死ぬときまでに証明するね 〜元アルファのオメガは幼馴染のアルファに愛を捧げる

逢坂常

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3. はじまりの日


 そもそも、朔也と望は、所謂『幼馴染』の関係だった。
 けれども朔也の自認としては、朔也と望は、最初から『幼馴染』以上の関係でもあった。兄弟、あるいは、ふたりが同い年であることを考えれば、双子にすら近かったかもしれない。実際、当時の写真を見ると、血の繋がりのないはずのふたりはどうしてかとてもよく似ていて、その上、どの写真でもぺたりとくっついていた。

 ふたりは、柊家と一宮家というともに多くアルファを輩出してきた名家の次男坊と三男坊として生まれた。
 そうして、母親同士が親友だったという縁で、生まれてからずっと、互いをほぼ唯一の遊び相手として過ごした。それは単純な接触密度の問題だけではなかった。ふたりはとにかく似ていたのだ。発達の具合も、興味を示すものもなにもかも。


 だから、朔也にとっての最初の記憶は、母でも父でも兄でもなく、望の笑顔とともにある。


 ふたりは広い野原にいた。おそらく、どちらかの家が所有していた高原の別荘だ。気持ちのいい風が吹いていて、辺り一面白詰草で埋め尽くされていて、ふたりは四つ葉のクローバーを探していた。『見つけると幸せになれるんだって』と言いだしたのはどちらだったか。ともかく、朔也は一生懸命四つ葉を探して、運良く見つけたそれを、躊躇わず望に差し出した。望はきらきら輝いているみたいな満面の笑みになり、朔也の手ごとそれを握った。
 そして言った。祈るみたいに。

『ずーっと、一緒にいられますように!』

 ……今思うと、四つ葉のクローバーは七夕の短冊でも流れ星でもなく、願いを込めるようなものではなかったのだが、そのときのふたりは、クローバーに込めた願いが叶うと、本当の本当に信じていた。幼かったのだ。あのときのクローバーは望の母親が押し花にしてくれて、結局どこにいったのだったか……わからないけれど、ともかく、それが朔也にとっての最初の記憶だ。

 その後、富裕層御用達で知られる幼稚園、そして私立小学校に進んでからも、ふたりの仲睦まじさは変わらなかった。就学前に行われたバース検査では、ふたりの結果はともにアルファで、互いの両親はさすが我が家の子だと言って大いに喜んだ。

 ふたりが永遠に良き親友となり良きライバルとなることを、誰もが無邪気に確信していた。平和だった。思春期に差し掛かり、ふたりの間に様々な差異が──見た目に、性格に、興味に──違いが現れてなお、ふたりにとって互いは特別だった。
 特に、望ほど人当たりのいい性格に育たなかった朔也にとって、明るく社交的な性格の望は、唯一外界に開かれた窓のような存在であり、同時に、特に中学に上がって以降どんどん朔也以外とも仲良くなっていく望の姿は、朔也を得も知れぬ不安な思いにさせた。
 望は魅力的だった。
 すらりと伸びた手足に、つんと尖った鼻と唇。顔立ちは大人っぽく整っているのに、ぱっちりとした目を眇めて笑うと途端に可愛らしくなるのが、誰も彼もを虜にするのが、傍から見ていると嫌になるぐらいによくわかった。
 望は眩しかった。多分、朔也以外の誰にとっても。


 だから、その日が訪れたのは、事故や偶然では決してなかった。


 夏休みだった。揃って参加した海外のサマースクールの二人部屋で、『それ』は唐突に訪れた。朔也のバースが覚醒した──朔也が、アルファになったのだ。
 そして、発現したてでフェロモンの制御ができなかった朔也は、己のフェロモンに当てられて──望もまた同様にフェロモンの影響を受け、ふたりは深い酩酊状態に陥った。


 なにもわからなかった。ただ、望が『おいしそう』に見えるという以外のことは、なにひとつ。


 朔也はその衝動により、やっとのことで、己が望に抱いていた感情が恋であると認めた。最初の記憶とはつまり初恋の記憶だったし、望の交友関係が気になるのは嫉妬だったし、望が眩しく見えるのは、ただ彼のことが好きだったからだった。

 朔也はずっと恋をしていた。

 男同士である、アルファ同士である、幼い頃からの親友である──それらすべてによって抑圧されていた恋心が一気に弾けて、朔也は望の身体を強く抱き寄せた。
 唇を塞ぎ、唾液を啜り、朔也は望の身体を文字通り『貪った』。そして、背後から望を犯しながら、朔夜は最後にその頸をきつく噛んだ。

 ……どうしてそんなことをしてしまったのか、噛まなければならないような気持ちになったのか、今でも朔也にはわからない。あるいは、それこそが『本能』だったのかもしれない。ともあれ、『項を噛む』ことはあくまで『オメガを』番にするための行為であって、アルファの因子を持つ望相手では、何の効果も持ち得ないはずだった。

 けれども、何の効果もないはずのそれが、どうしてかすべてを変えてしまった。

 次にふたりが正気に返ったときには、望の身体は完全に変化していた。医者は『非常に珍しいパターンだ』と言った。



 転化型オメガ。
 朔也との行為により、望の身体深くに眠っていた、極微量のオメガ因子が発現し──アルファになるはずだった望は、完全にオメガ化していたのである。


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