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2章『転生黎明』
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「お、お兄ちゃん…国王様に会うのにこんなお洒落するの…?」
アリーに柚のドレスアップを頼んで一時間。満面の笑みを浮かべたアリーが、柚をエスコートして部屋から出て来た時、タマキの時が止まったかと思った。
「……」
――言葉に出来なかった。
普段は可愛いという形容詞を使われている柚。だが、ドレスを身に纏った柚は美しかった。黒色に近い生地で作られたドレスから見える華奢で真っ白な肢体はどこか妖艶で、儚い。
思った以上に女性らしい身体つきが、フィットしたドレスでタマキを誘う。柚が動く度に靡く繊細なレースはまるで蝶のように美しい。
「…お兄ちゃん?」
心配そうに見つめる柚の表情は不安げだった。
濡れた漆黒の瞳に長い睫毛が妖しげに影を作る。桃色に色付いた頬は幼子のように艶めいていて、小さな唇は口付けを交わしたかのように濡れている。
漆黒の美しい髪は綺麗にアップに結われていて、細く長い首が惜しげも無く晒されていた。
「…タマキ様。見惚れるのは結構ですが、ユズ様が不安がっておりますよ」
「!あ、あぁ、すまない…ゆず……余りの美しさに見とれていた。綺麗だよ、何よりも」
柚の手を取り、まるでお伽噺の王子様がしてみせるかのように、地面に膝を付き、甲に唇を落とす。
そんなスマートな動作に柚の息が止まりそうになる。まるで、本物の王子様のようだったから。…と言っても、今のタマキは本物の皇子なのだが。
「お兄ちゃんの方が綺麗だもん…」
頬を染めながら柚はタマキから目を逸らす。そんな柚の態度が気に入らなかったのか、タマキは立ち上がり、指で顎を掴み、視線を合わせる。
「いや、ゆずの方が綺麗だよ」
「っ……」
更に真っ赤になる柚。兄からの視線から逃れたいのに、まるで金縛りにあったかのように動かない。鼓動が早まる。美しいタマキの熱い瞳が柚を貫いて――
「タマキ様」
「…アリー、空気を読もうか」
「ユズ様がお困りのようだったので」
アリーのお陰でタマキの視線は柚から離れ、こっそりと安堵の息を吐く。
もしもあのままアリーが声を掛けてくれなければ…と思うと背筋がひやり、とする。いくら世界が変わったとしても、タマキは柚にとってお兄ちゃんなのだ。大切で、愛しいお兄ちゃん。
壊したくない関係だった。亀裂すらも入れたくない。幸せなのだ。今、が。
「ユズ様。心配なさらずとも誰よりもお美しいですよ。タマキ様が鼻の下を伸ばしてしまう程に。なので胸を張ってください」
「ちょ、言い方」
アリーはタマキの苦言に無視を決め込み、何時もの優しい笑みで柚を褒め称える。
「ありがとう、ございます」
柚自身、まさかこんな素敵なドレスに腕を通すとは思ってもみなかった。てっきりスーツでも着るのかと思っていたのだ。だが、あれよあれよとアリーに身を清められ、ドレスを着せられ、化粧を施された自身を見たときは驚いたものだ。
今まで化粧なんてした事も無かったため、綺麗になっていく自分に釘付けだった。
今までコンプレックスだった大きな胸も、鶏ガラのように細い手足もこの綺麗なドレスを着れば霞んでみえる。
タマキの反応には驚いたが、褒められて純粋に嬉しかった事は事実で。
――前の世界では散々に言われた胸。男を誘っている。あばずれ。気持ち悪い。嫌いだった。男性からの視線も、女性からの視線も。
けれど、アリーさんは褒めてくれた。この大嫌いな身体を。だから柚は少しだけ自分の身体が好きになった。
「改めて、行こうかゆず」
差し伸べられたタマキの大きな掌に自身の手を乗せれば、ぎゅっと握りしめられる。馴染んだ温もりが心地良い。
柚の歩幅に合わせて横を歩くタマキと少し後ろに下がって歩くアリーの存在が心強かった。
「お、お兄ちゃん…国王様に会うのにこんなお洒落するの…?」
アリーに柚のドレスアップを頼んで一時間。満面の笑みを浮かべたアリーが、柚をエスコートして部屋から出て来た時、タマキの時が止まったかと思った。
「……」
――言葉に出来なかった。
普段は可愛いという形容詞を使われている柚。だが、ドレスを身に纏った柚は美しかった。黒色に近い生地で作られたドレスから見える華奢で真っ白な肢体はどこか妖艶で、儚い。
思った以上に女性らしい身体つきが、フィットしたドレスでタマキを誘う。柚が動く度に靡く繊細なレースはまるで蝶のように美しい。
「…お兄ちゃん?」
心配そうに見つめる柚の表情は不安げだった。
濡れた漆黒の瞳に長い睫毛が妖しげに影を作る。桃色に色付いた頬は幼子のように艶めいていて、小さな唇は口付けを交わしたかのように濡れている。
漆黒の美しい髪は綺麗にアップに結われていて、細く長い首が惜しげも無く晒されていた。
「…タマキ様。見惚れるのは結構ですが、ユズ様が不安がっておりますよ」
「!あ、あぁ、すまない…ゆず……余りの美しさに見とれていた。綺麗だよ、何よりも」
柚の手を取り、まるでお伽噺の王子様がしてみせるかのように、地面に膝を付き、甲に唇を落とす。
そんなスマートな動作に柚の息が止まりそうになる。まるで、本物の王子様のようだったから。…と言っても、今のタマキは本物の皇子なのだが。
「お兄ちゃんの方が綺麗だもん…」
頬を染めながら柚はタマキから目を逸らす。そんな柚の態度が気に入らなかったのか、タマキは立ち上がり、指で顎を掴み、視線を合わせる。
「いや、ゆずの方が綺麗だよ」
「っ……」
更に真っ赤になる柚。兄からの視線から逃れたいのに、まるで金縛りにあったかのように動かない。鼓動が早まる。美しいタマキの熱い瞳が柚を貫いて――
「タマキ様」
「…アリー、空気を読もうか」
「ユズ様がお困りのようだったので」
アリーのお陰でタマキの視線は柚から離れ、こっそりと安堵の息を吐く。
もしもあのままアリーが声を掛けてくれなければ…と思うと背筋がひやり、とする。いくら世界が変わったとしても、タマキは柚にとってお兄ちゃんなのだ。大切で、愛しいお兄ちゃん。
壊したくない関係だった。亀裂すらも入れたくない。幸せなのだ。今、が。
「ユズ様。心配なさらずとも誰よりもお美しいですよ。タマキ様が鼻の下を伸ばしてしまう程に。なので胸を張ってください」
「ちょ、言い方」
アリーはタマキの苦言に無視を決め込み、何時もの優しい笑みで柚を褒め称える。
「ありがとう、ございます」
柚自身、まさかこんな素敵なドレスに腕を通すとは思ってもみなかった。てっきりスーツでも着るのかと思っていたのだ。だが、あれよあれよとアリーに身を清められ、ドレスを着せられ、化粧を施された自身を見たときは驚いたものだ。
今まで化粧なんてした事も無かったため、綺麗になっていく自分に釘付けだった。
今までコンプレックスだった大きな胸も、鶏ガラのように細い手足もこの綺麗なドレスを着れば霞んでみえる。
タマキの反応には驚いたが、褒められて純粋に嬉しかった事は事実で。
――前の世界では散々に言われた胸。男を誘っている。あばずれ。気持ち悪い。嫌いだった。男性からの視線も、女性からの視線も。
けれど、アリーさんは褒めてくれた。この大嫌いな身体を。だから柚は少しだけ自分の身体が好きになった。
「改めて、行こうかゆず」
差し伸べられたタマキの大きな掌に自身の手を乗せれば、ぎゅっと握りしめられる。馴染んだ温もりが心地良い。
柚の歩幅に合わせて横を歩くタマキと少し後ろに下がって歩くアリーの存在が心強かった。
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