199 / 416
【14】星羅雲布~わたしの星の王子様
美形姉弟の姉、現る
しおりを挟む
写真撮影は大盛況で終わった。
撮影場所の教室から、幾久達は衣装を着替える為に講堂の控室へ向かった。
「つっかれたー」
お客さんの姿が見えなくなってやっと、幾久はほっとそう呟く。
「ほんと、大変だったね」
御堀も苦笑して言う。
撮影を希望するのはロミオとジュリエットの二人と、というのが一番多かったのだが、二年の久坂と高杉のコンビも人気だった。
最初はロミオとジュリエットと写真を撮って、次に追加チケットを購入して高杉達と撮ると言う人もかなり居た。
おかげでブロマイドやポスターの売り上げも上々、梅屋はずっとごきげんらしい。
ただ、何時間もずっとにこにこして写真を撮り続けるのはけっこう大変だった。
幾久は痛くなった頬を手で揉みながら言った。
「もう顔筋肉痛になってる。いたーい」
「僕もちょっと痛いなあ」
さすがに御堀も頬を押さえている。
「芸能人ってすげーな。こんなんしたら顔の筋肉鍛えられそう」
ずっと笑顔でにこにこしているのも大変なんだなあと幾久は頬を撫でながら思う。
「楽な商売はないってことだね」
御堀はなぜか嬉しそうだ。
「誉、ご機嫌だね」
「疲れたけど楽しいからね。あと儲かったし」
「そこかよ」
さすが経済研究部、頭の中ではしっかり数を叩いているらしい。
「勿論。あと幾にはサインもお願いしなくちゃだしね」
「誉会かあ。なんか迫力あるおばさん達だったね」
「……僕の前ではいいけど、本人にはおばさんじゃなくて、奥様って言ってあげて」
「オクサマか。わかった」
御堀の立場もあるので、そこは気を付けておこうと幾久は頷く。
着替えていると山田に声をかけられた。
「幾、お前この後どうすんの?すぐ帰る?店回る?」
「うーん、別になにも考えてなかった」
今日は多留人が来るのでそっちにばかり気がいって、舞台の後どうこうなんて考えていなかった。
撮影会には杷子が遊びに来て、時山が多留人をバス停まで送ってくれたことは聞いていたし、杷子も気にしなくていいよ、夏の恩返しと言っていたので特に挨拶も必要ない。
「先輩らは桜柳会っすか?」
高杉と久坂に尋ねると、高杉がはっとして言った。
「そうじゃった、忘れちょった。幾久、お前着替えたら雪に連絡せえ」
「雪ちゃん先輩に、っすか?」
「用事があるとか言っちょったぞ。着替えたら連絡してやってくれ」
「ウス」
「御堀は桜柳会にちょっと顔出してくれ。雪が抜ける間、代わりをせんと」
「判りました」
「なんだー、雪ちゃん先輩からお誘いだったら絶対に幾、そっちじゃん」
山田ががっかりしたように言うので幾久も頷いた。
「絶対に雪ちゃん先輩」
「だよなー」
しかし、忙しい雪充がわざわざ幾久を呼ぶのなら大切な用事なのだろう。
(一体、何だろ?)
首を傾げていると、玉木が言った。
「はぁい小鳥ちゃん達、お喋りしてると時間がいくらあっても足りないわよ」
はぁーい、と生徒たちが返事をする。
「明日は二回まわしなんだから、今日はゆっくり休むのよ?」
「わかってまーす」
そう言いながらも、今から遊ぶつもり満々なのは見てとれた。
「ほんと、小鳥ちゃん達は元気ねえ」
しかし玉木は注意するでもなく、にこにことほほ笑んで言った。
「明日は遅刻せずに来るのよ?」
「はーい」
みな返事だけはちゃんとしているのだった。
さて、着替えを済ませた幾久は雪充に呼ばれ、校舎の外へ向かっていた。
暗くなっていても境内の中はまだ営業時間で、どこも祭りのように賑やかだ。
雪充と待ち合わせたのは神社の境内にある、マスターの担当するコーヒー屋台の前だった。
「雪ちゃん先輩!」
コーヒー屋台の前に雪充を見つけ、近寄る。
「ごめんね、忙しいのに呼び出して」
「そんなん全然いいっす!」
ぶんぶんと首を横に振ると、屋台にいたマスターが声をかけてきた。
「よっ、いっくん!舞台よかったぞ!」
「あざっす」
「いやー、見事なジュリエットぶりでほれぼれしたよ俺は!あと衣装も凄かったな!」
「うす」
確かに衣装は自慢できるくらい凄かったので頷く。
「あんなに赤い衣装が似合うのはいっくんか中邑真輔くらいのもんだろうな!」
「すみません、わかりません」
すーんと答えると、隣から声がした。
「おめーsiriかよ」
「毛利先生。三吉先生も」
なぜか店の陰に毛利も三吉も居た。六花もだ。
「六花さん!」
「はぁい少年。ジュリエットめちゃくちゃ可愛いかったわぁ」
うふふ、と楽しそうに笑っている六花さんは相変わらずの存在感だ。
「脚本が良かったッス」
幾久が言うと六花はにやっと笑って「その通りだけど」と得意げだ。
「いやー狙ったところでどっかんどっかん来るのはものすごい楽しかったわあ」
「おかげですげー評判いっす。それより先生たちは休憩っすか?」
「コーヒーしか飲むものがなくて」
三吉がため息交じりで言うと毛利が言った。
「いやお前、いま学校の行事中よ?酒はやめろ酒は。コーラにしときなさい!お母さんのいう事聞いて?」
「誰がお母さんですか」
言いながら三吉は毛利の耳を引っ張る。
「いででで!やめろって!」
なるほど、見回りが面倒だか飽きただかでサボってるんだなと幾久は納得した。
「それより雪ちゃん先輩、用事って」
「うん、実は僕、姉がいるんだけど」
「はい」
雪充に姉がいるというのは聞いたことがある。
高杉と久坂が言うには、ものすごい美人だが性格も凄く、毎日が修羅場とか怖い事を言っていた。
「実はうちの姉がね、いっくんを見たいと」
「へ?」
「杉松さんに似てるって聞いてさ、どうしても見てみたいと聞かなくて。我儘で申し訳ないんだけど」
「あ、そういう事っすか。別にいっすけど」
どこかな、と見渡すと雪充が笑った。
「いま違う場所にいるんだ。杉松さんに似てるから見たい、なんて失礼だから、いっくんがOK出さないと見ないって」
「律儀な人っすね」
そんなの別にいいのに、と幾久は言うが雪充は微笑んだ。
「いっくんならそういってくれると思ったよ。じゃあ、姉を呼んでいいね?」
「うす」
幾久が頷くと、雪充はスマホを手に取った。
「あ、姉さん?いっくんだけどOKだって」
雪充が言うと同時に、苦笑する。
「返事もないから、すぐこっちに向かってると思うよ」
「う、うす」
そこまで期待されても、そうでもなかったら困るかもと幾久は思う。
(似てなかったら困るな、なんて思ったのは初めてだなあ)
いつも似ていると言われて、杉松本人の写真も見たけれど、自分ではそうかなあ、という印象しかない。
それより雪充の姉は相当な美人だと聞いているので、そっちのほうがワクワクする。
「あ、来た」
雪充が言うので、そっちを見ると、女性が走ってこちらへやってきて、足を止めた。
「!」
幾久は驚く。
そこには、筆舌に尽くしがたいというほどの、すさまじく美しく気が強そうなお姉さんが立っていた。
エンジ色のショールにバッグ、黒のジャケットにグレーの細身のパンツに高いヒール。
きらきらしたアクセサリーも目を引くが、なにより凄いのは本当に華やかな、派手なその雰囲気だった。
白い肌、黒く長い髪はくるんとうねり、きりっとした眉、目はぱっちりとして薄茶色の瞳が雪充によく似ている。
雪充もイケメンだがお姉さんも相当だ。
びっくりするくらいの美人で、これはすれ違ったら思わず女優さんかと思って振り返ってしまう。
じっと黙って幾久を見つめる雪充の姉に、幾久はつい言ってしまった。
「すっごい、びじん」
心底感嘆して出た言葉に、雪充の姉はじっと幾久を見つめて言った。
「雪充」
「はい」
「おめーじゃねえよ」
隣に居る雪充に女性は言うと、幾久の両肩に手を置いた。
「雪充」
「へ?」
「君は今日から私の弟だ」
「へ?は?」
幾久は驚き、お姉さんと雪充を交互に見つめるも、雪充は苦笑いするばかりだ。
「さ、一緒に帰ろうね、雪充」
にこにことほほ笑んで言うお姉さんに雪充が言った。
「姉さん、いっくんは寮に帰るんだよ」
「お前は誰だ。私の雪充はこの子だ」
まるでコントみたいな事をはじめて、お姉さんは幾久の肩に手を置いてずっと雪充と喋っている。
外見はこんなにすばらしく美しいのに、面白い人なんだな、と幾久は思う。
じっとお姉さんを見ていると、雪充の姉は微笑んで尋ねた。
「どうしたの?雪充」
そういって幾久の頭を撫でるお姉さんに、ひょっとしてこのノリ、ウィステリアじゃないのかと思う。
(いや、間違いなくそうだな、絶対にそうだ)
そう確信すると、知った人のように思えて幾久は言った。
「あの、」
「なあに雪」
お姉さんは幾久を弟の名前で呼ぶのをやめない。
「オレ、雪ちゃん先輩も兄弟のほうがいいっす」
うん?とお姉さんは首を傾げた。
「雪ちゃん先輩の弟になりたいっす」
すると雪充の姉は、ふっと笑って雪充に言った。
「雪、喜べ。弟が出来たぞ」
「いっくんなら別にかまいませんが」
「やったー!オレ雪ちゃん先輩の弟だー!」
そう素直に喜ぶと、お姉さんはがっと幾久を抱き寄せた。
「なんなのこれ!めちゃくちゃ可愛いじゃないの!」
「だからそう言ったでしょ」
苦笑いしながらそう言ったのは六花だ。
雪充の姉は頬を膨らませながら六花に言った。
「六花先輩ずるい!いっくん本当に可愛いじゃないですかぁ!くださいよ!」
「いや、私のじゃないからね」
「可愛い可愛い、ほんっと可愛い!」
そういって雪充の姉は幾久の頭を何度も何度も撫でている。
「杉松に似てるだろ?」
六花が笑って言うと、急に静かになり、ぼそりと呟いた。
「……凄く似てます」
撮影場所の教室から、幾久達は衣装を着替える為に講堂の控室へ向かった。
「つっかれたー」
お客さんの姿が見えなくなってやっと、幾久はほっとそう呟く。
「ほんと、大変だったね」
御堀も苦笑して言う。
撮影を希望するのはロミオとジュリエットの二人と、というのが一番多かったのだが、二年の久坂と高杉のコンビも人気だった。
最初はロミオとジュリエットと写真を撮って、次に追加チケットを購入して高杉達と撮ると言う人もかなり居た。
おかげでブロマイドやポスターの売り上げも上々、梅屋はずっとごきげんらしい。
ただ、何時間もずっとにこにこして写真を撮り続けるのはけっこう大変だった。
幾久は痛くなった頬を手で揉みながら言った。
「もう顔筋肉痛になってる。いたーい」
「僕もちょっと痛いなあ」
さすがに御堀も頬を押さえている。
「芸能人ってすげーな。こんなんしたら顔の筋肉鍛えられそう」
ずっと笑顔でにこにこしているのも大変なんだなあと幾久は頬を撫でながら思う。
「楽な商売はないってことだね」
御堀はなぜか嬉しそうだ。
「誉、ご機嫌だね」
「疲れたけど楽しいからね。あと儲かったし」
「そこかよ」
さすが経済研究部、頭の中ではしっかり数を叩いているらしい。
「勿論。あと幾にはサインもお願いしなくちゃだしね」
「誉会かあ。なんか迫力あるおばさん達だったね」
「……僕の前ではいいけど、本人にはおばさんじゃなくて、奥様って言ってあげて」
「オクサマか。わかった」
御堀の立場もあるので、そこは気を付けておこうと幾久は頷く。
着替えていると山田に声をかけられた。
「幾、お前この後どうすんの?すぐ帰る?店回る?」
「うーん、別になにも考えてなかった」
今日は多留人が来るのでそっちにばかり気がいって、舞台の後どうこうなんて考えていなかった。
撮影会には杷子が遊びに来て、時山が多留人をバス停まで送ってくれたことは聞いていたし、杷子も気にしなくていいよ、夏の恩返しと言っていたので特に挨拶も必要ない。
「先輩らは桜柳会っすか?」
高杉と久坂に尋ねると、高杉がはっとして言った。
「そうじゃった、忘れちょった。幾久、お前着替えたら雪に連絡せえ」
「雪ちゃん先輩に、っすか?」
「用事があるとか言っちょったぞ。着替えたら連絡してやってくれ」
「ウス」
「御堀は桜柳会にちょっと顔出してくれ。雪が抜ける間、代わりをせんと」
「判りました」
「なんだー、雪ちゃん先輩からお誘いだったら絶対に幾、そっちじゃん」
山田ががっかりしたように言うので幾久も頷いた。
「絶対に雪ちゃん先輩」
「だよなー」
しかし、忙しい雪充がわざわざ幾久を呼ぶのなら大切な用事なのだろう。
(一体、何だろ?)
首を傾げていると、玉木が言った。
「はぁい小鳥ちゃん達、お喋りしてると時間がいくらあっても足りないわよ」
はぁーい、と生徒たちが返事をする。
「明日は二回まわしなんだから、今日はゆっくり休むのよ?」
「わかってまーす」
そう言いながらも、今から遊ぶつもり満々なのは見てとれた。
「ほんと、小鳥ちゃん達は元気ねえ」
しかし玉木は注意するでもなく、にこにことほほ笑んで言った。
「明日は遅刻せずに来るのよ?」
「はーい」
みな返事だけはちゃんとしているのだった。
さて、着替えを済ませた幾久は雪充に呼ばれ、校舎の外へ向かっていた。
暗くなっていても境内の中はまだ営業時間で、どこも祭りのように賑やかだ。
雪充と待ち合わせたのは神社の境内にある、マスターの担当するコーヒー屋台の前だった。
「雪ちゃん先輩!」
コーヒー屋台の前に雪充を見つけ、近寄る。
「ごめんね、忙しいのに呼び出して」
「そんなん全然いいっす!」
ぶんぶんと首を横に振ると、屋台にいたマスターが声をかけてきた。
「よっ、いっくん!舞台よかったぞ!」
「あざっす」
「いやー、見事なジュリエットぶりでほれぼれしたよ俺は!あと衣装も凄かったな!」
「うす」
確かに衣装は自慢できるくらい凄かったので頷く。
「あんなに赤い衣装が似合うのはいっくんか中邑真輔くらいのもんだろうな!」
「すみません、わかりません」
すーんと答えると、隣から声がした。
「おめーsiriかよ」
「毛利先生。三吉先生も」
なぜか店の陰に毛利も三吉も居た。六花もだ。
「六花さん!」
「はぁい少年。ジュリエットめちゃくちゃ可愛いかったわぁ」
うふふ、と楽しそうに笑っている六花さんは相変わらずの存在感だ。
「脚本が良かったッス」
幾久が言うと六花はにやっと笑って「その通りだけど」と得意げだ。
「いやー狙ったところでどっかんどっかん来るのはものすごい楽しかったわあ」
「おかげですげー評判いっす。それより先生たちは休憩っすか?」
「コーヒーしか飲むものがなくて」
三吉がため息交じりで言うと毛利が言った。
「いやお前、いま学校の行事中よ?酒はやめろ酒は。コーラにしときなさい!お母さんのいう事聞いて?」
「誰がお母さんですか」
言いながら三吉は毛利の耳を引っ張る。
「いででで!やめろって!」
なるほど、見回りが面倒だか飽きただかでサボってるんだなと幾久は納得した。
「それより雪ちゃん先輩、用事って」
「うん、実は僕、姉がいるんだけど」
「はい」
雪充に姉がいるというのは聞いたことがある。
高杉と久坂が言うには、ものすごい美人だが性格も凄く、毎日が修羅場とか怖い事を言っていた。
「実はうちの姉がね、いっくんを見たいと」
「へ?」
「杉松さんに似てるって聞いてさ、どうしても見てみたいと聞かなくて。我儘で申し訳ないんだけど」
「あ、そういう事っすか。別にいっすけど」
どこかな、と見渡すと雪充が笑った。
「いま違う場所にいるんだ。杉松さんに似てるから見たい、なんて失礼だから、いっくんがOK出さないと見ないって」
「律儀な人っすね」
そんなの別にいいのに、と幾久は言うが雪充は微笑んだ。
「いっくんならそういってくれると思ったよ。じゃあ、姉を呼んでいいね?」
「うす」
幾久が頷くと、雪充はスマホを手に取った。
「あ、姉さん?いっくんだけどOKだって」
雪充が言うと同時に、苦笑する。
「返事もないから、すぐこっちに向かってると思うよ」
「う、うす」
そこまで期待されても、そうでもなかったら困るかもと幾久は思う。
(似てなかったら困るな、なんて思ったのは初めてだなあ)
いつも似ていると言われて、杉松本人の写真も見たけれど、自分ではそうかなあ、という印象しかない。
それより雪充の姉は相当な美人だと聞いているので、そっちのほうがワクワクする。
「あ、来た」
雪充が言うので、そっちを見ると、女性が走ってこちらへやってきて、足を止めた。
「!」
幾久は驚く。
そこには、筆舌に尽くしがたいというほどの、すさまじく美しく気が強そうなお姉さんが立っていた。
エンジ色のショールにバッグ、黒のジャケットにグレーの細身のパンツに高いヒール。
きらきらしたアクセサリーも目を引くが、なにより凄いのは本当に華やかな、派手なその雰囲気だった。
白い肌、黒く長い髪はくるんとうねり、きりっとした眉、目はぱっちりとして薄茶色の瞳が雪充によく似ている。
雪充もイケメンだがお姉さんも相当だ。
びっくりするくらいの美人で、これはすれ違ったら思わず女優さんかと思って振り返ってしまう。
じっと黙って幾久を見つめる雪充の姉に、幾久はつい言ってしまった。
「すっごい、びじん」
心底感嘆して出た言葉に、雪充の姉はじっと幾久を見つめて言った。
「雪充」
「はい」
「おめーじゃねえよ」
隣に居る雪充に女性は言うと、幾久の両肩に手を置いた。
「雪充」
「へ?」
「君は今日から私の弟だ」
「へ?は?」
幾久は驚き、お姉さんと雪充を交互に見つめるも、雪充は苦笑いするばかりだ。
「さ、一緒に帰ろうね、雪充」
にこにことほほ笑んで言うお姉さんに雪充が言った。
「姉さん、いっくんは寮に帰るんだよ」
「お前は誰だ。私の雪充はこの子だ」
まるでコントみたいな事をはじめて、お姉さんは幾久の肩に手を置いてずっと雪充と喋っている。
外見はこんなにすばらしく美しいのに、面白い人なんだな、と幾久は思う。
じっとお姉さんを見ていると、雪充の姉は微笑んで尋ねた。
「どうしたの?雪充」
そういって幾久の頭を撫でるお姉さんに、ひょっとしてこのノリ、ウィステリアじゃないのかと思う。
(いや、間違いなくそうだな、絶対にそうだ)
そう確信すると、知った人のように思えて幾久は言った。
「あの、」
「なあに雪」
お姉さんは幾久を弟の名前で呼ぶのをやめない。
「オレ、雪ちゃん先輩も兄弟のほうがいいっす」
うん?とお姉さんは首を傾げた。
「雪ちゃん先輩の弟になりたいっす」
すると雪充の姉は、ふっと笑って雪充に言った。
「雪、喜べ。弟が出来たぞ」
「いっくんなら別にかまいませんが」
「やったー!オレ雪ちゃん先輩の弟だー!」
そう素直に喜ぶと、お姉さんはがっと幾久を抱き寄せた。
「なんなのこれ!めちゃくちゃ可愛いじゃないの!」
「だからそう言ったでしょ」
苦笑いしながらそう言ったのは六花だ。
雪充の姉は頬を膨らませながら六花に言った。
「六花先輩ずるい!いっくん本当に可愛いじゃないですかぁ!くださいよ!」
「いや、私のじゃないからね」
「可愛い可愛い、ほんっと可愛い!」
そういって雪充の姉は幾久の頭を何度も何度も撫でている。
「杉松に似てるだろ?」
六花が笑って言うと、急に静かになり、ぼそりと呟いた。
「……凄く似てます」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる