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Episode.03
ひとりでで出かけてはいけなかったようです
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裕二がマンションに帰ったとき、リビングには誰もおらず、静まり返ったままだった。ダイニングテーブルにも、何もない。出かける時に置いた裕二のメモ書きと、ペットボトルが見当たらないので、少なくとも1度は、鷹也はリビングに降りてきたのだろう。
昼食を取るか何かをして、自室に戻ったのかと思い、鷹也の部屋をノックする。
返事はない。
「起きてるか?」
声をかけ、ノブに手をのばす。
鍵は開いており、部屋にも、誰もいない。
ベッドも掛け布団が整えられており、起きてから時間が経っているのは想像できた。
階段を降りて、玄関に戻り、シューズクローゼットを見回す。やはり、鷹也の靴がない。
確認のため、スマートフォンを開く。が、鷹也からのメッセージは届いていなかった。続いて、音声通話を試みる。が、応答がないという、音声メッセージが流れるだけだった。
裕二は急いでマンションの1階へ下り、正面玄関ホールのコンシェルジュに尋ねる。すると、そのうちの1人が、鷹也を覚えていた。
12時前に、財布とスマートフォンを手に持って、出かける姿を見かけた、という。
ロビーの大きな飾り時計の針は、14時半すぎを指していた。
「服装は、わかりますか?」
「グレーのTシャツとデニムでした」
その場で、裕二はスマートフォンのメッセージアプリを開く。馬術部グループと、翔と瞬の兄弟へ、メッセージを投げた。
昼前に出かけた鷹也が戻らない、と。
美耶からは獣医学部棟、澄人は総合病院の診察室の前、晃は総合病院の病室、信彦は厩舎とその周辺、皆それぞれの場所から、鷹也は来ていない、との返信が入った。少し遅れて、翔と瞬からも、総合図書館にもいない、と。
裕二は、マンション付近のコンビニとファストフード店を中心に探す、と書き込む。それから、すぐに正面玄関ホールを出た。
裕二はまずは、マンションに最も近いコンビニへと向かった。が、鷹也の姿はもちろん、手掛かりと呼べそうなものすらない。
2件目のコンビニを出て、交差点を封鎖する警察車両が目に入った場所で、裕二のスマートフォンが鳴った。
0155で始まる、登録していない固定電話の番号。
逡巡したが、とりあえず、出てみることにした。
『もしもし、初めまして』
年配の、品の良い女性の声。
『こちら、高遠裕二さんの番号でよろしいですか?
私、三ツ橋鷹也の祖母、三ツ橋カズコと申します』
「あっ、はい、高遠裕二です」
思いがけない相手に、喰い気味で答える。
『よかった
あの、鷹也とルームシェアしていてくださる、高遠さんですよね』
「はい」
『ついさっき、そちらの警察から電話があって、
鷹也が事故に遭って、病院に運ばれたって
私の夫・鷹也の祖父と、これから急いでそちらに向かいますが、なにぶん、北海道なので』
「北海道?」
『そう、飛行機で行くから、着くのは今夜遅くになると思うの、できるだけ早く行くけど
でね、あの、お忙しいかもしれないけど
鷹也にね、ついていて、くれないかしら
あ、ごめんなさい、図々しいお願いで
無理にとはいわないけど、親しい人が近くにいると、全然違うから』
「はい、こちらからもお願いします」
『あ、そ、そう
よかった、よかったわ、お願いね
あ、運ばれたのは、鷹也の通う大学の病院で
あ、あれ? あ、もしかして、血の繋がった家族じゃないとダメなのかしら
あぁ、でも、あ、どうしよう
あ、そう、そう、あそこ、主治医の先生がいらっしゃるから』
落ち着いているようで、動揺が隠せない鷹也の祖母の様子に、かえって裕二の方が冷静になる。
「何ができるか分かりませんが、病院には向かいますから、ご安心ください」
『あぁ、ありがとう、ありがとうね
永浜先生、第7消化器科の永浜義登先生が、鷹也の先生なの』
第7消化器科、というのは、特に男性オメガが、イジメなどの諸事情で、バース性科に通院していることを隠したい時に使用する診療科目。裕二はこの名称を、つい最近になって知ったばかりだった。
「第7消化器科の、永浜義登准教授ですね」
『そうそう、永浜先生は学校でも偉い先生でね
その先生なら、いろいろ、こちらの事情を知っておられて、理解していてくださるの
私に、三ツ橋の家族に頼まれた、って伝えてくれれば
ダメなら、その時この番号に電話してくれれば
なんとかしてくださるだろうから』
「はい、わかりました」
『ごめんなさいね
鷹也を居候させてくれただけでも、ありがたいのに
こんな、ご迷惑をおかけして
ほんと、ごめんなさいね』
「いえ、お気になさらずに」
『あ、私たち、これから空港に向かうから
ほんとうに、ほんとうに、ごめんなさいね
よろしくお願いしますね』
通話が切れてすぐ、裕二はアプリを立ち上げ、鷹也の所在を尋ねたメンバーに共通のメッセージを送信した。
『鷹也が見つかった、詳細はあとで』
裕二は急いでマンションに戻り、車で大学付属総合病院へ向かった。
理浜大学付属総合病院の外来受付は、平日なら15時に終了する。ギリギリで診察申し込みを済ませた通院患者とその家族で混み合う受付ロビーの横を抜け、裕二は救急病棟受付の担当者へ声をかけた。
「事故で運ばれた三ツ橋鷹也の同居人ですが」
受付の1人が、どこかへ電話をかける。
すると、あっさりと、来訪者名を記入する用紙が差し出され、受付番号札が手渡された。
教えられて向かった病室はICUではなく、個室。それだけで、裕二は胸をなでおろす。命に関わるような重症ではない、ということだからだ。
裕二が個室入口の患者名を確かめている、ちょうどその時、中から永浜准教授が現れた。
「ちょっと来い」
「え? あの」
「三ツ橋鷹也は今、麻酔で眠っている」
永浜准教授は、家族らに治療内容を説明する為に使う談話室に、裕二を連れて入った。
「准教授は、バース性科、ですよね?」
「ああ、だが、三ツ橋鷹也の主治医なもんで、彼に関する医療情報は全て上がってくる」
「関係のない、交通事故でも?」
「事故でもなんでも、治療は治療だ」
それから、永浜准教授は大きなため息をついた。
「お前、あのマンションで、三ツ橋鷹也と暮らしてるんだって?」
「この大学に通うなら使え、と兄に言われたので」
「金持ちは違うねぇ」
永浜准教授はそう言って頭を掻いた。
永浜准教授は、裕二と2人きりの時、他人がいない私的な会話の時は、砕けた口調になる。公言はしていないが、裕二の兄嫁が准教授の実妹であり、2人は義兄弟の間柄になるからだ。
そして、裕二たちが暮らしているマンションは、裕二の兄の義両親、つまり、永浜准教授の両親のために用意されたもの。だが、准教授の両親は、タワーマンション最上階メゾネットならではの、広すぎる間取りと手すりのない屋内階段を嫌がって、入居しなかった。実はその後、永浜准教授の兄、裕二のもう1人の義兄である理浜大学医学部永浜真斗部長にも、入居を持ちかけたのだが、こちらにも断られている。ちなみに、当の永浜義登准教授は、メゾネットではないがそれなりに広い、同マンションの上階の部屋で暮らしている。
「それより、三ツ橋鷹也の容態は」
「君は家族じゃない、単なるルームメイトだろう
しかも、あの広い部屋じゃ、シェアハウスの同居人相当か
医者としては、患者の個人情報を与えてよい対象ではないな」
「ご家族からは、許可をいただいています」
「根拠となる書類は?」
「……電話での、口約束です」
永浜准教授は、再度、わざとらしい、大きなため息をついた。
「超上位アルファの君が、そこまで、彼に執着するとはね」
「執着じゃありません、同居人として」
「同居させた時点で、執着だろう
番でもないのに」
永浜准教授にそこまで言われ、裕二は反論できず、押し黙ってしまった。
その様子を見て、准教授が尋ねる。
「三ツ橋鷹也がオメガだと
いつから、気づいていた?」
「…… いつから …… 」
そう言われ、やっと、いつの間にか、裕二は、鷹也を自分のオメガとして扱っていたことに、気がついた。
思い起こすと、裕二が鷹也を自分のオメガだと明確に意識したのは、おそらく、あの、大学食堂で翔と瞬の兄弟に威嚇を放った時だ。が、しかし、その前からなんとなく、鷹也を自分のものにしなければ、と思っていたのも確かだった。特に強く感じたのは、鷹也の借りていたアパートが火事になり、寝る場所すらないと言った時、澄人が鷹也を自分のアパートへ誘った時だ。ランクなど関係ない、他のアルファに自分の鷹也を渡すものか、と半ば強引に、同居させたのだ。
では、いつ、彼がオメガだと気がついたのか。
それは、たぶん、きっと、最初に出会った時、大学の正門で鷹也を助けた時。
「…… きっと、ジャスミンの、ジャスミン茶の香りを意識した時だと、思います」
「ジャスミン茶?」
永浜准教授は、額にシワを寄せて黙ってしまった。それから、モニターの方向を変え、裕二に見えないようにして、鷹也の電子カルテを確認する。
「その香りに気づいたのは、いつ?」
険しい表情のまま、永浜准教授が言った。
「最初に会った時、です
あの時は、持っていたペットボトルのジャスミン茶の香りかと思ったけれど、でも、その後も、鷹也と会う時は、いつもジャスミン茶の香りがしてた
俺か彼のどちらかが飲んでた、ってのもあったけど
そうだとしても、強い香りで」
「ジャスミン茶、ねぇ」
また、しばらく、永浜准教授は何かを考えるように、黙り込んだ。それからやっと、口を開く。
「三ツ橋鷹也の負傷は
左上腕の斜骨折、頭部強打による脳震盪
CTの結果、他に外傷、出血当の異常なし
……麻酔が切れて目覚めるまで、彼の病室で待っていても構わない」
裕二はそのまま、返事をする間もなく、談話室を追い出された。
昼食を取るか何かをして、自室に戻ったのかと思い、鷹也の部屋をノックする。
返事はない。
「起きてるか?」
声をかけ、ノブに手をのばす。
鍵は開いており、部屋にも、誰もいない。
ベッドも掛け布団が整えられており、起きてから時間が経っているのは想像できた。
階段を降りて、玄関に戻り、シューズクローゼットを見回す。やはり、鷹也の靴がない。
確認のため、スマートフォンを開く。が、鷹也からのメッセージは届いていなかった。続いて、音声通話を試みる。が、応答がないという、音声メッセージが流れるだけだった。
裕二は急いでマンションの1階へ下り、正面玄関ホールのコンシェルジュに尋ねる。すると、そのうちの1人が、鷹也を覚えていた。
12時前に、財布とスマートフォンを手に持って、出かける姿を見かけた、という。
ロビーの大きな飾り時計の針は、14時半すぎを指していた。
「服装は、わかりますか?」
「グレーのTシャツとデニムでした」
その場で、裕二はスマートフォンのメッセージアプリを開く。馬術部グループと、翔と瞬の兄弟へ、メッセージを投げた。
昼前に出かけた鷹也が戻らない、と。
美耶からは獣医学部棟、澄人は総合病院の診察室の前、晃は総合病院の病室、信彦は厩舎とその周辺、皆それぞれの場所から、鷹也は来ていない、との返信が入った。少し遅れて、翔と瞬からも、総合図書館にもいない、と。
裕二は、マンション付近のコンビニとファストフード店を中心に探す、と書き込む。それから、すぐに正面玄関ホールを出た。
裕二はまずは、マンションに最も近いコンビニへと向かった。が、鷹也の姿はもちろん、手掛かりと呼べそうなものすらない。
2件目のコンビニを出て、交差点を封鎖する警察車両が目に入った場所で、裕二のスマートフォンが鳴った。
0155で始まる、登録していない固定電話の番号。
逡巡したが、とりあえず、出てみることにした。
『もしもし、初めまして』
年配の、品の良い女性の声。
『こちら、高遠裕二さんの番号でよろしいですか?
私、三ツ橋鷹也の祖母、三ツ橋カズコと申します』
「あっ、はい、高遠裕二です」
思いがけない相手に、喰い気味で答える。
『よかった
あの、鷹也とルームシェアしていてくださる、高遠さんですよね』
「はい」
『ついさっき、そちらの警察から電話があって、
鷹也が事故に遭って、病院に運ばれたって
私の夫・鷹也の祖父と、これから急いでそちらに向かいますが、なにぶん、北海道なので』
「北海道?」
『そう、飛行機で行くから、着くのは今夜遅くになると思うの、できるだけ早く行くけど
でね、あの、お忙しいかもしれないけど
鷹也にね、ついていて、くれないかしら
あ、ごめんなさい、図々しいお願いで
無理にとはいわないけど、親しい人が近くにいると、全然違うから』
「はい、こちらからもお願いします」
『あ、そ、そう
よかった、よかったわ、お願いね
あ、運ばれたのは、鷹也の通う大学の病院で
あ、あれ? あ、もしかして、血の繋がった家族じゃないとダメなのかしら
あぁ、でも、あ、どうしよう
あ、そう、そう、あそこ、主治医の先生がいらっしゃるから』
落ち着いているようで、動揺が隠せない鷹也の祖母の様子に、かえって裕二の方が冷静になる。
「何ができるか分かりませんが、病院には向かいますから、ご安心ください」
『あぁ、ありがとう、ありがとうね
永浜先生、第7消化器科の永浜義登先生が、鷹也の先生なの』
第7消化器科、というのは、特に男性オメガが、イジメなどの諸事情で、バース性科に通院していることを隠したい時に使用する診療科目。裕二はこの名称を、つい最近になって知ったばかりだった。
「第7消化器科の、永浜義登准教授ですね」
『そうそう、永浜先生は学校でも偉い先生でね
その先生なら、いろいろ、こちらの事情を知っておられて、理解していてくださるの
私に、三ツ橋の家族に頼まれた、って伝えてくれれば
ダメなら、その時この番号に電話してくれれば
なんとかしてくださるだろうから』
「はい、わかりました」
『ごめんなさいね
鷹也を居候させてくれただけでも、ありがたいのに
こんな、ご迷惑をおかけして
ほんと、ごめんなさいね』
「いえ、お気になさらずに」
『あ、私たち、これから空港に向かうから
ほんとうに、ほんとうに、ごめんなさいね
よろしくお願いしますね』
通話が切れてすぐ、裕二はアプリを立ち上げ、鷹也の所在を尋ねたメンバーに共通のメッセージを送信した。
『鷹也が見つかった、詳細はあとで』
裕二は急いでマンションに戻り、車で大学付属総合病院へ向かった。
理浜大学付属総合病院の外来受付は、平日なら15時に終了する。ギリギリで診察申し込みを済ませた通院患者とその家族で混み合う受付ロビーの横を抜け、裕二は救急病棟受付の担当者へ声をかけた。
「事故で運ばれた三ツ橋鷹也の同居人ですが」
受付の1人が、どこかへ電話をかける。
すると、あっさりと、来訪者名を記入する用紙が差し出され、受付番号札が手渡された。
教えられて向かった病室はICUではなく、個室。それだけで、裕二は胸をなでおろす。命に関わるような重症ではない、ということだからだ。
裕二が個室入口の患者名を確かめている、ちょうどその時、中から永浜准教授が現れた。
「ちょっと来い」
「え? あの」
「三ツ橋鷹也は今、麻酔で眠っている」
永浜准教授は、家族らに治療内容を説明する為に使う談話室に、裕二を連れて入った。
「准教授は、バース性科、ですよね?」
「ああ、だが、三ツ橋鷹也の主治医なもんで、彼に関する医療情報は全て上がってくる」
「関係のない、交通事故でも?」
「事故でもなんでも、治療は治療だ」
それから、永浜准教授は大きなため息をついた。
「お前、あのマンションで、三ツ橋鷹也と暮らしてるんだって?」
「この大学に通うなら使え、と兄に言われたので」
「金持ちは違うねぇ」
永浜准教授はそう言って頭を掻いた。
永浜准教授は、裕二と2人きりの時、他人がいない私的な会話の時は、砕けた口調になる。公言はしていないが、裕二の兄嫁が准教授の実妹であり、2人は義兄弟の間柄になるからだ。
そして、裕二たちが暮らしているマンションは、裕二の兄の義両親、つまり、永浜准教授の両親のために用意されたもの。だが、准教授の両親は、タワーマンション最上階メゾネットならではの、広すぎる間取りと手すりのない屋内階段を嫌がって、入居しなかった。実はその後、永浜准教授の兄、裕二のもう1人の義兄である理浜大学医学部永浜真斗部長にも、入居を持ちかけたのだが、こちらにも断られている。ちなみに、当の永浜義登准教授は、メゾネットではないがそれなりに広い、同マンションの上階の部屋で暮らしている。
「それより、三ツ橋鷹也の容態は」
「君は家族じゃない、単なるルームメイトだろう
しかも、あの広い部屋じゃ、シェアハウスの同居人相当か
医者としては、患者の個人情報を与えてよい対象ではないな」
「ご家族からは、許可をいただいています」
「根拠となる書類は?」
「……電話での、口約束です」
永浜准教授は、再度、わざとらしい、大きなため息をついた。
「超上位アルファの君が、そこまで、彼に執着するとはね」
「執着じゃありません、同居人として」
「同居させた時点で、執着だろう
番でもないのに」
永浜准教授にそこまで言われ、裕二は反論できず、押し黙ってしまった。
その様子を見て、准教授が尋ねる。
「三ツ橋鷹也がオメガだと
いつから、気づいていた?」
「…… いつから …… 」
そう言われ、やっと、いつの間にか、裕二は、鷹也を自分のオメガとして扱っていたことに、気がついた。
思い起こすと、裕二が鷹也を自分のオメガだと明確に意識したのは、おそらく、あの、大学食堂で翔と瞬の兄弟に威嚇を放った時だ。が、しかし、その前からなんとなく、鷹也を自分のものにしなければ、と思っていたのも確かだった。特に強く感じたのは、鷹也の借りていたアパートが火事になり、寝る場所すらないと言った時、澄人が鷹也を自分のアパートへ誘った時だ。ランクなど関係ない、他のアルファに自分の鷹也を渡すものか、と半ば強引に、同居させたのだ。
では、いつ、彼がオメガだと気がついたのか。
それは、たぶん、きっと、最初に出会った時、大学の正門で鷹也を助けた時。
「…… きっと、ジャスミンの、ジャスミン茶の香りを意識した時だと、思います」
「ジャスミン茶?」
永浜准教授は、額にシワを寄せて黙ってしまった。それから、モニターの方向を変え、裕二に見えないようにして、鷹也の電子カルテを確認する。
「その香りに気づいたのは、いつ?」
険しい表情のまま、永浜准教授が言った。
「最初に会った時、です
あの時は、持っていたペットボトルのジャスミン茶の香りかと思ったけれど、でも、その後も、鷹也と会う時は、いつもジャスミン茶の香りがしてた
俺か彼のどちらかが飲んでた、ってのもあったけど
そうだとしても、強い香りで」
「ジャスミン茶、ねぇ」
また、しばらく、永浜准教授は何かを考えるように、黙り込んだ。それからやっと、口を開く。
「三ツ橋鷹也の負傷は
左上腕の斜骨折、頭部強打による脳震盪
CTの結果、他に外傷、出血当の異常なし
……麻酔が切れて目覚めるまで、彼の病室で待っていても構わない」
裕二はそのまま、返事をする間もなく、談話室を追い出された。
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