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【17】大安吉日~恋の為ならなんでもするよ
ポジションの理由
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高杉も頷く。
「ワシも聞きたいのう」
自分の得意なジャンルを尋ねられ、幾久は俄然はりきった。
「いっすよ!タマなんか、絶対にDF向きっすよね」
DFはゴール前を守る、ディフェンスを行うポジションの事だ。
「DFって、融通きかないっていうか、ルールを守るタイプが向いてるんス」
「なるほど、たしかにタマ後輩はボクシングもやってるから、ルール縛りは得意かもね」
真面目すぎて恭王寮でうまくやれなかったくらいだから、児玉に向いているのかもしれない。
「へえ。なんか俺って攻撃するタイプだから、そっちかと思った」
児玉が自分で言うも、幾久は首を横に振った。
「攻撃って言ったらFWだろ?でもタマってけっこう悩んでたり、我慢してたりしてたじゃん。どうするのが一番いいか、とか雪ちゃん先輩に迷惑かかるとか。そういうこと考えるの、FWのタイプじゃないよ」
「ほう」
高杉が興味深そうに尋ねた。
「じゃあ、御堀はFWじゃそうじゃが、攻撃的なんか?」
幾久は頷いた。
「超、攻撃っすね。守備全くしなくても点取りさえすりゃいいんす。仕事は相手のゴールにぶち込むことのみ、オレの足元にボールもってこい!って感じ」
「けっこうな暴君なんだな」
児玉が感心すると、幾久も頷いた。
「そうだよ。だから素が見えてポジションFWって聞いたら、あーねって思う」
「キーパーは?キーパーこそ、なんか決まり大事!っていうきがするんだけど」
栄人が言うと、幾久は苦笑して首を横に振った。
「キーパーは屋台骨って感じではありますけど、あんまりくよくよ悩むタイプは向いてないッス。点を奪われてもけろっとして次にいかないと駄目だし、DFに支持飛ばして言うこと聞かせないといけないんで、信頼されてないと駄目なポジションっすね。憎まれないとか。あと、声がでかくて指示はっきり出さないと駄目なんで」
「なるほど、確かにタマちゃんはキーパーは向いてなさそう」
栄人が言うと、児玉が「そっすか?」と首をかしげた。
「うん、だってタマちゃんって失敗したらくよくよ考えちゃうタイプでしょ。ああしたらよかった、とか後悔が多いから」
「確かにそういうところあるよな、タマ」
幾久にもそれは覚えがある。
洗濯物を干していくか、けっこう悩んでたり、布団を取り込む時も、時間を気にしていたりする。
(キーパーって、ガタ先輩なんだよなあ)
不満ではあるものの、山縣のおかげで幾久は御門寮を出て行かずにすんだし、とりあえずは先輩達と和解もできた。
それらを山縣は『三年生の立場』から強引に物申したわけでなく、幾久に気づかせるように考えさせたのだから、そこは見事としか言いようがない。
「キーパーがいて、守りのDFがタマちゃんで、みほりんが超攻撃のFW。じゃあ、いっくんはどこなの?」
栄人が尋ねたので、幾久は答えた。
「オレはMF(ミッドフィルダー)っす。CMF(セントラルミッドフィルダー)っていって、陣地の中央あたりに居るタイプっす」
「真ん中って、何をするの?」
久坂の問いに、幾久は答えた。
「なんでも屋さんというか。味方にはいいボールを渡して、敵の邪魔をして」
「それってサッカーのポジションだったらどこでもそうじゃないのか?」
児玉が言うと幾久は笑った。
「そうなんだけど、オレのはどっちかっていうと、タマのDFみたいに守ったりとか、誉のFWみたいに攻撃したりとかって、敵に直接あたるタイプではないんだ。説明じゃわかりにくいかもだけど、ボールを味方に渡す時って、敵はやっぱり邪魔しにくるだろ?」
「そりゃそうだな」
「そういう時、誰に渡すのかってばれてたら当然邪魔されるじゃん」
「まあな」
「だから、オレみたいなのが向かっていって、ボールを渡したい奴はどっちだ?って敵を翻弄したりすんの。さもオレがボールを『こっち!』って誘ってたら、敵もオレに集まるだろ?そのときに二人がかりで向かって来られたら、一人分、隙間ができる」
「ふんふん」
「そうなると、こっち一人に対して敵二人だろ?そしたら味方に一人フリーの奴ができるから、その隙にそいつにボールが渡ったら相手のゴールに近づけるし、シュートチャンスもできるし」
「なるほど、隙をつくとか」
「そう。相手の予想を反することをしたり。あと、誰にパスするかっていうのも大事なんで。オレ、パス得意なんだ」
幾久が自慢げに言うと、児玉はへえ、と感心した。
幾久が堂々と自慢することなんかないからだ。
「なんかお前がそう自慢するのめずらしいな」
「自信あるし。東京に居た頃、まだユースに所属してたとき、すっげー上手い奴と組んでたんだけど。桜柳祭の時も来てくれた」
「ああ、」
「あいつ、左利きだからパスすんのみんな苦手でさ。でもオレはぴたっとあわせてやれたから、シュートの成功すごくて。無敵って思ってた」
多留人とサッカーをしていたころを幾久は思い出した。
あの頃、自分たちはいつも点を上手に取っていて、いつも勝つことが出来ていた。
さすが、ルセロのユースは違うよな、と言われて誇らしかった。
「さすがにユースは落とされても、そのポジションに居たのはオレの誇りだなあ」
「へえ。そういうのっていいな。俺は格闘技しかやってねえから、個人競技だけなんだよな」
団体戦とかあんまり縁がなくて、と児玉が言う。
「だからつい、他人に対して上手に気がまわせねえのかなって思うことはある」
児玉が言うと、高杉が面白そうに言った。
「なるほどのう。確かに、幾久はよう観察しちょるけえの」
「そうっすか?」
幾久が言うと、栄人が頷く。
「うん。だって洗剤の在庫とか、いっくんが一番気がつくじゃん。いっくんがうちの寮に来てから、こういうものの在庫切れたことないんじゃない?」
「なんか急に所帯くさくなった」
「褒めてるのに」
「MFはそういうポジションじゃないっすよ……」
おつかいのメモみたいじゃないっすか。
幾久が言うと、二年生はなにがおかしいのかどっと笑った。
「ほかにMFの凄いのってどんなんだ?」
児玉がフォローするように尋ねると、幾久は答えた。
「オレはそこまでじゃないけど、試合を立て直すって役目もあるよ」
「試合を立て直す?」
高杉が尋ねるので幾久は頷いた。
「ッス。監督が考えたゲームプランがあるんスけど、やっぱりそう簡単にはさせてくれないっスよね。相手にしてみたらいかに邪魔するかってなるし」
サッカーには当然監督が存在して、その監督がサッカーのゲームメイクをする。
「予想通りにいかないのなら、選手交代するとか、作戦を変更するとかあるんスけど、作戦を自分たちのやりたいように『させてもらえてない』時とか、バランス崩したときに『たてなおす』ってのもある。つい相手を深追いしちゃった連中に戻れって言ったり、指示を出したり。それでチームのやりたいサッカーに近づけるっていう」
「なるほど、実はいっくんは策略家だったわけだ」
栄人が感心するも、幾久は苦笑した。
「や、それが出来てたら多分ユース落ちてないんじゃないかと」
「反応しづれーこと言うなよ幾久」
児玉が言うも、幾久はいいって、と笑った。
「でももしユース落ちてなかったら、オレ東京に居たかもしんないし、だったら友達も、いま福岡に来てないかもしれないし。何がいいかわかんないって」
少なくとも幾久は、いま、ここに居て楽しいと思う。
「それに、サッカーできないわけじゃないし、誉が御門寮に来たら毎日サッカーできるわけだし」
幾久にとってはストリートのような遊びが出来れば言うことはないし、三年の周布がサッカーのゴールを作ってくれると約束している。
「いっくんは買収の必要はなかったね。御堀君が来るのがむしろ御褒美だし」
久坂の言葉に幾久は頷く。
「うす。ホントそうっす。だから誉には絶対御門寮に無事来て欲しいんスけど」
幾久が言うと、ひじをついた高杉が言った。
「さて、そう上手くことが運べばええがのう」
さてこちらは真夜中の桜柳寮、応接セットが置いてある、小さな部屋での事だった。
桜柳寮の三年である前原は、同じ三年生である梅屋に尋ねていた。
「本当に御堀におかしな様子はないのか」
前原の質問に、梅屋は頷いた。
「ないな。しっかり勉強に集中してるっていう雰囲気だし、あの様子じゃ今回も首席間違いなしってところだろ」
梅屋が言うも、前原は「うーん」と腕を組み考え込んだ。
応接室、と呼ばれる小さな部屋は、応接セットとちょっとしたキャビネットがあるだけの狭い部屋だったが、聞かれたくない話をするときは皆そこを使っていた。
前原が梅屋に相談しているのは、御堀が最近ずっと、前原との話を避けているからだった。
いや、避けているというのは正しくない。
のらりくらりと上手にかわされているのだ。
前原だって鳳クラスで、決して話が下手なわけでも頭が悪いわけでもない。
だが、子供の頃から暖簾のある菓子屋の跡継ぎといった御堀にはどうもかなわない。
接客業を叩き込まれているせいで、いろんな事を聞こうとしても、上手にするりと逃げていく。
「そろそろ、引継ぎの件も考えておきたいんだが」
桜柳寮の次期提督はすでに決定している。
二年生が選ばれるのではなく、どの寮も、代々、三年生が一年生に目をつけ、一年生の頃からずっと寮のことを教え込む。
大抵は数人の候補者をつくっておいて、いずれ二年になったら副提督のポジションにつけ、いずれ提督に、というのがどこでもおなじみのパターンだ。
桜柳寮の提督は、一年は御堀で。
それは桜柳寮に居る全員が思っていることだ。
周防市の出身ではあったが、性格も能力も申し分ないし、首席なら文句もない。
むしろ、そうしてくれないと困るくらいに御堀は優秀だ。
だが、そう思っているのは前原だけじゃなかった。
桜柳祭では御堀も当然、桜柳会に参加させられ、しかも地球部では主役を張るという、まるで去年、一昨年の高杉や久坂、桂を見ているようだった。
だからか、自然桜柳会での立場も仕事をあれこれ引き受けざるを得なくなり、タイミングが悪く、自分もつい、気になって桜柳寮の事を任せたいと言ってしまったせいで、御堀は寮を逃げ出してしまった。
「ワシも聞きたいのう」
自分の得意なジャンルを尋ねられ、幾久は俄然はりきった。
「いっすよ!タマなんか、絶対にDF向きっすよね」
DFはゴール前を守る、ディフェンスを行うポジションの事だ。
「DFって、融通きかないっていうか、ルールを守るタイプが向いてるんス」
「なるほど、たしかにタマ後輩はボクシングもやってるから、ルール縛りは得意かもね」
真面目すぎて恭王寮でうまくやれなかったくらいだから、児玉に向いているのかもしれない。
「へえ。なんか俺って攻撃するタイプだから、そっちかと思った」
児玉が自分で言うも、幾久は首を横に振った。
「攻撃って言ったらFWだろ?でもタマってけっこう悩んでたり、我慢してたりしてたじゃん。どうするのが一番いいか、とか雪ちゃん先輩に迷惑かかるとか。そういうこと考えるの、FWのタイプじゃないよ」
「ほう」
高杉が興味深そうに尋ねた。
「じゃあ、御堀はFWじゃそうじゃが、攻撃的なんか?」
幾久は頷いた。
「超、攻撃っすね。守備全くしなくても点取りさえすりゃいいんす。仕事は相手のゴールにぶち込むことのみ、オレの足元にボールもってこい!って感じ」
「けっこうな暴君なんだな」
児玉が感心すると、幾久も頷いた。
「そうだよ。だから素が見えてポジションFWって聞いたら、あーねって思う」
「キーパーは?キーパーこそ、なんか決まり大事!っていうきがするんだけど」
栄人が言うと、幾久は苦笑して首を横に振った。
「キーパーは屋台骨って感じではありますけど、あんまりくよくよ悩むタイプは向いてないッス。点を奪われてもけろっとして次にいかないと駄目だし、DFに支持飛ばして言うこと聞かせないといけないんで、信頼されてないと駄目なポジションっすね。憎まれないとか。あと、声がでかくて指示はっきり出さないと駄目なんで」
「なるほど、確かにタマちゃんはキーパーは向いてなさそう」
栄人が言うと、児玉が「そっすか?」と首をかしげた。
「うん、だってタマちゃんって失敗したらくよくよ考えちゃうタイプでしょ。ああしたらよかった、とか後悔が多いから」
「確かにそういうところあるよな、タマ」
幾久にもそれは覚えがある。
洗濯物を干していくか、けっこう悩んでたり、布団を取り込む時も、時間を気にしていたりする。
(キーパーって、ガタ先輩なんだよなあ)
不満ではあるものの、山縣のおかげで幾久は御門寮を出て行かずにすんだし、とりあえずは先輩達と和解もできた。
それらを山縣は『三年生の立場』から強引に物申したわけでなく、幾久に気づかせるように考えさせたのだから、そこは見事としか言いようがない。
「キーパーがいて、守りのDFがタマちゃんで、みほりんが超攻撃のFW。じゃあ、いっくんはどこなの?」
栄人が尋ねたので、幾久は答えた。
「オレはMF(ミッドフィルダー)っす。CMF(セントラルミッドフィルダー)っていって、陣地の中央あたりに居るタイプっす」
「真ん中って、何をするの?」
久坂の問いに、幾久は答えた。
「なんでも屋さんというか。味方にはいいボールを渡して、敵の邪魔をして」
「それってサッカーのポジションだったらどこでもそうじゃないのか?」
児玉が言うと幾久は笑った。
「そうなんだけど、オレのはどっちかっていうと、タマのDFみたいに守ったりとか、誉のFWみたいに攻撃したりとかって、敵に直接あたるタイプではないんだ。説明じゃわかりにくいかもだけど、ボールを味方に渡す時って、敵はやっぱり邪魔しにくるだろ?」
「そりゃそうだな」
「そういう時、誰に渡すのかってばれてたら当然邪魔されるじゃん」
「まあな」
「だから、オレみたいなのが向かっていって、ボールを渡したい奴はどっちだ?って敵を翻弄したりすんの。さもオレがボールを『こっち!』って誘ってたら、敵もオレに集まるだろ?そのときに二人がかりで向かって来られたら、一人分、隙間ができる」
「ふんふん」
「そうなると、こっち一人に対して敵二人だろ?そしたら味方に一人フリーの奴ができるから、その隙にそいつにボールが渡ったら相手のゴールに近づけるし、シュートチャンスもできるし」
「なるほど、隙をつくとか」
「そう。相手の予想を反することをしたり。あと、誰にパスするかっていうのも大事なんで。オレ、パス得意なんだ」
幾久が自慢げに言うと、児玉はへえ、と感心した。
幾久が堂々と自慢することなんかないからだ。
「なんかお前がそう自慢するのめずらしいな」
「自信あるし。東京に居た頃、まだユースに所属してたとき、すっげー上手い奴と組んでたんだけど。桜柳祭の時も来てくれた」
「ああ、」
「あいつ、左利きだからパスすんのみんな苦手でさ。でもオレはぴたっとあわせてやれたから、シュートの成功すごくて。無敵って思ってた」
多留人とサッカーをしていたころを幾久は思い出した。
あの頃、自分たちはいつも点を上手に取っていて、いつも勝つことが出来ていた。
さすが、ルセロのユースは違うよな、と言われて誇らしかった。
「さすがにユースは落とされても、そのポジションに居たのはオレの誇りだなあ」
「へえ。そういうのっていいな。俺は格闘技しかやってねえから、個人競技だけなんだよな」
団体戦とかあんまり縁がなくて、と児玉が言う。
「だからつい、他人に対して上手に気がまわせねえのかなって思うことはある」
児玉が言うと、高杉が面白そうに言った。
「なるほどのう。確かに、幾久はよう観察しちょるけえの」
「そうっすか?」
幾久が言うと、栄人が頷く。
「うん。だって洗剤の在庫とか、いっくんが一番気がつくじゃん。いっくんがうちの寮に来てから、こういうものの在庫切れたことないんじゃない?」
「なんか急に所帯くさくなった」
「褒めてるのに」
「MFはそういうポジションじゃないっすよ……」
おつかいのメモみたいじゃないっすか。
幾久が言うと、二年生はなにがおかしいのかどっと笑った。
「ほかにMFの凄いのってどんなんだ?」
児玉がフォローするように尋ねると、幾久は答えた。
「オレはそこまでじゃないけど、試合を立て直すって役目もあるよ」
「試合を立て直す?」
高杉が尋ねるので幾久は頷いた。
「ッス。監督が考えたゲームプランがあるんスけど、やっぱりそう簡単にはさせてくれないっスよね。相手にしてみたらいかに邪魔するかってなるし」
サッカーには当然監督が存在して、その監督がサッカーのゲームメイクをする。
「予想通りにいかないのなら、選手交代するとか、作戦を変更するとかあるんスけど、作戦を自分たちのやりたいように『させてもらえてない』時とか、バランス崩したときに『たてなおす』ってのもある。つい相手を深追いしちゃった連中に戻れって言ったり、指示を出したり。それでチームのやりたいサッカーに近づけるっていう」
「なるほど、実はいっくんは策略家だったわけだ」
栄人が感心するも、幾久は苦笑した。
「や、それが出来てたら多分ユース落ちてないんじゃないかと」
「反応しづれーこと言うなよ幾久」
児玉が言うも、幾久はいいって、と笑った。
「でももしユース落ちてなかったら、オレ東京に居たかもしんないし、だったら友達も、いま福岡に来てないかもしれないし。何がいいかわかんないって」
少なくとも幾久は、いま、ここに居て楽しいと思う。
「それに、サッカーできないわけじゃないし、誉が御門寮に来たら毎日サッカーできるわけだし」
幾久にとってはストリートのような遊びが出来れば言うことはないし、三年の周布がサッカーのゴールを作ってくれると約束している。
「いっくんは買収の必要はなかったね。御堀君が来るのがむしろ御褒美だし」
久坂の言葉に幾久は頷く。
「うす。ホントそうっす。だから誉には絶対御門寮に無事来て欲しいんスけど」
幾久が言うと、ひじをついた高杉が言った。
「さて、そう上手くことが運べばええがのう」
さてこちらは真夜中の桜柳寮、応接セットが置いてある、小さな部屋での事だった。
桜柳寮の三年である前原は、同じ三年生である梅屋に尋ねていた。
「本当に御堀におかしな様子はないのか」
前原の質問に、梅屋は頷いた。
「ないな。しっかり勉強に集中してるっていう雰囲気だし、あの様子じゃ今回も首席間違いなしってところだろ」
梅屋が言うも、前原は「うーん」と腕を組み考え込んだ。
応接室、と呼ばれる小さな部屋は、応接セットとちょっとしたキャビネットがあるだけの狭い部屋だったが、聞かれたくない話をするときは皆そこを使っていた。
前原が梅屋に相談しているのは、御堀が最近ずっと、前原との話を避けているからだった。
いや、避けているというのは正しくない。
のらりくらりと上手にかわされているのだ。
前原だって鳳クラスで、決して話が下手なわけでも頭が悪いわけでもない。
だが、子供の頃から暖簾のある菓子屋の跡継ぎといった御堀にはどうもかなわない。
接客業を叩き込まれているせいで、いろんな事を聞こうとしても、上手にするりと逃げていく。
「そろそろ、引継ぎの件も考えておきたいんだが」
桜柳寮の次期提督はすでに決定している。
二年生が選ばれるのではなく、どの寮も、代々、三年生が一年生に目をつけ、一年生の頃からずっと寮のことを教え込む。
大抵は数人の候補者をつくっておいて、いずれ二年になったら副提督のポジションにつけ、いずれ提督に、というのがどこでもおなじみのパターンだ。
桜柳寮の提督は、一年は御堀で。
それは桜柳寮に居る全員が思っていることだ。
周防市の出身ではあったが、性格も能力も申し分ないし、首席なら文句もない。
むしろ、そうしてくれないと困るくらいに御堀は優秀だ。
だが、そう思っているのは前原だけじゃなかった。
桜柳祭では御堀も当然、桜柳会に参加させられ、しかも地球部では主役を張るという、まるで去年、一昨年の高杉や久坂、桂を見ているようだった。
だからか、自然桜柳会での立場も仕事をあれこれ引き受けざるを得なくなり、タイミングが悪く、自分もつい、気になって桜柳寮の事を任せたいと言ってしまったせいで、御堀は寮を逃げ出してしまった。
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