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冒険者の邂逅6 「やっと捕まえたです!」
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「痛ッ!?」
ゴトンの体に打ちつける痛み。
左膝に始まり、右腕、腹部、頭と、まるで鉄の棒で殴られているかのような気分だ。
「痛ってぇ……何が……」
ゴトンはまだ痛みが残る頭を押さえて地面を見た。
そこには氷の塊がいくつか転がっていて。
「んだこりゃ。氷か?」
考えているうちにも左肩に痛みが走る。
だがようやくこの痛みの正体が理解できた。
この地面に転がっている氷がもの凄い勢いで飛んできている。
だが氷の塊なんかどこからとゴトンは頭を悩ませる。
可能性の一つとしては少女が魔導士である可能性だが、魔装を所持していないのでその線は薄い。
「もしや……」
ゴトンは確信した。これは雪玉だ。
「嬢ちゃんの体温と握力で水分を絞った超高圧の雪玉。それが音速並みの速さで飛んできてるのか」
体力が怪物のココアだから出来る即席の飛び道具。
普通の雪玉なら身体にぶつかると砕けて終わりだが、素手のココアがその馬鹿力で握ることで雪玉ではなく氷の塊と化している。
それに速度が加わることで鉄球のような威力を発揮している。
「考えたじゃねぇか嬢ちゃんよぉ!!」
立て続けに飛んでくる雪玉を、ゴトンは宝具で切り捨てる。
ガコンと氷を砕く音と感触が手に伝わり、改めて小女らしからぬ力に驚かされる。
豪速で飛んでくる雪玉もとい氷塊にようやく目が慣れてきたのか、ゴトンは余裕で氷を砕いていく。
あと少しで雪煙が晴れるというタイミング、今度は氷塊ではなく大木が雪煙から勢いよく飛来してきた。
「ドラァ!!」
おそらく近くの木を引っこ抜いて投げたであろうが、ゴトンは冷静にそれを切り捨てる。
小さな雪玉と違い、大木となると空気の流れが大きく変わるようで、雪の煙が大木の投擲で勢いよく晴れた。
だがそこにココアの姿は無くて。
「んなっ、どこに行きやがった……」
雪を掘った形跡はない。
だが移動した形跡もない。
となれば――――
「上かっ!」
ゴトンが上空を見上げた時、すでにココアは目前に迫っていた。
単純な跳躍からの落下、勢いに任せて両膝をゴトンに向ける。
まずいと思う余地すらない一瞬で、ゴトンは反射的にココアの膝蹴りを半身で躱す。
だが躱されたと認識した瞬間、ココアは畳んだ足を伸ばして雪に着地する。
積雪が宙に舞い上がり、衝撃がココアを起点に広がってゴトンを後退りさせる。
間髪入れず、大地を踏みしめたココアは距離の縮まったゴトンの両腕を掴んだ。
「やっと捕まえたです!」
ゴトンはココアの手を振り解こうとするが、倍近く太いゴトンの腕に骨が軋むような圧力が加わりなかなか解けない。
“嘘つきの戦斧”の能力が発揮できないのは10メートル圏外だけじゃない。
斧が持つ本来の間合い約4メートル圏内もまた、能力が使用できない範囲になる。
なぜなら、“嘘つきの戦斧”は斬撃の距離は変えられても向きや高さは変えられないからだ。
例えば、ゴトンが自分の肩の高さで“嘘つきの戦斧”を横薙ぎに振れば、10メートル圏内で現れる架空の剣は、ゴトンの肩の高さの横薙ぎで現れる。
斬撃が振り下ろしになることも、敵の膝の位置に斬撃が現れることもしない。
つまり、斧本来の間合いである4メートル圏内は能力を発動してもそれは本体と重なり意味を成さない。
それを狙ってるわけではないが、結果的にココアは最善の策を取った。
力の勝負となればココアに勝機がある。
「くっぁ、放しやがれ!」
「絶対に放さないです!」
ココアの手の大きさではゴトンの太腕を完全に掴む事はできない。
しかしココアのピンチ力がゴトンの腕に圧を与えて、潰される感触と鈍い痛みを与えていく。
ゴトンは“嘘つきの戦斧”を手放した。
刃のついた頭の方が重い戦斧は、その頭を雪に埋めてもなお、大きい刃の一部は雪からその姿を残している。
「ぐっおぁ!!」
ゴトンは痛みに耐えながココアの身体を持ち上げた。
その握力や腕力に反して、ココア自身は普通の少女並みの軽さだった。
今でも両腕が潰されるように痛いのに、持ち上げたココアはゴトンにとって羽毛のように軽くて。
ゴトンはわざと“嘘つきの戦斧”を手放した。
戦斧の重さの配分から落下時に雪が支えとなって刃の一部が残った状態で戦斧が雪に突き刺さる事は予測できていた。
あとは身体を持ち上げて雪から飛び出た刃に叩きつけるのみ。
ココアの方はそれに一切気が付いていない。
持ち上げられ、揺れるように足を運ぼうとココアは馬鹿の一つ覚えみたいに手に力を込める。
ナイフでは傷のつかないココアの身体だが、骨ごと断ち切れる“嘘つきの戦斧”とゴトンの腕力ならどうだろうか。
「ふごぁあああ!!」
「これで終いだッ!」
ゴトンがココアの身体を叩きつけようとした時、左肘が砕けるような激痛が走った。
ココアの握撃のようなジワジワと蝕むものじゃなく、鋭い刺激で電撃が走るような激痛。
痛みの起点から力と体温が抜けていく感触の原因は一目瞭然で。
「ぐっぁあ! クソが!!」
ゴトンは肘に突き刺さった黒い矢を抜いて怒鳴り声をあげる。
叫び声に驚いてココアは手を放してふわふわの雪に着地する。
ゴトンはココアではなく、矢を放った方へ注意を向けていた。
特徴的で印象に残っている黒い矢を放った張本人は誰だかわかる。
だが場所が分からない。
矢が飛んできた方向に目をやるが、そこに奴の姿はない。
四方に注意を巡らせるが、意外にもその男はあっさり見つかった。
矢が飛んできた方向から九十度ズレた所。
特に次に構える訳でもなく、男はただ呆然と立っていていた。
様子を見守るようにゆったりと構えている男を見て、ゴトンはハッとする。
今戦っているのは弓兵ではない、殺すチャンスを失ったばかりの敵がまだ立っている。
「ウガァあああああああ!!」
「ぁぶッ――――」
振り返ろうとした瞬間、肘の痛みなど感じなくなるほどの鈍痛が顔面に広がる。
砕けた頬の骨が外の筋肉に突き刺さり、脳が頭蓋の中で激しく揺れて、頸椎が無理矢理折れ曲がっていく。
最も警戒していたココアの拳打をもろに受けて、意識が震撼と同時に断絶された。
ゴトンの頭部が雪に埋まり、雪片に赤い流動体が染み込んでいく。
慌ててやって来た矢を放った本人――ジャックドー・シーカーはゴトンの安否を確認する。
「死んで……ないな。地面が積雪だったのが救いだな。うっわグロ……」
本来骨と筋肉の感触があるはずの頬が陥没していて指で触れた時の何とも言えぬ感触にジャックは顔をしかめる。
「いくらチャンスだったからって次からはもう少し手加減しような。おたくの怪力はマジで大型魔物級だから」
「うぅ、これでも我慢したです」
「だろうな。おたくが無防備な相手に本気で殴ったら多分顔がなくなってる。さて、仕事も終えたし一旦街に戻るか」
ジャックはゴトンが殺したグラウルスの入った袋から背毛だけいただき、残りは土に還して街に戻った。
ギルドへ直接行って闇ギルドの二人の件で役員の手配をした後、晩飯と反省会を兼ねてジャック達は酒場へと向かった。
◆◆◆
「はむぅ、んぐ……ウマイです!!」
「初めて自分で稼いだ金だ。味わって食えよ」
と、俺は上司みたいなことを言ってみるがココアは俺の話などそっちのけで飯に食らいつく。
俺は白い男を無力化した後すぐにココアの元へ向かって彼女の戦いを観察していた訳だが、ココアの戦闘能力について分かった事は異様なまでに勘が良いということだ。
嘘を見抜き、相手の武器の危険を察知して対処する。
観察、分析、論理、経験などをすっ飛ばした本能のみで動く獣のような存在だが、彼女の勘の良さは身体能力に次ぐ最大の長所。
同時に短所でもあるのが勘の良さだ。
実際今回もその勘の良さが戦闘開始の引き金になった訳だが、相手の実力がまだ対応できるレベルだから助かったものの、もし手も足も出ないような相手なら今頃飯にありついていないだろう。
冒険者の世界で生き残るのには腕っぷしもそうだが賢さも必要だ。
冒険者の主な死亡理由は環境、魔物、闇ギルドの三つ。
当然それぞれに一定以上の強さは必要だが、危険なアネクメネの環境において状況を把握する能力や魔物の習性や特徴を見定める能力は生き残るのに必要で、何より理性や感情のある人間が相手なら賢さは何より必要だ。
記憶のない状態で勘の良さと表裏のない感情で動くココアは何がどんな引き金となっているか分からない。
ココア取扱説明書があるなら喉から手が出るほど欲しいが、現状は俺が慎重に手綱を握っていくしかない。
となれば頼れる仲間がもう一人は必要だな。
脳筋じゃなくて理性的、理知的で大人の対応が出来るような人材で、もっというなら前衛か支援役。
今のパーティー構成は前衛のココアと後衛の俺な訳だが、攻撃と耐久性に振り切った前衛のココアを支えられる手数や速さのある臨機応変な前衛か全体的に援護に守れる魔導士のような支援的な後衛が欲しいところだ。
だが流石に『ラケルタ』ではスカウトも募集もできないので次の場所に移動しなくちゃならないな。
「んじゃ、明日にでも『ペガスス』に向かうか」
『ラケルタ』から南に行ったところにある『ペガスス』はヴェルト連合先進国の一つで、首都であるマルカブは芸術都市とも言われるほど美しい景観をしている。
白と青を基調した建造物や中央広場にある魔石で作られた天馬像の噴水。
富裕層が第二の屋敷を構えるときに選ばれるのが『ペガスス』という国だ。
そういう雰囲気のせいか、ギルドにいる冒険者も野蛮人は少ないから俺の求める人材がいる確率が高い。
まー勧誘に乗るかどうかは別の話だが。
「プハァ~美味しかったです!」
ココアの事もある。
できれば仲間になるのは面倒臭い事情を抱えていない奴がいいだけどな。
そんな希望を抱いて、翌日に俺とココアは『ペガスス』へと向かった――――。
ゴトンの体に打ちつける痛み。
左膝に始まり、右腕、腹部、頭と、まるで鉄の棒で殴られているかのような気分だ。
「痛ってぇ……何が……」
ゴトンはまだ痛みが残る頭を押さえて地面を見た。
そこには氷の塊がいくつか転がっていて。
「んだこりゃ。氷か?」
考えているうちにも左肩に痛みが走る。
だがようやくこの痛みの正体が理解できた。
この地面に転がっている氷がもの凄い勢いで飛んできている。
だが氷の塊なんかどこからとゴトンは頭を悩ませる。
可能性の一つとしては少女が魔導士である可能性だが、魔装を所持していないのでその線は薄い。
「もしや……」
ゴトンは確信した。これは雪玉だ。
「嬢ちゃんの体温と握力で水分を絞った超高圧の雪玉。それが音速並みの速さで飛んできてるのか」
体力が怪物のココアだから出来る即席の飛び道具。
普通の雪玉なら身体にぶつかると砕けて終わりだが、素手のココアがその馬鹿力で握ることで雪玉ではなく氷の塊と化している。
それに速度が加わることで鉄球のような威力を発揮している。
「考えたじゃねぇか嬢ちゃんよぉ!!」
立て続けに飛んでくる雪玉を、ゴトンは宝具で切り捨てる。
ガコンと氷を砕く音と感触が手に伝わり、改めて小女らしからぬ力に驚かされる。
豪速で飛んでくる雪玉もとい氷塊にようやく目が慣れてきたのか、ゴトンは余裕で氷を砕いていく。
あと少しで雪煙が晴れるというタイミング、今度は氷塊ではなく大木が雪煙から勢いよく飛来してきた。
「ドラァ!!」
おそらく近くの木を引っこ抜いて投げたであろうが、ゴトンは冷静にそれを切り捨てる。
小さな雪玉と違い、大木となると空気の流れが大きく変わるようで、雪の煙が大木の投擲で勢いよく晴れた。
だがそこにココアの姿は無くて。
「んなっ、どこに行きやがった……」
雪を掘った形跡はない。
だが移動した形跡もない。
となれば――――
「上かっ!」
ゴトンが上空を見上げた時、すでにココアは目前に迫っていた。
単純な跳躍からの落下、勢いに任せて両膝をゴトンに向ける。
まずいと思う余地すらない一瞬で、ゴトンは反射的にココアの膝蹴りを半身で躱す。
だが躱されたと認識した瞬間、ココアは畳んだ足を伸ばして雪に着地する。
積雪が宙に舞い上がり、衝撃がココアを起点に広がってゴトンを後退りさせる。
間髪入れず、大地を踏みしめたココアは距離の縮まったゴトンの両腕を掴んだ。
「やっと捕まえたです!」
ゴトンはココアの手を振り解こうとするが、倍近く太いゴトンの腕に骨が軋むような圧力が加わりなかなか解けない。
“嘘つきの戦斧”の能力が発揮できないのは10メートル圏外だけじゃない。
斧が持つ本来の間合い約4メートル圏内もまた、能力が使用できない範囲になる。
なぜなら、“嘘つきの戦斧”は斬撃の距離は変えられても向きや高さは変えられないからだ。
例えば、ゴトンが自分の肩の高さで“嘘つきの戦斧”を横薙ぎに振れば、10メートル圏内で現れる架空の剣は、ゴトンの肩の高さの横薙ぎで現れる。
斬撃が振り下ろしになることも、敵の膝の位置に斬撃が現れることもしない。
つまり、斧本来の間合いである4メートル圏内は能力を発動してもそれは本体と重なり意味を成さない。
それを狙ってるわけではないが、結果的にココアは最善の策を取った。
力の勝負となればココアに勝機がある。
「くっぁ、放しやがれ!」
「絶対に放さないです!」
ココアの手の大きさではゴトンの太腕を完全に掴む事はできない。
しかしココアのピンチ力がゴトンの腕に圧を与えて、潰される感触と鈍い痛みを与えていく。
ゴトンは“嘘つきの戦斧”を手放した。
刃のついた頭の方が重い戦斧は、その頭を雪に埋めてもなお、大きい刃の一部は雪からその姿を残している。
「ぐっおぁ!!」
ゴトンは痛みに耐えながココアの身体を持ち上げた。
その握力や腕力に反して、ココア自身は普通の少女並みの軽さだった。
今でも両腕が潰されるように痛いのに、持ち上げたココアはゴトンにとって羽毛のように軽くて。
ゴトンはわざと“嘘つきの戦斧”を手放した。
戦斧の重さの配分から落下時に雪が支えとなって刃の一部が残った状態で戦斧が雪に突き刺さる事は予測できていた。
あとは身体を持ち上げて雪から飛び出た刃に叩きつけるのみ。
ココアの方はそれに一切気が付いていない。
持ち上げられ、揺れるように足を運ぼうとココアは馬鹿の一つ覚えみたいに手に力を込める。
ナイフでは傷のつかないココアの身体だが、骨ごと断ち切れる“嘘つきの戦斧”とゴトンの腕力ならどうだろうか。
「ふごぁあああ!!」
「これで終いだッ!」
ゴトンがココアの身体を叩きつけようとした時、左肘が砕けるような激痛が走った。
ココアの握撃のようなジワジワと蝕むものじゃなく、鋭い刺激で電撃が走るような激痛。
痛みの起点から力と体温が抜けていく感触の原因は一目瞭然で。
「ぐっぁあ! クソが!!」
ゴトンは肘に突き刺さった黒い矢を抜いて怒鳴り声をあげる。
叫び声に驚いてココアは手を放してふわふわの雪に着地する。
ゴトンはココアではなく、矢を放った方へ注意を向けていた。
特徴的で印象に残っている黒い矢を放った張本人は誰だかわかる。
だが場所が分からない。
矢が飛んできた方向に目をやるが、そこに奴の姿はない。
四方に注意を巡らせるが、意外にもその男はあっさり見つかった。
矢が飛んできた方向から九十度ズレた所。
特に次に構える訳でもなく、男はただ呆然と立っていていた。
様子を見守るようにゆったりと構えている男を見て、ゴトンはハッとする。
今戦っているのは弓兵ではない、殺すチャンスを失ったばかりの敵がまだ立っている。
「ウガァあああああああ!!」
「ぁぶッ――――」
振り返ろうとした瞬間、肘の痛みなど感じなくなるほどの鈍痛が顔面に広がる。
砕けた頬の骨が外の筋肉に突き刺さり、脳が頭蓋の中で激しく揺れて、頸椎が無理矢理折れ曲がっていく。
最も警戒していたココアの拳打をもろに受けて、意識が震撼と同時に断絶された。
ゴトンの頭部が雪に埋まり、雪片に赤い流動体が染み込んでいく。
慌ててやって来た矢を放った本人――ジャックドー・シーカーはゴトンの安否を確認する。
「死んで……ないな。地面が積雪だったのが救いだな。うっわグロ……」
本来骨と筋肉の感触があるはずの頬が陥没していて指で触れた時の何とも言えぬ感触にジャックは顔をしかめる。
「いくらチャンスだったからって次からはもう少し手加減しような。おたくの怪力はマジで大型魔物級だから」
「うぅ、これでも我慢したです」
「だろうな。おたくが無防備な相手に本気で殴ったら多分顔がなくなってる。さて、仕事も終えたし一旦街に戻るか」
ジャックはゴトンが殺したグラウルスの入った袋から背毛だけいただき、残りは土に還して街に戻った。
ギルドへ直接行って闇ギルドの二人の件で役員の手配をした後、晩飯と反省会を兼ねてジャック達は酒場へと向かった。
◆◆◆
「はむぅ、んぐ……ウマイです!!」
「初めて自分で稼いだ金だ。味わって食えよ」
と、俺は上司みたいなことを言ってみるがココアは俺の話などそっちのけで飯に食らいつく。
俺は白い男を無力化した後すぐにココアの元へ向かって彼女の戦いを観察していた訳だが、ココアの戦闘能力について分かった事は異様なまでに勘が良いということだ。
嘘を見抜き、相手の武器の危険を察知して対処する。
観察、分析、論理、経験などをすっ飛ばした本能のみで動く獣のような存在だが、彼女の勘の良さは身体能力に次ぐ最大の長所。
同時に短所でもあるのが勘の良さだ。
実際今回もその勘の良さが戦闘開始の引き金になった訳だが、相手の実力がまだ対応できるレベルだから助かったものの、もし手も足も出ないような相手なら今頃飯にありついていないだろう。
冒険者の世界で生き残るのには腕っぷしもそうだが賢さも必要だ。
冒険者の主な死亡理由は環境、魔物、闇ギルドの三つ。
当然それぞれに一定以上の強さは必要だが、危険なアネクメネの環境において状況を把握する能力や魔物の習性や特徴を見定める能力は生き残るのに必要で、何より理性や感情のある人間が相手なら賢さは何より必要だ。
記憶のない状態で勘の良さと表裏のない感情で動くココアは何がどんな引き金となっているか分からない。
ココア取扱説明書があるなら喉から手が出るほど欲しいが、現状は俺が慎重に手綱を握っていくしかない。
となれば頼れる仲間がもう一人は必要だな。
脳筋じゃなくて理性的、理知的で大人の対応が出来るような人材で、もっというなら前衛か支援役。
今のパーティー構成は前衛のココアと後衛の俺な訳だが、攻撃と耐久性に振り切った前衛のココアを支えられる手数や速さのある臨機応変な前衛か全体的に援護に守れる魔導士のような支援的な後衛が欲しいところだ。
だが流石に『ラケルタ』ではスカウトも募集もできないので次の場所に移動しなくちゃならないな。
「んじゃ、明日にでも『ペガスス』に向かうか」
『ラケルタ』から南に行ったところにある『ペガスス』はヴェルト連合先進国の一つで、首都であるマルカブは芸術都市とも言われるほど美しい景観をしている。
白と青を基調した建造物や中央広場にある魔石で作られた天馬像の噴水。
富裕層が第二の屋敷を構えるときに選ばれるのが『ペガスス』という国だ。
そういう雰囲気のせいか、ギルドにいる冒険者も野蛮人は少ないから俺の求める人材がいる確率が高い。
まー勧誘に乗るかどうかは別の話だが。
「プハァ~美味しかったです!」
ココアの事もある。
できれば仲間になるのは面倒臭い事情を抱えていない奴がいいだけどな。
そんな希望を抱いて、翌日に俺とココアは『ペガスス』へと向かった――――。
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