359 / 416
【23】拍手喝采~戦場のハッピーバレンタインデー
ツンデレと素直さ
しおりを挟む
「強い、かっけえ、ああなりたい、くらいなら子供でも分かるけどさ、その奥にあるものって、いい年になるまで好きじゃないと、理解できないものなんじゃないか?」
児玉が言うと、山田は驚いて目を見開く。
児玉は続けた。
「そういう事に気づけるお前は、素直にすげえと思うよ、俺は」
その言葉に、御堀と幾久は目を合わせ、笑う。
児玉は怖そうに見えるけれど、他人を素直に尊敬してそれを素直に口に出す。
誉め言葉も、児玉にとってはただの感想でしかないので、その素直さは時々、とても照れる。
実際、山田は顔を真っ赤にしていた。
元々、児玉をライバル視していて、児玉をリスペクトしているので、褒められると恥ずかしいのだろう。
「―――――お前のそういうトコむかつく」
素直になれない山田がそういうと、素直に言葉を受け止めた児玉が「なんだよ」とちょっとムッとする。
幾久はふっと笑って、児玉にささやいた。
「気づきなよタマ、ツンデレって奴だよ」
御堀も幾久に同じく頷く。
「そうだよ、本当はタマのこと好きなくせに」
幾久と御堀がそういうと、山田は顔を真っ赤にして慌て始めた。「ばっ、ちが、んな、」
山田が二年の高杉を好きで、それに近い雰囲気の児玉も好きなのは見ている方からしたら丸わかりだが、児玉本人は他人から向けられる感情に鈍い。
山田が『むかつく』といえば、素直に『むかつかれている』と思ってしまう。
なので幾久は山田に言った。
「な、御空、タマってマジでそういうの鈍いから、ちゃんと言わないと本気で伝わんないぞ」
御堀も頷いた。
「そうそう、言えばすぐ判ってくれるけど、どういう意味でも素直すぎるからさ。あんまり甘えてると、本当にチャンスなくすよ?」
幾久と御堀、二人にそう言われると、山田はぐぬぬ、となってしまうも、児玉が困惑しているのを見て、諦めてため息をついた。
「あーもう、判った、判ったよ」
そうして児玉に向き合うと、山田は言った。
「―――――お前のそういうトコ、好きだよ」
山田に好きだと言われ、児玉は笑顔を見せた。
「おう!」
その笑顔で、山田も毒気を抜かれたようになり、苦笑してまあいっか、と笑った。
その二人を横目に、幾久がわざとらしく内緒話をするみたいに、御堀に顔を思い切り近づけて言った。
「タマって案外モテるよな?」
「男にだけどね?」
「そのへん、ハル先輩と似てるよな?」
「似てる似てる」
うんうんとわざとらしく頷く御堀と幾久に、児玉はすぐムッとする。
「おい、お前ら」
御堀が幾久に言った。
「男子校でモテモテだって」
「わー、いいなあ、うーらやーましー」
幾久が言うと、児玉が怒鳴った。
「聞こえてんぞ!」
すると、示し合わせたように御堀と幾久が二人で同時に言う。
「こわーい」
「こわーい」
ちっとも怖いと思っていないくせに、そう言って児玉を茶化す幾久と御堀に、山田はとうとうこらえきれずに噴出した。
丁度食事を終えた頃になって、やっと服部が四人に合流となった。
「ゴメン、遅くなった」
「いいよ。今からコーヒー飲むし。お茶持ってこようか?」
幾久が尋ねると、服部が「ありがとう」と頷く。
休憩時間は十分あるし、児玉もジムが開く時間に余裕があるとの事なので、服部が食事をしている間、皆、いつものようにコーヒーを飲みながらお喋りを続けた。
桜柳寮はすっかり受験モードに入っているが、ピリピリしているのは前原くらいで、梅屋は相変わらずにこやかに商売の事ばかり考えているので、そこまで重い空気でもないらしい。
山田が言う。
「梅屋先輩、受かっても落ちても商売の事しか考えてねえもん。学生で起業したらなにかと特典があるって今から準備してるし、時々前原先輩にちょっかい出しては怒られてる」
「前原先輩、真面目そうだもんね」
はは、と幾久が笑うと、元、同じ寮だった御堀も山田も頷く。
「真面目っていうか生真面目だよ。だから提督なんだって思うし」
どの寮でも、寮長は提督と呼ぶのが報国院の習わしだ。
唯一、なぜか御門寮だけは総督と呼ぶようになっているのだが。
「先輩がいなくなると寂しくなるんだろうなあ」
山田が呟くと幾久も「本当だよ」とむくれた。
「雪ちゃん先輩になにかできないかなあって思ってるんだけどさ」
「お前、自分の寮の先輩はいいのかよ」
「ガタ先輩?あれはいいよ」
酷い言い分に、児玉も御堀も苦笑する。
「寮でお別れ会とかないのか?」
山田が尋ねると、幾久は首を横に振った。
「そんなの聞いてないし、正直めんどい。雪ちゃん先輩になら、なんかしたいけど」
幾久が言うと、山田が言った。
「だったら、予餞会でなにかしたらいいんじゃないか?」
「予餞会?」
「そう。卒業式の前にあるじゃん。希望者しか出なくていい奴。あれ、部活動単位でも出られるし、後輩が出てくれたら先輩としてはけっこう嬉しいらしいぞ」
「へえー、てっきり適当になんかするのかと思った」
「俺も出るぞ」
児玉が言うので幾久が驚いた。
「うそ、マジで?いつの間に」
「だって俺、軽音部じゃん」
「あ、そっか」
児玉は軽音部に所属しているので、当然そっちの先輩とも付き合いがある。
「じゃあ予餞会、参加するんだ」
「おう。先輩にはいろいろ世話になってるし。俺が恭王寮に居づらい時も部室勝手に使わせてくれたりとかしてくれたし、ギター下手でも打ち込みしてくれてフォローしてくれたから、スゲー桜柳祭も楽しかったし」
「そっかー、タマ、ちゃんとそういうのやるんだ。偉いなあ」
感心する幾久だが、山田が尋ねた。
「何も言われないけど、地球部は地球部でなんかするの、アリな気がしねえ?」
山田の言葉に、全員が顔を上げた。
「いや、だって俺ら、やっぱ三年生に世話になったじゃん。フォローもスゲーしてもらったし」
幾久も頷く。
「周布先輩とかも、めちゃめちゃ動いてくれてた」
「だろ。そりゃ、花くらいは送るつもりだったけど、なんかどうせなら思い切って面白い事、やりたくないか?」
山田の提案に、一同が顔を見合わせた。
部活が始まる時間になったので、全員、ホーム部の部室である調理実習室へ向かった。
今日の仕事は、カヌレづくりの準備の為に八木ベーカリーへ向かった部員が数人、それ以外は調理をせずに事務作業になった。
チームごとに仕事が振り分けられていて、パッケージのリボンを作るチームや、送付用の箱を組み立てるチームもあって、桜柳祭の前のようににぎやかだ。
幾久と御堀、山田と服部は同じチームに配属されたので、四人で名簿のチェックをすることになった。
学校に来た注文もあれば、誉会のものもある。
青木の名前があったらパニックになるのでは?と思った幾久だったが、そこは匿名なので判らないようになっているという。
「けっこう、申し込む人居るんだな」
へえー、と驚く山田に、御堀が頷く。
「学校に申し込んでも、うちでも、匿名制度を使えるから」
誉会もだが、報国院はチョコレートを渡したい人がいる場合は、報国院のウェブサイトで申し込み、相手に届ける仕組みになっているのだが、申し込み時は個人情報が必要でも相手に伝えるかどうかは選べるようになっている。
「匿名だと気軽に送れるからね」
御堀が言うも、幾久は「でもさ」と言った。
「結局さ、誉会の管理って誉がやってるから、誉は誰か判るんじゃん」
「そりゃそうだよ。そこは管理人の特権だと思ってほしいな」
ふっと笑う御堀に幾久は「なんかエロいことしそう」と言うと「してほしい?」とまた笑顔で返されたので幾久は「いらね」と首を横に振る。
山田が名簿を抱えて、四人に振り分けた。
「全員で名簿チェックした後、自分がやった名簿をほかの奴に渡してチェック、とりあえずこれでミスがあったら拾えるだろ」
山田の指示に、皆が頷く。
「チェックが終わったら、幾と誉はメッセージカードを書けばいい。それ以外の作業を俺と昴がやる。一時間ごとに内容見て、問題あったらスケジュールの訂正入れてこーぜ。それでいいか?」
「いいよ。ありがとう」
御堀が言うと幾久も「いいでーす」と頷き、服部も頷く。
「よし、じゃ、始めるか」
そういって四人で早速、名簿のチェックに取り掛かった。
チェックと言ってもまずは字の抜けなどの確認なので、皆、気楽に喋りながらマーカーでラインを引いていく。
幾久は、あ、と思い出し、服部に声をかけた。
「昴、この前カヌレありがとう。めちゃめちゃ喜ばれたよ!」
服部は顔を上げ、うん、と頷く。
「あれから毎日作ってたんだろ?ホーム部でもないのに、凄いな」
幾久が感心すると、服部はううん、と首を横に振った。
「けっこう面白かった。料理って化学変化だし、同じ材料使っても、条件で出来が違うの、勉強になった」
「昴らしいや」
幾久からしたら、料理は料理でしかないけれど、研究肌の服部にとってはカヌレ作りも立派な実験というわけだ。
「八木ベーカリーって、とっても大きいパンの窯があるんだって。それだと、学校のオーブンより、早く沢山焼けるっていうから、見るの楽しみ」
「オーブンが楽しみとかって、なんかやっぱ違うね」
幾久が言うと、服部が、首を横に振った。
「あれ、奥が深い。温度とか時間とかも指定できるし。家電って、そういう意味では、すごい進化してると思う」
話を横で聞いていた、志道が頷いた。
「そーだぞ!最近の食洗器はスゲーぞ!時間指定できるし容量もすげーデカいし。うちにもあるけどな!」
そういって自慢げに、ばんばんと食洗器を叩く。
「うちの寮にも置いたらいいのに」
御門寮には食洗器も、乾燥機もない。
幾久が言うと、御堀が首を横に振った。
「うちは食べる時間がけっこう各自ばらばらだろ?その場合、汚れた食器をずっと置いとく事になるし、食洗器の管理が必要になるよ。麗子さんは作りながら奇麗に片付けも済ますタイプだし、栄人先輩も洗い物は嫌いじゃないっぽいし、必要ないんじゃないかな」
児玉が言うと、山田は驚いて目を見開く。
児玉は続けた。
「そういう事に気づけるお前は、素直にすげえと思うよ、俺は」
その言葉に、御堀と幾久は目を合わせ、笑う。
児玉は怖そうに見えるけれど、他人を素直に尊敬してそれを素直に口に出す。
誉め言葉も、児玉にとってはただの感想でしかないので、その素直さは時々、とても照れる。
実際、山田は顔を真っ赤にしていた。
元々、児玉をライバル視していて、児玉をリスペクトしているので、褒められると恥ずかしいのだろう。
「―――――お前のそういうトコむかつく」
素直になれない山田がそういうと、素直に言葉を受け止めた児玉が「なんだよ」とちょっとムッとする。
幾久はふっと笑って、児玉にささやいた。
「気づきなよタマ、ツンデレって奴だよ」
御堀も幾久に同じく頷く。
「そうだよ、本当はタマのこと好きなくせに」
幾久と御堀がそういうと、山田は顔を真っ赤にして慌て始めた。「ばっ、ちが、んな、」
山田が二年の高杉を好きで、それに近い雰囲気の児玉も好きなのは見ている方からしたら丸わかりだが、児玉本人は他人から向けられる感情に鈍い。
山田が『むかつく』といえば、素直に『むかつかれている』と思ってしまう。
なので幾久は山田に言った。
「な、御空、タマってマジでそういうの鈍いから、ちゃんと言わないと本気で伝わんないぞ」
御堀も頷いた。
「そうそう、言えばすぐ判ってくれるけど、どういう意味でも素直すぎるからさ。あんまり甘えてると、本当にチャンスなくすよ?」
幾久と御堀、二人にそう言われると、山田はぐぬぬ、となってしまうも、児玉が困惑しているのを見て、諦めてため息をついた。
「あーもう、判った、判ったよ」
そうして児玉に向き合うと、山田は言った。
「―――――お前のそういうトコ、好きだよ」
山田に好きだと言われ、児玉は笑顔を見せた。
「おう!」
その笑顔で、山田も毒気を抜かれたようになり、苦笑してまあいっか、と笑った。
その二人を横目に、幾久がわざとらしく内緒話をするみたいに、御堀に顔を思い切り近づけて言った。
「タマって案外モテるよな?」
「男にだけどね?」
「そのへん、ハル先輩と似てるよな?」
「似てる似てる」
うんうんとわざとらしく頷く御堀と幾久に、児玉はすぐムッとする。
「おい、お前ら」
御堀が幾久に言った。
「男子校でモテモテだって」
「わー、いいなあ、うーらやーましー」
幾久が言うと、児玉が怒鳴った。
「聞こえてんぞ!」
すると、示し合わせたように御堀と幾久が二人で同時に言う。
「こわーい」
「こわーい」
ちっとも怖いと思っていないくせに、そう言って児玉を茶化す幾久と御堀に、山田はとうとうこらえきれずに噴出した。
丁度食事を終えた頃になって、やっと服部が四人に合流となった。
「ゴメン、遅くなった」
「いいよ。今からコーヒー飲むし。お茶持ってこようか?」
幾久が尋ねると、服部が「ありがとう」と頷く。
休憩時間は十分あるし、児玉もジムが開く時間に余裕があるとの事なので、服部が食事をしている間、皆、いつものようにコーヒーを飲みながらお喋りを続けた。
桜柳寮はすっかり受験モードに入っているが、ピリピリしているのは前原くらいで、梅屋は相変わらずにこやかに商売の事ばかり考えているので、そこまで重い空気でもないらしい。
山田が言う。
「梅屋先輩、受かっても落ちても商売の事しか考えてねえもん。学生で起業したらなにかと特典があるって今から準備してるし、時々前原先輩にちょっかい出しては怒られてる」
「前原先輩、真面目そうだもんね」
はは、と幾久が笑うと、元、同じ寮だった御堀も山田も頷く。
「真面目っていうか生真面目だよ。だから提督なんだって思うし」
どの寮でも、寮長は提督と呼ぶのが報国院の習わしだ。
唯一、なぜか御門寮だけは総督と呼ぶようになっているのだが。
「先輩がいなくなると寂しくなるんだろうなあ」
山田が呟くと幾久も「本当だよ」とむくれた。
「雪ちゃん先輩になにかできないかなあって思ってるんだけどさ」
「お前、自分の寮の先輩はいいのかよ」
「ガタ先輩?あれはいいよ」
酷い言い分に、児玉も御堀も苦笑する。
「寮でお別れ会とかないのか?」
山田が尋ねると、幾久は首を横に振った。
「そんなの聞いてないし、正直めんどい。雪ちゃん先輩になら、なんかしたいけど」
幾久が言うと、山田が言った。
「だったら、予餞会でなにかしたらいいんじゃないか?」
「予餞会?」
「そう。卒業式の前にあるじゃん。希望者しか出なくていい奴。あれ、部活動単位でも出られるし、後輩が出てくれたら先輩としてはけっこう嬉しいらしいぞ」
「へえー、てっきり適当になんかするのかと思った」
「俺も出るぞ」
児玉が言うので幾久が驚いた。
「うそ、マジで?いつの間に」
「だって俺、軽音部じゃん」
「あ、そっか」
児玉は軽音部に所属しているので、当然そっちの先輩とも付き合いがある。
「じゃあ予餞会、参加するんだ」
「おう。先輩にはいろいろ世話になってるし。俺が恭王寮に居づらい時も部室勝手に使わせてくれたりとかしてくれたし、ギター下手でも打ち込みしてくれてフォローしてくれたから、スゲー桜柳祭も楽しかったし」
「そっかー、タマ、ちゃんとそういうのやるんだ。偉いなあ」
感心する幾久だが、山田が尋ねた。
「何も言われないけど、地球部は地球部でなんかするの、アリな気がしねえ?」
山田の言葉に、全員が顔を上げた。
「いや、だって俺ら、やっぱ三年生に世話になったじゃん。フォローもスゲーしてもらったし」
幾久も頷く。
「周布先輩とかも、めちゃめちゃ動いてくれてた」
「だろ。そりゃ、花くらいは送るつもりだったけど、なんかどうせなら思い切って面白い事、やりたくないか?」
山田の提案に、一同が顔を見合わせた。
部活が始まる時間になったので、全員、ホーム部の部室である調理実習室へ向かった。
今日の仕事は、カヌレづくりの準備の為に八木ベーカリーへ向かった部員が数人、それ以外は調理をせずに事務作業になった。
チームごとに仕事が振り分けられていて、パッケージのリボンを作るチームや、送付用の箱を組み立てるチームもあって、桜柳祭の前のようににぎやかだ。
幾久と御堀、山田と服部は同じチームに配属されたので、四人で名簿のチェックをすることになった。
学校に来た注文もあれば、誉会のものもある。
青木の名前があったらパニックになるのでは?と思った幾久だったが、そこは匿名なので判らないようになっているという。
「けっこう、申し込む人居るんだな」
へえー、と驚く山田に、御堀が頷く。
「学校に申し込んでも、うちでも、匿名制度を使えるから」
誉会もだが、報国院はチョコレートを渡したい人がいる場合は、報国院のウェブサイトで申し込み、相手に届ける仕組みになっているのだが、申し込み時は個人情報が必要でも相手に伝えるかどうかは選べるようになっている。
「匿名だと気軽に送れるからね」
御堀が言うも、幾久は「でもさ」と言った。
「結局さ、誉会の管理って誉がやってるから、誉は誰か判るんじゃん」
「そりゃそうだよ。そこは管理人の特権だと思ってほしいな」
ふっと笑う御堀に幾久は「なんかエロいことしそう」と言うと「してほしい?」とまた笑顔で返されたので幾久は「いらね」と首を横に振る。
山田が名簿を抱えて、四人に振り分けた。
「全員で名簿チェックした後、自分がやった名簿をほかの奴に渡してチェック、とりあえずこれでミスがあったら拾えるだろ」
山田の指示に、皆が頷く。
「チェックが終わったら、幾と誉はメッセージカードを書けばいい。それ以外の作業を俺と昴がやる。一時間ごとに内容見て、問題あったらスケジュールの訂正入れてこーぜ。それでいいか?」
「いいよ。ありがとう」
御堀が言うと幾久も「いいでーす」と頷き、服部も頷く。
「よし、じゃ、始めるか」
そういって四人で早速、名簿のチェックに取り掛かった。
チェックと言ってもまずは字の抜けなどの確認なので、皆、気楽に喋りながらマーカーでラインを引いていく。
幾久は、あ、と思い出し、服部に声をかけた。
「昴、この前カヌレありがとう。めちゃめちゃ喜ばれたよ!」
服部は顔を上げ、うん、と頷く。
「あれから毎日作ってたんだろ?ホーム部でもないのに、凄いな」
幾久が感心すると、服部はううん、と首を横に振った。
「けっこう面白かった。料理って化学変化だし、同じ材料使っても、条件で出来が違うの、勉強になった」
「昴らしいや」
幾久からしたら、料理は料理でしかないけれど、研究肌の服部にとってはカヌレ作りも立派な実験というわけだ。
「八木ベーカリーって、とっても大きいパンの窯があるんだって。それだと、学校のオーブンより、早く沢山焼けるっていうから、見るの楽しみ」
「オーブンが楽しみとかって、なんかやっぱ違うね」
幾久が言うと、服部が、首を横に振った。
「あれ、奥が深い。温度とか時間とかも指定できるし。家電って、そういう意味では、すごい進化してると思う」
話を横で聞いていた、志道が頷いた。
「そーだぞ!最近の食洗器はスゲーぞ!時間指定できるし容量もすげーデカいし。うちにもあるけどな!」
そういって自慢げに、ばんばんと食洗器を叩く。
「うちの寮にも置いたらいいのに」
御門寮には食洗器も、乾燥機もない。
幾久が言うと、御堀が首を横に振った。
「うちは食べる時間がけっこう各自ばらばらだろ?その場合、汚れた食器をずっと置いとく事になるし、食洗器の管理が必要になるよ。麗子さんは作りながら奇麗に片付けも済ますタイプだし、栄人先輩も洗い物は嫌いじゃないっぽいし、必要ないんじゃないかな」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる