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【20】適材適所~愛とは君が居るということ
お説教のほうが良かった
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報国寮どころか、報国院を退学になりそうな所で、しかもまだ観察は継続中なんて事を知っている児玉ははっきりと答えられない。
「なんだよ、お前あいつらにさんざやられただろ?そこは『ざまあ』とか言えよ!」
「言えねーよ。俺一人、結局いい思いしてんだし」
児玉が御門へ行ったために、雪充は最後まで恭王寮に居る事を決意し、服部と二年の入江も恭王寮へと移ってきた。
児玉のことがなければ、移らなかっただろう。
それがいい結果になっているからといって、児玉は手放しでは喜べない。
「なんとか雪ちゃん先輩に、恩返しできねえかなってずっと思ってる」
児玉が言うと、江村はうーん、と伸びをした。
「それって、結局理想の後輩になるしかないんじゃね?」
え、と児玉は顔を上げた。
「だってさ、俺らが桂提督になんかするって出来る事ねーしさ。邪魔にしかなんねーじゃん」
雪充は鳳クラスで首席で、文句なしの報国院生だ。
恭王寮からしてみたら、桜柳寮ではなく恭王寮に首席が居るのはやはり、ちょっと『勝った』という気になる。
江村は続けた。
「桂提督って、恭王寮のためにわざわざ移ったわけじゃん。お前の事だって、桂提督だから上手に片付けられたんだろ?もし違ったら、全員ばらばらの寮とかにされてそうじゃん、もしくは全員、報国寮とか」
「確かに」
「俺さ、お前の事があってから桂提督観察とかしたんだよ。そしたら仕事量スゲーのな。半端ねーよ。寮のこと、あれだけやっといて寮生に指導して、それで首席って化け物かって思うし」
「そうだよな」
「だから、桂提督に出来る事って、問題を起こさないとかくらいしかねーよって思う。お前らがいなくなって、入江先輩と服部が呼ばれたのも、結局俺らじゃ恭王寮はどうにもならないって思われてるって事じゃん」
「……」
児玉は黙ってしまう。
全くその通りでしかないからだ。
恭王寮に人数が必要かといえば、御門ほど少ないわけでもない。
だったら、来年度の一年生を増やせば済むだけなのに、わざわざこの時期に二年生や有能な一年を呼び寄せた、ということは、恭王寮に人材はいないと雪充が判断したことになる。
「江村、いろいろ考えてんだな」
児玉が感心すると、江村は首を横に振った。
「考えさせられてるってほうが正しいよ。お前が出て行った後、恭王の一年、全員で桂提督に謝ったんだ。知らなかったし、そそのかされたのは間違いないけど、お前をハブってんのは間違いないし、提督に余計な手間かけたのは間違いないじゃん」
「……雪ちゃん先輩は、なんて?」
江村は苦笑して言った。
「『自分のしたことを理解する事はいいことだね』って笑顔で」
うわ、と児玉は思った。
それは言葉尻では褒めていても、結局はあまりにレベルの低すぎる一年に対して期待はしていないということだ。
「……きっちぃな、それ」
「やっぱお前だったらわかるよな?!きちいよな?!」
江村が児玉に食いついて、児玉も頷く。
「まだお説教のほうがなんぼかマシだった。桂提督ってニコニコしてるし優しいから怖い人なんて思わなかった。今考えたら、すげーこええって判るけど」
「誉に似てるよ」
児玉が言うと、江村が驚いた。
「え、御堀ってそういう奴なの」
「そういう奴。ただ、多分もっと……きついかもな」
「えー?!あんなひょろそうなお坊ちゃんが?」
「ひょろそうって。誉も幾久も、サッカーの元ユースだからプロいけるくらいだぞ」
「なんだよ、御堀ってガリ勉のお坊ちゃんじゃねーのかよ」
「残念ながら文武両道って奴」
「はー、なんだそれ。かっこよすぎかよ」
江村の、褒めているんだかけなしているんだか判らない評価に児玉は噴出した。
「確かに、かっこよすぎかもな」
「けど、そういう奴が一緒ってさ、なんか嫌じゃねえ?」
「嫌?」
「だって絶対に比べるじゃん。あいつに比べて俺はとか」
児玉が黙っていると江村が驚き言った。
「思わねえの?」
「思わねえなあ、そういえば」
確かに御堀は勉強が出来るし、目立つし、外見も整っているが、児玉にとって御堀のイメージは首席というより、御門に逃げてきた時のイメージや、御門に入るまでを画策したり、改築をしたりという無茶なイメージのほうが強い。
「タイプが違うからかなあ。なんかそういうんじゃなくて」
江村にどういえば伝わるだろう、児玉はそう考えて、二人の共通言語を探した。
「つまり、バンドみてーなもんなんだよ。同じバンドで、楽器違ったらさ、どっちが上手いとか気にしないだろ?そもそも楽器違うんだし。上手さはそりゃ判るけど」
江村はなるほど、と頷く。児玉は続けた。
「俺らが恭王寮出て行かされて、雪ちゃん先輩はバンドの方向性変えたんだよ。俺らがいなくなった穴の為に呼んだとは思えないし」
正直、児玉は自分の価値はよく判らないが、野山と岩倉に、そこまで恭王寮に必要な価値があったとは思えない。
それに、児玉一人が抜けて入江と服部を呼ぶのも、イコールではない気がする。
「雪ちゃん先輩が、お前らに対して期待してないとしてもさ、頑張ればいいじゃん」
児玉の言葉に江村は首をかしげた。
「えーと、つまりさ。雪ちゃん先輩に期待されようがされまいが、やりたけりゃやればいいんじゃね?評価するかしないかは、雪ちゃん先輩の自由じゃん」
「そうだよな。期待して欲しいから努力するっての、なんかうぜえっていうか」
そこではた、と児玉と江村は同時に言った。
「『誰かはお前のママじゃねえ!』」
グラスエッジの歌詞にある言葉を同時に叫び、二人でハイタッチした。
「うわー、いま鳥肌たった!そっか、集さんが言ってたの、こういう意味だったんだ!」
「やっぱグラスエッジ最高だよな、集さんすげえわ」
児玉も頷き、二人で再びハイタッチした。
「グラスエッジって、殆どが御門出身だろ?やっぱそういう御門イズムみてーなのあんのかな」
江村が言うと、児玉は少し考えて、首を横に振った。
「御門がそうなんじゃなくて、そういう人が集まるのが御門って気がする。先輩ら、やっぱ厳しいもんな」
うーん、と江村は腕を組んで尋ねた。
「じゃあ、乃木って実は厳しい奴?」
厳しい、という言葉に児玉はちょっと違うな、と思った。
先輩達は文句なしに厳しいのだが、幾久はそういう意味での厳しさと違うものを持っている気がする。
「なんていうか、あいつは……素直で、正直でいい奴で」
違う、そんなところ誰だって持っている。
御堀や児玉が救われたのは、幾久のそんな部分じゃなかった。
もっと違う、誰にでもありそうでないもの。
「なんだろ。なんかアイツ、ちょっと違うんだよな」
普通なのに、どこが違うのかといわれても児玉には判らない。
「なんだそれ」
江村は噴出した。
「けっこう一緒にいんのに、わかんないのかよ」
「いい言葉が出てこないだけだって」
そう、なにかが違う。他の誰かと。
だけどその『何か』が何なのかは判らない。
(ひょっとして、これが杉松さんに似ているところとか?)
もしそうなら、児玉はその部分を知りたいと思った。
「あと二年で、桂提督みたいになれんのかな、あそこまで完璧じゃなくってもさ」
ぼそりと呟く江村の言葉に、児玉は同じような事を考えたなと思い出す。
あと二年で、自分はどれだけのものになれるだろう。
報国院の鳳になることばかり考えて、将来なんか考えた事もなかった。
そういえば、グラスエッジは青木と福原、来原が二年生になった時、ボーカルの集でもう本格的に活動を始めていたと聞く。
(俺、一体なにになりたいんだろ)
これまでは杉松のように。
今は雪充のように。
だけど、その先は?
青木たちと話を終えた御堀が、幾久の居る楽屋へ戻ってくると、腕立て伏せをする来原の背中に幾久が座っていた。
「……なにやってんの」
思わず尋ねた御堀に幾久が答えた。
「負荷。マスターにもよく頼まれるじゃん」
「ああ」
そういえば来原はマスターの弟子だったと御堀は思い出す。
ますく・ど・かふぇのマスターであるよしひろは、たまに幾久に負荷をかける手伝いを頼む。
腕立てをするマスターの背中に腰をかけていれば、コーヒー無料チケットが一枚もらえる、楽なアルバイトだ。
「ライヴ前なのにいいんですか?」
御堀が尋ねるが来原は笑顔だ。
「いいとも!このくらいの準備運動しないと、ステージで本気が出せないからな!」
福原が尋ねた。
「マジで準備は?時間なくなるけど」
「そうだな、ぼちぼち仕度するか!」
幾久が来原の背から降り、幾久は言った。
「じゃあオレらは、出ておき」
「駄目!絶対駄目!いっくん居て!ここに!」
青木が楽屋のテーブルをばんばん叩きながら言う。
「青木君駄々っ子かよ」
福原のあきれ声に青木は御堀を指差して抗議した。
「だってさっきまでコイツと話してたんだぞ僕は!その間、来とアツがいっくん独り占めしてんじゃん!ずるい!僕も!」
「マジただの駄々っ子だな」
呆れる福原だが、幾久は長いため息をつく。
「じゃあ、もうちょっとここに居ます」
「本当?!いっくんありがとう!なにが欲しい?」
「黙ってるアオ先輩」
青木がぴたっと口を閉じると、集と中岡が噴出した。
青木がメイクをしている間、幾久は青木の必死の願いで青木の隣に座っていることになった。
メイクの担当は男性で、背が高く、精悍な雰囲気のがっしりした体つきの男性で、髪型は金髪のソフトモヒカンに無精ひげ。
かっこいいな、とじっと見ていると、メイクの男性は幾久に手を伸ばした。
「君がいっくん?グラスエッジのメイクやってます、よろしく」
「あ、ども」
握手して、ぺこっと頭を下げると、じっと見つめている幾久に男性が尋ねた。
「なにか聞きたいことでも?」
「あ、いえ。ベッカムと髪型同じだなって」
すると男性は幾久をじろっと見てぽつりと言った。
「判る?!俺、ベッカムすっげえ好きなんだよ!イケメンだよね!」
幾久は頷く。
「すげーイケメンっす」
「おい、いっくんにサッカーの話ふるな」
青木がメイクにそう言うも、メイクの男性は青木の髪をブラッシングしながら幾久に尋ねた。
「え、君、サッカー好きなの?」
すると福原が横から口をつっこんだ。
「サッカー好きもなにも、その子ルセロのユースよ」
「えっ?!ルセロ?!」
「なんだよ、お前あいつらにさんざやられただろ?そこは『ざまあ』とか言えよ!」
「言えねーよ。俺一人、結局いい思いしてんだし」
児玉が御門へ行ったために、雪充は最後まで恭王寮に居る事を決意し、服部と二年の入江も恭王寮へと移ってきた。
児玉のことがなければ、移らなかっただろう。
それがいい結果になっているからといって、児玉は手放しでは喜べない。
「なんとか雪ちゃん先輩に、恩返しできねえかなってずっと思ってる」
児玉が言うと、江村はうーん、と伸びをした。
「それって、結局理想の後輩になるしかないんじゃね?」
え、と児玉は顔を上げた。
「だってさ、俺らが桂提督になんかするって出来る事ねーしさ。邪魔にしかなんねーじゃん」
雪充は鳳クラスで首席で、文句なしの報国院生だ。
恭王寮からしてみたら、桜柳寮ではなく恭王寮に首席が居るのはやはり、ちょっと『勝った』という気になる。
江村は続けた。
「桂提督って、恭王寮のためにわざわざ移ったわけじゃん。お前の事だって、桂提督だから上手に片付けられたんだろ?もし違ったら、全員ばらばらの寮とかにされてそうじゃん、もしくは全員、報国寮とか」
「確かに」
「俺さ、お前の事があってから桂提督観察とかしたんだよ。そしたら仕事量スゲーのな。半端ねーよ。寮のこと、あれだけやっといて寮生に指導して、それで首席って化け物かって思うし」
「そうだよな」
「だから、桂提督に出来る事って、問題を起こさないとかくらいしかねーよって思う。お前らがいなくなって、入江先輩と服部が呼ばれたのも、結局俺らじゃ恭王寮はどうにもならないって思われてるって事じゃん」
「……」
児玉は黙ってしまう。
全くその通りでしかないからだ。
恭王寮に人数が必要かといえば、御門ほど少ないわけでもない。
だったら、来年度の一年生を増やせば済むだけなのに、わざわざこの時期に二年生や有能な一年を呼び寄せた、ということは、恭王寮に人材はいないと雪充が判断したことになる。
「江村、いろいろ考えてんだな」
児玉が感心すると、江村は首を横に振った。
「考えさせられてるってほうが正しいよ。お前が出て行った後、恭王の一年、全員で桂提督に謝ったんだ。知らなかったし、そそのかされたのは間違いないけど、お前をハブってんのは間違いないし、提督に余計な手間かけたのは間違いないじゃん」
「……雪ちゃん先輩は、なんて?」
江村は苦笑して言った。
「『自分のしたことを理解する事はいいことだね』って笑顔で」
うわ、と児玉は思った。
それは言葉尻では褒めていても、結局はあまりにレベルの低すぎる一年に対して期待はしていないということだ。
「……きっちぃな、それ」
「やっぱお前だったらわかるよな?!きちいよな?!」
江村が児玉に食いついて、児玉も頷く。
「まだお説教のほうがなんぼかマシだった。桂提督ってニコニコしてるし優しいから怖い人なんて思わなかった。今考えたら、すげーこええって判るけど」
「誉に似てるよ」
児玉が言うと、江村が驚いた。
「え、御堀ってそういう奴なの」
「そういう奴。ただ、多分もっと……きついかもな」
「えー?!あんなひょろそうなお坊ちゃんが?」
「ひょろそうって。誉も幾久も、サッカーの元ユースだからプロいけるくらいだぞ」
「なんだよ、御堀ってガリ勉のお坊ちゃんじゃねーのかよ」
「残念ながら文武両道って奴」
「はー、なんだそれ。かっこよすぎかよ」
江村の、褒めているんだかけなしているんだか判らない評価に児玉は噴出した。
「確かに、かっこよすぎかもな」
「けど、そういう奴が一緒ってさ、なんか嫌じゃねえ?」
「嫌?」
「だって絶対に比べるじゃん。あいつに比べて俺はとか」
児玉が黙っていると江村が驚き言った。
「思わねえの?」
「思わねえなあ、そういえば」
確かに御堀は勉強が出来るし、目立つし、外見も整っているが、児玉にとって御堀のイメージは首席というより、御門に逃げてきた時のイメージや、御門に入るまでを画策したり、改築をしたりという無茶なイメージのほうが強い。
「タイプが違うからかなあ。なんかそういうんじゃなくて」
江村にどういえば伝わるだろう、児玉はそう考えて、二人の共通言語を探した。
「つまり、バンドみてーなもんなんだよ。同じバンドで、楽器違ったらさ、どっちが上手いとか気にしないだろ?そもそも楽器違うんだし。上手さはそりゃ判るけど」
江村はなるほど、と頷く。児玉は続けた。
「俺らが恭王寮出て行かされて、雪ちゃん先輩はバンドの方向性変えたんだよ。俺らがいなくなった穴の為に呼んだとは思えないし」
正直、児玉は自分の価値はよく判らないが、野山と岩倉に、そこまで恭王寮に必要な価値があったとは思えない。
それに、児玉一人が抜けて入江と服部を呼ぶのも、イコールではない気がする。
「雪ちゃん先輩が、お前らに対して期待してないとしてもさ、頑張ればいいじゃん」
児玉の言葉に江村は首をかしげた。
「えーと、つまりさ。雪ちゃん先輩に期待されようがされまいが、やりたけりゃやればいいんじゃね?評価するかしないかは、雪ちゃん先輩の自由じゃん」
「そうだよな。期待して欲しいから努力するっての、なんかうぜえっていうか」
そこではた、と児玉と江村は同時に言った。
「『誰かはお前のママじゃねえ!』」
グラスエッジの歌詞にある言葉を同時に叫び、二人でハイタッチした。
「うわー、いま鳥肌たった!そっか、集さんが言ってたの、こういう意味だったんだ!」
「やっぱグラスエッジ最高だよな、集さんすげえわ」
児玉も頷き、二人で再びハイタッチした。
「グラスエッジって、殆どが御門出身だろ?やっぱそういう御門イズムみてーなのあんのかな」
江村が言うと、児玉は少し考えて、首を横に振った。
「御門がそうなんじゃなくて、そういう人が集まるのが御門って気がする。先輩ら、やっぱ厳しいもんな」
うーん、と江村は腕を組んで尋ねた。
「じゃあ、乃木って実は厳しい奴?」
厳しい、という言葉に児玉はちょっと違うな、と思った。
先輩達は文句なしに厳しいのだが、幾久はそういう意味での厳しさと違うものを持っている気がする。
「なんていうか、あいつは……素直で、正直でいい奴で」
違う、そんなところ誰だって持っている。
御堀や児玉が救われたのは、幾久のそんな部分じゃなかった。
もっと違う、誰にでもありそうでないもの。
「なんだろ。なんかアイツ、ちょっと違うんだよな」
普通なのに、どこが違うのかといわれても児玉には判らない。
「なんだそれ」
江村は噴出した。
「けっこう一緒にいんのに、わかんないのかよ」
「いい言葉が出てこないだけだって」
そう、なにかが違う。他の誰かと。
だけどその『何か』が何なのかは判らない。
(ひょっとして、これが杉松さんに似ているところとか?)
もしそうなら、児玉はその部分を知りたいと思った。
「あと二年で、桂提督みたいになれんのかな、あそこまで完璧じゃなくってもさ」
ぼそりと呟く江村の言葉に、児玉は同じような事を考えたなと思い出す。
あと二年で、自分はどれだけのものになれるだろう。
報国院の鳳になることばかり考えて、将来なんか考えた事もなかった。
そういえば、グラスエッジは青木と福原、来原が二年生になった時、ボーカルの集でもう本格的に活動を始めていたと聞く。
(俺、一体なにになりたいんだろ)
これまでは杉松のように。
今は雪充のように。
だけど、その先は?
青木たちと話を終えた御堀が、幾久の居る楽屋へ戻ってくると、腕立て伏せをする来原の背中に幾久が座っていた。
「……なにやってんの」
思わず尋ねた御堀に幾久が答えた。
「負荷。マスターにもよく頼まれるじゃん」
「ああ」
そういえば来原はマスターの弟子だったと御堀は思い出す。
ますく・ど・かふぇのマスターであるよしひろは、たまに幾久に負荷をかける手伝いを頼む。
腕立てをするマスターの背中に腰をかけていれば、コーヒー無料チケットが一枚もらえる、楽なアルバイトだ。
「ライヴ前なのにいいんですか?」
御堀が尋ねるが来原は笑顔だ。
「いいとも!このくらいの準備運動しないと、ステージで本気が出せないからな!」
福原が尋ねた。
「マジで準備は?時間なくなるけど」
「そうだな、ぼちぼち仕度するか!」
幾久が来原の背から降り、幾久は言った。
「じゃあオレらは、出ておき」
「駄目!絶対駄目!いっくん居て!ここに!」
青木が楽屋のテーブルをばんばん叩きながら言う。
「青木君駄々っ子かよ」
福原のあきれ声に青木は御堀を指差して抗議した。
「だってさっきまでコイツと話してたんだぞ僕は!その間、来とアツがいっくん独り占めしてんじゃん!ずるい!僕も!」
「マジただの駄々っ子だな」
呆れる福原だが、幾久は長いため息をつく。
「じゃあ、もうちょっとここに居ます」
「本当?!いっくんありがとう!なにが欲しい?」
「黙ってるアオ先輩」
青木がぴたっと口を閉じると、集と中岡が噴出した。
青木がメイクをしている間、幾久は青木の必死の願いで青木の隣に座っていることになった。
メイクの担当は男性で、背が高く、精悍な雰囲気のがっしりした体つきの男性で、髪型は金髪のソフトモヒカンに無精ひげ。
かっこいいな、とじっと見ていると、メイクの男性は幾久に手を伸ばした。
「君がいっくん?グラスエッジのメイクやってます、よろしく」
「あ、ども」
握手して、ぺこっと頭を下げると、じっと見つめている幾久に男性が尋ねた。
「なにか聞きたいことでも?」
「あ、いえ。ベッカムと髪型同じだなって」
すると男性は幾久をじろっと見てぽつりと言った。
「判る?!俺、ベッカムすっげえ好きなんだよ!イケメンだよね!」
幾久は頷く。
「すげーイケメンっす」
「おい、いっくんにサッカーの話ふるな」
青木がメイクにそう言うも、メイクの男性は青木の髪をブラッシングしながら幾久に尋ねた。
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