全知の魔法使いと黒猫の化け猫

aki

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火の精霊

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 メラメラと燃える炎を纏ったトカゲが私の家に訪れた。このトカゲは炎の精霊を束ねる王、サラマンダー。サラマンダーさんと私は旧知の中である。まぁ、ネロを通して知り合ったのだけども。
「……で、何しに来られたんですか?」
 優雅に私の出した紅茶を飲むサラマンダーさんはどこか深刻に見える。何事かと思いながらもサラマンダーさんの言葉を待つ。
「実はな……」
 サラマンダーさんから明かされたのは最近火の精霊たちの元気がないと言うことだった。精霊たちの元気が無くなるなんてことは稀にある。そこまで深刻なことではないのだが、さらに話を聞いてみるとかれこれ一週間は元気がないらしい。
 一週間も元気がないとなると人々の生活にも支障が出てしまう上、さすがに異常であると認めざるを得ない。
「で、それを俺たちにどうして欲しいの?」
 直球に聞くネロに苦笑いしながらサラマンダーさんに視線を向ける。サラマンダーさんは気まずそうに視線を逸らしてから口を開いた。
「みんなを元気にして欲しイ」
 真剣にお願いされては私は断れない。ネロに全ての決定権を委ねれば呆れ気味にため息を吐いた。
「具体的には何すればいいの?」
 人型に変化しながらそう言ったネロにサラマンダーさんの顔が明るくなった。きっと藁にもすがる思いだったのだろう。思わず苦笑いを浮かべる。
「火の精霊なら暖かいものや日光に当たったりするのがいいらしいですね」
 読書で培った知識を発揮すればネロやサラマンダーさんから尊敬の目を向けられた。そこまですごいことなのだろうか。
「最近は知識を持たナい人が多イ。名無しの魔女のヨうな人は珍シい」
 感動で涙を流すサラマンダーさんに火の精霊でも泣くんだと思ってしまった。そりゃあ、生命体なら泣くはずなのだが。
「じゃ、とりあえず行動を起こさないとな」
 ネロの言葉で私たちは火の鉱山に向かった。
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