【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【23】拍手喝采~戦場のハッピーバレンタインデー

愛に満ちた僕らの世界

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 烈に杉松の動画をいくつか見せて貰ったが、あまり長居しても悪いので、別にいいのに、と笑う烈に断りを入れ、また来ますと挨拶し三人は御門寮へ帰りついた。

 着替えを済ませ、全員で居間のちゃぶ台に突っ伏すと、同時に「はぁ~」と長い溜息をついた。

 杉松の映像は、思いがけず幾久達の前に出された。
 心の準備もなにもなく、普通に見せられただけだが、幾久にとっては初めての出会いだ。
「……なんか優しそうな人だった」
 幾久が言うと、御堀も頷いた。
「凄く雰囲気のいい人だね」
 御堀は以前、杉松に会った事がある。
 姉と杉松の妻である六花とは先輩、後輩の仲で、今も仲がいいのでよく遊びに来たという。
「俺の理想のまんまだった」
 杉松を憧れと言う児玉もそう言って頷く。
 ぼやけた記憶が上書きされて、児玉には一層強いインパクトを与えたらしい。
 幾久は思う。
 どこが似ているんだろう。
 幾久より全然優しそうで、しっかりしていそうで、しかも写真よりずっとイケメンだった。

 ぐずる幼い久坂瑞祥を抱きかかえて、ほら、泣くな、と宥める姿は、物凄く若い父親のようにも見えた。
 弟を抱きかかえ、高杉の頭を撫でる杉松は、見るからに幸福の中に居る、といった雰囲気で、ああ、この人は幸福なんだな、とみているだけで判った。

 驚いたのが、青木の表情だ。
 美しいけれど人間味のない写真とは全く違い、皆と遊んでいるときの青木は普通に楽しそうな高校生にしか見えなかった。
 確かに言われてみたら、奇麗な子だね、とは思うかもしれないけれど、それよりバカ騒ぎして楽しそうだな、としか思わなかった。

「みんな楽しそうだった」
 幾久が言うと、御堀が頷いた。
「ものすっごい若かったね。毛利先生とか」
「もろヤンで笑った」
 あれが今の毛利になったのだとしたら、確かに更生したと言われるだろう。
 毛利もマスターも、全身から問題児丸出しだった。
 だけど、やっぱり久坂や高杉と一緒に遊んでいると、まるで大きな悪ガキにしか見えないから不思議だ。
「やっぱなんか、幾久に似てたな」
 児玉が言うと、幾久は「そう?」と尋ねた。
「似てたよ。確かに」
 御堀も頷いて言う。
「そっかなあ。絶対に杉松さんの方がイケメンだよ」
「あー、それは確かにそうだな。なんかすらっとしてるというか、すっきりしてるというか」
 児玉が言うと幾久がむくれた。
「どうせオレは騒がしいよ」
「髪が似てたじゃん。幾もちょっと髪がくるっとしてるし」
 御堀が幾久の髪を弄って言った。
 幾久の髪は確かに微妙にくせ毛っぽいところがある。
 杉松もちょっと、そういった髪質ではあった。
「あと動きな」
 児玉が笑った。
「なんかちょっとした動きとか、杉松さんに似てる。俺、動きだけ見てたら杉松さんの事、お前だって勘違いするかも」
「えぇー?そんな微妙な」
 幾久からしたらこじつけに近い感じがするが、御堀も児玉も「なんか判る」と納得している。
「オレにはわかんなかったよ」
「まあそうだよな。自分の動きなんか、見えないもんな」
 楽しそうな児玉だが、幾久はふと思った。
(じゃあ、多留人に見せたら似てるっていうのかな)
 そんな機会はないだろうけど。
 判らないなあ、と幾久が唸ると、御堀も児玉もちゃぶ台に突っ伏したままため息をついた。
「誉、お茶」
「やだよ。幾、自分で入れな」
「自分でしたくないから言ってんのに。じゃあタマ」
「俺だってやだよ」
 なぜか疲れた三人は、そう言って「はー」と同時にため息をつく。

 すると、玄関からただいま、という声がした。
 高杉と久坂の声だ。
「先輩ら、帰ってきたんだ」
 いつもなら玄関へ見に行ったり、お茶を入れるか尋ねたりする三人だが、疲れてしまい動けない。
 高杉、久坂の二人は衣裳部屋へ向かい、着替えを済ませると居間を覗き込んだ。
「出てこないと思ったらこんな所におったんか」
「なに突っ伏してんの、三人とも」
 高杉と久坂が言い、幾久はちゃぶ台にくっつけたまま、顔を二人に向けた。
「さっき、福原先輩んち行ったんです。アオ先輩の写真、見に」
「ほう」
「そしたら、烈さんが、思い出したって昔の動画見せてくれて。杉松さんがいました」
 幾久の言葉に、久坂と高杉が目を見合わせた。
 幾久は続けた。
「昔の動画、整理してたら出てきたって、古いデジカメの中のやつ。毛利先生とか、マスターとか、アオ先輩とか福原先輩とか。あと、六花さんもいて。ハル先輩と瑞祥先輩も」
「……」
 久坂と高杉は黙ったまま、幾久の話を聞いていた。
「整理終わったら、六花さんに渡しておく、そうです。急ぐならデータで送ってあげるから、言えって烈さんが」
 すると久坂が笑って言った。
「ねえちゃんの所にあるなら急ぐ必要もないよ」
「で、見た感想は?」
 高杉が幾久に尋ねた。
「瑞祥先輩、女の子みたいでした。めちゃめちゃ可愛いかったんすね」
「僕は今でも可愛いけど?」
 すまして言う久坂に幾久は首をごろんごろんとちゃぶ台の上で転がして言った。
「いやー、そのデカさで言われても」
 ぷっと高杉が噴出して幾久に言った。
「いま態度の事も含めたじゃろう」
「なんで判るんスかハル先輩。流石っス」
 幾久が感心して言うと、久坂が幾久の脇をくすぐった。
「うわあ!やめてくださいよもー!」
 幾久はごろんと転がって逃げ出す。
「青木君はどうじゃった。美形じゃったろ」
 高杉が言うので幾久は頷いた。
「確かにスゲー奇麗っした。烈さんが撮った写真で見たら、芸能人だなって思うくらいに。でも、みんなと遊んでる時は、普通のかっこいい高校生っした」
「だよね」
 と久坂が楽しそうに笑って言った。
「僕らからしたら、昔から変わらないバカ兄貴でしかないから」
 久坂も高杉も、あえて昔の事や、青木達の事を語る事はない。
 だけどそれは、皆が知らないからしないだけで、知ればこうして何の疑いもなく喋るのだな、と思った。
「お前らも見たんじゃろう。どうじゃった杉松は」
 高杉が尋ねると、御堀と児玉が答えた。
「髪がちょっと跳ねてて、そこ幾久に似てるなって」
「あとなんとなく、動き?っていうか雰囲気が幾久にそっくりでした。遠くから見たら、俺、幾久と勘違いするかも」
 児玉の頭に、久坂が手を置いて撫でた。
 珍しいな、高杉じゃないのに久坂がこんな事をするなんて。
 児玉もそう思ったのだろう。
 驚いていると、久坂はぽつりと言った。
「……僕もそう思うよ」
 ふう、と高杉がため息をついて、苦笑した。
「それでお前ら疲れちょるんか。しょうがねえ、待っちょけ。ワシが茶を入れてきてやろう」
「すみません」
「お願いします」
「オレ外郎も」
 幾久が手を上げると、「おう」と高杉が返した。



 多分、話でしか知らない事が一気に目の前に現実として映像で見てしまって、オーバーヒートしたのだと幾久は思った。
 写真でも話でも、皆にとってはよく見知った人なのかもしれないが、幾久にとっては突然今日現れた人だ。
 高杉に入れて貰ったお茶を飲みながら、幾久はため息をついた。
「なんか、ものスゲー疲れたっス」
「なんじゃ、ちょっと昔の写真見ただけじゃろう」
「動画っす」
 多分、写真ならここまでどっと疲れなかっただろう。
 話でしか知らない人が、目の前にこうして現れて、しかもその人はもう存在しない。
 おまけに、幾久に似ていると言われても自分ではちっとも判らない。
(確かに髪は、まあ、わからんでもないけど)
 青木がやたらめったら美形なせいで、ちょっとかすんでいるのかもしれないが、杉松だって十分イケメンだったし、その外見で両耳にピアスをつけて、彼女と一緒に並んで小さい弟を可愛がっている姿は。
「なんかスゲーリア充丸出しっしたねー杉松さん」
「ガタみてえな事を言うな」
 高杉が呆れるも、幾久はそれが一番しっくりくる表現だと思った。
「だって、鳳で頭良くて、外見かっこよくて、彼女も居て、ピアスなんかも瑞祥先輩みたいに嫌味―な感じじゃなくて優しそうってなんか無双じゃないっすか」
「いまなんか僕の悪口が聞こえたけど」
 久坂が言うと幾久が言った。
「安心してください。ちゃんと言ってます。気のせいじゃないっす」
 幾久が言うと、今度は久坂が幾久の脇をくすぐった。
「うひゃあ!もうやめてくださいよー」
「生意気言うとこうだ」
「もういいませーん」
 絶対に嘘だろうという口調で幾久が言うと、児玉が苦笑した。
「でもほんとかっこよかったです、杉松さん。ちっさいころの俺があこがれるのもなんか判るって言うか」
「みーんなすっげ楽しそうだったし」
 海ではしゃいで遊ぶ青木や福原、来原を楽しそうに笑って見つめ、怪我するなよ、と注意する杉松は本当にいいお兄さんといった雰囲気だった。
 ずっと誰かを見守っていて、危なそうなところになると急にそこへ向かおうとする。
 カメラを意識しているわけではないのに、杉松は常に誰かを見守っていた。
 青木がなぜ、そこまで杉松に思い入れたのか判った気がする。
 きっと、青木はあの寮で、あの友人たちに、先輩に、後輩に。
 ずっと、守られていたのだ。
「アオ先輩は変態だけど、変態になるのはしゃあねえかなってちょっと思います」
「そうか。まあ、お前が相手にしちゃりゃ、青木君は楽しそうじゃからの」
 さて、と高杉が立ち上がった。
「後輩どもがこれじゃ、夕食の支度はできんじゃろう。瑞祥、麗子さんの手伝いするけ、お前も来い」
「え~……ヤだよ」
「嫌でも来い」
 高杉が言うので、久坂は仕方ない、と膝を立てた。
「もう、ほんと役立たずの後輩どもめ」
「すみません」
 そう言いながらも御堀もぐったりしているので、久坂は諦めたらしい。
「仕方ない。夕食になったら呼ぶよ」
「はーい」
「お願いします」
「すみません」
 幾久、御堀、児玉が言うと、久坂と高杉の二人はキッチンへと向かった。
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