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復讐の狼煙 1
しおりを挟む――このクラス、いや、この学校はどこかおかしい……
彼がそう思うようになったのは、入学してから半年が経った頃だった。
一体何が原因で、こんなことになったのか、見当もつかなかった。
気が付いた時には、こんなことに。
「はい、今月の分は?」
「いや……あの……今月は本当に生活費が厳しくて……」
「はぁ~なに? 持ってない? よしお前ら!」
「へへへへ……」
「ちょ、何する気……っぐあ!」
学校の体育館裏は、人目がつきにくく絶好の狩られ場となっている。ただし、対象は一人だけなのだが。
金髪の男の後ろに男が二人。その三人の前には、泥だらけになりながら、地面に蹲りひたすらけられ続け、ポケットに入れていた薄くて軽い財布を取られている男が一人。
「なんだよ、持ってんじゃんか。確かに少ないけど、今月はこんだけで勘弁してやらぁ。じゃ、来月もよろしく~」
そう言って、男たちは傷だらけ、泥だらけで地面に倒れている彼を置いてその場を去った。
体育館裏で倒れている男――桜木 優希には家族がいない。
祖母は7年前に病気で、祖父は5年前に天寿をまっとうし、両親は3年前に事故で失っている。
次々と家族を亡くした優希は、両親の知り合いが経営しているアパートに住んでいる。家賃は特別に安くしてもらっているが、食費、電気代、水道代はバイトで養っており、生活は常にかつかつだ。その上、学校では毎月1万は取られている。
彼はクラスで虐められている。
暴力、暴言、陰口、パシリetc.
むしろ、それを一年耐えている彼のメンタルは不屈のボクサーと言ってもいいと、優希は心の中で思っている。
登校拒否――この言葉が、何度優希によぎったか分からない。それでもそうしなかった。家族がいない彼は少なくとも高校を出なくてはいけないと思っているからだ。その上、家族の言葉が優希を必死にこらえさせた。一年耐えた。あと、一年半でこんな生活も終わると、優希は自分に言い聞かせていた。
彼の虐めを同じクラスで止める者はいない。なぜなら、虐めているのはクラスの一部ではないからだ。
彼の虐めを止める先生はいない。なぜなら、虐めている生徒の中には理事長の娘が居るからだ。
彼の虐めを止める保護者はいない。なぜなら、優希には家族はこの世にいず、いたとしても虐めている生徒にPTAの会長の息子が居るからだ。
彼の虐めを、学校関係者以外で止める者はいない。なぜなら、虐められていることすら知らないからだ。
優希は誰にも話すことはなく、誰にも助けられることはなく、一年間耐えた。理事長もPTA会長も自分のメンツを保つため、子供のやっていることは見逃し、隠蔽しているようだった。
優希の味方は存在しない。
二度だけ、助けてくれようとした人はいた。一人は学校を辞めさせられ、一人は知らない場所で何かを去れたらしい。それっきり、優希に救いの手を差し伸べる者はいなかった。
そんなクラス故、優希が泥だらけで帰ってこようと、誰一人声をかけることはなかった。全員大体察しているのだろう。心の中で笑っているのだろう。そう思うと悔しさと憎悪が優希の心をかき混ぜる。そんな感情を押し殺して、彼は席に座る。優希が席に座ると少なからず集まっていた視線が完全に分散した。
もうすぐ、朝礼の時間だ。授業中は学校内で唯一、優希が落ち着いて過ごせることのできる時間である。
だが、最後まで油断は出来なかった。
それは、すこし心の重圧が軽くなり、緊張感がほどけそうになったその瞬間のことだった。
「ねぇ~桜木~」
ギャルのような声で、馬鹿にしているような話し方で寄ってくるのは、三日月 香織《みかづき かおり》だ。火のように赤い髪は学校でも目立っていた。この学校ではあまりルールは厳しくないので、誰でも自由に髪を染めている。しかし、彼女はもともとの顔つきが良い。黄金比率で配置した目や眉、口。鼻筋が通った高い鼻。荒れの人るもない肌は、赤い髪がとても似合っており、学校でもかなりの有名人だ。噂ではモデルのスカウトをされたこともあるそうだ。
そんな彼女が優希の肩に腕を回して詰め寄り、周りに聞こえないような声で囁く。
「ちょっと、喉乾いたからさ、自販機で買ってきてよ」
「で、でも、もう朝礼が……」
「だから? 大丈夫。先生には言っとくから」
優希が震えた声で反論しそうとすると、それを覆い隠すように言葉を重ねる。釣り目の彼女の眼力に、まるで、蛇が首にまとわりついているように感じ、洗脳されたように自販機へ向かう。もちろん、お金は貰っていない。そんな彼を、自分のことのように見ているものがいた。
その彼女は西願寺 香織《さいがんじ かおり》。国でもトップクラスの財閥の一人娘で、容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群。料理、バイオリンといったことも一通りはこなしており、完全無欠の女生徒だ。運動部に入っているため、短く切ってある髪。少々抜けているところも人気があるらしい。人ともすぐに友好的になって、学校で告られた回数は、男子生徒の人数の3割と言われている。もちろん、全部断っているのだが。
三日月が海外美女のような感じなら、西願寺は大和撫子といった感じだ。
********************
優希が教室を出てから数分、学校のチャイムが鳴り響くとともに、一人の男が教室に入ってきた。
身長は180センチはあり、長い脚、細身の体、いったい何人の女性を虜にしてきたのだろうと思わせるほどの整った顔。紫の髪に一部だけ白く染めている部分がある。同じ年の男がやったら馬鹿にされそうなその髪色も彼にはよく似合っていた。
全く、見たことがないその男は、チョークを手に取り、自分の名前を黒板に記した。
教室にいた生徒は、すぐに席につき、黒板の名前を目で読む。
「今日は担任の先生が休みなので、私、神鈴 縁巣《かみすず えんす》が、担当します……っと、一人少ないね。欠席かな?」
神鈴の問いに、三日月は手を挙げて答える。
「は~い、桜木君は~トイレに行ってるんで、先に始めちゃってくださいだそうで~す。それより、メアド教えて~」
整った顔の神鈴に興味を持ったのか、三日月がメアドを聞く。しかし、神鈴は適当にあしらい、顎に手を当てて考え込む。
「困ったな~全員いないといけないのに」
ボソッと放ったその一言は、前列の生徒には聞こえており、疑問を抱いた。
後方の生徒、優希をカツアゲしていた金髪の男――竜崎 蒼麻《りゅうざき そうま》は、机に脚を置き、耳に小指を突っ込みながら、窓の外を見ており、三日月はイケメン俳優でも見るかのように目を輝かせて神鈴を眺めている。
そんな中、優希は教室の前まで来た。2年3組のクラス表示を見て、ため息をつきながら、ドアの取っ手に指をかける。
優希が片手にジュースを持って、教室のドアを開けた。散らばったいた視線は一気に優希に集まる。その中には神鈴の視線もあり、
「やぁ、遅かったね。トイレは大丈夫かい? おや? 君はトイレで用を足しながら水分を取っていたのかい?」
神鈴の言葉に、数名の生徒がクスクスと笑っている。本当なら問い詰められそうだが、神鈴はパンっと両手を合わせて、優希を席につかす。優希の席に行くまでに三日月の席の横を通るので、プロの擦り師のように机の横にかけている三日月のカバンにジュースを入れる。神鈴は気づいていない。
「はい! 全員揃ったところで、改めて。私は 神鈴 縁巣と言います。さて、挨拶はこれくらいにして、今日は伝えることがたくさんあるからね~」
そう言って、神鈴はチョークを走らせる。普段なら、この時でもしゃべっている生徒が出てくるのだが、今日は静寂に包まれ、カツカツとチョークと黒板が擦れあう音が響く。まぁ、無理もない。普通なら文字を書いていくのに、神鈴の一画目は黒板の上下の幅ギリギリまで使った円だった。その瞬間、生徒の視線は黒板に集中し、二画目からは生徒の集まった視線を釘付けにしていた。
神鈴がチョークを置いた時、黒板には魔法陣のようなものが書かれている。ある生徒は見惚れ、別の生徒はクスクスと笑いながら携帯で写真を撮っているものもいる。
そんな生徒たちを包み込むような笑みの表情で眺めている神鈴は、一通り反応を楽しんだ後、さらっと、耳を疑うようなことを言い放つ。
「じゃ、これから君たちには世界を救ってもらう。では健闘を祈る!」
生徒たちがきょとんとしているが、神鈴は一切待つことをせず、指を鳴らす。
すると、黒板に描かれた魔法陣が七色に光りだした。
反応できずにいる者もいれば、すぐに立ち上がり教室を出ようとする者もいる。だが、教室のドアは男子生徒が数人がかりでも開かず、教室内はパニックに陥った。悲鳴を上げながらしゃがみ込む女子生徒、ちらちらと魔法陣を見ながら必死にドアをこじ開けようとする男子生徒、なぜか圏外になっている携帯で助けを呼ぼうと必死になっている生徒。そんな、彼ら彼女らを楽しそうに見つめ、高らかに笑っている神鈴。優希が現状を理解する時には、魔法陣の光は教室中を包み込んだ。
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