上 下
38 / 45
後宮で侍女になった私は精霊に好かれている

二十一、救済

しおりを挟む
次の日。

朝食後、私は水愛妃と侍女頭の花玉とともに後宮内の妖魔退治に出向いた。

「そろそろ横になられてはどうですか…体力も妊娠前とは比べものにならないくらい落ちているのです。」

侍女頭の花玉は心配性だ。
妊娠中の水愛妃が身体に負担がかかる仕事は全て彼女がやってのける。

負担がかかる仕事とは、水愛妃が以前まで行っていた後宮内の小さな妖魔を倒す仕事だ。
妖魔というものは、魔獣などとは違って普通の人には見えない。五百人いれば、見える人は一人いれば良いくらい。それくらい低い。

後宮内に妖魔が見える人は水愛妃と侍女頭の花玉くらいだ。

それを、花玉は忙しいからと水愛妃は暇を見つけては後宮内を散歩がてら倒して周った。

とはいえ、後宮内の歩ける範囲も限られている。
ある程度の許しは得ているが、徳妃である水愛妃が力仕事のようなものをしていることが皇帝はあまり気にいっていないようだ。

皇帝も心配性なのか?


「まだよ、まだそこにもそこにもいるじゃない。貴方に任せるのも悪いもの…」

「いいえ、駄目です。今すぐお部屋に戻りましょう。書類のお仕事もございますよ。」

「これらをやっつけてからよ。」

「……はあ…」


大変だなあ。

花玉さんと水愛妃、喧嘩してる…

私はというと、二人についてまわりながら手助けする。
私が力を使うことは制限されているみたい。
おそらく憂炎さんに一方的な契約をされたことで、ワープは勿論、力を制御されているんだろう。
ここぞという時にしか強い力は使えないらしい。
今、私ができるのは精霊と少し会話をしたりシールド魔法を使ったりすることくらい。


水愛妃の攻撃をさっきから見ているが、彼女は私が今まで見てきた敵への攻撃方法とは違うみたい。

魔獣の倒し方は基本的に  倒す(殺す、存在を消す)のみである。
奴らの目的はおそらく生物の殺戮。
一般人など、誰にでも見ることができるため、人間含めた生き物に安心感を抱かせるにはこれしか方法がないようだ。

だが、妖魔は違う。
水愛妃は、彼らは魔獣ほどの大きな力を持たない代わりに見える者が限られているのだと思う と言う。
見えないということは、存在を消される心配が多少減る。生物を殺害する魔獣や悪魔達とは違って奴らの目的はわからないが、人間や生き物に害を与えるつもりは元々ないのだろう。

そこで水愛妃は、彼らは救済を求めているのだと思う と言った。
彷徨う全ての生き物の魂が変化したものだろうと。

だから水愛妃は奴らを殺すことはしない。

彼女は魔法で立ち向かいもしない。


自身の霊力で空気中にある微弱な水分を吸収し、手のひらほどの水泡を妖魔に向かって放つ。
妖魔はそれに触れた瞬間、霧のように静かに姿を消していった。

「雪蘭、これは 救済 なの。彼らの存在は悪魔とは違うわ。他の人は同じだというけれど、私は違うと思う。
過去に私が妖魔に魔法で攻撃したとき、苦しいような表情をしなかったの。彼らはこの世に存在を保ちたくないのだと思った。だから、私は自身の霊力を使って彼らを 救済 しようと思った。」

「全く、貴方というお方は…」

水愛妃はこの上なく優しい人なのだと、そう思った。
しおりを挟む

処理中です...