【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

文字の大きさ
323 / 416
【21】東走西馳~今年も君といる幸運と幸福

あけましておめでとうございますお姉さま

しおりを挟む
 幾久達が鐘を突き終わってしばらくすると、日付が変わり、年が明けた。
 年明けに一度鳴らす鐘が最後になり、それは律が打つことになった。
 奇麗に鐘の音が響くと、全員が頭を下げた。
「新年、あけましておめでとうございます!」
「おめでとー!」
「おめでとう」
「おめでとうございます」
 そうして知らない人とも、皆口々に新年のあいさつを交わす。
「じゃ、俺勉強あるんんで、これで」
 華之丞が言い、幾久が頷いた。
「そっか。初詣は?」
「朝になったら、ダチと行くっす」
「そっか。じゃあ受験頑張ってな」
「うす!」
 華之丞が言うと、幾久が「じゃあな」と笑って手を振る。
 ほくほくと満足する華之丞だったが、さっと幾久の隣に御堀が立ち、わざとらしく幾久の肩に腕をまわす。
 ちらっと華之丞を見返すと、ふふんと華之丞にいやみっぽく笑うと、「じゃあ幾、いこっか」とべったりくっついていた。
(なんだよあいつ!むっかつく!)
 華之丞のあこがれの先輩である幾久にべたべたするのも気に食わないし、なにげにミスリードして、華之丞がさも周防市に行くかのように幾久に話していた。
 そもそも、華之丞は幾久はともかく、御堀にサッカーでこてんぱんに負けている。
 むかつく理由しかないのである。
(ぜってー、アイツだけには負けねー!)
 もともと報国院の上を目指していたが、これで余計に負けない理由が出来た。
(なにがなんでも、アイツだけには負けねえぞ!)
 鳳、首席、イケメン。そんなものクソくらえ!
「俺が絶対に抜いてやる!俺様がトップだ!」
 華之丞がそう叫ぶと、まだ残っていた人がびくっと驚く。
 律が言った。
「ごめんねうちの息子お年頃で」
「反抗期って言えクソ親父―――――っ!」
 二人をよく知る檀家の人は、ああまたか、と苦笑して、今年も変わらないのだろうなあ、と笑顔になったのだった。


 受験勉強に戻った華之丞と別れてお寺を後にし、幾久達は来た道を戻り、報国院へと向かっていた。
 商店街は初もうで客をみこんでか、ところどころの店が開いており、福袋を売り出している店もあった。
 年があけたせいか人通りもさっきより増え、真夜中なのにまるで昼間の通りくらいににぎやかだ。
 がやがやとした雰囲気は神社へ近づくほど大きくなり、正面ではない、商店街側の階段はすでに人だかりができていた。
(雪ちゃん先輩、連絡してもいいかな)
 高杉から、この時間なら大丈夫と教わっていたが、やはり気が引けるな、と思っているとメッセージがすでに雪充から入っていた。
 雪充から、新年のあいさつのスタンプと、『いま神社にいるよ。境内だけど、いっくん居る?』とメッセージがある。
「雪ちゃん先輩、来てるみたい!どこかな」
「そうなんだ」
「マジで?」
 御堀も児玉も、雪充は大好きな先輩だ。
 幾久の言葉に慌てて探すと、上の境内から声をかけられた。
「おーい!いっくん!タマ!御堀も」
 雪充の声に、ばっと顔を上げると、雪充が手を振っていた。
「雪ちゃん先輩!」
 幾久はまるで飼い主を見つけた犬みたいに、走り出し、御堀と児玉は苦笑した。
 階段の端っこからかけあがり、幾久は雪充のそばに駆け寄ると、雪充は姉の菫と一緒で、上にある境内のはずれに立っていた。
「あけまして、おめでとうございます」
 幾久が頭を下げると、雪充が頷いた。
「おめでとう。今年もよろしくね」
 雪充の言葉に、幾久はばっと顔をあげて「はいっ!」と元気よく答えた。
「これ、ありがとういっくん。すごく便利でさ、部屋でも使ってるし、いまもこうして」
 雪充がそう言って、ネックウォーマーを軽くひっぱる。
 それは幾久が雪充の為に、予算オーバーしても欲しかった、かっこいいブランドのネックウォーマーだった。
 奮発したかいがあって、雪充によく似あっている。
「いえ、めちゃくちゃかっこいいです」
 幾久が言うと、雪充が笑って訪ねた。
「僕が?ネックウォーマーが?」
「ネックウォーマーをしてる雪ちゃん先輩が!」
「そっか」
「はい!」
 そう会話をしていると、隣で悶えている女性が居た。
 雪充の姉、菫だ。
「もういいでしょ雪充。こっちにも、いっくんをまわしてよ!」
 そう言って出てきた。
 相変わらずあでやかな美しさで、幾久は一瞬息をのむ。
「いっくぅうううううん!!!!!あけましておめでとぉ!」
 そういってぎゅうう、と幾久を抱きしめる。
 長い髪がふぁさっと幾久の頬をかすり、やわらかさについうっとりする。
 菫は手袋を外し、幾久の頬を両手で包んだ。
「いっくんがくれたハンドクリームつけてんのよ!もうほんとお気に入りなの!ありがとう!」
 幾久の頬をぐにぐにと触る菫に雪充が苦笑する。
「姉さん、いっくんの顔が潰れるよ」
「潰れても可愛いなんて、ほんとなんて可愛い!」
 美人にならもまれてもいいやあ、と幾久がうっとりしていると、声をかけられた。
「おい、そいつは餅じゃねえぞ」
 声をかけてきたのは毛利だった。
「お餅だったら食べちゃう!持って帰る!」
「俺のついた餅を持って帰れ。そいつは不可だ」
「常世(じょうせ)のケーチ」
「現品限りだからしゃあない」
 在庫があったら売られちゃうのかよ、と思いつつ、本当に売られそうだなと思って幾久は突っ込まなかった。
「それより、なんで列から出てるんすか?」
 境内から本堂に向かって、お参りする人は一直線に並んでいる。
 外れていたらいつまでもお参りはできないだろうに。
 すると毛利が答えた。
「もうちょっと人が引くの待たねーと、今日は多いからな」
「並んでたらいいのに?」
 お参りが済めばすぐみんなお守りを買いに社務所へ向かったり、近くの別の神社へ向かうので、人はきちんと減っている。
 すると、雪充が困ったように言った。
「人が多いと、姉さん、すぐ痴漢に会うんだ」
「えっ」
 幾久が驚くと、菫は困ったような顔になって言った。
「そうなのよ。ちょっと人ごみに入るとすーぐ触ってくる不埒物が居てね」
「なんすかそれ」
 露骨に幾久の声が不機嫌になり、菫は驚き、雪充はちょっと驚き。
 そして毛利は(あーあ)と思った。
(こいつ、こういう所も杉松と同じだったんか)
 と、毛利が気づいても遅い。
「なんすか、それ絶対犯罪じゃないっすか」
 急にむかついたらしい幾久が言うと、菫は困ったまま、「そうなんだけどね」と答える。
「本当はもうちょっと遅くなって来ようかと思ったんだけど、雪充にいっくんが居るって聞いて焦っちゃって」
 だったら、菫は幾久に会いたいが為に、わざわざ待っていてくれたことになる。
「だってそんなの、菫さん全然悪くないじゃないっすか。なのになんで、菫さんがそんな奴の為に、時間考えないといけないんすか。オレ、そういうの絶対に許せない」
 なぜか幾久の方が傷ついた顔になり、菫は少し困ってしまう。
 いいのよ、と言ってもきっと幾久はきかないだろう。
(そういうところ、ほんと杉松さんだよね)
「菫さんは絶対に悪くないし、かといって痴漢を捕まえるのも、菫さんに触らせちゃうことになるし」
 ぶつぶつ言い始めた幾久は、たぶん本気で怒っている。
 むっとしたままの幾久に、児玉も御堀も黙ったままだ。
 こういう時、幾久には触らないほうが身のためだからだ。
 そこで、幾久ははっとなにかを思いついた。
「ちょっと待っててくださいね!すぐ戻ります!」
 そうして社務所へ向かって走って行った。
 毛利はそれを見てため息をつく。
「あーあ、紳士が発動しちゃった」
 菫はふふっと笑う。
「可愛いじゃない。なんであれ素直に嬉しいわあ」
 菫にとってはよくある事でも、幾久がああも本気で怒ってくれて、なにかを思いついて走って行った。
 なんて可愛いのだろうと嬉しくなる。
(好きでこんな外見なんじゃないや、ばーか)
 奇麗でいいわね、何の努力もしてないのに、なんて嫌味を言われるたびにいろいろ不満はあったけれど、こうして杉松に似た幾久が本気で怒ってくれると嬉しくなる。
「あー、あの子が面食いでよかったあ」
「自分で言うか」
「いうわよ。あたし美人だもん」
「へいへい、そうですよね」
 呆れながらも、こうして毛利が傍についているのは、菫をそういった連中から守るためだ。
 学生の頃からそうだった。
 あの頃小さかった雪充は、姉を守れるくらいには強くはなったけれど、それでも一人では間に合わない。
「でも、いっくんなにするんだろう」
 好奇心半分で雪充が言う。
 幾久一人では痴漢から菫を守れないだろうけれど、さて一体どんな事をするのだろうか。
「なんとなく、想像はつきますけど」
 御堀が言うと、児玉も笑って「そうだな」と言う。
 社務所には伊藤が居るはずで、しかも男手は余っている。
 ああ見えてわりと交渉上手の幾久だ。
 きっと面白いことをするに違いない。
「誉に声かけずに言ってんだから、きっと自信あるんだと思いますよ」
 児玉が雪充に言うと、雪充も「そうだろうね」と笑う。
「さて、どんな手腕を見せてくれるのかな、いっくんは」
 菫も雪充も、ちょっとわくわくしながら、幾久の戻るのを待った。


 しばらくすると、真っ黒な着物の上衣を着た面々が現れた。
「おっ、考えたな坊主」
 毛利が楽し気に笑った。
 現れたのは伊藤を始め、警備にあたっていた報国院のSP部隊だ。
 幾久が菫たちに言った。
「警備をお願いしたんで、一緒に並んでくれるそうっス!」
 ずらっと現れたのは、報国寮、千鳥のSP部隊だ。
 中には河上の姿もある。
「桂先輩のお姉さまを痴漢から守る会!参上しました!」
「押忍!」
 見事なまでの掛け声に、参拝客からくすくすと声が聞こえた。
 見ただけで十人近くの生徒が集まり、菫を見ておお、と声を上げていた。
「美人だ」
「すげえ美人だ」
「女優だ」
 幾久が菫に言った。
「菫さん、騒がしいっすけど、みんなが囲んでくれるそうっす。並んでお参りしましょう、一緒に」
 そう言って幾久が手を出すと、菫はにっこりと微笑んだ。
「うん!じゃあ、いっくんにお任せする。君たちもよろしくね!」
 そう菫が極上の笑顔で言うと、男子生徒からどよめきが起き、「絶対に守るぞ!」「痴漢、ダメ、絶対!」と声が上がったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...