【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【15】相思相愛~僕たちには希望しかない

当人らは必死だが観客も違う意味で必死

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 少し前にさかのぼる。
 ジュリエットの登場シーンが終わり、幾久の登場は仮面舞踏会までお休みとなった。
(さすがにそろそろ届くかな)
 舞台は時間通りに進んでいる。
 間に合わせると言った限り、絶対に間に合わせてはくれるだろうけれど。
 そう思っていると、舞台裏からばたばたと聞こえ、裏口の扉があいた。
「幾!衣装届いたぞ!」
「やった!」
 思わず出ると、そこにはぜえはあ言いながら膝をついている松浦と杷子が居た。
「ま、まに、まに、」
「間に合いました!充分です!」
 幾久が答えると、松浦と杷子の二人はほっとしてへたりこんだ。
「よ、よかったぁあああああ!」
「まにあったぁああああ!」
 ほっとしたのか涙ぐんですらいる。
 幾久は裏方のスタッフを呼んで頼んだ。
「まっつん先輩とわこ先輩に、お茶か水、持ってきてあげてください」
「了解!」
 走り回っている世話役の部員が頷き、すぐに飲み物を持ってくる。
 幾久は自分の衣装を広げた。
「うわっ、すっごい変わってる!」
 これまでの衣装と作りは同じだが、腰の部分が随分と変えられている。
 松浦は持ってきて貰ったお茶をごくごくと飲みながら、幾久に言った。
「こ、腰のフリンジを、もっと、可愛くして、そんで、仕込を変えたんだけど……あー、もうだめだ、ゴメン、みほりん呼んで。説明しないといけないから」
「説明は、いつまでに?」
 時間を考えるともう幾久は登場しなければならない。御堀もだ。
 これまでと同じく、衣装を着て出るから説明を受ける時間はない。
 だが、松浦は言った。
「仮面舞踏会の後でも、説明は間に合うから、いっくんもみほりんも舞台に、集中、しといて。みほりんの空いた時間に、説明、する、から」
「判りました」
 衣装さえ届けばどうにかなる。
 幾久は衣装を着る。
 これまでのとちょっと違うが、特におかしな所もない。
「とにかく、ありがとうございました!」
 幾久は頭を下げて持ち場に向かう。
 松浦は「いーってことよ」と目の下に物凄いクマを作ったままの顔で、にっと幾久に笑って見せた。

 衣装が届いたことを御堀に見せて知らせると、御堀もほっとした笑顔を見せた。
 そして見せ場となるロミオとジュリエットの出会いのシーンの仮面舞踏会で、互いに衣装を着用して登場した。
 舞踏会に乗り気でなかったはずの二人は、互いを見た途端恋に落ちる。
「乳母や、あの方はどなただ。名を尋ねて欲しい」
「あの方こそ、我が敵、モンタギューの一人息子のロミオです」
「敵の息子……敵の息子だと?なんてことだ、初めて恋をした、たったひとつの恋が敵から生まれたというのか?知らなかったとはいえ、もう遅い。オレは、彼を愛してしまったんだ」
「何の事です?」
「なんでもない。いま、教わったばかりだ。そしてもう、失わなければならない」
 ジュリエットは胸を押さえ、うなだれる。
 舞台は暗くなり、場面はロミオのシーンへ変わる。
 ロミオの友人たちが、ロミオを探し、からかいながらおしゃべりをする。
 本気の恋に落ちたロミオは、友人たちのからかいにため息をつき、舞踏会の会場であるジュリエットの屋敷を歩いているうちに、ジュリエットと再会する。
 そして有名なバルコニーのシーンへと。
 その間、松浦と御堀は隙を見て、打ち合わせをしていた。
 舞台の後ろには控室に向かう廊下があるので、そこで役者は上手と下手に移動する。
「幾、こっち!」
 舞台裏で幾久と御堀は松浦と打ち合わせだ。
「衣装の仕掛けだけど、みほりんこっち見て、そんでいっくんの背中」
「うん」
 二人は抱き合わせになり、御堀が幾久の腰に手を回す。
「昨日までのボタン部分をリボンに改造したの。引っ張ればいいようになってるから扱いは楽になってるはす。やってみて」
「こうかな」
 御堀が幾久のリボンを引っ張ると、しゅるっとほどけ、ショールのような部分が落ちてスカートみたいになる。
「それを、もっと思いっきり腕を上げてやってみたら派手に見えるから」
 説明の途中で山田が言った。
「幾久!場所に戻れ!」
「判った!じゃあ誉、あとで」
「うん!」
 そうして舞台はすすみ、ジュリエットのいとこ、ティボルトを殺してしまったロミオが追放されると決まり、ジュリエットに会いに行くシーンになった。
 ロミオのセリフだ。
「僕を責めて、どうか」
 ジュリエットは首を横に振る。
「誰がお前を責められるんだ。お前だって親友をなくした。ほかならぬティボルトの手で。いまは忘れてくれ。お前はもう、オレの夫だ」
 そういっていとこを殺したロミオを許し、ジュリエットは自らの寝室にロミオを招く。
「ジュリエット……本当に?」
「夫が妻の寝室に入るのに、なぜ罪がある?さあ、夜は短い、ロミオ、手を」
 ロミオがジュリエットを強く抱きしめると、客席からキャーッと言う声が上がる。
 盛り上がって上出来だ。
 と、御堀が幾久にささやいた。
『ごめん幾、もうちょっと腰、上の方に出来る?その方がほどきやすい』
 幾久は客席に見えないように小さく頷く。
『判った』
 御堀のほうが幾久より背が高いので、少し爪先立ちになると、再びぎゃあああ、と声が上がる。
(あ、そっか)
 キスシーンの上に、爪先立ちになるともっと激しく見えるんだと気づいた幾久は、急にいたずら心が湧いた。
 御堀の肩に回した腕をわざとらしく首に回し、さらに頭をくっつける。
 観客からは幾久の背中が見えるので、益々ぎゃーっと盛り上がった。
 ぴたっと御堀にくっつくと、御堀がくすっと笑ったのが判った。
『幾、盛り上げるねえ』
『そっちの方が面白いだろ』
 ぼそぼそっと喋ると、互いに頷き、調子にのって更に顔を近づけると、がちっと歯が当たった。
(やべ、調子のりすぎた)
 御堀も同じように思ったらしい。
 そしてぎゅっと強く抱きしめられていたが、御堀の手が幾久の腰あたりに回された。
 松浦の仕込みが、ここで発揮される。
 昨日はボタンを外すだけだったが、今日はリボンに変更され、一層はだける様子が判りやすくなっている。
 しゅるっとリボンを引っ張ると、ふわっと腰のショールがほどけた。
「ぎゃあああああああああああ」
「ああああああああああ」
「うわあああああああああああ」
 途端、つんざくような悲鳴と物凄い声が上がったが、動揺しそうになる幾久を御堀が強く抱きしめたので、そのままでいいと思い、舞台が暗転するのを待った。

 いつもならロミオがジュリエットの肩を抱いて下がるのだが、アドリブを理解した裏方のライトが気をきかせて光源をゆっくり薄くしたので、暗くなると同時に二人は袖へ移動する。

「いいいいいいい、いっくんなにアレ?」
 動揺しているのは三吉だ。なお、他の面々も驚いて目を丸くしている。
「なにって?」
「リボンだよリボン!めちゃめちゃエロいじゃん!いつの間に変えたの?」
 すると御堀がふふっと笑って言った。
「ついさっきだよ。ね」
「まあね」
 幾久も頷く。
「それで衣装が遅かったんじゃな」
 高杉の呆れた声に幾久は頷く。
「うす。でもここまで盛り上がるとは思いませんでした」
 すると久坂が笑いながら言った。
「後から映像を見たらいいよ。盛り上がった理由が判るから」
「?うす」
 舞台も桜柳祭の様子も、映像研究部が録画しているので、後日見れるのは知っているが、そこまでだったのだろうか。
 だが盛り上がればそのほうがいい。
 折角松浦が徹夜して仕上げてくれた衣装だ。
「それより二人とも、更に盛り上げるシーンだよ、戻って」
「うす」
「はい!」
 そうして二人は上着を脱ぎ、早速舞台の上へ戻ったのだった。

 夜を過ごしたことを暗喩させるシーン、それから別れ、怒涛のように進むドラマに観客は釘付けになる。
 互いの誤解と思いの強さから、ともに命を失い、ロミオとジュリエットの父親同士の和解で物語は幕を閉じる。
 高杉の口上が終わり、幕が静かに降りはじめ、床に着く前にもう拍手が押し寄せる。
 すぐに幕は開き、物憂げな音楽からにぎやかなダンス・ミュージックへ変わる。
 観客からリズムに乗った拍手が起き、講堂の中は大喝采だ。
 そしてラスト、二人の主役が登場し、くるりとダンスをして手を取りうやうやしく頭を下げ、御堀が幾久をお姫様抱っこで抱え、幾久が手を振ると、どわっというほどの拍手喝采がおこった。大成功だ。

 カーテンコールを終えて幕が降りる。
 しかし、昨日と違う事があった。

 昨日はしばらくすると拍手が終わり、観客は講堂を出て行ったのに、今日はずっと拍手と歓声が終わらない。
 アンコール!アンコール!という声が響く。
 生徒達がどうしよう、と顔を見合わせていると玉木が言った。
「仕方ないわね。もう一回出るわよ」
 そのまま、と言われ全員で舞台の上に並び、幕を上げた。
 わーっという盛大な拍手は土砂降りの雨の中のようだ。左右の客に頭を下げると、全員で手を繋ぎ、正面から頭を下げた。
 全員で頭を下げ、大声を張り上げた。
「ありがとうございましたあ!」
 わーっという歓声と拍手に包まれ、やっと幕が下ろされ、全員ほっと笑顔を見せたのだった。


 次の舞台が始まるまで、二時間近くある。
 役者全員は控室に入り、それぞれが休みを取ることになった。
「あー、つっかれた!」
「まだ一回目だぞー、もう一回あるぞー」
 その声に、三吉がうえーと声を上げた。
「もー疲れたよぉ」
 ばたばたと足を動かすも、山田が言う。
「お前、早めに出番終わるじゃん」
 三吉の役は、ジュリエットのいとこであるティボルトで、ロミオに殺されてしまう。
 よって舞台の半分くらいで、役は終わりだ。
「腹へったー!なんか食べ物!」
「差し入れと弁当があるぞ」
 わーっと空腹の連中が我先にと、めぼしいものを探しにむらがる。
 幾久は用意されていた弁当とお茶を貰った。
 一年生で集まって弁当を食べ、お茶を飲んでいると、屋台を出しているマスターからコーヒーが届いた。
「ますく・ど・かふぇのマスターからコーヒー貰ったぞー」
 学食で常にコーヒーを飲んでいる生徒にとって、マスターのコーヒーは慣れた味だ。
「欲しい奴、取りにこい」
「いるいるー!」
 そういって温かい、入れたてのコーヒーを受け取った。
 食事を終え、コーヒーを飲んでほっとしていると、玉木が控え室に入ってきた。
「ロミオとジュリエットは……ああ、良かった、いたわね。ファンからさっき、差し入れが届いたわよ」
「差し入れ?」
「誉会っすか?」
 御堀と幾久が尋ねると、玉木は首を横に振った。
「昨日、舞台を見に来た娘さんと、そのお母さんからよ」
「へえー、なんだろう」
 玉木に渡されたのは、大きな茶封筒だ。
 その中を開けると、画用紙の真ん中に、多分保育園くらいの子が描いたであろう絵があった。
 クレヨンやペンを使って書いてあり、シールやリボンが貼り付けてあった。
「これって、オレ達、だよね」
 幾久が尋ねると御堀が頷いた。
「多分、ね」
 真ん中にひときわ大きく描かれた、赤と青の衣装を来た二人、赤い方がメガネをかけているので、多分幾久だろう。
 御堀が封筒の中を見て気づいた。
「手紙が入ってる」
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