409 / 416
【27】鳳鳴朝陽~僕たちはサッカー選手になれない
生意気後輩の名前
しおりを挟む
北九州空港に到着して、全員は車から降りる。
幾久にとっては何度も来た事がある場所だ。
小さな地方の空港だが、奇麗で使いやすく、小さいがゆえに空港内の移動はわずかだ。
「到着かー!」
車を降りて伸びをするも、乗り心地が良かったので全く疲れはない。
宇佐美の車に乗っていた面々も降りてきた。
「幾!ロールスの乗り心地はどう?」
御堀が尋ねる。
「いやースゲーよ。静かだし時々本当に走ってんのか判んないくらい。高い車ちげーわ。金持ち凄い」
「運転手の柄が悪いのがキズじゃの」
高杉が言うと毛利が「俺の事?」とむっとして返す。
こういうやりとりも、成程、高杉と毛利も兄弟っぽいと幾久は思った。
三吉の車から山縣が降りてきて、幾久と目が合うと、幾久にリュックを投げてきた。
「うわっ!何するんスか!」
「持って来い、我がしもべよ」
「誰がしもべだ!」
幾久が山縣にリュックを投げ返そうとすると、山縣が走り出し、幾久はその後を追いかけた。
「あーあ、幾久、結局リュック運んでんじゃん」
呆れて笑う児玉に御堀も頷いた。
「ああいうとこ、幾だよねえ」
ちょっと考えたら、そこらへんにほったらかす事も考えていいのに、山縣に癇癪を起した幾久は考えもしないらしい。
山縣は信じられないくらいの速さで空港へ向かって走り去り、幾久は「まてぇえええ!」と怒鳴りながらその後を追いかけた。
山縣は慣れた空港で、あっという間に手続きを済ませる。
イベントごとにこの空港から出かけていたので当然だ。
「おい山縣、手荷物はそれだけか?」
先生らしく毛利が山縣に尋ねた。
幾久に持たせたリュックだけで、あとは何もない。
「はい。全部もう送ってるんで」
山縣の住まいは報国院の経営する寮になり、大学を無事合格した山縣は堂々と寮から通える。
「しっかしお前が東大とはなあ」
三吉が苦笑するが、山縣は胸を張った。
「ま、狙いが良かったってことですね!」
「ズルっすよ。東大行ってる人にコツ教わるとか」
幾久がむっとした。
山縣を東大にやる為に、東大に通っている大佐が山縣の為にチームを結成し、友人たちと会議をしまくって最短の合格ルートを作って狙ったのだから幾久からしたらまるでチートだ。
「いいじゃねーか。受かれば。報国院だって株上げたろ?」
「そうっすかもっすけど、どうせ留年するのに」
幾久の言葉に、聞いていた面々が皆噴き出す。
「退学にさせられる前に自主退学してくださいね」
「てめーホントにむかつくな」
相変わらずの幾久と山縣に、御門寮の面々も「あーあ」と苦笑する。
「ちゃんと留年もせずに立派に報国院の誉とやらになったらあ」
「ぜってー無理なんで」
ふんと幾久が言い放つ。
御堀が山縣の前に出て、頭を下げた。
「僕は短い間でしたけど、お世話になりました」
「おー」
桜柳寮から御門寮に御堀が移る際、山縣と梅屋が裏でタッグを組んでいたことは皆知っていた。
「ま、このクソ狸が御門壊さねーように見張っといてくれや」
幾久を指差しながら山縣が言うと、御堀は「はい」と頷く。
「なにがクソ狸だ」
ぶつくさ文句を言う幾久だが、児玉も頭を下げた。
「俺も、お世話になりました。本棚も」
「ま、うまくやりゃいーんじゃねえの」
児玉は山縣に本棚を譲って貰っているので、頭を下げた。
ふと、幾久が気づいて声を上げた。
「タマは本棚貰ってるのに、オレなんも貰ってない!」
「お前……ゲーム本体やったろーが」
幾久が居間でいつも遊んでいるゲーム本体は山縣からのおさがりだった。
ちゃっかりいろんなゲームをダウンロードして貰って遊んでいるのに、と呆れる山縣に幾久は首を横に振った。
「あれもうオレのなんで」
「馬鹿か」
そう言いながらも、山縣は楽し気だ。
「おい」
山縣は顔を上げ、二年連中を一瞥して言った。
「世話んなったな。お前らのおかげで楽しかったわ」
すると、山縣を毛嫌いしている高杉が前に出て、山縣に手を伸ばした。
「お世話になりました、山縣先輩」
そう言ってぺこりと頭を下げた。
高杉の言葉に、山縣はバカみたいに喜ぶかと幾久は思ったが、山縣はニッと笑って「おう」と高杉の手を握り返しただけだった。
久坂、栄人もぺこりと頭を下げる。
それがまるで、儀式のようでいつもの御門寮の雰囲気とは全く違った。
本当に卒業してお別れなんだな、と実感がわいてくる。
なにせ山縣は学校からの頼まれたことがあるとかで、春休みの間もずっと御門寮に住み着いて、学校と寮を往復してばっかりだったし、寮の部屋の荷物を運び出したのもこの数日の事だった。
だから本当に、いなくなるという実感が幾久にはなかった。
雪充が言った。
「なにかまたあったら頼むよ」
「できる事ならな」
ふと笑う山縣と雪充に、幾久はやっぱり同じ学年は何か雰囲気が違うなと思う。
桜柳祭や、御堀が御門寮に来るあたりから、急にこの二人の関りが増えてきた気がするが、ひょっとして幾久が知らないだけでこの二人はずっと前から仲が良かったのでは。
「なに難しい顔してんだよ、後輩」
山縣が言うと、幾久は真剣な表情で、山縣と雪充に言った。
「二人って、ひょっとして、仲良しっスか?」
唐突な質問に、御堀が吹き出した。
「幾、まさかそんな事ずっと考えてたの?」
「だってガタ先輩なんか誰とも仲いいはずないし」
「そこは否定しねーよ?」
山縣も言うが、雪充が苦笑しながら言った。
「山縣が言うから余計にややこしくなるだろ。いっくん、別に仲が良くなくったって、寮の運営はできるよ?」
「それは雪ちゃん先輩が大人だからっスね」
ふむ、と頷く幾久に、菫が口を押えた。
「……やばい……いっくん可愛い……」
「菫。足踏んでる。俺の足に穴空く。踵はやめて」
毛利が言うと菫は足を上げ、再び降ろそうとしたところで毛利はさっと足を避けた。
空港内にアナウンスが流れる。
山縣が乗る飛行機の搭乗手続きが始まったという内容だった。
「ガタ先輩、手続き始まりましたよ」
「判ってるけどいま人が多いだろ。ギリに行くわ」
そう言って山縣は毛利や三吉に頭を下げた。
「三年間、お世話になりました」
「……元気にやれ」
「報国寮では助かったよ。いろいろありがとう」
毛利と三吉が言うと山縣は頷いた。
「後の事は服部らに任せてあるんで、安心してください」
「おお。丸投げするわ」
服部ということは恭王寮の服部の事だろうか。
そんな所にまで手を出していたとは知らなかった。
幾久は呆れて山縣に言った。
「ほんっと、どこにでも首突っ込んでるんスね」
「俺様の美技に酔いな」
「さっさと行け」
幾久がそう言って山縣の尻を足で蹴っ飛ばした。
搭乗手続きに並んでいた人が減り始めたので、山縣は並ばずに手続きに入れるなと判断した。
「じゃあ、行くわ」
そう言って軽く手を挙げて搭乗口へと向かう。
リュックを降ろそうとして、なにかに気づき、山縣は叫んだ。
「幾久!」
突然、一度も名前を呼ばれたことのない幾久は驚いて、思わずきょろっと周りを見渡した。
山縣は苦笑してもう一度叫んだ。
「いーくーひーさ。こっち」
なんだよ、
いきなり名前なんか呼んでと驚く幾久と同じように、御堀も児玉も、他の面々も驚いていた。
幾久は名前を呼ばれて、渋々山縣の所へ向かっていく。
驚かないのは雪充だけで、なにか言いたげに雪充を見つめる高杉に、雪充はにこっと微笑んだ。
「いつもの事だよ。僕らの前ではああだった」
「―――――成程のう」
これはしてやられた、と高杉は苦笑した。
まだ雪充も高杉も中学生だった頃、高杉と久坂が教師に嫌がらせを受けたことがあった。
あの時、山縣は登校拒否児で、雪充とも面識がなかった。
だけどその後、高杉と久坂を救うために山縣のトリッキーな技を習い、誰にも内緒で三年以上、ずっと裏で繋がっていた。
多分高杉もその事は、少しくらいは判っていたはずだ。
「想像以上、だったの」
「そっか。ま、アイツ、引きこもってたからね」
「でもまあ、考えてみたら判らなんでもないか」
久坂が苦笑した。
思えば、あの面倒くさがりで高杉を異様に好きな山縣にしてはよく動いていた。
高杉に心酔しているからとあまり深くは考えていなかったが、成程、かなりあの一年に入れ込んでいたという事か。
だったら、児玉を受け入れたのも、御堀を受け入れたのも、ひょっとしたら御門寮の為というより、幾久の為だったのかもしれない。
「―――――甘やかしてんなあ」
自分たちも割と、甘やかしているかと思っていたが、三年の山縣もそうだったとは、今の今まで気づかなかった。
久坂の気持ちが理解できた雪充は笑って言った。
「だから御門は続くんだよ。僕だってお前らを甘やかしたろ?」
「いやー、そうでもないかな。雪ちゃんけっこう厳しいし」
「先輩が凄かったからなあ。僕が締めとかないと崩壊するよ」
思えば、御門の先輩はどの人もファンキーだった。
特に雪充の上はとんでもない面々ばかりで。
「始末書僕がどれだけ書いたと思ってるの」
「あはは。やっと卒業できるじゃん」
「それだけは嬉しいかな」
後輩や先輩のやらかしをどうやって学校に報告すればうまく片付くか、その言い訳ばっかり探していた気がする。
思えば三年になって、忙しくはあったし、トラブルもまあありはしたが、御門の頃のように滅茶苦茶ではなかった。
あんなに忙しくて滅茶苦茶だったのに、やっぱり雪充は御門に帰りたかった。
数日とはいえ、それも叶った。
後輩ともたっぷり遊んで旅行にも行けた。
失った過去は取り戻せないが、新しく得るものは心をあたたかくしてくれる。
「僕も本当に、楽しかった」
面倒な事は山ほどあったし、怒鳴った事もあったけれど、報国院の三年間はなにより楽しかった。
この先楽しい事があっても、きっとこの三年間は特別だ。
それだけは断言できるほど。
幾久にとっては何度も来た事がある場所だ。
小さな地方の空港だが、奇麗で使いやすく、小さいがゆえに空港内の移動はわずかだ。
「到着かー!」
車を降りて伸びをするも、乗り心地が良かったので全く疲れはない。
宇佐美の車に乗っていた面々も降りてきた。
「幾!ロールスの乗り心地はどう?」
御堀が尋ねる。
「いやースゲーよ。静かだし時々本当に走ってんのか判んないくらい。高い車ちげーわ。金持ち凄い」
「運転手の柄が悪いのがキズじゃの」
高杉が言うと毛利が「俺の事?」とむっとして返す。
こういうやりとりも、成程、高杉と毛利も兄弟っぽいと幾久は思った。
三吉の車から山縣が降りてきて、幾久と目が合うと、幾久にリュックを投げてきた。
「うわっ!何するんスか!」
「持って来い、我がしもべよ」
「誰がしもべだ!」
幾久が山縣にリュックを投げ返そうとすると、山縣が走り出し、幾久はその後を追いかけた。
「あーあ、幾久、結局リュック運んでんじゃん」
呆れて笑う児玉に御堀も頷いた。
「ああいうとこ、幾だよねえ」
ちょっと考えたら、そこらへんにほったらかす事も考えていいのに、山縣に癇癪を起した幾久は考えもしないらしい。
山縣は信じられないくらいの速さで空港へ向かって走り去り、幾久は「まてぇえええ!」と怒鳴りながらその後を追いかけた。
山縣は慣れた空港で、あっという間に手続きを済ませる。
イベントごとにこの空港から出かけていたので当然だ。
「おい山縣、手荷物はそれだけか?」
先生らしく毛利が山縣に尋ねた。
幾久に持たせたリュックだけで、あとは何もない。
「はい。全部もう送ってるんで」
山縣の住まいは報国院の経営する寮になり、大学を無事合格した山縣は堂々と寮から通える。
「しっかしお前が東大とはなあ」
三吉が苦笑するが、山縣は胸を張った。
「ま、狙いが良かったってことですね!」
「ズルっすよ。東大行ってる人にコツ教わるとか」
幾久がむっとした。
山縣を東大にやる為に、東大に通っている大佐が山縣の為にチームを結成し、友人たちと会議をしまくって最短の合格ルートを作って狙ったのだから幾久からしたらまるでチートだ。
「いいじゃねーか。受かれば。報国院だって株上げたろ?」
「そうっすかもっすけど、どうせ留年するのに」
幾久の言葉に、聞いていた面々が皆噴き出す。
「退学にさせられる前に自主退学してくださいね」
「てめーホントにむかつくな」
相変わらずの幾久と山縣に、御門寮の面々も「あーあ」と苦笑する。
「ちゃんと留年もせずに立派に報国院の誉とやらになったらあ」
「ぜってー無理なんで」
ふんと幾久が言い放つ。
御堀が山縣の前に出て、頭を下げた。
「僕は短い間でしたけど、お世話になりました」
「おー」
桜柳寮から御門寮に御堀が移る際、山縣と梅屋が裏でタッグを組んでいたことは皆知っていた。
「ま、このクソ狸が御門壊さねーように見張っといてくれや」
幾久を指差しながら山縣が言うと、御堀は「はい」と頷く。
「なにがクソ狸だ」
ぶつくさ文句を言う幾久だが、児玉も頭を下げた。
「俺も、お世話になりました。本棚も」
「ま、うまくやりゃいーんじゃねえの」
児玉は山縣に本棚を譲って貰っているので、頭を下げた。
ふと、幾久が気づいて声を上げた。
「タマは本棚貰ってるのに、オレなんも貰ってない!」
「お前……ゲーム本体やったろーが」
幾久が居間でいつも遊んでいるゲーム本体は山縣からのおさがりだった。
ちゃっかりいろんなゲームをダウンロードして貰って遊んでいるのに、と呆れる山縣に幾久は首を横に振った。
「あれもうオレのなんで」
「馬鹿か」
そう言いながらも、山縣は楽し気だ。
「おい」
山縣は顔を上げ、二年連中を一瞥して言った。
「世話んなったな。お前らのおかげで楽しかったわ」
すると、山縣を毛嫌いしている高杉が前に出て、山縣に手を伸ばした。
「お世話になりました、山縣先輩」
そう言ってぺこりと頭を下げた。
高杉の言葉に、山縣はバカみたいに喜ぶかと幾久は思ったが、山縣はニッと笑って「おう」と高杉の手を握り返しただけだった。
久坂、栄人もぺこりと頭を下げる。
それがまるで、儀式のようでいつもの御門寮の雰囲気とは全く違った。
本当に卒業してお別れなんだな、と実感がわいてくる。
なにせ山縣は学校からの頼まれたことがあるとかで、春休みの間もずっと御門寮に住み着いて、学校と寮を往復してばっかりだったし、寮の部屋の荷物を運び出したのもこの数日の事だった。
だから本当に、いなくなるという実感が幾久にはなかった。
雪充が言った。
「なにかまたあったら頼むよ」
「できる事ならな」
ふと笑う山縣と雪充に、幾久はやっぱり同じ学年は何か雰囲気が違うなと思う。
桜柳祭や、御堀が御門寮に来るあたりから、急にこの二人の関りが増えてきた気がするが、ひょっとして幾久が知らないだけでこの二人はずっと前から仲が良かったのでは。
「なに難しい顔してんだよ、後輩」
山縣が言うと、幾久は真剣な表情で、山縣と雪充に言った。
「二人って、ひょっとして、仲良しっスか?」
唐突な質問に、御堀が吹き出した。
「幾、まさかそんな事ずっと考えてたの?」
「だってガタ先輩なんか誰とも仲いいはずないし」
「そこは否定しねーよ?」
山縣も言うが、雪充が苦笑しながら言った。
「山縣が言うから余計にややこしくなるだろ。いっくん、別に仲が良くなくったって、寮の運営はできるよ?」
「それは雪ちゃん先輩が大人だからっスね」
ふむ、と頷く幾久に、菫が口を押えた。
「……やばい……いっくん可愛い……」
「菫。足踏んでる。俺の足に穴空く。踵はやめて」
毛利が言うと菫は足を上げ、再び降ろそうとしたところで毛利はさっと足を避けた。
空港内にアナウンスが流れる。
山縣が乗る飛行機の搭乗手続きが始まったという内容だった。
「ガタ先輩、手続き始まりましたよ」
「判ってるけどいま人が多いだろ。ギリに行くわ」
そう言って山縣は毛利や三吉に頭を下げた。
「三年間、お世話になりました」
「……元気にやれ」
「報国寮では助かったよ。いろいろありがとう」
毛利と三吉が言うと山縣は頷いた。
「後の事は服部らに任せてあるんで、安心してください」
「おお。丸投げするわ」
服部ということは恭王寮の服部の事だろうか。
そんな所にまで手を出していたとは知らなかった。
幾久は呆れて山縣に言った。
「ほんっと、どこにでも首突っ込んでるんスね」
「俺様の美技に酔いな」
「さっさと行け」
幾久がそう言って山縣の尻を足で蹴っ飛ばした。
搭乗手続きに並んでいた人が減り始めたので、山縣は並ばずに手続きに入れるなと判断した。
「じゃあ、行くわ」
そう言って軽く手を挙げて搭乗口へと向かう。
リュックを降ろそうとして、なにかに気づき、山縣は叫んだ。
「幾久!」
突然、一度も名前を呼ばれたことのない幾久は驚いて、思わずきょろっと周りを見渡した。
山縣は苦笑してもう一度叫んだ。
「いーくーひーさ。こっち」
なんだよ、
いきなり名前なんか呼んでと驚く幾久と同じように、御堀も児玉も、他の面々も驚いていた。
幾久は名前を呼ばれて、渋々山縣の所へ向かっていく。
驚かないのは雪充だけで、なにか言いたげに雪充を見つめる高杉に、雪充はにこっと微笑んだ。
「いつもの事だよ。僕らの前ではああだった」
「―――――成程のう」
これはしてやられた、と高杉は苦笑した。
まだ雪充も高杉も中学生だった頃、高杉と久坂が教師に嫌がらせを受けたことがあった。
あの時、山縣は登校拒否児で、雪充とも面識がなかった。
だけどその後、高杉と久坂を救うために山縣のトリッキーな技を習い、誰にも内緒で三年以上、ずっと裏で繋がっていた。
多分高杉もその事は、少しくらいは判っていたはずだ。
「想像以上、だったの」
「そっか。ま、アイツ、引きこもってたからね」
「でもまあ、考えてみたら判らなんでもないか」
久坂が苦笑した。
思えば、あの面倒くさがりで高杉を異様に好きな山縣にしてはよく動いていた。
高杉に心酔しているからとあまり深くは考えていなかったが、成程、かなりあの一年に入れ込んでいたという事か。
だったら、児玉を受け入れたのも、御堀を受け入れたのも、ひょっとしたら御門寮の為というより、幾久の為だったのかもしれない。
「―――――甘やかしてんなあ」
自分たちも割と、甘やかしているかと思っていたが、三年の山縣もそうだったとは、今の今まで気づかなかった。
久坂の気持ちが理解できた雪充は笑って言った。
「だから御門は続くんだよ。僕だってお前らを甘やかしたろ?」
「いやー、そうでもないかな。雪ちゃんけっこう厳しいし」
「先輩が凄かったからなあ。僕が締めとかないと崩壊するよ」
思えば、御門の先輩はどの人もファンキーだった。
特に雪充の上はとんでもない面々ばかりで。
「始末書僕がどれだけ書いたと思ってるの」
「あはは。やっと卒業できるじゃん」
「それだけは嬉しいかな」
後輩や先輩のやらかしをどうやって学校に報告すればうまく片付くか、その言い訳ばっかり探していた気がする。
思えば三年になって、忙しくはあったし、トラブルもまあありはしたが、御門の頃のように滅茶苦茶ではなかった。
あんなに忙しくて滅茶苦茶だったのに、やっぱり雪充は御門に帰りたかった。
数日とはいえ、それも叶った。
後輩ともたっぷり遊んで旅行にも行けた。
失った過去は取り戻せないが、新しく得るものは心をあたたかくしてくれる。
「僕も本当に、楽しかった」
面倒な事は山ほどあったし、怒鳴った事もあったけれど、報国院の三年間はなにより楽しかった。
この先楽しい事があっても、きっとこの三年間は特別だ。
それだけは断言できるほど。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる