シロクロ

aki

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6.出会って十ヶ月

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2月18日。誠生くんと会って十ヶ月がたった。
最近喧嘩を売られることが多くなり今も喧嘩中である。まぁ、喧嘩という名の殺し合いなんだけども。目前の敵が減り少しだけ、気を抜けば全身に痛みが走り跪く。激しく咳込めば自分の口から血が流れてきていた。
痛みや咳の原因はおおよそ検討が付いていて…。傷一つないのに戦闘が困難になりつつあるのが憎たらしい。こんな体たらくでは守りたいものや守るべきものですら守れない。いや、裏の人間に守ってもらいたいやつなんていないだろうけど。
誠生くんの提案を実行する暇もなく散っていくんだろうななんて思いながらぼんやりとした視界を定めていればいっせいに斬りかかってくるのが分かった。
「ムカつく...」なんて呟きながら目前の敵を刀で切り刻む。気がつけば俺以外息をしていない上、原型が分からないほどの肉塊になっていた。
やりすぎたと反省しながら返り血もそのまま、いつも通りまんだりんへと向かう。
まんだりんの扉を開ければ蜜柑と誠生くんに出迎えられた。喧嘩した後に警察官の友達に会うのは気まずすぎるのは俺だけではないようで誠生くんは視線を逸らし、蜜柑は頭を抱えてため息を吐く。
最近、蜜柑のキャラが崩壊しつつあるのは気の所為なのだろうか…。
「…銃刀法って…知ってるか…?」
俺がぶら下げている銃や刀を見て言いにくそうに聞く誠生くんに苦笑いを浮かべながら「俺にそんなこと聞く?」と返す。知ってはいるけど気にはしてない。俺はもっと重い罪を犯しているんだから。普通なら法律は守らなければいけないんだけども。
「今日は返り血酷いわね…」
俺を頭のてっぺんから足の先まで舐めるように見ながら見るからにふわふわな白いタオルを差し出してくれた。
全部が全部返り血ではないんだけども…と思っても言わない。言ったら絶対何かを聞かれるし。
俺は苦笑いをしながらタオルを受け取る。
「いつもはそこまで酷くないのか」
誠生くんの言葉に俺より先に蜜柑が「いつもはこんなベタベタついてないよ」と答えた。ベタベタ作って言い方はどうかと思うが自分の吐いた血を差し引いても確かにここまで返り血を浴びることは無かった。
「ストレスか?」
心配そうに聞く誠生くんに俺は「まさか」と返す。間違ってはいないだろうけど、ストレスと言うには曖昧な感情すぎて分からない。自分に向いている怒りがストレスになっているとは思えないのだ。まぁ、自分にも、よく分からないんだけども。
「…そういえばこの間バレンタインデーだったわね。二人はどれくらいチョコ貰ったの?」
血の付着した顔を拭いていれば蜜柑がいきなりそう言った。そういえばそうだったなと思い出す。最近仕事が忙しくてそんなことを気にしていられなかった。
白いタオルに赤い花が咲いた。言い方は綺麗だが実際、俺の穢らしい血が白いタオルによって拭き取られた、ということなので綺麗では無いのだけども。
「俺は覚えてない。誠生くんは?」
俺がサラッと流せば誠生くんは驚き、少し考えてから疑問形で「たくさん」と答えた。俺と誠生くんの曖昧な返事に気分を害したのか少し拗ね気味で「量をボディーランゲージで表して!」と言われた。俺は忙しくて本当に覚えていないので何もしないまま誠生くんを見る。本当に覚えていないのだ。事実を疑われてもどうしようもない。
誠生くんは困り眉で「これくらい?」と言いながら大きな円形を作る。確かに沢山と納得したのか蜜柑は「多いね!」と驚いていた。
でも、俺は知っている。蜜柑も店の客に相当な量のバレンタインチョコを貰っていることを。それこそ、誠生くんと同じくらい。だから、本来ならば蜜柑にとって驚くほどの量ではないのだ。俺や誠生くんは店の閉店時間間際か開店直後に来るから他の客とは出くわさないがここは裏でも表でも結構人気のバーなのだ。まぁ、何より個室のような空間もあるから人とは合わないのだけ(相手から避けているだけ)なんだけども。
いくら店のマスターである蜜柑が女装系の男子とは言えどコミュニケーション能力は高くて気がつけば色んな奴と仲良くなっている。人間大事なのは見た目ではなくて話術なのだなと思わされたこともあるほどだ。何より見た目もそこそこ上玉だと噂されるほどなのだ。
「…そういえば、クロっち。なんか顔色悪くない?」
変なところで発揮する洞察力に心の内側で動揺した。いつもなら顔色の変化なんて気が付かないというのにこういう時だけは気がつけるのはなんなのかと呆れる。
「気の所為でしょ」
なるべく動揺を悟られないように返せば蜜柑と誠生くんは俺に疑わしい目を向ける。普段二人は情報屋と警察官だと思えないほどには抜けているがたまに驚異的な洞察力を発揮することもある。あぁ、恐ろしいと思いながら席に着いた。一時の団欒を楽しもうと思う。
着々と自分の時間が無くなっていくのを感じる…
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