【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

文字の大きさ
341 / 416
【22】内剛外柔~天に在りては比翼の鳥、地に在りては連理の枝

みなさん大人でよかったわあ(棒)

しおりを挟む
 全く自分たちのしでかした失態に気づかない夫婦は、スーツのレベルも知らず、まあ、まるで制服みたいな紺色の可愛いスーツですこと、お若いわあ、と笑っている。
「君、」
 御堀の父が思わず宇佐美に言うも、宇佐美は懐から名刺を取り出そうとした。
「いえ、お時間は結構。お渡ししたらすぐに失礼します」
 名刺さえ渡せばお前に用はない、時間の無駄だ。
 そう宇佐美が言っていると痛いほど判った御堀の父は、頭を下げて宇佐美に告げた。
「当方の無礼を、どうぞ謝罪させてください。大変申し訳ありません」
 深々と頭を下げる御堀の父に、仲人夫婦は驚き、首をかしげている。
 宇佐美は黙っている、という事はまだチャンスはあると御堀の父は理解した。
「お許し下さい。息子は報国院に通えるのを何より喜んでおります。どうか、足を留めおかれますよう、」
 御堀の父の言葉に、横で黙って聞いていた、誉会の黒田の奥様がさっと腰を下ろし宇佐美に言った。
「……どうぞおあがり下さいませ。周防の作法は非礼ではございません」
 安に、あの二人が愚かなだけだとの援護射撃だ。
 宇佐美は黙って靴を脱ぎ始める。
 上がるとのサインに、御堀の父は言った。
「息子に聞かせる内容ではありませんから、どうか席を外させるお時間を頂戴したいのですが」
 父親の立場を最大限利用してそう伝えれば、宇佐美は合格点だと言わんばかりの笑顔で頷き御堀の父に告げた。
「お早めに」
「……感謝いたします」
 あくまでお前の立場が下だ。
 そう宇佐美の言葉は告げている。
 勝負にならない。もう負けてしまった。
 御堀の父は慌てて息子と小早川の娘が待っている応接室に向かい、二人に外に出るように告げると、再び玄関へと戻った。


 御堀の父と宇佐美の為に応接室は開けられ、仲人夫婦の無礼を謝罪した後、宇佐美はやっと御堀の父の名刺を受け取った。
 仲人夫婦は別の部屋に案内され、小早川の両親や、今回関わった誉会の奥様方も、別の部屋で待っていることとなった。
 そして御堀の父は、宇佐美の名刺を受け取り、報国院の話を聞いて青ざめることになった。
 というのもまさか報国院に交際禁止の規定があった事も知らなかったし、正直に言えば、学校規則の概容など読んでいなかった。
 どの学校も似たようなものだと思っていたから、まさか校則を破った親にペナルティーが存在するとは知らなかったのだ。
「わが校の学校規則は大変厳しいものとなっております。それは生徒だけではなく、保護者の方へも責任を同じくしております」
 宇佐美は言う。
 報国院の学校規則は厳しく、その事を報国院出身であれば、よく知っていて、親達は報国院がどんな学校か理解しているからこそ、決してひとつも取りこぼさないように必死に学校規則を読み込む。
 なぜなら報国院のペナルティとは、単純に、即、金、であるからだ。
 だったら、解決は楽そうだなと御堀の父は思った。
 正直に言えば、御堀の父はこれまで金に困った事はない。
 あるとすればそれはあくまで企業の帳簿上の事で、実際に支払い云々に困ったことはなく、面倒は出来るだけ金でカタをつけてきた。
 今回もそうできればたやすい、と思ったのだが。

 宇佐美は告げた。
「御堀君は首席ではありますが、学院の規則を破るものは問答無用で退学となります。しかも今回は本人の交際ではなく、親ぐるみとあっては、報国院は詐欺にあったようなものですから」

 そんなつもりはなかった、などという言い分が通らないことくらい、御堀の父はよく判っていた。
 なぜこんなバカげたミスをしたのかといえば、息子が報国院に進学したことを腹立たしく思っていたからだ。
 自分勝手な娘が勝手に息子を唆して、知らぬ間に進路を変えさせた。
 ただそれでも、レベルは高いクラスで、首席入学した上に、長州市で仕事をすれば、報国院の首席と言うだけで親はご立派だと尊敬されたから、そう悪い気分でもなかった。
 だけどその気分も、もう台無しだ。
 完全に、学校の規則なんてと舐めていた御堀の父のミスだ。
 宇佐美はにこやかに話をつづけた。
「高校生の身で交際しトラブルが起きれば、息子さんではなく保護者の方がその責を負うことになるわけですが、生徒はこの事を知らなくても問題はありません。むしろ、わが学院は保護者の怠慢であると認識します」
 男子高校生が、女性と付き合って、もし子供でもできたなら、その責任を本人に負えと言っても無理な話で、だから保護者である親はしっかり読んでおけ、その責任はお前の教育にある。
 言葉を選ばないならそんな事を宇佐美は説明した。
 全く返す言葉もなかった。
 報国院から仕向けられた刺客は、若い男性で、まるで人のいい表情で笑っているのに、伝えてくる内容は取引に負けてしまった企業への断罪に等しかった。

 ―――――完敗だった。

 周防市では有能な部類に入る企業のトップであったし、自分はくだらないミスなんかしないと御堀の父はタカをくくっていた。
 だが、自分よりよっぽど若いその男性は、仕立てのいいスーツを着てにこやかな笑顔で、二つ目の名刺を出してきた。
 一つは報国院の、そしてもう一つは、よく見知った名前の会社。
 御堀庵は長州市にも店舗が存在し、そのうち手広くやるつもりでいた。
 だから息子の誉も、長州市で有名な学校ならと渋々進学を許した。
 特に報国院は、学校全体が地元企業に根付いていて、しかも出身者も多いときている。
 それなのに今、ここで不興を買うわけにはいかない。

 保護者から一瞬で企業家に戻った御堀の父は、無駄な抵抗は一切せず、淡々と宇佐美の指示に従った。
 確認をしていなかった自分のミスだし、それを今更後悔しても遅い。
 起こった事は片付けるしかなく、後で支払いをどうすませるかを今から考えておかなければならない。
 どうにでもなる。金の話なら。
「私一人のミスです。どうか、息子には責が及びませんようにお願いしたく」
 深々と頭を下げる御堀の父の言葉に嘘はない。
 自分の手を抜いたせいで、まさか御堀のこれまでの学業成績すら危うく、おまけに下手をすれば退学でもう一度どこかの学校に入学しなければならない事になるかもしれないなんて。
 だが、宇佐美は静かに微笑んで告げた。
「責が及んでしまっているから、私がこうして派遣されてきたのだとまだお分かりにならないと」
 御堀の父は言葉を失う。
 なんて学校で、なんて連中だ。
 普通であれば、生徒の為を思って丸く収めるのではないのか。
 しかも御堀は首席で、一度も成績を落としたことはないと言っていたのに。
「……報国院は、成績優秀者には甘いとお聞きしたのですが」
 御堀の父が言うと、宇佐美は頷く。
「勿論です」
「でしたら、」
 なぜ息子を退学になどと、と言おうとした御堀の父に、宇佐美は懐から手帳を取り出し、そこから紙を一枚広げてみせた。
 校外秘とプリントされたその用紙には、数字がいくつも並んでいた。
「ご覧ください。こちらがあなたの息子さんの成績です。ここに並んでいるのがわが校での順位、そしてこちらが県内、そしてここにあるのが全国区での順位です」
 宇佐美が指さした一番上の列の数字が御堀の成績と言うわけだ。
「そしてこのひとつ下が、わが校の次点、その次点者の成績です」
 指をさしたのは、御堀の下の行にある数字。
「―――――、」
 御堀の父は言葉を止めた。
 数字を見ればすぐに宇佐美の言わんとすることが分かったからだ。
 御堀の成績、そしてその次点、その次。
 そこに名前はないが、三吉普と滝川翼の成績になるそれは、御堀とわずかな差しかなかった。
 言われなくても判っている。
 甘いのはお前にだけじゃない。
 お前なんか要らない。
 御堀が消えれば、次点が主席になるだけのことだ。
 成績が良く、報国院のプライドを守ってくれる者であればそれで良いが、マイナスを生むなら即退学。
 当然だ、と御堀の父は思った。
 授業料を支払うどころか、むしろ学校は生徒に投資している立場で、投資している生徒がマイナスを生むなら投資は引き上げるのが当然だ。
 つまり、御堀は今回の見合いによって、投資の枠から外された。
 それだけの事だ。
 報国院にとって御堀は、暫定の首席でしかない。
 いくらでも次はいる。
 そう宇佐美は言っているのだ。
「御存じの通り、わが校は成績優秀者からは経費を一切徴収しておりません」
 つまり、成績優秀者が学校を辞めても、これっぽっちもダメージはない。
 報国院には成績の良い連中は御堀以外にも存在していて、必要なのはプライドだけ。
 そのプライドも、保護者が護る義務を怠ったのならお前は必要ない、とそう報国院は言っているのだ。
 御堀の父は、報国院に寄付はしていたが、その寄付の桁が違っていた事にようやく気付いた。
 報国院に退場を命じられているのは御堀の父であり、息子はあくまで巻き込まれただけ。
 さあ、どうする、と気づいたとき、御堀の父は両手を膝に置いたまま握りしめた。
 ここまで見事な完敗は久しぶりだった。
「―――――どうすれば、息子を退学にせずに済みますか」
 負けてしまったなら、相手の要求は全て受け入れる必要がある。
 御堀の父の言葉に宇佐美は答えた。
「取引をお望みであれば応じます」
 御堀の父は、頷くしかなかった。


 幾久が抱きしめた御堀が、やがて顔を上げると、いつもの表情に戻っていて、幾久はほっとした。
 そこでようやく、幾久は御堀の着物姿をじっくりと見つめた。
「誉、そういや今日お見合いなのに、なんで花婿さんになってんの?」
「これが男性の最高の礼服だからだよ。授業でやっただろ」
「そうだったっけ?なんかあったような、なかったような」
「覚えてないの?」
 呆れる御堀に幾久は答えた。
「寝てたかも」
 多分、マナーとかそういった授業の話だったのかもしれないが、興味がなくてうっかり寝てしまっていたかもしれない。
「それより幾、どうやってここまで?まさか一人で?」
「宇佐美先輩の車だよ。いま一緒に来ててさ」
「宇佐美先輩が?どうして」
「いやー、それにはちょっとした事情があるんだけど……」
 そこで幾久は視線に気づく。
 御堀の見合い相手である、小早川(こばやかわ)芙綺(ふうき)で、突然現れた幾久に驚き、立ち尽くしていた。
「あの子、誉の見合い相手だろ?」
「そうだけど」
 だったら、と幾久は御堀から離れた。
「誉、事情は後から詳しく話すけど、見合いは中止だ。学校がおこだ。っていうかウィステリアが激おこ案件だ」
「え?」
 いきなり学校の話が出て御堀は驚く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...