙しいんだろうね」
「そっか。大変だな」
「でもどうせ後から話すから」
幾久が言うと、三吉がツッコミを入れた。
「うわ出た。ラブラブが」
「仕方ないだろ」
「婚約者だし?」
三吉が言うので幾久は頷いた。
「そう」
「あーあ、いっくん慌てなくなっちゃってつまんない」
以前は茶化すと慌てていたのにと三吉が残念がる。
「普が言うから慣れたんだよ」
それに、実際に御堀と抱き合ったり近づくシーンが多いので最初の頃は照れていたけど最近は全くそんなことがなくなった。
それに御堀と互いに話し合ってから、互いの距離が短くなった、というよりなくなったように感じる。
サッカーをしているせいもあるかもしれない。
どこにボールをやろうとしているのか、なにをしようとしているのか。
サッカーをしながら御堀の視線や思考回路をほどくのは面白かった。
(案外ああ見えて、直情型なんだよなあ)
御堀のポジションは攻撃に特化したポジションだ。
幾久から見れば憧れのポジションでもあるが、自分には向いていない。
時々、同じポジションのせいか多留人に似ているところがあるなとも思う。
(そういやチケット、届いてんのかな)
多留人にはすでにチケットを送付済だ。
届いたら連絡する、といっていたのでそろそろかもしれない。
桜柳寮の前で皆と別れ、幾久と児玉は二人でしゃべりながら寮へ向かう。
「久坂先輩たちは?」
「桜柳会。今日、誉に一気に叩き込むって言ってたから」
「うわ。想像しただけでプレッシャー」
一度は桜柳会から逃げられたものの、幾久の願いで御堀は再び桜柳会に参加するようになった。
御堀が舞台に戻るのは、前夜祭前のリハーサルの一度きりで、それ以外はずっと引継ぎをするそうだ。
「誉のおかげで、ハル先輩と瑞祥先輩が舞台に戻れるからそこは感謝された」
一応セリフは完璧だし、あの二人がミスをするのは考えられないのだけれど、やはり練習不足が気になったり、舞台の様子は知りたかったらしい。
「なんかあったら先輩たちが指示しなくちゃだもんな」
児玉が頷く。
「そうなんだよ。オレももー、目を皿のようにしてガン見してる」
御堀に頼まれたし、来年からは幾久が御堀の代わりに動かないとならないのだ。
まだ今の二年が三年として居てくれるとは思うが、雪充の忙しさを目の当たりにすると甘えてばかりもいられないと思う。
「地球部って、自分の練習だけしとけばいいと思ってたけど、そうでもないんだよな」
幾久は役者なので、演じる事に集中すれば良いのだが、舞台の設備やセッティング、音響やそのほかの流れ、たとえば設定で場所が変わるシーンなど、誰がなにを移動させるのか、どこに移動しておかなければならないのかを決めておく必要がある。
幕が引いて一瞬の間に、舞台をつくって変えなければならないのだ。
「実際やってみたら、けっこう面倒なんだなって思う」
見ているだけの時は気づかなかったが、照明の動きや背景や、大道具なんかを用意するのも動かすのも大変だ。
幸い、地球部にはその監督役の先輩が存在していて、そういった面倒を全部引き受けてくれていたので、幾久や役者をやる一年生はセリフを覚えたりすることに集中できる。
「一年生が主に役者をやるのって、そういう舞台全体の流れを体で把握するためもあるんだってさ」
「それでやたら華やかな役って、一年がやってんのか」
へえーと児玉が頷く。
「タマん所はどうなってんの?」
「俺の所?先輩のガチロックのバンドがやって、そっちはオリジナルとコピー。俺らは先輩と一緒に、グラスエッジのコピーだけ」
「へえー、楽しそう」
「けど、俺がアコギ練習してるって言ったらさ、時間余ったら押し付けるからそれ舞台でできるようにしとけって」
「えー?マジで?すげえ!」
「ヤダよ!俺一人でそんなんできねーよ!」
児玉は嫌がるが、幾久は大丈夫だろうと思う。
「だってタマ、ずーっと練習してるじゃん」
寮で音が気になるからと、児玉はアコースティックギターを練習している。
「あれは気分転換みたいなもん」
「それに桜柳祭でやるのはもう仕上がってんだろ?」
「仕上がってるって言えばカッコいいけど、俺のコードって簡単なやつなぞるだけだから、そこまででもねーんだよ。初心者だしな」
「え?福原先輩のまんまやらないの?」
児玉と二人なので、グラスエッジのギターである福原の名前を出すと、児玉は慌てて首を横に振った。
「できるわけねーって!あの人、おちゃらけてるっぽいけどギターの技術半端ねーから!」
「そうなんだ」
全く楽器は判らない幾久が言うと、児玉は「そうだって」と頷いた。
「打ち込みで大分フォローしてもらってて、オレのはコードをちょっとなぞるだけ。だから失敗してもそこまで気にするほど目立つこともねーんだよ」
一年生の参加するバンドのほうは、まず舞台での度胸をつけて慣れることと、楽器を人前で演奏する楽しさとかそういう事を主に経験させるのが軽音部の方向性なのだそうだ。
「エアギターとまでは言わねーけど、あの人の技術に比べたら俺のなんかそれに近いよ」
「簡単にやってそうに見えるのになあ」
幾久はフェスの時の様子を思い出すが、児玉は苦笑した。
「幾久ってグラスエッジに対する評価がかなり厳しいよな」
「や、変な人らだったからね。けっこうメーワクだったし」
ヴォーカルの集は大人しくて静かでいい人だったのだが、とにかく青木と福原の二人はやかましいし、来原は別の意味で存在がにぎやかだった。
「俺はファンだけど実際どういう人かは知らないから、何とも言い様がねーんだけど」
「いやー、正直モウリーニョとかにちょっと同情したもん。あの騒がしいのが毎日とか、さすがにこたえる」
「ハハ、あの先生が言うならよっぽどだったんだろうな」
「よっぽどだったよ」
幼稚園児より酷い、という幾久に児玉は吹き出した。
練習できるのは本番まであと数回しかなく、毎日の練習は通しでやる。
御堀が抜けている間、代役で誰かがやってくれていたので幾久は練習に不自由を感じることは無かった。
通しの舞台がはじまってから、音響も入るようになり、一層世界観が深くなる。
「効果音入ると、一気に舞台って気がしますね」
幕間の休憩時間で幾久が言うと、三吉が頷いた。
「これまではなんか妄想で補間してた部分を一気に現実にされるみたい」
音響を担当してくれているのは軽音部の先輩だ。
「でも軽音の先輩、ずっとこうして地球部にべったりで大丈夫なのかな」
三吉が心配そうに言った。
舞台の効果音は舞台の動きに合わせる必要があるので、当然舞台を見ながらになるし、その間つきっきりになる。
「タマに聞いたけど、音響やってんのキーボードの担当の人なんだって。本番のは打ち込み?ってもうプログラムされてるから、そこまで焦ることないんだって」
「へー、そうなんだ」
「今回の効果音も、かなり作ってくれたらしいよ」
「軽音、グラスエッジするんだろ?楽しみだよな」
そう言ったのは服部だ。
「恭王寮にもグラスエッジのすっげーファンの奴いるから、桜柳祭楽しみっつってた」
児玉が恭王寮を出てから、服部が代わりに呼ばれ恭王寮に移ったのだがうまくやっているのがその言葉でみてとれた。
「ああ、タマとよく喋ってるよね」
寮に居る時はそこまで互いにコンタクトを取っていなかったのだが、寮を出る際に互いがグラスエッジのファンと判った途端、意気投合したらしい。
新譜がどうの、とかライヴ行こうぜ、という話をよくしている。
「グラスエッジ、桜柳祭に来ねーかなあ」
「御空がそんなこと言うなんて珍しいね」
特撮大好きで、バンドに興味を持たなさそうなのに。
すると山田が答えた。
「今度のライダー映画の主題歌、グラスエッジがやるんだよ」
「あ、そういう……」
やっぱりライダー関係でしかなかった、と幾久は苦笑した。
(やっぱ人気あるんだなあ)
幾久は名前しかしらなかった若者に大人気だというバンド、グラスエッジはメンバーのほとんどが御門寮出身者で、五月にフェスがあった際も御門寮に泊まりに来ていた。
大人げない大人の団体で、あまりに個性的すぎる面々に幾久も振り回されっぱなしだった。
知られたら面倒も増えるから、よそには言うなよと高杉に口止めされているので幾久も自分から言うことは無い。
「確かに、音楽はカッコいいよね」
そこはまぎれもなく事実なので幾久が言うと、皆頷く。
「どうせなら桜柳祭のゲスト、グラスエッジがいいよなあ」
山田が言うと瀧川が無理無理、と笑って言った。
「今、グラスエッジはレコーディング中らしいよ。冬に新譜を出すそうだね」
「なんでタッキーが知ってんの?」
三吉が尋ねると瀧川がスマホを出して答えた。
「皆の知りたい情報は、常にフォローして調べているのさ。ビジネスには情報と時間は必須だからね」
「あーハイハイ」
「でもよく知ってるね」
幾久が感心すると服部が答えた。
「そいつ、確かに情報だけはスゲー持ってんだよ」
「ファンを増やすためには必要なことさ!僕のファンとグラスエッジのファンが重なってたら、やっぱり知らないとね」
瀧川がウィンクする。
「そういうトコ、タッキーって地球部向いてるよね」
幾久のコメントに瀧川が微笑んだ。
「僕もそう思うよ」
休憩おわったぞーという先輩の声に、一年生がぞろぞろ立ち上がった。
「さーて、やりますかあ」
「よっし!本番まであとちょっとだもんな!」
いこうぜ、と山田が幾久に声をかけ、幾久も立ち上がった。
瀧川が幾久に言った。
「幾久君。君、急に輝き始めたね。なにか心境の変化でも?」
瀧川の変わったコメントに面喰いつつも、幾久はうん、と頷いた。
「決めたんだ。自分の中で、だけど。いろいろ」
瀧川はそんなあいまいな幾久の言葉に、頷き言った。
「決意は人を輝かせるね。僕も負けていられないな」
そう言ってしゃんと背を伸ばし、舞台へ向かって歩いていく。
そんな一年生を見て、幾久も、そうだな、とほほ笑んだ。
(みんな、すっごくうまくなったもんな)
最初の頃から比べると、皆、役になりきって一生懸命するようになり、ぐんぐんと腕を上げてきた。
(オレも頑張ってやらないと!)
御堀が不在の間、地球部の事をしっかり見て覚えて、来年もきちんと不安なくできるように。
(やるぞ!)
御堀はやりたくない桜柳会に行っている。
それでも仕事はちゃんとやるのだ。
幾久も御堀の助けになりたかった。
(みてろよ、誉!)
絶対にこの数回の練習で、フォローできるくらいになってやる!
幾久はそう決心したのだった。
舞台が終わると同時に部活は終了となる。
「みんな、電源落とすわよ」
顧問の玉木の言葉に、皆慌てて講堂から出て行く。
講堂は古いつくりで、電源を落とすと本当にただ真っ暗になってしまう。
「わー、たまきん待って待って!まだ靴はいてない!」
「やっべースマホ舞台に忘れた!」
「ばっか取りに行ってこい!三秒!」
「むりだー!」
言いながらダッシュでスマホを取りに行くのは入江だ。
「万寿、また忘れ物かよ」
「いつものこと」
マグは絶対に忘れないくせにな、と皆笑う。
入江はコーヒーが好きで、学食のコーヒーを自分のマグに入れて常に持ち歩いている。
そのマグは忘れないのに、スマホをよく忘れている。
「もう落としちゃうわよー」
玉木がさーん、にーい、いーち、と言って電源を落とす。
「セーフ!」
そう言って入江が皆の所に到着した途端、講堂はまっくらな世界に包まれた。
皆でしゃべりながら歩いていると、児玉が走ってきた。
「幾久!」
「タマ、そっちも終わり?」
「そう。間に合ってよかった」
そう言って一緒に歩き出す。
大抵終わる時間は同じなので、一緒に帰ることが多い。
「御堀は?」
「まだだよ。きっと忙しいんだろうね」
「そっか。大変だな」
「でもどうせ後から話すから」
幾久が言うと、三吉がツッコミを入れた。
「うわ出た。ラブラブが」
「仕方ないだろ」
「婚約者だし?」
三吉が言うので幾久は頷いた。
「そう」
「あーあ、いっくん慌てなくなっちゃってつまんない」
以前は茶化すと慌てていたのにと三吉が残念がる。
「普が言うから慣れたんだよ」
それに、実際に御堀と抱き合ったり近づくシーンが多いので最初の頃は照れていたけど最近は全くそんなことがなくなった。
それに御堀と互いに話し合ってから、互いの距離が短くなった、というよりなくなったように感じる。
サッカーをしているせいもあるかもしれない。
どこにボールをやろうとしているのか、なにをしようとしているのか。
サッカーをしながら御堀の視線や思考回路をほどくのは面白かった。
(案外ああ見えて、直情型なんだよなあ)
御堀のポジションは攻撃に特化したポジションだ。
幾久から見れば憧れのポジションでもあるが、自分には向いていない。
時々、同じポジションのせいか多留人に似ているところがあるなとも思う。
(そういやチケット、届いてんのかな)
多留人にはすでにチケットを送付済だ。
届いたら連絡する、といっていたのでそろそろかもしれない。
桜柳寮の前で皆と別れ、幾久と児玉は二人でしゃべりながら寮へ向かう。
「久坂先輩たちは?」
「桜柳会。今日、誉に一気に叩き込むって言ってたから」
「うわ。想像しただけでプレッシャー」
一度は桜柳会から逃げられたものの、幾久の願いで御堀は再び桜柳会に参加するようになった。
御堀が舞台に戻るのは、前夜祭前のリハーサルの一度きりで、それ以外はずっと引継ぎをするそうだ。
「誉のおかげで、ハル先輩と瑞祥先輩が舞台に戻れるからそこは感謝された」
一応セリフは完璧だし、あの二人がミスをするのは考えられないのだけれど、やはり練習不足が気になったり、舞台の様子は知りたかったらしい。
「なんかあったら先輩たちが指示しなくちゃだもんな」
児玉が頷く。
「そうなんだよ。オレももー、目を皿のようにしてガン見してる」
御堀に頼まれたし、来年からは幾久が御堀の代わりに動かないとならないのだ。
まだ今の二年が三年として居てくれるとは思うが、雪充の忙しさを目の当たりにすると甘えてばかりもいられないと思う。
「地球部って、自分の練習だけしとけばいいと思ってたけど、そうでもないんだよな」
幾久は役者なので、演じる事に集中すれば良いのだが、舞台の設備やセッティング、音響やそのほかの流れ、たとえば設定で場所が変わるシーンなど、誰がなにを移動させるのか、どこに移動しておかなければならないのかを決めておく必要がある。
幕が引いて一瞬の間に、舞台をつくって変えなければならないのだ。
「実際やってみたら、けっこう面倒なんだなって思う」
見ているだけの時は気づかなかったが、照明の動きや背景や、大道具なんかを用意するのも動かすのも大変だ。
幸い、地球部にはその監督役の先輩が存在していて、そういった面倒を全部引き受けてくれていたので、幾久や役者をやる一年生はセリフを覚えたりすることに集中できる。
「一年生が主に役者をやるのって、そういう舞台全体の流れを体で把握するためもあるんだってさ」
「それでやたら華やかな役って、一年がやってんのか」
へえーと児玉が頷く。
「タマん所はどうなってんの?」
「俺の所?先輩のガチロックのバンドがやって、そっちはオリジナルとコピー。俺らは先輩と一緒に、グラスエッジのコピーだけ」
「へえー、楽しそう」
「けど、俺がアコギ練習してるって言ったらさ、時間余ったら押し付けるからそれ舞台でできるようにしとけって」
「えー?マジで?すげえ!」
「ヤダよ!俺一人でそんなんできねーよ!」
児玉は嫌がるが、幾久は大丈夫だろうと思う。
「だってタマ、ずーっと練習してるじゃん」
寮で音が気になるからと、児玉はアコースティックギターを練習している。
「あれは気分転換みたいなもん」
「それに桜柳祭でやるのはもう仕上がってんだろ?」
「仕上がってるって言えばカッコいいけど、俺のコードって簡単なやつなぞるだけだから、そこまででもねーんだよ。初心者だしな」
「え?福原先輩のまんまやらないの?」
児玉と二人なので、グラスエッジのギターである福原の名前を出すと、児玉は慌てて首を横に振った。
「できるわけねーって!あの人、おちゃらけてるっぽいけどギターの技術半端ねーから!」
「そうなんだ」
全く楽器は判らない幾久が言うと、児玉は「そうだって」と頷いた。
「打ち込みで大分フォローしてもらってて、オレのはコードをちょっとなぞるだけ。だから失敗してもそこまで気にするほど目立つこともねーんだよ」
一年生の参加するバンドのほうは、まず舞台での度胸をつけて慣れることと、楽器を人前で演奏する楽しさとかそういう事を主に経験させるのが軽音部の方向性なのだそうだ。
「エアギターとまでは言わねーけど、あの人の技術に比べたら俺のなんかそれに近いよ」
「簡単にやってそうに見えるのになあ」
幾久はフェスの時の様子を思い出すが、児玉は苦笑した。
「幾久ってグラスエッジに対する評価がかなり厳しいよな」
「や、変な人らだったからね。けっこうメーワクだったし」
ヴォーカルの集は大人しくて静かでいい人だったのだが、とにかく青木と福原の二人はやかましいし、来原は別の意味で存在がにぎやかだった。
「俺はファンだけど実際どういう人かは知らないから、何とも言い様がねーんだけど」
「いやー、正直モウリーニョとかにちょっと同情したもん。あの騒がしいのが毎日とか、さすがにこたえる」
「ハハ、あの先生が言うならよっぽどだったんだろうな」
「よっぽどだったよ」
幼稚園児より酷い、という幾久に児玉は吹き出した。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる