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救済の狼煙 6
しおりを挟む「もう行くのかい?」
「はい。姫様にも挨拶をしておかないといけないので」
「寂しいわね~」
「また来てくださいっス」
「もう君たちは我がギルドの仲間だ」
薫が試練を突破した翌日、速やかに準備を整える。
ギルドの扉の前で、薫はウルドたちに見送られ、挨拶をしている。
「あの、一つお願いがあるんですが……」
「どうした?」
薫はへりくだるようにウルドに言う。
そんな薫に茅原も不思議な顔で見ていた。
「僕たちには、他にパーティメンバーがいるんですが、今回の件を終えた後、僕たちをこのギルドに入れてもらえませんか?」
薫のお願いに、茅原含め全員が驚いている。ウルドたちからしても願ってもない申し出だ。だが、ウルドは簡単に認めない。
「その返答は今は出来ない。どこのギルドに入るかは君たちの自由で我々が何か言う必要は無いし、帰ってそのメンバーとじっくり話すといい。ギルドに入るということは、拠点を決めるというもの。大切な仲間がいるなら、そちらを優先しなくてはいけない」
ウルドの言葉を薫はかみしめるように心に染み込ませ、一言。
「はい! じゃあ、行ってきます!」
薫と茅原は、馬車にのる。足取りは軽く、練度上げを何日短縮したのか薫はその身で実感する。清々しい気分で、ここに来るまでの不安や恐怖をかき消すほどの自信。薫は生まれ変わったようで、その姿は茅原も感じられるほどだった。
馬車は走る。カラカラと車輪の音がわずかに聞こえ、道の形に添うように衝撃と揺れを繰り返す。
二人は車よりも悪いそんな乗り心地にも慣れ、気にせず話していた。
「マリンはどうしたんだろうね」
「なんか、急な仕事が入ったとかで朝から出かけていたみたいだけど」
「呼んだー?」
突然の声に、薫と茅原はあたりを見わたす。外を見てもその声の主はいない。しかし、馬車の一か所から聞こえるノック音に反応し、2人はその一点を見る。進行方向側にある小窓に乗っている御者からだった。笠をかぶっているせいで顔が見えないが、その服装はとても見覚えがあった。笠からはみ出ている長いオレンジ色の髪は、馬車の動きに合わせて風に流される。
そして、二人の視線が変わらぬうちに、その御者は手綱を握っているうちの片方を放し、笠をくいっと上にあげる。御者の顔がはっきりと見えたとき、薫と茅原は驚愕のあまり、馬車の外にも聞こえるほど大きな声で叫んだ。
「「マリン!!」」
マリンは御者に扮して薫たちについてきていた。とりあえず、状況が読み込めない二人はマリンに頼み近くで一度止まることになった。
********************
「で、なんでついてきたの?」
薫は胸に抱いている疑問をまっすぐにぶつける。別に迷惑ではないのだが、急だったので事情くらいは知りたいのだ。
「なんでって……楽しそうだから?」
相変わらず本人ですら疑問形の返答。マリンらしいと言えばマリンらしいのだが、その辺は明確にしてついてきてほしいものだ。
「ウルドさんはこのことを……」
「知らないよ。黙ってきたもん」
茅原は大方、返答を予想しながらも聞き、その返答は予想どうりだった。まぁ、ウルドが知っていれば、真っ先に止められていただろう。これから行う仕事にマリンが介入するのは目に見えている。マリンの実力なら命の安否の心配はしていないだろうが、一番心配なのは、今回は姫様が護衛対象であり、無礼な行為は絶対に慎まなければならない。ウルドが止めるとしたらこれらの理由だろうが、マリンは黙ってきているのでどうしようもなく、薫の性格上強く押し返すこともできなかったため、マリンも同行することになった。
そして、一度皆と合流した後、薫は一人で王城に向かった。
記憶に新しいながらも懐かしく感じる高貴な道を歩き、ウィリアムの部屋の前に辿り着く。扉を開く前に薫は右手の紋章を見て瞑目し深呼吸を一回、瞼の裏に紋章の形を刻みながら、心の中の不安を外に出すように、深く、長い深呼吸。
そして、薫は扉のノブに指をかけ、ゆっくりと扉を開いた。
「やあ、開けるまで長かったねカオル君」
「気付いてたんですか。ちょっと深呼吸を」
「なら、その後にノックの一つくらいはしてほしいけどね」
「す、すいません!」
優しい笑みでの指摘に薫は思わず謝罪。
「うん。やはり君は期待通りの人だ。オーラが違う」
ウィリアムは薫から漂う雰囲気の変化に気付く。そのあたりはやはり帝国の英雄と言えるべきものだろう。
ウィリアムはそんな薫の姿を楽しみながら本題に入った。
「今回の姫殿下の護衛だが、おおよその内容はこの間話した通りだ」
「帝国建国祭の挨拶で顔を出すんですよね」
「そう。本来なら騎士団が守るんだけど、常に付き添っていられる護衛が必要でね」
「そこまで言うってことは、何か警戒するべき相手でもいるんですか?」
薫の質問にウィリアムは満足そうな笑みを浮かべて答えた。
「君は察しが良くて助かる。君の言う通り、危険視している奴らがいる。と言ってもまだ正体は判明してないんだけど」
「正体が分かっていない?」
「ここ最近、貴族が何人かやられていてね。一応こちらで調査をしてるんだけど、正体は全然わかっていないんだ。それも、帝都への入り口を突破してきているか、最初から帝都にいるのか分からないけど、どちらにしても恐ろしい」
「それで、今回は警備を強くするということですね」
「そういうこと。はいこれ、任務の詳細」
ウィリアムは手帳のようなサイズにまとめられた任務内容書を渡す。薫はその中を簡単に目を通した。
「じゃ、いこうか」
ウィリアムは薫を案内する。今回薫は姫殿下との謁見の日だ。
歩きなれた足取りでウィリアムは歩く。そして、巨人でもはいれるのではと思えるほどの大きな扉の前で止まった。
「ここだ。準備はいいかい?」
ウィリアムの問いに、薫は額に汗を浮かべながら首を縦に振る。
その時、重厚な扉が開いた。一体だれがどうやって開けてるのか気になるところだ。
その扉が完全に開かれた。中はとても広い部屋に、カーペットが扉から続いており、それに沿うように騎士が剣を顔の前にかざしながら並んでいる。その先に、ふたつの椅子があり、それに座る二人からは威厳というものが漂っていた。
その光景に、薫は思わず唾をのむ。
「皇帝陛下、クラリス姫、例の者をお連れしました」
ウィリアムが片膝をついて頭を下げると、薫も同じようにする。
そして、一人の女性が椅子から立ち上がり、ドレスの裾を掴み、階段を一段一段降りる。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花という言葉がとても似合っていた。そして、キラキラとしたオーラを纏いながら薫の前までやってきた。
「顔をお上げくださいませ。カオル様」
その言葉に従うように、薫は顔を上げる。
薫の目にはとても美しい顔立ちの女性が映っていた。顔を近づけているため視界全体がその美しさに支配される。薔薇のような赤と、キキョウのように白が黄金比で調合されたように艶やかで鮮やかなピンク色の長髪、空のように澄み切った青い目、日の光など当たったことがあるのか疑問に思うほどの白い肌。すべての美を寄せ集めて人へと構築されたような人だった。
「初めまして。わたくし、逢沢 薫と申します。この度、姫様の護衛の任をもらい、参上仕ったしだいで――」
「堅苦しい挨拶は無しですよカオル様」
薫のおぼつかない敬語をクラリスは綺麗な声で遮る。
耳が浄化されるような声に薫はそれ以上続けることは出来なかった。
クラリスは手を差し伸べる。薫はその手に自分の手を乗せた。なめらかな肌の感覚が伝わる。体温が直に伝わる。鼓動が早まり、薫はわずかに手汗をかいている。
「では、まいりましょう!」
そのまま、優しく乗せている薫の手をぎゅっと握りしめ、先ほどまでの可憐さが薄れるほどに走り出した。薫は驚きながら引かれる手についていくように走る。元気で気品を感じさせる走り方。それはまるで子供のようで、薫の目は話せなかった。
「ふぅ~こんなに走ったのは久しぶりです」
「ぜぇぜぇ姫様……結構体力あるんですね……」
最初、元気な方だと思っていた。数分後、元気というのを超えた体力にイメージがかなり崩れている。
しかし、薫は彼女の首にしているものを見て、その体力の出所に納得する。
「姫……そのプレート……」
「ああ、これは昔ある方にもらったものなんです。丁寧に名前まで掘ってくれて」
クラリスの首には確かに眷属の証であるプレートがかけられていた。薫は目を疑った。一刻の姫が眷属であることに。
「これはお守りなんです。私の大切な宝物」
クラリスは大切そうにプレートを手で包む。優しく、温めるように包み込む。薫はその姿から、眷属同行はどうでもよくなった。そして、一言。自分の意思を伝えた。
「守ります。絶対に」
薫の言葉に、クラリスは誰もを魅了するような笑顔で答えた。
会って間もない薫を信じるクラリス。この人柄に薫も全力を尽くそうと再び自分に言い聞かせた。
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