シロクロ

10.出会った日から5年、あれから4年

あれから何年経ったのか。
墓裏に彫ってある年を見ればそれは四年も前の日付で、俺たちが出会ってから五年もの月火が経っていることを示していた。楽しみにしていた日誕生日に死ぬなんて誰も思っていなかったということが俺に直面する。本人ですら誕生日に死んだとは思っていないだろう。
あの時俺がヘマをしなければコイツは死なずに今を生きていたはずなのに＿＿
拭えない後悔とここまで入れ込むつもりじゃなかった情に俺は随分と絆されてのだと自覚したのはいつの事だったか。
「利用してやるつもりだったのにな...」
誰にも届くことの無い言葉を墓に向かって告げれば風が頬を撫でた。
組織に利用されていた俺なんかに利用される人間ではないことは知っていた。あくまで我が道をゆくところが気に入っていたのだ。俺が組織の言いなりなことくらい把握していて、逆らえないことを把握していて殺されたのだと知った時は自分が憎らしかった。何よりもクロに...囚に、信頼貰えなかった自分が。いや、信頼されていたからこそ殺されたし、病気のことも話さなかったのだろうか。
「馬鹿みたいだろこんなに後悔してるの。あと一週間でも生きていれば助かる術はあったってのに...ってさ、これを知ったら笑ってそうだよな、囚は」
自虐気味に笑ってみれば「シロくんが気にする必要ないでしょ～」と声がかかる。振り返れば四年前と変わらない姿の蜜柑さんの姿。
「…久しぶりだね、シロくん」
変わらないけど、どこか悲しそうでか細い声をする蜜柑さんに「蜜柑さんもお変わりないようで」と笑ってみせる。上手く笑えてはいないだろうけど仕方ないと結論づけた。
「誠生でいいですよ、名護貴之警視」
彼は後々気がついたがスパイと情報収集を請け負って警察庁に顔を出していなかった警察官だ。公安部とかではなく、察庁のお偉いさん直属だったと記憶している。囚はどうも警察官を引き寄せやすいらしい。
「硬っ苦しいのはやめようよ」
一回とぎってから「クロっちに怒られそう」と続けた蜜柑さん改め、名護警視。確かに俺たちが仲良くしていないと囚が怒りそうなのは分かる。怒りそうというか、困りそう...というのが正しいかもしれないが。
「結局、騙したままだったよ。いつか話そうかと思ってたんだけどね。信用して貰えてなかったのはこっちかも」
悲しそうに墓石を見つめながら言う名護警視に「それは無いと思います」と否定の言葉を吐く。なんの確証もないけど、自信を持って言える。だってあの囚のことだ。
「俺、多分ですけど、分かってたと思いますよ」
俺の言葉に名護警視は驚いてから「分かってた？バレてたってこと？」と言い不思議そうに俺を見る。
「はい。だって情報網は人一倍ありそうですし。何より長らくの付き合いだった名護警視のことに気が付かないわけがなかったんですよ」
はっきりと、自信を持ってそう答えればそういう節があったのか「そうかもね」と言われた。あの囚が自分の死を悟っているのならば自己犠牲をしてでも名護警視を守りに出ると思う。いや、自分の死を悟っていなくても。実際、俺は守られてしまったのだから。
沈黙が続けば名護警視は音を立てて手を叩いた。
「よし！しんみりするのは終わりにして、今日は飲もう！今日はアイツクロっちの誕生日パーティーだよ！」
早々と線香をあげて、墓地の出口へと歩き出す名護警視に一応「今日が命日なんですけど」と言ってみる。まるでなんのことか分からないような顔をして驚いてからにまっと笑い「しんみりされるより祝われた方があの子も嬉しいでしょ？」なんて言った。
流石、黒縄囚の人生に一番長く関わってきていた人だ。
確かにと思いながら着いていけば俺と名護警視の間を白い鳥が飛んで行った。鳥を目で追いかければ囚の墓の上に止まる。自然と口角が上がって「総意かよ」とツッコミを入れれば名護警視が「囚らしい」と言った。まぁ、確かにアイツらしいといえばアイツらしい。悲しむのはもうやめようと心に誓い墓地を離れた。