【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【13】随処為主~王子様の作り方

主人公だから輝かないとw

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 御堀が桜柳会に参加することになり、その分、高杉と久坂に余裕ができた。
 練習できるのは本番まであと数回しかなく、毎日の練習は通しでやる。
 御堀が抜けている間、代役で誰かがやってくれていたので幾久は練習に不自由を感じることは無かった。
 通しの舞台がはじまってから、音響も入るようになり、一層世界観が深くなる。
「効果音入ると、一気に舞台って気がしますね」
 幕間の休憩時間で幾久が言うと、三吉が頷いた。
「これまではなんか妄想で補間してた部分を一気に現実にされるみたい」
 音響を担当してくれているのは軽音部の先輩だ。
「でも軽音の先輩、ずっとこうして地球部にべったりで大丈夫なのかな」
 三吉が心配そうに言った。
 舞台の効果音は舞台の動きに合わせる必要があるので、当然舞台を見ながらになるし、その間つきっきりになる。
「タマに聞いたけど、音響やってんのキーボードの担当の人なんだって。本番のは打ち込み?ってもうプログラムされてるから、そこまで焦ることないんだって」
「へー、そうなんだ」
「今回の効果音も、かなり作ってくれたらしいよ」
「軽音、グラスエッジするんだろ?楽しみだよな」
 そう言ったのは服部だ。
「恭王寮にもグラスエッジのすっげーファンの奴いるから、桜柳祭楽しみっつってた」
 児玉が恭王寮を出てから、服部が代わりに呼ばれ恭王寮に移ったのだがうまくやっているのがその言葉でみてとれた。
「ああ、タマとよく喋ってるよね」
 寮に居る時はそこまで互いにコンタクトを取っていなかったのだが、寮を出る際に互いがグラスエッジのファンと判った途端、意気投合したらしい。
 新譜がどうの、とかライヴ行こうぜ、という話をよくしている。
「グラスエッジ、桜柳祭に来ねーかなあ」
「御空がそんなこと言うなんて珍しいね」
 特撮大好きで、バンドに興味を持たなさそうなのに。
 すると山田が答えた。
「今度のライダー映画の主題歌、グラスエッジがやるんだよ」
「あ、そういう……」
 やっぱりライダー関係でしかなかった、と幾久は苦笑した。
(やっぱ人気あるんだなあ)
 幾久は名前しかしらなかった若者に大人気だというバンド、グラスエッジはメンバーのほとんどが御門寮出身者で、五月にフェスがあった際も御門寮に泊まりに来ていた。
 大人げない大人の団体で、あまりに個性的すぎる面々に幾久も振り回されっぱなしだった。
 知られたら面倒も増えるから、よそには言うなよと高杉に口止めされているので幾久も自分から言うことは無い。
「確かに、音楽はカッコいいよね」
 そこはまぎれもなく事実なので幾久が言うと、皆頷く。
「どうせなら桜柳祭のゲスト、グラスエッジがいいよなあ」
 山田が言うと瀧川が無理無理、と笑って言った。
「今、グラスエッジはレコーディング中らしいよ。冬に新譜を出すそうだね」
「なんでタッキーが知ってんの?」
 三吉が尋ねると瀧川がスマホを出して答えた。
「皆の知りたい情報は、常にフォローして調べているのさ。ビジネスには情報と時間は必須だからね」
「あーハイハイ」
「でもよく知ってるね」
 幾久が感心すると服部が答えた。
「そいつ、確かに情報だけはスゲー持ってんだよ」
「ファンを増やすためには必要なことさ!僕のファンとグラスエッジのファンが重なってたら、やっぱり知らないとね」
 瀧川がウィンクする。
「そういうトコ、タッキーって地球部向いてるよね」
 幾久のコメントに瀧川が微笑んだ。
「僕もそう思うよ」
 休憩おわったぞーという先輩の声に、一年生がぞろぞろ立ち上がった。
「さーて、やりますかあ」
「よっし!本番まであとちょっとだもんな!」
 いこうぜ、と山田が幾久に声をかけ、幾久も立ち上がった。
 瀧川が幾久に言った。
「幾久君。君、急に輝き始めたね。なにか心境の変化でも?」
 瀧川の変わったコメントに面喰いつつも、幾久はうん、と頷いた。
「決めたんだ。自分の中で、だけど。いろいろ」
 瀧川はそんなあいまいな幾久の言葉に、頷き言った。
「決意は人を輝かせるね。僕も負けていられないな」
 そう言ってしゃんと背を伸ばし、舞台へ向かって歩いていく。
 そんな一年生を見て、幾久も、そうだな、とほほ笑んだ。
(みんな、すっごくうまくなったもんな)
 最初の頃から比べると、皆、役になりきって一生懸命するようになり、ぐんぐんと腕を上げてきた。
(オレも頑張ってやらないと!)
 御堀が不在の間、地球部の事をしっかり見て覚えて、来年もきちんと不安なくできるように。
(やるぞ!)
 御堀はやりたくない桜柳会に行っている。
 それでも仕事はちゃんとやるのだ。
 幾久も御堀の助けになりたかった。
(みてろよ、誉!)
 絶対にこの数回の練習で、フォローできるくらいになってやる!
 幾久はそう決心したのだった。


 舞台が終わると同時に部活は終了となる。
「みんな、電源落とすわよ」
 顧問の玉木の言葉に、皆慌てて講堂から出て行く。
 講堂は古いつくりで、電源を落とすと本当にただ真っ暗になってしまう。
「わー、たまきん待って待って!まだ靴はいてない!」
「やっべースマホ舞台に忘れた!」
「ばっか取りに行ってこい!三秒!」
「むりだー!」
 言いながらダッシュでスマホを取りに行くのは入江だ。
「万寿、また忘れ物かよ」
「いつものこと」
 マグは絶対に忘れないくせにな、と皆笑う。
 入江はコーヒーが好きで、学食のコーヒーを自分のマグに入れて常に持ち歩いている。
 そのマグは忘れないのに、スマホをよく忘れている。
「もう落としちゃうわよー」
 玉木がさーん、にーい、いーち、と言って電源を落とす。
「セーフ!」
 そう言って入江が皆の所に到着した途端、講堂はまっくらな世界に包まれた。

 皆でしゃべりながら歩いていると、児玉が走ってきた。
「幾久!」
「タマ、そっちも終わり?」
「そう。間に合ってよかった」
 そう言って一緒に歩き出す。
 大抵終わる時間は同じなので、一緒に帰ることが多い。
「御堀は?」
「まだだよ。きっと忙しいんだろうね」
「そっか。大変だな」
「でもどうせ後から話すから」
 幾久が言うと、三吉がツッコミを入れた。
「うわ出た。ラブラブが」
「仕方ないだろ」
「婚約者だし?」
 三吉が言うので幾久は頷いた。
「そう」
「あーあ、いっくん慌てなくなっちゃってつまんない」
 以前は茶化すと慌てていたのにと三吉が残念がる。
「普が言うから慣れたんだよ」
 それに、実際に御堀と抱き合ったり近づくシーンが多いので最初の頃は照れていたけど最近は全くそんなことがなくなった。
 それに御堀と互いに話し合ってから、互いの距離が短くなった、というよりなくなったように感じる。
 サッカーをしているせいもあるかもしれない。
 どこにボールをやろうとしているのか、なにをしようとしているのか。
 サッカーをしながら御堀の視線や思考回路をほどくのは面白かった。
(案外ああ見えて、直情型なんだよなあ)
 御堀のポジションは攻撃に特化したポジションだ。
 幾久から見れば憧れのポジションでもあるが、自分には向いていない。
 時々、同じポジションのせいか多留人に似ているところがあるなとも思う。
(そういやチケット、届いてんのかな)
 多留人にはすでにチケットを送付済だ。
 届いたら連絡する、といっていたのでそろそろかもしれない。
 桜柳寮の前で皆と別れ、幾久と児玉は二人でしゃべりながら寮へ向かう。
「久坂先輩たちは?」
「桜柳会。今日、誉に一気に叩き込むって言ってたから」
「うわ。想像しただけでプレッシャー」
 一度は桜柳会から逃げられたものの、幾久の願いで御堀は再び桜柳会に参加するようになった。
 御堀が舞台に戻るのは、前夜祭前のリハーサルの一度きりで、それ以外はずっと引継ぎをするそうだ。
「誉のおかげで、ハル先輩と瑞祥先輩が舞台に戻れるからそこは感謝された」
 一応セリフは完璧だし、あの二人がミスをするのは考えられないのだけれど、やはり練習不足が気になったり、舞台の様子は知りたかったらしい。
「なんかあったら先輩たちが指示しなくちゃだもんな」
 児玉が頷く。
「そうなんだよ。オレももー、目を皿のようにしてガン見してる」
 御堀に頼まれたし、来年からは幾久が御堀の代わりに動かないとならないのだ。
 まだ今の二年が三年として居てくれるとは思うが、雪充の忙しさを目の当たりにすると甘えてばかりもいられないと思う。
「地球部って、自分の練習だけしとけばいいと思ってたけど、そうでもないんだよな」
 幾久は役者なので、演じる事に集中すれば良いのだが、舞台の設備やセッティング、音響やそのほかの流れ、たとえば設定で場所が変わるシーンなど、誰がなにを移動させるのか、どこに移動しておかなければならないのかを決めておく必要がある。
 幕が引いて一瞬の間に、舞台をつくって変えなければならないのだ。
「実際やってみたら、けっこう面倒なんだなって思う」
 見ているだけの時は気づかなかったが、照明の動きや背景や、大道具なんかを用意するのも動かすのも大変だ。
 幸い、地球部にはその監督役の先輩が存在していて、そういった面倒を全部引き受けてくれていたので、幾久や役者をやる一年生はセリフを覚えたりすることに集中できる。
「一年生が主に役者をやるのって、そういう舞台全体の流れを体で把握するためもあるんだってさ」
「それでやたら華やかな役って、一年がやってんのか」
 へえーと児玉が頷く。
「タマん所はどうなってんの?」
「俺の所?先輩のガチロックのバンドがやって、そっちはオリジナルとコピー。俺らは先輩と一緒に、グラスエッジのコピーだけ」
「へえー、楽しそう」
「けど、俺がアコギ練習してるって言ったらさ、時間余ったら押し付けるからそれ舞台でできるようにしとけって」
「えー?マジで?すげえ!」
「ヤダよ!俺一人でそんなんできねーよ!」
 児玉は嫌がるが、幾久は大丈夫だろうと思う。
「だってタマ、ずーっと練習してるじゃん」
 寮で音が気になるからと、児玉はアコースティックギターを練習している。
「あれは気分転換みたいなもん」
「それに桜柳祭でやるのはもう仕上がってんだろ?」
「仕上がってるって言えばカッコいいけど、俺のコードって簡単なやつなぞるだけだから、そこまででもねーんだよ。初心者だしな」
「え?福原先輩のまんまやらないの?」
 児玉と二人なので、グラスエッジのギターである福原の名前を出すと、児玉は慌てて首を横に振った。
「できるわけねーって!あの人、おちゃらけてるっぽいけどギターの技術半端ねーから!」
「そうなんだ」
 全く楽器は判らない幾久が言うと、児玉は「そうだって」と頷いた。
「打ち込みで大分フォローしてもらってて、オレのはコードをちょっとなぞるだけ。だから失敗してもそこまで気にするほど目立つこともねーんだよ」
 一年生の参加するバンドのほうは、まず舞台での度胸をつけて慣れることと、楽器を人前で演奏する楽しさとかそういう事を主に経験させるのが軽音部の方向性なのだそうだ。
「エアギターとまでは言わねーけど、あの人の技術に比べたら俺のなんかそれに近いよ」
「簡単にやってそうに見えるのになあ」
 幾久はフェスの時の様子を思い出すが、児玉は苦笑した。
「幾久ってグラスエッジに対する評価がかなり厳しいよな」
「や、変な人らだったからね。けっこうメーワクだったし」
 ヴォーカルの集は大人しくて静かでいい人だったのだが、とにかく青木と福原の二人はやかましいし、来原は別の意味で存在がにぎやかだった。
「俺はファンだけど実際どういう人かは知らないから、何とも言い様がねーんだけど」
「いやー、正直モウリーニョとかにちょっと同情したもん。あの騒がしいのが毎日とか、さすがにこたえる」
「ハハ、あの先生が言うならよっぽどだったんだろうな」
「よっぽどだったよ」
 幼稚園児より酷い、という幾久に児玉は吹き出した。
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