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Episode.05
ライバル出現、なのでしょうか?
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獣医学部の実習後、鷹也は馬術部の厩舎まで、1人でやってきた。午後の実習が早めの終わった裕二から、先に馬場で練習をしている、との連絡があったからだ。
その、厩舎の手前で、見慣れない2人組が立ち話をしている。日によく焼けた体格の良い大柄な男性と、小柄で可愛らしい、高校生のような男性、しかも、小柄な男性は、目立つオレンジ色のチョーカーをしている。
2人、特にチョーカーの男性が、鷹也を品定めするように、不躾に凝視してきた。
「……
ベータ然として近づいて、実はオメガだったって
反則だよね」
鷹也を見上げて小首をかしげ、右手人差し指を頬に添え、甘えたたような、成人男性としては高めの声で話しかけた。
彼への返答に困る鷹也を見下ろすようにして、もう1人の男性が、嬉しそうに話しかけた。
「ここでは、はじめまして、になりますね
一応、俺らも馬術部部員なんですよ」
大柄の男性は農学部森林学科4年の降矢恵介、小柄な男性は歯学部4年の野田昌将、と名乗った。2人とも講義や実習が忙しく、部活はもちろん、新入部員歓迎会にも、参加できなかった、という。
雰囲気から察するに、2人は裕二のパートナーである鷹也の品定めに来たらしい。
新興巨大企業の若きCEOの弟、最上位ランクA++のアルファである高遠裕二。なんとしても、彼と親密になりたい女性とオメガは、大学内外にあふれている。だが、裕二は高校生時代から、事ある毎に、女性もオメガも嫌いだと公言していた。彼は、女性の誘惑やハニートラップはもちろん、上位ランクゆえに、発情期のオメガのフェロモンに反応することすらなかったので、皆、その言葉を信じていた。
そんな裕二にパートナーができたことは、夏前から大きな話題になっていた。そして、放火事件や大学食堂での騒ぎもあり、パートナーの鷹也の姿は、SNSなどで拡散されている。裕二を狙っていた者たちは、皆、鷹也を知っている状態だ。そして、鷹也の、ありふれた、美形とも可愛いとも言い難い、小綺麗な理系男子といった風貌と、チョーカーをしていないその姿に、容貌に自信を持つ女性とオメガたちは、落胆させられていた。
鷹也の容姿が広まった当初、『ベータ男性だった』と噂されていた裕二のパートナーが、今頃になって、1週間ほど大学を休み、首元を隠す服を着て登校してきた。美耶のように、その中を直接見せてもらわなくても、2人に注目していた者たちには、その意味が簡単に推察できた。そして、その日の午後にはもう、尾ヒレのついた噂が、大学中に伝わっていた。
「結局、
アルファなら、オメガを選ぶ、ってことだよね
だったらそれは、僕でもいいんじゃない?
Amの、高位ランクオメガなんだから」
いたずらっぽく、昌将が言った。事情と鷹也のランクを知らないから、というのもあるだろう。
「俺の事、覚えていない?」
恵介が、昌将の言葉を遮って、鷹也に話しかける。だが、日焼けしたこの男性と、どこで会ったのか、そもそも、会ったことがあるのかさえ、鷹也は全く思い出せなかった。鷹也は返事に詰まり、困惑した表情を見せる。
「そうやって、アルファを誘惑するんだ」
かわいい仕草と表情で、野田昌将が、鷹也を責める。
「そんな」
「でも、実際、高遠サンをはじめ、たくさんの高ランクアルファを、誘惑してるよね」
「誘惑、って」
昌将の言葉に、鷹也が青ざめる。おそらく、大山翔と瞬の兄弟を指しているのだろう。
昌将に引く鷹也に、恵介が近づき、その手を取った。恵介は、昌将の存在など、全く目に入っていない。
「あの時は、俺に会いに来てくれたんだよね
だから助けたのに」
そう言われても、思い出せない上に、力負けして、鷹也は恵介の手を引き離すことができない。
困り果てているところへ、信彦と美耶がやってきた。
「珍しい連中がいるなぁ」
陽気な信彦の声に驚いたように、サッ と恵介が手を離す。昌将も、何事もなかったかのように、鷹也に背を向け、信彦に笑いかけた。
「副部長、おひさしぶりですぅー」
「おひさしぶりです」
2人の挨拶に、信彦の横で、初めて会った美耶が、首をかしげる。
「あぁ
この2人は、幽霊部員サマ」
信彦の紹介で、恵介と昌将が、美耶に笑いかける。
「農学部森林学科4年の降矢恵介です
就活も終わったし、卒論の目処も立ったんで、ひさしぶりに様子を見に来ました」
「歯学部4年の野田昌将でーす
ケースケのおまけで来ました」
美耶も、凸凹コンビに引き気味になる。すると、そこへ、澄人と晃がやってきた。
澄人も、初対面の2人に警戒したので、晃が間に入って紹介をする。
彼ら様子を眺めていた美耶が、その後ろに立つ鷹也の顔色が悪いことに、気づいた。
「三っちゃん、大丈夫?」
美耶、信彦、澄人、晃の4人が、鷹也を心配して覗き込む。
「体調悪いなら、タカちゃんに来てもらうか」
信彦がそう言ってスマートフォンを取り出した時、ようやく、裕二が馬を引き、厩舎に現れた。
皆が鷹也の周囲に集まっている様子が気になり、近づきかけた裕二の腕に、横から昌将がしがみつく。
「裕二サンひさしぶりー」
「ああ、ひさしぶり」
裕二は、わざと事務的に答える。それから、馬を戻すから、とその手を振りほどいて離れた。
馬の手綱を厩務員に渡して戻ってきた裕二に、鷹也がタオルを渡そうとする。それを押しのけ、昌将が自分のタオルを手渡した。
弾みで落とした鷹也のタオルを恵介が拾い上げ、自分の首にかける。
「…… ごめん、気分が …」
声をあげたのは澄人だった。昌将のオメガフェロモンに当てられたのだろう。伏せた顔が耳まで紅潮し、息が荒くなっている。そのことに気づいた晃が、慌てて彼を抱きかかえた。
「悪い、俺ら抜けるから
……
誘惑も痴話喧嘩も、ヨソでやってくれ」
やっと立っている澄人を支える晃も、頬が少し、赤くなりかけている。ベータの美耶と信彦は何も感じてはいなかったが、すぐに状況を理解した。
「いいから、早く帰れ」
裕二が、鷹也の鞄から取り出した未開封のジャスミン茶のペットボトルを、1本づつ澄人と晃に渡し、信彦に目配せをする。信彦と美耶が、澄人を抱える晃を両側から守るように支え、歩き出した。遠巻きに、その様子を見ていた厩務員の何人かが、手助けをする。
全員を見送ってから、裕二が鷹也の肩に手を回した。
「俺たちも、帰ろう」
昌将と恵介を無視する裕二の腕に、もう一度、昌将が抱きついた。
「ねぇ、裕二サン
せっかくだから、このあとゆっくりして行かない?
僕はお茶でも食事でも、構わないよ」
「俺も、三ツ橋くんとゆっくり話がしたいです」
澄人と晃を気遣う素振りも見せない昌将と恵介の態度に、苛立った裕二が、威嚇を放ちそうになる。それを、鷹也が横から抱きついて止めた。
「だ、ダメです 裕二さん」
震える鷹也の姿を見て、裕二は冷静になろうと、深呼吸をする。それから、自分の肩にかけられたタオルを昌将に返し、もう1度、彼の手を振りほどいた。
「鷹也の調子が悪い
今日は帰らせてもらう」
裕二は鷹也を軽々と抱き上げ、2人を無視して、学生用駐車場へ向かった。
助手席に鷹也を降ろして、裕二は運転席に座る。それから、シートベルトをかけながら、鷹也を見る。
視線がからまり、そのまま、覆いかぶさるように、唇を重ね、舌をからめた。
深生が遠くなるくらい長いキスのあと、裕二が鷹也を抱きしめた。
「アルファ臭い」
そうつぶやいて、裕二は大きくため息をつき、髪を掻き上げる。それからまた、鷹也を抱きしめた。
「……おまえのせいじゃないのはわかっている
でも、他のアルファの移り香りは、腹が立つ」
「ボクも、他のオメガと親しげにされると
悲しいです」
裕二は、やっと笑顔を見せ、もう1度、鷹也と唇を重ねた。
その、厩舎の手前で、見慣れない2人組が立ち話をしている。日によく焼けた体格の良い大柄な男性と、小柄で可愛らしい、高校生のような男性、しかも、小柄な男性は、目立つオレンジ色のチョーカーをしている。
2人、特にチョーカーの男性が、鷹也を品定めするように、不躾に凝視してきた。
「……
ベータ然として近づいて、実はオメガだったって
反則だよね」
鷹也を見上げて小首をかしげ、右手人差し指を頬に添え、甘えたたような、成人男性としては高めの声で話しかけた。
彼への返答に困る鷹也を見下ろすようにして、もう1人の男性が、嬉しそうに話しかけた。
「ここでは、はじめまして、になりますね
一応、俺らも馬術部部員なんですよ」
大柄の男性は農学部森林学科4年の降矢恵介、小柄な男性は歯学部4年の野田昌将、と名乗った。2人とも講義や実習が忙しく、部活はもちろん、新入部員歓迎会にも、参加できなかった、という。
雰囲気から察するに、2人は裕二のパートナーである鷹也の品定めに来たらしい。
新興巨大企業の若きCEOの弟、最上位ランクA++のアルファである高遠裕二。なんとしても、彼と親密になりたい女性とオメガは、大学内外にあふれている。だが、裕二は高校生時代から、事ある毎に、女性もオメガも嫌いだと公言していた。彼は、女性の誘惑やハニートラップはもちろん、上位ランクゆえに、発情期のオメガのフェロモンに反応することすらなかったので、皆、その言葉を信じていた。
そんな裕二にパートナーができたことは、夏前から大きな話題になっていた。そして、放火事件や大学食堂での騒ぎもあり、パートナーの鷹也の姿は、SNSなどで拡散されている。裕二を狙っていた者たちは、皆、鷹也を知っている状態だ。そして、鷹也の、ありふれた、美形とも可愛いとも言い難い、小綺麗な理系男子といった風貌と、チョーカーをしていないその姿に、容貌に自信を持つ女性とオメガたちは、落胆させられていた。
鷹也の容姿が広まった当初、『ベータ男性だった』と噂されていた裕二のパートナーが、今頃になって、1週間ほど大学を休み、首元を隠す服を着て登校してきた。美耶のように、その中を直接見せてもらわなくても、2人に注目していた者たちには、その意味が簡単に推察できた。そして、その日の午後にはもう、尾ヒレのついた噂が、大学中に伝わっていた。
「結局、
アルファなら、オメガを選ぶ、ってことだよね
だったらそれは、僕でもいいんじゃない?
Amの、高位ランクオメガなんだから」
いたずらっぽく、昌将が言った。事情と鷹也のランクを知らないから、というのもあるだろう。
「俺の事、覚えていない?」
恵介が、昌将の言葉を遮って、鷹也に話しかける。だが、日焼けしたこの男性と、どこで会ったのか、そもそも、会ったことがあるのかさえ、鷹也は全く思い出せなかった。鷹也は返事に詰まり、困惑した表情を見せる。
「そうやって、アルファを誘惑するんだ」
かわいい仕草と表情で、野田昌将が、鷹也を責める。
「そんな」
「でも、実際、高遠サンをはじめ、たくさんの高ランクアルファを、誘惑してるよね」
「誘惑、って」
昌将の言葉に、鷹也が青ざめる。おそらく、大山翔と瞬の兄弟を指しているのだろう。
昌将に引く鷹也に、恵介が近づき、その手を取った。恵介は、昌将の存在など、全く目に入っていない。
「あの時は、俺に会いに来てくれたんだよね
だから助けたのに」
そう言われても、思い出せない上に、力負けして、鷹也は恵介の手を引き離すことができない。
困り果てているところへ、信彦と美耶がやってきた。
「珍しい連中がいるなぁ」
陽気な信彦の声に驚いたように、サッ と恵介が手を離す。昌将も、何事もなかったかのように、鷹也に背を向け、信彦に笑いかけた。
「副部長、おひさしぶりですぅー」
「おひさしぶりです」
2人の挨拶に、信彦の横で、初めて会った美耶が、首をかしげる。
「あぁ
この2人は、幽霊部員サマ」
信彦の紹介で、恵介と昌将が、美耶に笑いかける。
「農学部森林学科4年の降矢恵介です
就活も終わったし、卒論の目処も立ったんで、ひさしぶりに様子を見に来ました」
「歯学部4年の野田昌将でーす
ケースケのおまけで来ました」
美耶も、凸凹コンビに引き気味になる。すると、そこへ、澄人と晃がやってきた。
澄人も、初対面の2人に警戒したので、晃が間に入って紹介をする。
彼ら様子を眺めていた美耶が、その後ろに立つ鷹也の顔色が悪いことに、気づいた。
「三っちゃん、大丈夫?」
美耶、信彦、澄人、晃の4人が、鷹也を心配して覗き込む。
「体調悪いなら、タカちゃんに来てもらうか」
信彦がそう言ってスマートフォンを取り出した時、ようやく、裕二が馬を引き、厩舎に現れた。
皆が鷹也の周囲に集まっている様子が気になり、近づきかけた裕二の腕に、横から昌将がしがみつく。
「裕二サンひさしぶりー」
「ああ、ひさしぶり」
裕二は、わざと事務的に答える。それから、馬を戻すから、とその手を振りほどいて離れた。
馬の手綱を厩務員に渡して戻ってきた裕二に、鷹也がタオルを渡そうとする。それを押しのけ、昌将が自分のタオルを手渡した。
弾みで落とした鷹也のタオルを恵介が拾い上げ、自分の首にかける。
「…… ごめん、気分が …」
声をあげたのは澄人だった。昌将のオメガフェロモンに当てられたのだろう。伏せた顔が耳まで紅潮し、息が荒くなっている。そのことに気づいた晃が、慌てて彼を抱きかかえた。
「悪い、俺ら抜けるから
……
誘惑も痴話喧嘩も、ヨソでやってくれ」
やっと立っている澄人を支える晃も、頬が少し、赤くなりかけている。ベータの美耶と信彦は何も感じてはいなかったが、すぐに状況を理解した。
「いいから、早く帰れ」
裕二が、鷹也の鞄から取り出した未開封のジャスミン茶のペットボトルを、1本づつ澄人と晃に渡し、信彦に目配せをする。信彦と美耶が、澄人を抱える晃を両側から守るように支え、歩き出した。遠巻きに、その様子を見ていた厩務員の何人かが、手助けをする。
全員を見送ってから、裕二が鷹也の肩に手を回した。
「俺たちも、帰ろう」
昌将と恵介を無視する裕二の腕に、もう一度、昌将が抱きついた。
「ねぇ、裕二サン
せっかくだから、このあとゆっくりして行かない?
僕はお茶でも食事でも、構わないよ」
「俺も、三ツ橋くんとゆっくり話がしたいです」
澄人と晃を気遣う素振りも見せない昌将と恵介の態度に、苛立った裕二が、威嚇を放ちそうになる。それを、鷹也が横から抱きついて止めた。
「だ、ダメです 裕二さん」
震える鷹也の姿を見て、裕二は冷静になろうと、深呼吸をする。それから、自分の肩にかけられたタオルを昌将に返し、もう1度、彼の手を振りほどいた。
「鷹也の調子が悪い
今日は帰らせてもらう」
裕二は鷹也を軽々と抱き上げ、2人を無視して、学生用駐車場へ向かった。
助手席に鷹也を降ろして、裕二は運転席に座る。それから、シートベルトをかけながら、鷹也を見る。
視線がからまり、そのまま、覆いかぶさるように、唇を重ね、舌をからめた。
深生が遠くなるくらい長いキスのあと、裕二が鷹也を抱きしめた。
「アルファ臭い」
そうつぶやいて、裕二は大きくため息をつき、髪を掻き上げる。それからまた、鷹也を抱きしめた。
「……おまえのせいじゃないのはわかっている
でも、他のアルファの移り香りは、腹が立つ」
「ボクも、他のオメガと親しげにされると
悲しいです」
裕二は、やっと笑顔を見せ、もう1度、鷹也と唇を重ねた。
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