【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【13】随処為主~王子様の作り方

先輩みたいになりたい

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「オレ、地球部本腰いれてやるつもりだけどさ、地元じゃねーじゃん。だからハル先輩みたいに友達もいねーし、正直なにやっていいのかもわかんないし。音響はタマがいてくれるからいいんだけど」
 地元出身なら、友人が居たり、手助けしてくれる人もいるのかもしれないが、高校からこっちに来た幾久に知り合いなんて数えるほどしか居ない。
「ハル先輩がいる来年まではどうにかなるかもだけど、三年になったらどうしようとか」
「んな先のことまで考えてんのか?」
 驚く児玉に幾久は頷く。
「だって早くしとかないとさ、先輩らに追い付けない」
 確かに高杉も久坂も、幾久が思ったような大人ではなかった。
 だけど、必死にもがいて大人をやっていると気づいた今となっては、自分はこれから何をすればいいのだろうかと思う。
 中学生のころから兄の為に、必死でがんばってきた久坂と高杉に比べ、自分は何も考えず流されてばかりだった。
 今までもそこまで考えてきたわけじゃない。
 だから、今からでもどうにかしたい。
「なんとか先輩らのマネくらいは出来るようになりたいんだよ」
 幾久の言葉に児玉は頷いた。
「判った。じゃあ俺も協力する。来年は本腰入れて、お前んとこの音響できるようになっとく」
「助かるよ、タマ」
「でもさあ、そこまで難しく考える必要ねーんじゃねえの?」
 ごはんのおかわりをよそいながら、児玉は言った。
「だって伝統建築科って、殆ど報国寮だろ?」
 伝統建築科は、報国院でもやや毛色の違う科だ。
 神社や仏閣の建築をするために入る科で、成績に関係なくその科は全員が千鳥クラスと同じ扱いだった。
 その割に大学や専門学校の進学率が高いので、授業は鷹や鳳に交じっていることもある。
 報国寮は広く、作業場もあるということで、伝統建築科の生徒はそのほとんどが報国寮に所属している。
「だったら、トシがいるだろ」
「あ、そか!」
 伊藤はずっと報国寮に所属していて、あれこれ先輩に用事を押し付けられて文句を言っているものの、傍から見れば頼りにされているのが判る。
「あいつは顔も広いし、頼めばやってくれるから、なんかあれば頼めばいい。今回だってSPに参加してんだろ?」
「そっか。トシがいたわ、そういえば」
「映像研究はガタ先輩だろ?だったら後輩紹介してもらえばいいし、他の部活だって誰か探せばどっかで繋がるだろ」
「そっか。そうだよな」
 地元じゃない自分と御堀で頑張ろうにも、どうすればいいのかちっとも判らなかったけれど、そう言われればなんだか急に出来るような気がしてきた。
「タマって頼りになるわー」
「よせよ」
「でもホント、助かるわ。偶然だけど、オレって運がいいなあ」
 たまたま鳩で、たまたまトシが関わってくれて、報国寮で。
「地元じゃねーのに、なんかすごいラッキー」
「そう思ってるの、お前だけなんじゃないか?」
 児玉の言葉に幾久は顔を上げた。
「なにが?」
「だって言ったろ。このあたりじゃ『乃木さん』はみんな親しみを持ってるって。お前は東京から来たって思ってるかもだけど、帰ってきたって思ってる連中も多いからな」
「―――――……そっか」
 多分これが、夏の頃なら、幾久は素直に喜べなかっただろう。
 めずらしいもののように見世物にされて、いいように使われた。
 だけど今は、それだけとは思わない。
「正直、そういうの面倒くさいって思ってたけど」
 知らない事を言われたり、先祖がどうこうという面倒を押し付けられるのも嫌だった。
 関係ないと思っていたし、今だってそう思っている。
 だけど、寮が同じだとか、後輩だとか、部活だからとか。
 そんな理由で先輩たちは簡単に手を差し伸べて助けてくれる。
「先祖がどうこうっていうのは正直よく判んないんだけど、先輩がどうこうっていうのは、なんか判る気がする」
 監督の周布の言葉を幾久は思い出していた。

『俺らだって先輩にそうして貰ってんだから。お前らは後輩にしてやればい。報国院で面白かったなって思って貰えたら、先輩のかいがある』

「オレも、先輩みたいになりたい。後輩になんか協力できるような先輩に来年はなっておきたい」
 我儘でなにも知らなくて考えもなかった自分に、当たり前のように手を差し伸べてきた先輩達みたいに、自分もなにかできるようになりたい。
「俺はやっぱ杉松さんかなあ。あんな風な大人になりたい」
 児玉は憧れをためらいなく口に出す。
「タマならなれるよ」
「おー。目指すわマジで。そのためにも、桜柳祭終わったら鳳だな」
「うん」
 二人で鳳を目指して、来期はきっとあのタイを締めよう。
「鳳になったら、真っ先に雪ちゃん先輩のとこにいかないと」
「そうだな」
 二人で喋っているうちに食事は終わり、さて、コーヒーでも入れるかと思った所で玄関から声がした。
「ただいま」
「いま帰ったぞ」
 久坂と高杉の声だ。
 桜柳会が終わってやっと帰ってきたのだろう。
「おかえりなさーい」
「飯っすか?それとも風呂にされます?」
 児玉の質問に久坂が答えた。
「ご飯先にするよ。もうへとへとだ」
 玄関に腰を下ろす久坂に、幾久が二人の荷物を抱えた。
「居間おいときます」
「頼む」
 高杉もそう言って靴を脱いだ。
 二人は制服のままダイニングへ向かい、幾久は鞄を居間へ移動させ、ダイニングへと戻った。
「お疲れ様っす。遅かったっすね」
「明日の支度があるからのう。栄人は帰って来ちょらんのか?」
「まだっすね」
「チケットの支度やなんかあるんだろ。あそこは当日もめちゃくちゃ忙しいからね」
 めずらしくぐったりした久坂に、幾久と児玉は二人で食事の支度を始めた。
「明日、どうなるんすかね」
 幾久が言うと高杉が答えた。
「覚悟だけはしちょけ。相当忙しいぞ」
「そう。明日は撮影会もあるしね」
 舞台は一回しかないが、その後撮影会があり、希望者は前売りチケットを優先として役者との撮影が行われる。
「いっくん、しっかり磨いておくんだよ?」
「そうじゃぞ、大事な稼ぎ頭じゃからのう」
「オレより誉のほうが凄いっすよ、きっと」
 王子様然とした御堀の姿はきっと写真でも栄えるだろう。
 ファンクラブだって大人気になるに違いない。
「前売りのポラセットは完売してるけど、当日行ける限りはポラの販売するからね」
「来年の為に稼がんと、後輩に責められるぞ」
 久坂と高杉の言葉に幾久は笑って言った。
「大丈夫っすよ、誉がいるっすもん」
「まー、確かにあれは人気でるよな」
 児玉も頷く。
「幾久が言う王子さまっての、全然大げさじゃなかった」
「だろ?あれスゲーよ」
「でもお前だって可愛いかったぞ。人気出ると思う」
 大真面目に答える児玉に幾久は首を横に振った。
「まっさかあ。だとしたら誉のオマケみたいなもんだよ」
「そっか?かなり可愛い感じだったけど」
「タマはいー奴だなあ。やっぱまっつん先輩のおかげかな。衣装すげーし」
「確かに衣装凄かったわ」
 けど、と児玉は舞台を見た感想を素直に告げた。
「先輩らもスゲーかっこよかったっす。ハル先輩は威厳があるし、久坂先輩はなんか本物っぽかったし」
 高杉は領主で、久坂は神父の役、どちらとも物語では立場が上で、特に久坂はキーパーソンとなる役だ。
「ありがとう。タマ後輩」
「うす」
「お前も中々上手じゃったぞ」
 高杉が児玉のバンドの事に触れると、児玉は顔を赤くして首を横に振った。
「イヤイヤ、あれも先輩が打ち込みしてフォローしてくれてるから、自信持ってできただけで」
「タマ、めっちゃ盛り上がってたよねそういえば」
 児玉の演奏を見ていた幾久が言うと児玉は顔を真っ赤にする。
「やめろって。明日キンチョーすっだろ」
 それより、と児玉は話題を変えた。
「学院長のライブ、かっこよかったよな?」
「えー……?えー?」
 幾久にとってはしろくまを奢ってくれたけど、やたら雰囲気の怖いおじさんが、まさか学院長だとは思わなかった。
 しかもゴリゴリのロックで父の後輩とも知らなかった。
 一体父は、学生の頃報国院でどういった付き合いをしていたのだろうか。
「なんだよ、スゲーロックで良かったじゃん!」
 ロックが好きな児玉はそう言っているが、幾久はまさかあのノリの人が学院長なんて、とちょっと引いた。
「なんかタマとそこだけは相入れないわー」
「お前もっとロック聞けよ」
「グラスエッジ聞いてる」
「もっと聞けよ」
「えー、めんどい」
 そう話していると、玄関から声がした。
「ただいまー、もう限界!誰か引っ張り上げてー、いっくんー!」
「あ、栄人先輩だ」
「幾久、ご指名だぞ」
「えー、しょうがないなあ。はいはい、栄人先輩、おかえんなさーい」
 玄関に向かって歩く幾久に、高杉と久坂は顔を見合わせて、笑ったのだった。




 随処為主・終わり
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