【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【20】適材適所~愛とは君が居るということ

深い海の中の一粒

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 呻る様な歓声が響き渡り、まぶしい光があふれ、集がステージに現れた。
 轟音のような歓声はまるで荒れた波のようで、御堀と幾久は流されないようステージを必死で見つめた。
 昨日まではただの歌でしかなかったものが、メッセージになって届いてくる。

 ―――――のたうちまわって、はいずりまわって
 それでも歌うことを辞めないんだから

 きっと悲しみは尽きることなく
 ずっとぼくらは苦しいまま

(こんな、歌だったんだ)
 ただの激しい歌なのだと、そう思い込んでいた。
 こんな悲しい歌だったのか。
 昨日も聞いたはずなのに、ちっとも自分の中にきちんと届いていなかったことに今気づく。
 御堀は集の歌に思った。
 これが共感なんだ。
 あの人たちも、僕たちと同じように苦しい。
 夢は叶ったのかもしれないけれど、それは仕事がそうなっただけ。
 きっと青木の夢は、会えない人を抱きしめたいこと。
 ほかの人も、きっと違うそれぞれの苦しみがあるに違いない。
 僕たちは同じだ。
 高校生でも、大人でも、あんな舞台に立っている人でも。
 これまで自分が思っていた夢って一体何だったんだろう。
 仕事が希望通りになることを、そう思っていたのだろうか。
 自分たちはなにをやって、何になりたかったのだろう。
 あの人たちはどうして、歌を歌うだけじゃなく、バンドとして成功しなければならなかったのだろうか。

 御堀は思う。
 なぜ、グラスエッジはファンを「ダイバー」と呼ぶのか。
 なぜ海に潜ろうと呼ぶのか。
(タマにしっかり、聞いときゃよかったな)
 いや、あとでちゃんと尋ねよう。
 きっといろいろちゃんと判る気がする。
 今なら、もっと。

 だけど、その答えは尋ねることがなかった。
 まっすぐ『ダイバー』を見つめる集は、まるで御堀の言葉を聴いていたかのように、歌詞を丁寧に紡いだ。


 ―――――潜っちゃえば君の悲しみも、深い海の中の一粒




 二日続いた福岡のライヴは無事終了した。
 帰る前にちょっとだけでも構わないから絶対に顔を出してほしい。
 そう言われていたので、アンコールが始まる前に幾久と御堀は楽屋へと移動して、メンバーが戻るのを待っていた。
 アンコールが終わり、ばたばたと大きな音がすると、スタッフに抱えられた集がマットに降ろされ、すぐに足のマッサージとアイシングを始めた。
「あー、暑い!もうしんどい!」
 そう言いながら入って来たのは福原だ。
 そうして来原、中岡、青木の三人もぞろぞろと楽屋に入ってくる。
「お疲れ様っした」
 幾久が言うと、青木が感激しながらうなづいた。
「本当にいっくんにそう言われたら、疲れなんかふっとぶね!」
「いや、皆さんお疲れさまでしたなんで」
「僕も入ってるでしょ!」
 幾久に構ってほしい青木はそう言って幾久に近づき抱き着く。
 と、御堀は集に近づく。
 二時間全力でこなすライヴは集の体への負担が凄く、足を冷やすアイシングの最中だった。
 御堀は集に頭を下げて言った。
「ライヴ凄かったです。ご招待、ありがとうございました」
「ううん。御門の後輩が喜んでくれたらそれでいい」
 ステージとは違う、のほほんとした表情に御堀はほっとする。
 御堀は集に、どうしても伝えたいことがあった。
(どう言えばいいのかな)
 なにをどうすれば、上手に集に伝えられるのかわからず、躊躇っていると集はにこにこしたまま、御堀を見つめていた。
 ステージで見た、圧倒的な存在感を持つ集とは全然違う、まるで御堀が悩みを話すのを待っている雪充のようにも思えて、御堀は思ったままの感情を言葉に乗せた。
「ファンのこと、どうしてダイバーっていうのかな、どういう意味かなってずっと考えていたんですけど、海の中の一粒って言葉で……ちょっとだけ判った気がします」
 言葉でだけなら、江村に聞いて分かっていた。
 だけど本当に、そういう意味なんだと判ったのはあの歌を聴いて、理解できたからだ。
 集は静かに御堀の言葉を聴いていた。
「僕、凄く落ち込んだときに、報国の海で救われたんです。幾も迎えに来てくれて。真っ暗な海だったんですけど」
 集は静かに微笑むと、御堀に告げた。
「海に潜ったらね、泣いてもわかんないんだよ」
 そのさみし気な表情に、御堀は集の深い悲しみを見た。
 この人は、いや、この人も。
 きっと大切ななにかを失ってしまった人なのだろう。
 集は続けて御堀に伝えた。
「だからさ、泣きたくなったらココに潜りにおいで。見ての通り、騒がしい海ん中だけど」

 ぎゃあぎゃあ騒ぐ青木達を見て、集が笑い、御堀も頷いた。
 ―――――そっか、と御堀は笑った。
 きっと、また、ここに来よう。
 今度はきちんと、音楽を聴きに。
 御堀はそう思って頭を下げた。
「ありがとうございます。先輩」
 へら、と集が笑った。
 まるで幼い少年みたいだな、と自分のほうが年下なのに、御堀はそう思ったのだった。

「あ、タマからメッセージきた。誉、そろそろ帰らないと」
 幾久がスマホを見て言うと、まるでおんぶおばけのように幾久にべったりくっついていた青木が言った。
「やだ!いっくん帰っちゃやだ!メンバー福原と交換して!」
「いや、帰るッスよ」
「じゃあもうライヴしない!」
 青木が言うも、幾久は児玉にメッセージを打ちながら言った。
「オレ関係ないんで」
「ひどい!じゃあ僕も御門に帰る!」
 そう青木が言うも、宮部は幾久に渡すようの荷物を紙袋に入れて、にこにこしながら言った。
「部外者は冬休み間は絶対に駄目ってすでに学校に言われてるからね?」
 そう言いだすのは想定済、と宮部は笑顔だ。
「青木君、いいかげんいっくん離せよ。ツアー終わったら休みになるじゃん」
 福原が言うも、青木は往生際悪く首を横に振る。
「僕は、今、この日この時この瞬間を休みたい!いっくんんんんん!!!!!」
 ぐりぐりと幾久に、猫のように頭を擦り付けるも、幾久は帰り支度を整える。
「アオ先輩、大人なんだからお仕事はちゃんとしないと」
「いやだ!大人だって休む!」
 幾久は、あーあ、とため息をついて、リュックを開け、青木に小さな袋を押し付けた。
 え?と驚く青木に、幾久はため息をついた。
「青木先輩、ピアノ弾くんだから手は大事でしょ。メリークリスマス」
 青木が渡された紙袋を抱えて、え?え?と何度も幾久を見る。
 幾久はちょっとむくれて言った。
「もー、内緒にしてまとめてから宮部さんに渡してもらおうと思ってたのに」
 そう言って幾久は次々にメンバーにプレゼントを渡し始めた。
「来原先輩にはプロテインのお試しセットで、集さんには皮のブレスレット、んで福原先輩には白い犬のキーホルダー、中岡先輩にはうどん。これ、おすすめらしいっす」
「うわ、本当に?俺にも?ありがとう。嬉しいよ」
 中岡がうどんに目を輝かせる。
 まさか、先輩でもない自分にプレゼントがあるとは思わなかったからだ。
「楽っくんに相談したんで、大丈夫かなって」
 楽(がく)は中岡の弟で、兄同様サッカー経験者だったので話が弾み、すっかり幾久と仲良くなっていた。
 青木は袋の中を開けた。
 入っていたのはハンドクリームとかわいいキャラクターの爪やすりだった。
 青木は目を輝かせながら宮部に言った。
「僕仕事する。お仕事マシーンになる」
「よーし、これで今回のツアーも完ぺきになるな!」
 宮部はうなづき、後ろ手で楽屋のドアをそーっと開けた。
 幾久と御堀が目配せすると、互いにうなづき、次の瞬間。

「先輩たち、よいお年を!」

 幾久と御堀がそう叫んで楽屋から出ていくと、青木が後を追いかけようとするも、宮部は無慈悲に扉を閉めた。
「おい、いっくんをせめて送らせ……」
「大人はお仕事の時間だよ?青木センパイ?」
 笑顔ではあるがしっかり脅しの口調で宮部が言い、スケジュール帳を押し付けた。
 青木が露骨に顔を歪めると、宮部はにこにこしたまま青木に告げた。
「この後はスタッフへのあいさつ、インタビュー、あとラジオへの出演と」
「もういい、聞きたくない」
 耳をふさぐ青木は、それでも幾久のプレゼントを自分のバッグの中へしまい込んだ。
「まあそういうなアオ、がんばったら今日の仕事が終わるまでには、いっくんの動画が編集されて届くぞ?」
 宮部の言葉に青木が驚き顔を上げた。
「えっ、」
「アオが絶対に欲しがると思って、ちゃーんといっくん専用の撮影班をこの二日の間に内緒でつけてます!データ何時間あると」
「今すぐよこせ今すぐ!」
 宮部に青木が詰め寄るも、宮部は首を横に振った。
「と、アオが言うと思ったので、細切れにして渡す。お仕事の報酬」
「くっそおおおおおお!」
 青木の振り回されっぱなしな態度という珍しいものが見れて、中岡は噴出し、福原は来原と顔を見合わせて笑った。
(ほんっと、いっくんがいると珍しいものが見れるよ)
 リラックスして話をふる集、弟といる時のようにご機嫌な中岡、そしてまるで杉松の話をしている時をもっとひどくしてしまったような青木の態度。
 こんな風に、馬鹿みたいに笑うなんて、バンド結成のころみたいだな、と福原は昔の事を思い出した。
「まーまーいいじゃん、青木君。お仕事さえしとけば見せてもらえるんだし」
 福原が言うと、宮部が福原にニヤッと笑って言った。
「南風(みなみ)から聞いたけど、あの二人、ライブ前にものすっごいキラキラした目でお前らのステージ待ってたらしいぞ」
 するとメンバー全員が、動きを止める。
 宮部はニヤニヤしながら肩をすくませ言った。
「ものすっごい集中した顔で、ずーっとステージの海の映像を見つめてお前らを待ってたんだってさ。それ見たくない?」
 そんなもの、見たいに決まってる。
 ステージに出る立場なんだから、待っている人の顔なんて絶対に見る事が叶わない。
 おまけに、自分たちにちっとも興味を持ってくれなかった、可愛い後輩のそんな顔なんて、お金を積んでも絶対に見たい。
 全員がじっと見つめる中、宮部はまるで悪魔のように、微笑んでメンバーに告げた。

「お仕事がんばりましょうね、グラスエッジセンパイ」

 全員、(絶対にいつかこいつシメる)と思いつつ、データをしっかり握っている宮部をどうこうできるはずもなく、大人しく、うん、と頷いたのだった。
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