太陽とひだまり

はるまき

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伊座敷家

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「裕太、私の番になったのだから、早速、私の家族に紹介するわ」

と急遽強引に連れ込まれたのは
東京の一等地に馬鹿でかい面積で
君臨している伊座敷家であった。

ーーーばん!!
ーーーーばばん!!!
ーーーーーばばばばばん!!!!

脳内BGMで音源が補完される。真壁さんに連れてってもらった先には、トンデモナイ豪邸が建っていた。

馬鹿でかい屋敷…そこらの金持ちの住宅なんて比較にならないくらいの…とんでもない豪邸…というより城といった方が正しく伝わるかもしれない。

(俺の番って貴族だったのか…?)
(俺の家なんて、普通のマンションの3LDKなのに…)
とてつもない格差に裕太はポカンとして驚いている。

「朱音さん。この馬鹿でかい豪邸が伊座敷家だよね?世界遺産とかじゃないよね?」
「…???………当たり前じゃない。私の家よ」
何いってんのよ。こいつ。と冷たい視線が降り注ぐ。

警備室付きの絢爛豪華な正門を潜り、屋敷の玄関を通ると、執事・メイドの一同がズラーっと並び、一斉に頭を下げた。
「「「お帰りなさいませ。お嬢様、裕太様」」」
「みんなただいま。こいつが私の番ね。以後よろしく」
「「「よろしくお願いします。裕太様」」」

使用人の一斉合唱に、裕太は気恥ずかしそうにしていた。

「そうだ。私、ちょっと着替えてくるから。真壁、あとはお願いね」
「畏まりました。お嬢様。裕太様、お部屋にご案内致します」

執事の真壁さんに連れられて、絢爛豪華な内装の伊座敷家を案内された。その後、俺の部屋という場所に連れられた。

「本日より、此方が裕太様のお部屋でございます」
「お時間整いましたら、お迎えに上がります」
「真壁さん、ありがとうございます」

執事の真壁さんは、深々と頭を下げて立ち去った。
(こ、、、ここ、これは一体!?)
(俺は夢でも見ているのか?)

裕太が連れてこられた部屋は、200平方メートル、およそ100畳ほどのだだっ広い部屋である。

内装は高級ホテルのスイートルームのまんまで、大きなソファとキングサイズのベットに煌びやかな装飾品が輝いていた。

「と、、とんでもない人の番なったんだな…俺…」

名前も知らなかった人の番になった。皆が騒ぎ立てるのを聞いて、ようやくあの日に名前を知った。

決して財産が目当てな訳じゃない。彼女が居れば本気で何も要らないと心の底から思っている。

「家に連れてこられたってことは…やっぱりこの後は………」

どんな風に彼女のご両親やご親族に挨拶をしたらいいのか。緊張から手汗がビッチョリとして、心臓がバクバクドキドキしている。

裕太が真剣な緊張した面持ちで、ソファーに腰掛けて今後の立ち振る舞いを悩んでいると、部屋のベルが鳴り響いた。

「はい」
「裕太様、お迎えに上がりました。お食事のご用意が出来ております」
「お願いします」




ーーーカツン
ーーーコツン

革靴が音を立てて、廊下を歩く音が響く。
先程から胸が苦しい。まるで結婚式の前のような緊張感である。
(しっかりしろ…如月 裕太……)
自分に自分で喝を入れて、緊張した面持ちのまま裕太は歩いていた。

「裕太様」
「はい」
ふと、ずっと、寡黙な人だと思っていた執事の真壁さんから声を掛けられた。

「お嬢様をよろしくお願い致します」
「は、はい。勿論です」
慌てて返事をすると、真壁さんは嬉そうに笑った。

「さぁ、着きましたよ」
厳格な大扉に3回真壁さんがノックをした。

「失礼致します」
ーーーギィイイ
と古臭い音を立てて、ゆっくりと扉が開いた。ーごくん。裕太は緊張のあまり生唾を飲み込んだ。

「裕太、こっちに座って」
ドレスで着飾った朱音が手招きをする。
朱色の豪華絢爛なドレスは朱音の瞳の色と相まって彼女の魅力を引き立てていた。

ハーフアップでセットされた彼女のヘアスタイルと、凛々しい立ち姿。
(うわ!!!俺の朱音さん!!!!とても綺麗だ)

と裕太が浮かれて立ち尽くしていると、その奥に座っていたスーツ姿の父親がゴホン。と咳払いをした。

「君が裕太くんかな?どうぞ、かけたまえ」
「し、失礼します」

就職の社長面接のような緊張感である。実際朱音の父親は社長だがーーー。

これまた高級ホテルの会食で使われていそうな白亜の長机の朱音と対面の席に裕太は座った。

朱音のお父さんが頷くと、執事達が一斉に給仕を始めた。

「君はワインは飲めるかい?」
「お父さん、彼、未成年よ」

「おや、それは済まないね。では代わりのものを」
執事さんがドリンクメニュー表を持ってきてくれた。
「じゃあ、葡萄ジュースで」
少しでもワインを飲んでいるような感覚に浸りたくて、これを選んだ。

「では、乾杯しようか」
「2人の番成立に乾杯」
「「「「乾杯」」」」

クイッとグラスを掲げるとそれが合図のように一斉に、飲み物を口に含んだ。

朱音さんのお父さんは、もの凄いイケメンでとてもアルファっぽい風格がある。

お母さんは女優顔負けのとてつもない美人さんで、外国の方のようだ。

それから、高校生くらいの弟さんと、中学生くらいの妹さんは、どちらも朱音さんに似ていて凛々しい顔立ちをしていた。

「裕太くん。君はもう我が家の一員だ。卒業後には盛大な結婚式を開こう。朱音の番として、我が社が主催のパーティにも顔を出すといい」
「はっ、ハイ!ありがとうございます」
裕太は慣れないテーブルマナーに戸惑いながらも、今まで食べた事がないような絶品なフルコースに舌鼓を打っていた。

「裕太さん。朱音をお願いします」
外国の方らしいお母さまの流暢な日本語に、少し驚きつつも、裕太は首をぶんぶんと縦に振った。

暫く談笑を楽しんだのち、ふと、裕太が悩んだ顔を浮かべながら。固まっていた。

「あ、あの…私は…こんな豪邸は始めて、こんなに素晴らしい料理を食べるのも初めてで………実家も普通の家庭だし、何の取り柄もないし、本当にこんな俺が朱音さんの番で………いいん…でしょうか………」

意を決したように。震えた声で彼が告げる。

「ちょっと、裕太。アンタ私から離れる気じゃないでしょうね?」
朱音は何をいってるのか分からないといった風に怒っている。

「ーーーー裕太くん」
「はい」
裕太はびくびくして怯えていた。

「君は朱音が選んだ子だから。安心して胸を張っていいんだよ。改めて、ようこそ伊座敷家へ」
少し怖い見た目のお父様の事を警戒していたけど、その実中身はとても穏やかで優しくて温かい人だった。

和やかな雰囲気のまま、初顔合わせの食事会が終わった。

そして、そのまま裕太は、朱音の部屋に連れ込まれたーー。
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