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5.書庫
しおりを挟む最後に入ったのは、壁一面の本棚と、床に散らばる本や巻物で埋め尽くされた部屋だった。他の部屋とは異なり、ここに確かにこの本を集めた存在がいる……明らかな『誰か』の気配が濃厚に感じられる部屋に、僕らは一瞬立ちすくんだ。
「……いかにも怪しいな……」
「なにかわかりそうだよね、薬のこととか。本になにか書いてあるかな……」
本棚に視線を向けたところで、ぴり、と肌が微かに震える。一度解放させられたのに、媚薬の効果はどうやら続いている。快感がくすぶり続けているのだ。また乳首が反応し始めるのを感じ、僕は慌てて片腕で胸元を隠した。
「っ、……」
知られてたって恥ずかしいものは恥ずかしい、というか、知られてるほうが恥ずかしい。そのうえべったり濡れて張り付いているせいで、少し硬くなっただけで、ぷくりと腫れ上がっているのがすぐにわかってしまう。ぬるぬるする布にこすられ、またすぐに快感が呼び覚まされてしまう──
「……っ、う、……」
一度イッてしまったからだろうか、熱い息が堪えられない。
(また気持ちよくなっちゃう、気持ちよくなってるってバレてる……!)
慧くんは全然気づいていないふうに床のノート類を拾っているけれど、その動きは明らかに気もそぞろで、彼の意識がこっちを向いているのはどうしたってわかってしまう。恥ずかしい。恥ずかしいのに、乳首の快感に触発された熱は、じわじわと下腹部に広がっていく。性器が熱を持ち、硬く張り詰めはじめるのがわかる。
「……!」
前屈みになり「……うう」と涙目で呻きながらも、どうにか本棚の本を取り出して見る。そうして僕は、本棚の分厚い魔導書と魔導書の間に、どう見ても不釣り合いな『薄い』何かを見つけた。
「……は???」
一瞬、頭の中が真っ白になる。
なんで、こんなものが、こんなところに??? 愕然とする僕に、慧くんが振り向く。
「どうした、なにか見つけ、……は????」
そうして彼もまた、僕の手の中のものを見て『信じられない』みたいな顔をする。当然だ。僕の手の中にあるのは、いわゆる『薄い本』──現代日本の、成人向け同人誌。それも、『搾乳』に関するものばかりだったのだ。手元のそれに視線を落とし、僕は呆然と呟いた。
「……僕、つまり、エロ同人誌みたいな状態にさせられてるってこと??」
どんだけ倒錯したやつなんだ、この部屋の持ち主は? 頭がおかしいのでは? 現実を受け入れられない僕は、ふと、慧くんの視線が僕の胸元に──すっかり腫れてピンク色になり、透けたシャツの下でその存在を主張しまくっている乳首に──注がれているのに気づいた。思わず本を投げ捨て、両手で隠す。
「……!」
「! ごめん、遠、ほんとごめん」
「……勃ってる」
「そりゃ勃つだろ!!!」
じとりとした目で慧くんの腰あたりを見てしまう。いや僕も人のことは言えないんだけど、僕のは薬のせいだからね!? 慧くんは逆ギレみたいに言ってから、はっとしたふうに首を横に振った。
「……いや、悪い。それどころじゃない。わかってる。……でも、これをしでかしたやつがその同人誌を参考にしてる可能性は大いにある……と思う」
「いやそんなことある?? 創作と現実の区別つけて欲しいんだけど。……そっちは? なにかあった?」
「あ、ああ。実験ノートみたいなものが……」
と、慧くんが数冊のノートを掲げる。僕はそのノートをぱらぱら眺めた──なるほど確かに、これは実験の記録らしい。内容は、以下のようなものだった。
(以下、実験記録)
被検体XX:処女。参考資料β(※成人向け同人誌)に基づき性的刺激を与えるも、乳の分泌は確認できず。失敗
被検体XX:同上。やはり出ない。なぜだ?資料では確かに出ているのに。……もしかして、『器』そのものに問題があるのか?ならば、こちらで作り替えれば良いのでは?
(略)
結論: 聖なる糧(母乳)を得るにあたり、器の元の性別は問題とならない。重要なのは「処女であること」と「母乳を出す肉体であること」の二点のみである。これは、参考資料Γ(※成人向け同人誌)において、男性の身体から乳が分泌される描写があることからも明らかだ。
手法: よって、処女であれば男女を問わず拉致し、魔術と薬物による肉体改造を施し、強制的に乳腺組織を発達させる。これが最も効率的かつ確実な手法である。
事後処理: 人間の飼育は手間がかかるため、目標量の糧を採取次第、被検体は解放する。ただし、改造の過程で精神が崩壊した個体は、全ての体液を搾り取った後に「処分」する。
「……この人、同人誌をマジで現実だと思ってるっぽいのだが……???」
他にも色々気になるところはあるのだが(『処分』とか)、そもそも前提が狂いまくっている。さらにノートを読み進めながら、慧くんは頷いた。
「想像以上に気が狂ってるな……」
「というか、……処女?」
って、つまり、僕のこと?
「……違うの?」
「いや違わないけど! というか処女で童貞だけど!! 知ってるでしょ!!!」
「安心した」
にやっ、と、揶揄うみたいに笑わないで欲しい。普通にかっこよくて二の句が継げなくなる僕の前で、慧くんはすぐに真面目な顔に戻ってノートに視線を落とす。
「……状況はわかったが……もうちょい打開策みたいなのが欲しいところだな、犯人の弱点とか」
「あるかなあ、そんなもの……」
あったとして日記に書いたりするだろうか。僕は慧くんと一緒にノートを読み進め、あまり有り難くない記述を見つけてしまった。
(以下、ノートの最後の方に記載されたメモ)
より効率的な採取のため、参考資料(※成人向け同人誌/触手系)のような状態になることが望ましい。我が神の遣いにも酷似しており、これにより我が忠誠はいっそう強く示されるだろう。 『*******』(読めない文字)の呪文を使用。
呪文により気まぐれな神が降臨し、我が研究を褒め称えてくださった。ぜひとも協力したいとの仰せだ。神は私に専用の研究施設をくださった。これでより効率的な研究ができる……
「……ここ……打開策じゃなさそうなことが書いてあるね……?」
参考資料、明らかに『触手モノ』の同人誌である。つまり?
「……つまり、あの、最後の部屋に……」
「やめて想像したくないやめて」
「というか、『神』って、なんの暗喩だ? こんな馬鹿げた話にスポンサーがつくことあるのか??」
というかそもそも、人間が触手になったりするのか? そんなことある?? 僕らは頭痛がしそうな状況に揃って頭を抱え、「状況を整理しよう」と慧くんが提案する。
「こいつの目的は『処女の乳』を得ることで、遠の身体はそのための薬を盛られた状態だ。今のところわかっている脱出方法としては、」
「『協力』する」
「それはダメだ」
慧くんが食い気味に否定してきて、でもそれ以外の方法なんてあるとは思えない。でも、と言いかけた僕を制するみたいに、「いや、だから」と、慧くんは少しだけ口籠った。
「だから、……あー……こいつは、『処女』に強いこだわりを持ってるわけだろ?」
言いながら、慧くんが実験記録の一箇所を示す。『二体一緒に捕まえたら処女じゃなくなったから即放り出した、一体ずつにしないとダメだ』みたいなことが書いてあり、僕は内心で首を傾げた。だとすると、慧くんがいるのがますますおかしい。そんな僕の前で、やっぱり言いづらそうに慧くんが続ける。
「てことは、だ」
その先は、濁されたって流石にわかる。
「……処女じゃなくなればいいってこと?」
膜があるわけじゃなし、一体どうやってそれを証明するのか……と思ったが、こんなヘンテコ空間の処女厨なのだ、超常パワーで察するのかもしれない。しかしだ。
「……放り出す、って、ちゃんと返して貰えるのかなあ……」
もしかして『廃棄』ルートに入ったりしないだろうか。僕は一瞬震えて、「いや、でも」と考えを改めた。
「廃棄とか処分とか。されるとしても、そっちがいいか」
ぎゅ、と、握った手の下で、得体の知れないふうに改造されてしまった身体が震えている。人を攫ってこんなふうにした相手に『協力』して、もしかしたらその後も、何度でも『協力』させられる? ──そんなの、絶対に嫌だ。
「これ以上、好き勝手されたくないよ。……慧くんじゃない人に」
真っ直ぐ、慧くんの目を見て言う。これはほとんど、『だから一緒に死んでくれ』という意味だった。監禁状態で犯人に逆らうというのはそういうことだ。慧くんは笑った。
「俺だって、遠が『協力』してるところを見るなんて御免だ。絶対に」
「気が合うね。知ってたけど」
僕は軽く笑い返して、それから、「……ねえ、」と小さく首を傾げた。
「……キスしてくれる?」
「もちろん」
こんな狂った状況でファーストキスをする羽目になるなんてな、と思いながら目を閉じると、慧くんがそっと僕の肩に手を置いた。ふるり、と肌が震えたのはもちろん媚薬のせいなんだろうけど、確かに、それだけではない甘さが胸から込み上げてくる。
唇が、重なる。
肩にあった手がいつのまにか腰に回っていて、抱き寄せられた、と思いきや深く口付けられる──舌が、入り込んでくる。
「ん、……ッ……!」
過敏になった身体は、ただの口づけでさえひどく感じてしまう。もどかしく下肢をすり合わせていると、慧くんの太腿がそこを刺激してきて、僕は思わず高い声を上げた。
「っ、あ、あ……!」
気持ちいい──今は、気持ちよくなっていいんだ。嬉しさが恥ずかしさを凌駕して、ぎゅうと慧くんの背中に手を回して抱きつく。気持ちいい、もっと触って欲しい、もっと、──……
──そのとき、扉が開いた。
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