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第2章 レイアスト城での日々
1 森を越えて
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「一緒にレイアストへ来てほしい」
「………え?」
一瞬何を言われたのか理解できなかったので、たっぷり間を開けてそれしか言葉が出なかった。
15分程で話を終えたらしいアル達が家の中へ入ってきてから、ダイニングのテーブルを4人で囲んで座り、用意していたハーブティーを一口飲んだ後。何の前置きもなく発したアルの言葉がそれだった。
ランベルト達が迎えに来たと言っていたから、アルは彼らと一緒に帰ってしまうのだろうと思っていた。結局アルの呪いを解くことはできずじまいで申し訳ないし、アルがいなくなると寂しくなるなぁ…なんて暗い気持ちになっていたというのに。
アルの口から出た言葉は思いもよらないものだったから、聞き間違いかもしれないと聞き返す。
「えっと…、わたしがアルと一緒にレイアストへ…?」
「そうだよ。君にも一緒に来てほしい」
「理由を聞いても…?」
「元々ここへは1ヶ月の滞在予定で来たのだけれどね。そろそろ帰らなくてはならないみたいなんだ」
2人が迎えに来てしまったから、と溜め息を吐くアル。そんなアルを見て、ランベルトと黒髪の男は気まずそうに視線を泳がせている。
「けれどこの通り、呪いはまだ解けていない。そこでだ。これからはレイアストで、一緒に呪いを解く方法を探してほしい」
「…待って。それって1日や2日の話じゃないよね?こんなに調べても何もわからなかったんだから、場所を変えたところですぐにどうこうなるとは思えない。そんなに長い間、カリオラを離れることはできないわ」
「なぜ?」
「この町の呪い師は、わたしだけだもの。呪い師がいなくなれば、町の人達が困ってしまう」
各町や村にとって呪い師の存在は大きい。呪い師がもたらす実益だけでなく、その存在そのものが人々に安心感を与えているのだ。カリオラで唯一の呪い師であるフィリアが長期間留守になるとなれば、町の人達は必ず不安に思うはず。
ところが、アルは事も無げに言ってのける。
「それなら心配ないよ。あてがあるから、信頼できる腕の良い呪い師をレイアストからカリオラへ派遣しよう。ああ、そうだ。住む場所も心配しなくていいよ。私の家には空き部屋もたくさんあるし、食事もこちらですべて用意する。君はただ、私のためだけに傍にいてくれればいいんだ。どうかな?他に何か心配なことは?」
熱心な瞳で説得してくるアルを見て、フィリアは思わず微笑んだ。元の姿に戻れなくて困っているアルをこのままにしておくことはできないし、彼にそれほど必要とされていることが純粋に嬉しかったのだ。
「わかった、一緒に行く。アルの呪いを解くって、最初に約束したものね」
「よかった。君ならそう言ってくれると思っていたよ」
花が咲いたように、とは今のアルみたいな表情のことを言うのだろう。つられてフィリアも笑みを深めるのだった。
「町長や他の人達にも説明しないと」
「それはランベルトとディーノに任せるから大丈夫だよ」
黒髪の男の名はディーノというようだ。いいな?と問われた2人はすぐに是の返事をする。
「君はその間に準備をするといい」
「え…すぐに出発するの?今日?これから?」
「もちろん。早く帰ってこいと、家のものから急かされているらしい」
「……っ!待って!すぐに荷造りするから!」
勢いよく立ち上がったフィリアは、慌てて全員分のティーカップを流しへ運んで洗い始めたが、大事なことを忘れていた。
「あの!!」
アルの命を受けて出ていくところだった2人を呼び止める。
「自己紹介がまだでした。呪い師のフィリアです。どうぞよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げたフィリアを見て、ディーノは愛想の良い笑みを浮かべながら、胸に手を当てて軽く頭を下げた。
「こちらこそ挨拶が遅れて申し訳なかった。ディーノと申します」
「………ランベルトと申します」
ディーノとランベルトの対応が正反対すぎて苦笑する。渋々感が否めない様子のランベルトにはあまり快く思われていないらしいが、今はそんなことを気にしている時間はない。とりあえずはお互いに自己紹介ができたので、よしとしようではないか。
その後はアルの手も借りながら、荷造りに家の戸締まりにと、フィリアは家中をばたばたと走り回った。
***
小一時間程で諸々の準備をすませたフィリアは、若干息を荒くしながら玄関の鍵を閉めた。
荷物は大きめな肩掛けのかばんひとつだけ。生活に必要なものはすべてこちらで用意すると言ってくれたアルに甘えて、必要最低限の衣服と占いに使うガラスの器、あとはお金が入っているだけだ。
フィリアとアルの荷物はランベルト達が町から連れて戻ってきた馬の鞍に括り付け、さあ、いざ出発という段階になって大事なことに気がつく。
「一応確認なんだけど、レイアストまでどうやって行くつもり?」
何を決まりきったことを聞くのかと、ランベルトが冷めた目でフィリアを見る。
「ここからレイアストまで通じる道はひとつだけです。この町の呪い師ともあろうお方がそんなこともご存知ないとは…。ああ、馬には乗ったことがありませんか?これは失礼しました。馬車でも用意した方がよかったですね」
ぽかん、と口を開けてランベルトを見る。綺麗な顔をしておいて、その口からは嫌味がつらつらと。苛立つよりもただ驚いた。
ディーノは焦った様子で、小声でランベルトに何か話しかけているし、アルは腕組みをして大きな溜め息を吐いている。
「馬には乗れるので大丈夫です。…じゃなくて、人目につく街道は避けた方がいいんじゃないかと思うんです」
アルはここへ来た日と同じように、全身を長いマントとフードで隠している。けれど、この格好のままの長旅は本人のストレスになるはずだ。
だから、フィリアは最善策を提案する。
「森を通って行きましょう!」
「はっ。馬鹿なことを言わないで下さい。"迷いの森"の噂を我々が知らないとでも?」
「ランベルト…。もう少し言い方ってもんがだなぁ。はぁ…。でも、迷いの森を通るのは俺も賛成しかねます」
「うーん。アルはどう思う?」
翡翠の瞳がフィリアをじっと見つめる。ふっと彼の目許が緩んだ。
「森を行こう」
「アルフレード様!本気ですか!?」
心底納得いかないという顔をするランベルトに向かって、アルは語気を強めて言う。
「私もここへ来る時は森を通って来たんだ。お前達が心配する程のことはない。それに、彼女には考えがあるのだと思うよ。そうだね、フィリア?」
自信たっぷりに頷いて、馬の轡をとり、先導するように森の方へ歩きだす。アルの命令ならばランベルトとディーノも大人しく従ってくれるはず。
フィリアのすぐ後ろにアルが続き、さらにその後ろでディーノがランベルトの肩を叩いて促しているのが見えた。
そうして一行は森の中へと足を踏み入れるのだった。
「妖精さん、妖精さん。出ておいで」
いつものように声をかければ、どこからともなく3人の妖精が姿を現した。
「レイアストまで行きたいの。近道をつくってくれる?」
『どうする?』
『どうしようか?』
『どうするどうする?』
妖精たちはくるくるとフィリアの周りを飛びながら笑い声を上げる。
『おちびさんのお願いだもん』
『特別だよ』
『こんなことしてあげるの、あんたにだけなんだからね』
「本当!?ありがとう!!」
妖精たちは悪戯で森を迷路のようにして人を迷わせるのが好きだが、逆に目的地までの近道をつくることもできる。これならレイアストまではすぐだろう。
満面の笑みを称えて振り返ると、少し離れたところで様子を見守っていたランベルトとディーノの2人が怪訝な表情をしているのに気がついた。彼らが訝しむのも無理はない。妖精の姿も声も普通の人には認識できないため、端から見ればフィリアが一人言を言っているようにしか見えないのだろう。
気を取り直して、アルに向かって問いかける。
「家はレイアストのどのあたり?近くに森はある?」
アルは一瞬何か考える素振りを見せたが、すぐにフィリアの目を真っ直ぐに見つめながら頷く。
「レイアスト城の東側に森がある。来るときもそこを通ってきたから、ここまで繋がっているはずだよ」
「わかった。妖精さん、レイアスト城の東の森までお願いできる?」
『任せておくれよ』
『すぐに着くもんね』
『ボクたちの手にかかればちょちょいのちょいさ』
妖精たちに手を振って別れを告げ、彼らが指し示す方向へ向かって馬に乗って歩き出す。
フィリアは一度だけ後ろを振り返った。木々の間から見える自分の家がだんだん遠ざかっていくが、寂しくはない。永遠にこの町へ戻ってこれない訳ではないのだから、期間の決まっていない旅へ出るようなものだと思っている。
前を向いて歩みを進めていると、名前を呼ばれた気がして馬を止めた。
『フィリア!!』
草むらから飛び出してきたうさぎを見て、急いで馬から降りてうさぎの元へ駆け寄る。
「うさぎさん!」
フィリアがしゃがんで腕を広げれば、うさぎはぴょんと勢いよく腕の中に飛び込んできた。ガラス玉のような真ん丸な瞳を潤ませながら、フィリアの腕の中でうさぎはキューと鳴く。
『いっちゃうのね…』
うさぎがあまりに悲しい声を出すものだから、先程までカリオラを離れることに寂しさを感じていなかったフィリアの胸がずきりと痛む。腕の中の柔らかい体を抱き締めて、うさぎの鼻先にキスをした。
「少しの間だけお別れだ。でも必ず帰ってくるよ。それまで待っててくれる?」
『…わかったわ。まっててあげる。でもぜったいかえってきて。えいえんのおわかれなんていやだからね!』
「うん。約束する。元気でね、うさぎさん」
後ろ髪を引かれる思いを抱きながら、うさぎをそっと地面におろす。すると、周りの草木の間から次々と動物たちが顔を出した。
キツネ、アライグマ、リス、シカ。みんなフィリアの友達だ。1匹1匹の顔を心に焼き付けるように順に見ながら、とびきりの笑顔を浮かべる。
「みんな、いってきます!」
『『『いってらっしゃい』』』
1時間程歩いた頃。突然森が開けて、眼前に大きな白亜の城が姿を現す。レイアスト城だ。
普通に森を進めば2日はかかるところだが、妖精がつくってくれた近道のおかげであっという間に目的地に到着できた。
驚きに目を見開いて固まっているアル達を見て、フィリアは得意な気持ちになるのだった。
「………え?」
一瞬何を言われたのか理解できなかったので、たっぷり間を開けてそれしか言葉が出なかった。
15分程で話を終えたらしいアル達が家の中へ入ってきてから、ダイニングのテーブルを4人で囲んで座り、用意していたハーブティーを一口飲んだ後。何の前置きもなく発したアルの言葉がそれだった。
ランベルト達が迎えに来たと言っていたから、アルは彼らと一緒に帰ってしまうのだろうと思っていた。結局アルの呪いを解くことはできずじまいで申し訳ないし、アルがいなくなると寂しくなるなぁ…なんて暗い気持ちになっていたというのに。
アルの口から出た言葉は思いもよらないものだったから、聞き間違いかもしれないと聞き返す。
「えっと…、わたしがアルと一緒にレイアストへ…?」
「そうだよ。君にも一緒に来てほしい」
「理由を聞いても…?」
「元々ここへは1ヶ月の滞在予定で来たのだけれどね。そろそろ帰らなくてはならないみたいなんだ」
2人が迎えに来てしまったから、と溜め息を吐くアル。そんなアルを見て、ランベルトと黒髪の男は気まずそうに視線を泳がせている。
「けれどこの通り、呪いはまだ解けていない。そこでだ。これからはレイアストで、一緒に呪いを解く方法を探してほしい」
「…待って。それって1日や2日の話じゃないよね?こんなに調べても何もわからなかったんだから、場所を変えたところですぐにどうこうなるとは思えない。そんなに長い間、カリオラを離れることはできないわ」
「なぜ?」
「この町の呪い師は、わたしだけだもの。呪い師がいなくなれば、町の人達が困ってしまう」
各町や村にとって呪い師の存在は大きい。呪い師がもたらす実益だけでなく、その存在そのものが人々に安心感を与えているのだ。カリオラで唯一の呪い師であるフィリアが長期間留守になるとなれば、町の人達は必ず不安に思うはず。
ところが、アルは事も無げに言ってのける。
「それなら心配ないよ。あてがあるから、信頼できる腕の良い呪い師をレイアストからカリオラへ派遣しよう。ああ、そうだ。住む場所も心配しなくていいよ。私の家には空き部屋もたくさんあるし、食事もこちらですべて用意する。君はただ、私のためだけに傍にいてくれればいいんだ。どうかな?他に何か心配なことは?」
熱心な瞳で説得してくるアルを見て、フィリアは思わず微笑んだ。元の姿に戻れなくて困っているアルをこのままにしておくことはできないし、彼にそれほど必要とされていることが純粋に嬉しかったのだ。
「わかった、一緒に行く。アルの呪いを解くって、最初に約束したものね」
「よかった。君ならそう言ってくれると思っていたよ」
花が咲いたように、とは今のアルみたいな表情のことを言うのだろう。つられてフィリアも笑みを深めるのだった。
「町長や他の人達にも説明しないと」
「それはランベルトとディーノに任せるから大丈夫だよ」
黒髪の男の名はディーノというようだ。いいな?と問われた2人はすぐに是の返事をする。
「君はその間に準備をするといい」
「え…すぐに出発するの?今日?これから?」
「もちろん。早く帰ってこいと、家のものから急かされているらしい」
「……っ!待って!すぐに荷造りするから!」
勢いよく立ち上がったフィリアは、慌てて全員分のティーカップを流しへ運んで洗い始めたが、大事なことを忘れていた。
「あの!!」
アルの命を受けて出ていくところだった2人を呼び止める。
「自己紹介がまだでした。呪い師のフィリアです。どうぞよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げたフィリアを見て、ディーノは愛想の良い笑みを浮かべながら、胸に手を当てて軽く頭を下げた。
「こちらこそ挨拶が遅れて申し訳なかった。ディーノと申します」
「………ランベルトと申します」
ディーノとランベルトの対応が正反対すぎて苦笑する。渋々感が否めない様子のランベルトにはあまり快く思われていないらしいが、今はそんなことを気にしている時間はない。とりあえずはお互いに自己紹介ができたので、よしとしようではないか。
その後はアルの手も借りながら、荷造りに家の戸締まりにと、フィリアは家中をばたばたと走り回った。
***
小一時間程で諸々の準備をすませたフィリアは、若干息を荒くしながら玄関の鍵を閉めた。
荷物は大きめな肩掛けのかばんひとつだけ。生活に必要なものはすべてこちらで用意すると言ってくれたアルに甘えて、必要最低限の衣服と占いに使うガラスの器、あとはお金が入っているだけだ。
フィリアとアルの荷物はランベルト達が町から連れて戻ってきた馬の鞍に括り付け、さあ、いざ出発という段階になって大事なことに気がつく。
「一応確認なんだけど、レイアストまでどうやって行くつもり?」
何を決まりきったことを聞くのかと、ランベルトが冷めた目でフィリアを見る。
「ここからレイアストまで通じる道はひとつだけです。この町の呪い師ともあろうお方がそんなこともご存知ないとは…。ああ、馬には乗ったことがありませんか?これは失礼しました。馬車でも用意した方がよかったですね」
ぽかん、と口を開けてランベルトを見る。綺麗な顔をしておいて、その口からは嫌味がつらつらと。苛立つよりもただ驚いた。
ディーノは焦った様子で、小声でランベルトに何か話しかけているし、アルは腕組みをして大きな溜め息を吐いている。
「馬には乗れるので大丈夫です。…じゃなくて、人目につく街道は避けた方がいいんじゃないかと思うんです」
アルはここへ来た日と同じように、全身を長いマントとフードで隠している。けれど、この格好のままの長旅は本人のストレスになるはずだ。
だから、フィリアは最善策を提案する。
「森を通って行きましょう!」
「はっ。馬鹿なことを言わないで下さい。"迷いの森"の噂を我々が知らないとでも?」
「ランベルト…。もう少し言い方ってもんがだなぁ。はぁ…。でも、迷いの森を通るのは俺も賛成しかねます」
「うーん。アルはどう思う?」
翡翠の瞳がフィリアをじっと見つめる。ふっと彼の目許が緩んだ。
「森を行こう」
「アルフレード様!本気ですか!?」
心底納得いかないという顔をするランベルトに向かって、アルは語気を強めて言う。
「私もここへ来る時は森を通って来たんだ。お前達が心配する程のことはない。それに、彼女には考えがあるのだと思うよ。そうだね、フィリア?」
自信たっぷりに頷いて、馬の轡をとり、先導するように森の方へ歩きだす。アルの命令ならばランベルトとディーノも大人しく従ってくれるはず。
フィリアのすぐ後ろにアルが続き、さらにその後ろでディーノがランベルトの肩を叩いて促しているのが見えた。
そうして一行は森の中へと足を踏み入れるのだった。
「妖精さん、妖精さん。出ておいで」
いつものように声をかければ、どこからともなく3人の妖精が姿を現した。
「レイアストまで行きたいの。近道をつくってくれる?」
『どうする?』
『どうしようか?』
『どうするどうする?』
妖精たちはくるくるとフィリアの周りを飛びながら笑い声を上げる。
『おちびさんのお願いだもん』
『特別だよ』
『こんなことしてあげるの、あんたにだけなんだからね』
「本当!?ありがとう!!」
妖精たちは悪戯で森を迷路のようにして人を迷わせるのが好きだが、逆に目的地までの近道をつくることもできる。これならレイアストまではすぐだろう。
満面の笑みを称えて振り返ると、少し離れたところで様子を見守っていたランベルトとディーノの2人が怪訝な表情をしているのに気がついた。彼らが訝しむのも無理はない。妖精の姿も声も普通の人には認識できないため、端から見ればフィリアが一人言を言っているようにしか見えないのだろう。
気を取り直して、アルに向かって問いかける。
「家はレイアストのどのあたり?近くに森はある?」
アルは一瞬何か考える素振りを見せたが、すぐにフィリアの目を真っ直ぐに見つめながら頷く。
「レイアスト城の東側に森がある。来るときもそこを通ってきたから、ここまで繋がっているはずだよ」
「わかった。妖精さん、レイアスト城の東の森までお願いできる?」
『任せておくれよ』
『すぐに着くもんね』
『ボクたちの手にかかればちょちょいのちょいさ』
妖精たちに手を振って別れを告げ、彼らが指し示す方向へ向かって馬に乗って歩き出す。
フィリアは一度だけ後ろを振り返った。木々の間から見える自分の家がだんだん遠ざかっていくが、寂しくはない。永遠にこの町へ戻ってこれない訳ではないのだから、期間の決まっていない旅へ出るようなものだと思っている。
前を向いて歩みを進めていると、名前を呼ばれた気がして馬を止めた。
『フィリア!!』
草むらから飛び出してきたうさぎを見て、急いで馬から降りてうさぎの元へ駆け寄る。
「うさぎさん!」
フィリアがしゃがんで腕を広げれば、うさぎはぴょんと勢いよく腕の中に飛び込んできた。ガラス玉のような真ん丸な瞳を潤ませながら、フィリアの腕の中でうさぎはキューと鳴く。
『いっちゃうのね…』
うさぎがあまりに悲しい声を出すものだから、先程までカリオラを離れることに寂しさを感じていなかったフィリアの胸がずきりと痛む。腕の中の柔らかい体を抱き締めて、うさぎの鼻先にキスをした。
「少しの間だけお別れだ。でも必ず帰ってくるよ。それまで待っててくれる?」
『…わかったわ。まっててあげる。でもぜったいかえってきて。えいえんのおわかれなんていやだからね!』
「うん。約束する。元気でね、うさぎさん」
後ろ髪を引かれる思いを抱きながら、うさぎをそっと地面におろす。すると、周りの草木の間から次々と動物たちが顔を出した。
キツネ、アライグマ、リス、シカ。みんなフィリアの友達だ。1匹1匹の顔を心に焼き付けるように順に見ながら、とびきりの笑顔を浮かべる。
「みんな、いってきます!」
『『『いってらっしゃい』』』
1時間程歩いた頃。突然森が開けて、眼前に大きな白亜の城が姿を現す。レイアスト城だ。
普通に森を進めば2日はかかるところだが、妖精がつくってくれた近道のおかげであっという間に目的地に到着できた。
驚きに目を見開いて固まっているアル達を見て、フィリアは得意な気持ちになるのだった。
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